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<概要>
 電力中央研究所(電中研)は、電力事業者により電気事業の効率化に寄与する目的で1951(昭和26)年に設立された。2014年には8研究所、5研究センター及び2試験施設を擁し、人員は約800名、予算は約300億円である。2014年の研究開発課題は、次の三群に分けられている:1)重点課題(必要不可欠で重点的に取組む35課題)、2)重点(プロジェクト)課題(重点課題のうち総合力を発揮して解決すべき10課題)、及び3)基盤技術課題(専門性を生かした基礎から基盤技術にわたる35課題)。
 原子力に関しては、「原子力技術研究所」が中心的な役割を果たしており、また、「放射線安全研究センター」は放射線防護・環境安全及び低線量放射線の影響に関する研究を分担し、「ヒューマンファクター研究センター」はヒューマンエラーと安全文化の研究を進めている。また、「地球工学研究所」の「バックエンド研究センター」は、放射性廃棄物の処分などに関する研究開発を分担する。さらに、「材料科学研究所」は原子力材料に関する研究を分担し、直属の「PDセンター」は原子力施設の超音波探傷技術者の資格試験機関であり試験センターとなっている。2014年に設置された「原子力リスク研究センター」は、原子力施設の安全性向上を図る研究開発を集約している。2011年の福島第一原発事故を契機に、軽水炉安全性に関して組織横断的な新体制、「軽水炉安全特別研究チーム」と「軽水炉保全特別研究チーム」が組織された。
<更新年月>
2014年11月   

<本文>
1.概要
1.1 設立目的と事業概要
 電中研の設立目的は、電気事業の運営に必要な電力技術及び経済に関する研究、調査、試験及びその整合調整により、技術水準の向上を図り電気事業一般業務の効率化への寄与である。
 目的達成のため、内外で以下の研究開発(事業)を行う:1)発送配電に関する電力、土木、環境、火力・原子力・新エネルギー及び電力応用の研究・調査・試験、2)電力に関する経済及び法律に関する研究・調査、3)成果の利用と電力技術に関する規格・基準の作成など。
1.2 歴史
 表1に電力中央研究所の歴史と社会背景を示す。1950(昭和25)年に、戦中・戦後の電力事業を統括した日本発送電株式会社を分割し、地域ごとの電力配給を分担した今日の9電力会社の体制が作られた。1951年に技術研究部門が中心の(財)電力技術研究所が設立され、1952年には、経済研究部門を追加して(財)電力中央研究所(CRIEPI:Central Research Institute of Electric Power Industry、以下「電中研」という。)に改組された。
 原子力発電に関して、1966年に日本原電(株)の東海1号炉の発電開始を契機に、電中研に「日本フェルミ炉委員会」が設けられ核燃料サイクルに対応する研究・開発が開始された。1971年に技術第一研究所(当時)に原子力部が設置された。その後、米TMI事故、旧ソ連チェルノブイリ事故等を経て、1987年に「ヒューマンファクター研究センター」が設置され、1999年のJCO臨界事故後には「低線量放射線研究センター」が設置された。さらに、2011年の福島第一原子力発電所事故の後に、2012年に「軽水炉安全特別チーム」と「軽水炉保全特別チーム」が組織横断的に組織され、2014年には「原子力リスク研究センター」が設置された。
1.3 組織
 図1に電中研の研究施設、実験場等の所在地を示す。全てが関東に集中している。図2に、2014年の電中研の組織を示す。本部の他に8研究所、5研究センターと2試験施設がある。2014年度の職員数は、約800名である。電中研には25〜30名の評議員が置かれ、評議員会は事業計画、事業報告、収支予算、決算等を決議する。15〜20名の理事で構成される理事会は電中研の業務を執行する。幹事は理事の職務執行を監査する。
 電中研の総事業費は2014年度には297億円である。このうち電力各社からの経常給付金は235億円、国等からの受託研究事業収益は15億円等である。総事業費の約1/3は原子力研究に用いられ、近年はその約1/3が安全関連研究に用いられている。
2.研究開発
 2011年の福島第一原発事故を契機に、2012年に研究開発の重点は従来の3つの柱(原子力技術、電力安定供給技術、環境・エネルギー利用技術)から、表2に示す新しい3つの柱(リスク最適マネジメントの確立、設備運用・保全技術の高度化、次世代電力需給基盤の構築)に改正された。
 表3に、2014年度の研究課題の構成を示す。研究課題は、次の三群に分けられている:1)重点課題(必要不可欠で重点的に取組む35課題)、2)プロジェクト課題(重点課題のうち総合力を発揮して解決すべき10課題)、及び3)基盤技術課題(8研究所と5研究センターの特徴と専門性を生かした、基礎から基盤技術までの広範囲にわたる研究・開発の35課題)。
2.1 主な研究・試験機関の研究開発
(1)社会経済研究所
 経済・経営学、心理学、電気工学、都市工学、原子力工学、自然科学等の観点から、電中研の技術系8研究所、5研究センター及び内外の研究機関との連携により、電気事業と社会、経済、技術の関わりと将来対策を検討する。4重点/プロジェクト課題と3基盤技術課題がある。
(2)システム技術研究所
 電力・配電システム、分散型電源・需要家システム、情報・通信システム及び横断的な情報数理領域についての研究・開発を進めている。5プロジェクト課題と4基盤技術課題がある。
(3)原子力技術研究所
 原子力研究の中核的役割を担い、商業用軽水炉発電炉の運転・保守を支える基盤技術開発、放射性廃棄物の合理的な安全確保手法の開発、低線量放射線の生体影響評価に基づいた放射線防護に関わる研究開発、高速炉サイクル実用化に向けての革新的核燃料サイクルや新型炉の開発等を進めている。2研究センターと、12重点/重点(プロジェクト)課題と4基盤技術課題がある。表4に各年代の社会的背景と研究開発の推移を示す。
 ・放射線安全研究センター:放射線防護・環境安全の研究とともに、低線量放射線の影響に関する研究、合理的な放射線防護・計測、長期環境安全評価技術の開発等を進めている。
 ・ヒューマンファクター研究センター:人間工学、心理学等を利用し人間の身体的、知的、精神的特性の理解とともに、適正化によって労働現場の改善を図り、電気事業等のヒューマンエラー防止に役立つ安全文化の研究を進めている。
(4)地球工学研究所
 電力施設の様々な自然災害の軽減と保守・維持管理のため、多角的な研究に取組んでいる。原子力に関する1研究センターと2重点課題及び5基盤技術課題がある。
・バックエンド研究センター:低レベル及び高レベル放射性廃棄物の処分技術、原子炉解体廃棄物の処分と再利用技術、使用済燃料の輸送や貯蔵技術等に関する研究開発を分担する。
(5)環境技術研究所
 大気、河川・海洋、土壌、生態、環境科学等の観点から、地域から地球規模に至る幅広い電気事業関連の環境問題の解決と、環境と共生する堅固で柔軟なエネルギー需給構造の構築を図る研究と技術開発を進める。5基盤技術課題がある。
(6)電力技術研究所
 電力の安定・安全な輸送を図るため、高電圧・絶縁、雷・電磁環境、高エネルギー及び電力応用に関し、2試験施設を有し5基盤技術課題の研究開発を進めている。
・大電力試験所:電力機器の短絡試験及び試験技術、大電流計測技術の開発を分担し、校正機関及び試験所の能力に関する一般要求事項(ISO/IEC17025)に適合する試験所である。
・塩原実験場:世界最大級の12MVインパルス電圧発生器、UHVコロナケージ及び±800KV直流送電線設備がある。送配電線の絶縁特性並びに電気環境に関する試験に対応できる。
(7)エネルギー技術研究所
 高効率でクリーンかつ低コストの新電力・エネルギー需給システムの創生を目的に、エネルギーセキュリティに対応できる多様なエネルギー源の検討と研究開発を進める。5基盤技術課題がある。
(8)材料科学研究所
 エネルギー機器の高度運用、エネルギー産業に関する新機能材料等の研究開発を行っている。1研究センターと4基盤技術課題がある。
 原子力材料については、原子力発電プラント材料の照射損傷・劣化の機構解明と規格への反映、水化学管理技術、環境脆化・腐食損傷等の機構解明と対策に関する研究がある。
・PDセンター(PD:Performance Demonstration):原子力発電所の機器が対象の、認定制度に基づいた超音波探傷技術者の技量のPD資格試験機関でありPD試験センターとなっている。
(9)原子力リスク研究センター
 本センターは2014年10月に設置された。確率論的リスク評価(PRA)、リスク情報を活用した意思決定、リスクコミュニケーションの新手法の開発・利用により、原子力事業者と原子力産業界を支援し原子力施設の安全性向上を図る研究開発を進める。
 図3に本センターの組織と構成を示し、図4に外部機関との関連を示す。
2.2 「軽水炉安全特別研究チーム」と「軽水炉保全特別研究チーム」
 2011年の福島第一原発事故を契機に、2012年7月に軽水炉の安全性向上と、その安全性を継続・維持する保全活動に関する研究を強化するため、組織の横断的な新体制として「軽水炉安全特別研究チーム」と「軽水炉保全特別研究チーム」が組織された。これら特別チームの活動は、2012年11月に発足した原子力発電所の安全性向上対策を推進する自主規制機関、(一社)原子力安全推進協会(JANSI)の活動を支援する。
(1)軽水炉安全特別研究チーム
 本チームは、原子力発電所の安全性向上のため、災害、施設、安全評価、放射性物質の拡散と影響の専門家で構成され(図5)、重大事故の回避策の提案とその有効性の評価、地震・津波・火山噴火など自然事象に対する原子力施設の安全性評価技術の開発、原子力施設における火災の影響の合理的な軽減技術など、表5に示す課題を分担する。
(2)軽水炉保全特別チーム
 原子力発電所の安全性を継続的に維持するため、その保全活動に役立つ研究開発を推進する。国際的動向も視野に入れながら、経年炉対応を含めさらに軽水炉プラント全体の安全性確保につながる保全活動を支援する。
3.研究開発の成果
 研究開発の成果は「電力中央研究所報告」に、年度毎の成果は「研究年報」でまとめられ公表されている。また、「知的財産報告書」は、研究開発の概要、論文・報告書・特許、活用の実績、トピックス等をまとめている。
(前回更新:2006年1月)
<図/表>
表1 電力中央研究所の歴史と背景
表1  電力中央研究所の歴史と背景
表2 電力中央研究所の三つの研究の柱
表2  電力中央研究所の三つの研究の柱
表3 電力中央研究所の2014年度研究課題の構成
表3  電力中央研究所の2014年度研究課題の構成
表4 電力中央研究所、原子力技術研究所の主要な研究開発の推移
表4  電力中央研究所、原子力技術研究所の主要な研究開発の推移
表5 軽水炉安全特別チームの課題
表5  軽水炉安全特別チームの課題
図1 研究施設の所在地
図1  研究施設の所在地
図2 電力中央研究所の研究開発実施体制
図2  電力中央研究所の研究開発実施体制
図3 原子力リスク研究センターの組織図
図3  原子力リスク研究センターの組織図
図4 電力中央研究所、原子力リスク研究センターと他機関の関係
図4  電力中央研究所、原子力リスク研究センターと他機関の関係
図5 軽水炉安全特別チームの目標と課題・構成
図5  軽水炉安全特別チームの目標と課題・構成

<関連タイトル>
電気事業連合会 (13-02-02-12)
海外の主な原子力機関一覧 (13-01-03-08)
米国スリー・マイル・アイランド原子力発電所事故の概要 (02-07-04-01)
チェルノブイリ原子力発電所事故の概要 (02-07-04-11)
JCOウラン加工工場臨界被ばく事故の概要 (04-10-02-03)
原子力安全推進協会(旧日本原子力技術協会) (13-02-02-11)

<参考文献>
(1)(一財)電力中央研究所、ホームページ、定款、

(2)(一財)電力中央研究所、ホームページ、沿革、
http://criepi.denken.or.jp/intro/history.html
(3)(一財)電力中央研究所、ホームページ、組織案内、
http://criepi.denken.or.jp/intro/organization.html
(4)(一財)電力中央研究所、2014年度、事業計画書 収支予算書、
http://criepi.denken.or.jp/intro/info/keikaku20140314.pdf
(5)経済産業省、総合資源エネルギー調査会、原子力の自主的安全性向上に
関するワーキンググループ、第9回資料1-3、
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denryoku_gas/genshiryoku/anzen_wg/pdf/009_01_03.pdf
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