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<概要>
 本指針は、試験研究の用に供する水冷却型原子炉の設置許可申請に係わる安全審査を行う際に、安全設計の妥当性を判断する基礎にする為のものである。
 指針は、試験研究の用に供する水冷却型原子炉施設の設計に関し、その炉型、出力、運転形態等の特徴を考慮するとともに、今日までの試験研究の実績及び長年にわたる知識や経験の蓄積を生かし、かつ、最新の技術的知見に基づいている。ここでは、要約を示す。
(平成3年7月18日原子力安全委員会決定、平成13年3月29日一部改訂)
<更新年月>
2006年08月   

<本文>
 原子炉施設を設置しようとするときには、設置許可申請書を作成して、国に提出し、設置許可を得なければならないことが法令で定められている。国が設置許可を出す以前に、安全確保の観点から設計の妥当性を判断するために、専門家のグル−プによって安全審査が行われる。
 試験研究用に供する水冷却型原子炉施設については、昭和45年(1970年)に作成され、昭和52年(1977年)、平成2年(1990年)の2回にわたって改訂された「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」の安全の考え方を基にして安全審査が行われてきた。
 しかしながら原子炉施設の炉型、出力、運転形態等の特徴を考慮するとともに、これまでの試験研究の実績や知識・経験の蓄積を生かし、最新の技術的知見を基に安全審査の指針として、平成3年(1991年)7月18日に「水冷却型試験研究用原子炉施設に関する安全設計審査指針」が原子力安全委員会により策定された。その後、法令改正と整合を計るよう用語の変更のため平成13年(2001年)3月29日に一部改訂された。
 以下では、特に本指針に特有な点を中心に要約したものを示す。
1.対象とする原子炉
 本指針は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号)第23条第1項第3号にいう「試験研究の用に供する原子炉」(以下「研究炉」という。)のうち、臨界実験装置を除き、定常出力運転を行う水冷却型原子炉(以下「水冷却型研究炉」という。)を対象とする。
2.本指針の位置付けと適用範囲
 この指針は水冷却型研究炉の安全審査において確認すべき安全設計の基本方針をとりまとめたものである。安全審査においては原子炉の安全設計がこの指針の要求を満足していることを確認する必要がある。ただし、設置許可申請の内容がこの指針に合っていないものがあったとしても、指針に合っていない項目が技術的な改良・進歩等を反映したものであってこの指針を満足した場合と同等かそれ以上の安全性を確保できると判断された場合は、これを排除するものではない。また、上記1.の水冷却型研究炉を対象としているが、それ以外の研究炉においても、本指針の基本的考え方は参考になり得ると考える。
3.適用方法
 この指針を適用するにあたっては、水冷却型研究炉の熱出力によって、一律に同等の安全機能を要求することは必ずしも適切でないことを考慮して、熱出力に応じて次の三つにグル−プが分けられている。そして、それぞれの必要とする安全機能の重要度に応じて指針を適用することになっている。
(i) 低出力炉(500kW未満)
 事故時の炉心冷却機能と放射性物質放散抑制のための閉じ込め機能の必要性は小さい。(ii)中出力炉(500kW以上、10MW未満)
 事故時の炉心冷却については適切な期間の炉心の冠水維持が必要であり、閉じ込め機能については原子炉ごとにその必要性について判断する。
(iii) 高出力炉(10MW 以上、50MW以下)
 事故時の炉心冷却については適切な期間の炉心の冠水維持が必要であり、核分裂の結果生じる放射性物質の量が大きいため、閉じ込め機能を設ける必要がある。
 なお、水冷却型研究炉以外の研究炉の安全審査において、本指針が参考となると考えられる範囲を以下に示す。
(a) 臨界実験装置
 本指針の低出力炉に対する要求が参考となる。
(b) 反応度パルス運転を行う研究炉
 反応度パルス運転に特有の事項を除き、本指針が参考となる。また、定常出力運転と反応度パルス運転を併用する水冷却型原子炉については、反応度パルス運転に特有の事項を除き、本指針を適用する。
(c) その他の研究炉
 水冷却に特有の事項を除き、本指針が参考となり得る。
 このほか、熱出力が50MWを超える原子炉については、基本的にはこの指針を適用するが、この指針で包括できないものについては「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」が参考になるとされている。
4.本指針の概要
4.1 原子炉施設全般
 原子炉施設全般については、(1)適切な準拠規格と基準の使用、ならびに(2)地震を含む自然現象、(3)外部人為事象、(4)内部発生飛来物、(5)火災、(6)環境条件、(7)共用、(8)運転員操作、(9)信頼性、(10)試験可能性について考慮された設計であることが要求されている。
4.2 原子炉及び原子炉停止系
 (1)通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時において、燃料の許容設計限界を超えない炉心、(2)使用期間中に生じ得る種々の変化を考慮しても、その健全性を失うことのない燃料要素、(3)試験燃料が健全性を喪失しても燃料要素の健全性に影響を与えない試験用燃料の量とその試験計画の考慮ならびに、(4)固有の出力抑制特性もつ炉心、(5)予想される温度変化、実験物の状態変化等に対応できる反応度制御系、(6)確実に原子炉を停止できる原子炉停止系、(7)制御棒1本が完全に引き抜かれた状態でも十分な原子炉停止余裕をもつ制御棒系、(8)運転状態で臨界未満を維持できる少なくとも二つの独立した原子炉停止機能をもつ原子炉停止系、(9)事故時においても、独立した2系統の少なくとも一つで必要な停止能力をもつ原子炉停止系、及び(10)反応度制御系の故障を考慮しても機能を損なわない原子炉停止系の設計などが要求されている。
4.3 原子炉冷却系
 これについては、(1)適切な炉心冷却能力を有するとともに、構造物の変形等による燃料冷却の阻害を小さくできる、(2)原子炉冷却材の流出が生じた場合でも炉容器内の水位を確保できる、いわゆる冠水維持がなされている、(3)漏えいの検出ができる、(4)原子炉停止時に、燃料の許容設計限界を超えないように、炉心からの崩壊熱を除去できる、及び(5)商用電源が切れた場合でも原子炉停止と炉心冷却が確保できるなどの設計が要求されている。
4.4 原子炉建屋、実験設備等
 これについては、(1)事故時等においては、環境に放出される放射性物質の濃度と量を低減できる原子炉建屋、(2)実験物の状態変化、移動等により原子炉に過度の反応度変化を与えず、その安全上の事項が制御室で監視できる実験設備、となるような設計が要求されている。
4.5 安全保護系
 安全保護系については、(1)系統を構成する機器叉はチャンネルに単一故障が起きた場合でも機能できる多重性、(2)系統を構成するチャンネル相互の分離と、可能な限りの独立性、(3)異常状態を検知し原子炉停止系を自動的に作動させる機能、(4)事故時にその状態を検知し、原子炉停止系及び工学的安全施設の作動を自動的に開始させる機能、(5)系統の何処かに故障が生じた場合においても、最終的に原子炉施設が安全な状態に落ち着く機能、(6)安全保護機能が失われないように、安全保護系と計測制御系との分離などを考慮した設計が要求されている。
4.6 制御室等
 これについては、(1)運転時及び異常状態において原子炉の安全上必要な全ての監視・操作ができ、(2)制御室外からの原子炉の停止、監視等ができ、(3)原子炉施設内外への警報通知と通信連絡ができ、(4)避難用照明と安全避難通路によって従業員の避難ができる設計が要求されている。
4.7 計測制御系及び電気系統
 これについては、(1)通常運転時と異常な過渡変化時に炉心等の健全性を確保できるよう適切な制御ができ、事故時に必要なパラメータの監視・記録ができる計測制御系であること、(2)重要な安全機能を有する系統機器の機能を確保するための電源を設け多重性・独立性のある非常用電源を設けることが要求されている。
4.8 核燃料取扱系
 これについては、(1)適切な貯蔵能力をもち、健全性を保って安全に貯蔵でき、(2)いかなる場合でも、臨界を防止でき、(3)異常な放射線レベルを検知して警報を発生できる設計が要求されている。
4.9 放射性廃棄物処理施設
 放射性の(1)気体廃棄物、(2)液体廃棄物の各処理施設については、いずれも「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」を参考として、周辺環境に対して放出される放射性物質の濃度と量を合理的に達成できる限り低減できる設計が要求されている。また、(3)固体廃棄物の処理施設と(4)固体廃棄物貯蔵施設については、放射性物質の散逸防止、十分な貯蔵容量の設計が要求されている。
4.10 放射線管理
 これについては、(1)原子炉敷地周辺の放射線防護、(2)放射線業務従事者の放射線防護、(3)放射線業務従事者の放射線管理、(4)通常運転時と異常時における原子炉建屋内と原子炉施設周辺の放射線監視が適切に行える設計が要求されている。
<関連タイトル>
発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針 (11-03-01-05)
試験研究用及び開発中の原子炉を特定した安全審査指針類の整備 (11-03-02-01)
水冷却型試験研究用原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する基本的考え方 (11-03-02-04)
水冷却型試験研究用原子炉施設の安全評価に関する審査指針 (11-03-02-05)

<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂8版 原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版社(1994年10月)
(2) 原子力安全委員会:国際放射線防護委員会Publication 60(1990年勧告)の原子力安全委員会安全審査指針類への取入れに係る検討結果について
(3) 原子力安全委員会: 安全審査指針集 
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