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<概要>
 原子力安全委員会原子炉安全専門審査会は、昭和50年以来、米国GE社が開発した沸騰遷移相関式GEXL(GE Critical Quality(Xc) Boiling Length(LB) Correlation)およびGEXLに基づく熱設計手法GETAB(GE Thermal Analysis Basis)について検討を行い、昭和51年(1976年)2月、5項目の留意事項を付して、GEXL相関式およびGETABを今後沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法および熱的運転制限値決定手法として用いることは妥当であると判断した。
 昭和52年(1977年)2月、すでに設置が許可されているGE型の沸騰水型原子炉(BWR)13基の炉心熱設計とこれに基づく熱的運転制限値の決定に際して、GETABの考え方が前述の留意事項を遵守しつつ適切に適用されているかの判断に資するため包括的検討を行った。検討の結果、過渡変化時に出力上昇を軽減する措置を施すことを条件に妥当と認めた。
<更新年月>
2001年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
A.「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法および熱的運転制限値決定手法について」(1976年2月16日、原子力安全委員会原子炉安全専門審査会)の概要
 今後、原子炉安全専門審査会の安全審査の段階では、次の5項目に留意して、[別添]の検討結果に基づきGEXL相関式およびGETABの考え方を用いることとする。
(1)GEXL相関式の適用は、沸騰水型炉7×7型および8×8型格子配列の燃料集合体に限られることは当然のことながら、種々の燃料集合体構成要素の形状および寸法の相違に留意すること。
(2)GEXL相関式の適用にあたって、8×8型燃料集合体の算出標準偏差の2.8%は、そのデータベースが7×7型燃料集合体のデータベースとは同様でないことを考慮して、7×7型燃料集合体についての算出標準偏差の3.6%と暫定的に同じ値にすること。
(3)GETABに用いるプラントの各パラメータの標準偏差決定のために、今後国内においても各種データの集積を行うこと。
(4)GETABの考え方は、局所的な過渡状態についても適用すること。
(5)運転制限値決定に際しては、低出力状態例えば高温待機状態からの過渡状態は検討対象から除外して差し支えないが、このような過渡状態においても炉心全燃料棒数の99.9%以上が沸騰遷移を生じないことを確認すること。
 [別添]「炉心熱設計検討会の原子炉安全専門審査会への報告書」の概要
a. 検討範囲
 本検討は、GE社が沸騰水型炉の炉心熱設計手法として開発した沸騰遷移相関式GEXL(GE Critical Quality(Xc) Boiling Length(LB) Correlation)およびGEXLに基づく熱設計手法GETAB(GE Thermal Analysis Basis)について、GE社の文献および検討に際しての質問への回答を骨子として行ったものである。
b. 沸騰遷移相関式
 この報告書の中で用いられている「沸騰遷移」(Boiling Transition)という用語は、核沸騰を超えた状態の開始という意味である。
1.Hench-Levy相関式
 GE社の沸騰水型炉(BWR)の炉心熱設計においては、これまで沸騰遷移を判断する手法として限界熱流束比CHFR(Critical Heat Flux Ratio)という考え方を用いてきた。限界熱流束の計算には、J.E.HenchおよびS.Levyらによって開発され、1966年に発表されたHench-Levy相関式を用いている。
2.GEXL相関式
2.1 GEXL相関式
 Hench-Levy相関式に代る新しい沸騰遷移の開始を判断する式として提案されているGEXL相関式は、出力分布依存性を除去する手段として限界クオリティ対沸騰長さの関係を導入してデータを整理し、ベストフィットとして得られた式である。この式を用いて沸騰遷移を判断する手法としてはCHFRに代って限界出力比CPR(Critical Power Ratio)の考え方を用いる。CPRは限界出力(すなわち、燃料集合体のある点において沸騰遷移を生じさせる燃料集合体出力)と実際の燃料集合体出力との比として定義され、熱的余裕を示す指標となっている。着目する燃料集合体の出力分布を固定させたうえで出力を変化させクオリティ対沸騰長さを求め、限界クオリティ対沸騰長さの曲線にある点で接するような出力を限界出力とする。これらの関係を 図1 に示す。
2.2 データベース
 GEXL相関式は7×7型および8×8型燃料集合体を模擬した16本、49本および64本の加熱模擬集合体を用いた定常実験データ( 表1 参照)に基づいている。このデータから作成されたGEXL相関式は、7×7型燃料集合体については2700点、8×8型燃料集合体については1298点の定常実験データによる検証が行われた。これらのデータとGEXL相関式を用いた予測値との対照例を 図2図3 および 図4 に示す。GEXL相関式による予測値と実測値との比の標準偏差σは、 図5 および 図6 に示すように、7×7型燃料集合体においては3.6%、8×8型燃料集合体においては2.8%となる。
c. GETAB
 GE社が提案している新しい熱設計手法GETABは、次のような考え方を骨子とするものである。
(1)熱的余裕を評価する新しい指標として、GEXL相関式に基づくCPRを用いる。
(2)GEXL相関式による沸騰遷移の予測、プラント運転条件、燃料製造公差、計測器等の不確定性を統計的に取り扱い、この変動を見込んだ定格出力においても炉心全燃料のうち沸騰遷移を起こさないものが確率的に「ある値」以上確保されるように最小限界出力比MCPRを定める。
(3)次に各種の過渡状態の解析を行ってそれぞれのCPRの減少分ΔCPRを求め、最も大きい減少分を(2)で得られたMCPRに加えて定常状態での熱的運転制限条件とする。
(4)上記(2)にいう「ある値」は、99.9%とする。
d. GEXL相関式およびGETABの適用についての見解
1.GEXL相関式について
1.1 限界クオリティ対沸騰長さ型相関式について
 この型の相関式は沸騰遷移の予測が出力分布にほとんど左右されないという長所をもっている。
1.2 データベースとの関連について
 算出された標準偏差は、8×8型燃料集合体についての算出標準偏差の2.8%は、そのデータベースが7×7型燃料集合体のデータベースと同様ではないことを考慮して、7×7型燃料集合体についての算出標準偏差の3.6%と暫定的に同じ値にすべきである。
2.GETABについて
2.1 確率論的な考え方について
 GETABは、まずある基準の炉心出力状態から出発し、次に給水流量、温度、圧力、炉心流量、出力分布等の測定誤差や不確かさを正規分布を仮定してモンテカルロ計算を行うことによって考慮し、沸騰遷移を起こす燃料棒数の期待値を求めるものである。沸騰遷移を起こす燃料棒数の期待値について、何本までを許容するかという判定基準としてGETABでは、全炉心燃料棒数のうち99.9%以上が沸騰遷移を起こさないという基準が提案されている。
2.2 局所現象への適用について
 炉心の局所的過渡状態については一部の燃料棒がかなり苛酷な状態にさらされ安全余裕が少なくなる場合もありうることから、局所的な過渡状態についてもΔCPRを考慮すべきである。
2.3 ΔCPR(限界出力比減少分)の解析事象について
 熱的運転制限値決定のために各原子炉毎に解析すべき過渡状態は、原子炉施設の再循環系、給水系、主蒸気系、制御系等の系統毎に分析し、炉心の熱的条件がそれぞれの系統事象毎に最も厳しくなるものが含まれている必要がある。
3.燃料の熱的健全性について
 GEXL相関式およびGETABの適用に当たって、99.9%以上が沸騰遷移を避けることができるように基準が定められた。この基準は、炉心熱設計および熱的運転制限値確立のため必要な数値として設定されたものであり、MCPRが例えば1.20であれば数百万本の燃料棒のうち、1本程度が沸騰遷移を経験することが確率的にありうるということである。沸騰遷移を経験するものが直ちに燃料被覆管の現実的な破損を意味することではないことを考慮すれば工学的には十分容認できるものである。
B.「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法および熱的運転制限値決定手法の適用について」(1977年2月23日、原子力安全委員会原子炉安全専門審査会)の概要
a. 検討目的
 すでに設置が許可されているGE型の沸騰水型原子炉13基( 表2 参照)の炉心熱設計とこれに基づく熱的運転制限値の決定に際して、GETABの考え方が前述の留意事項を遵守しつつ適切に適用されているかの判断に資するため包括的検討を行った。
b. 検討項目
1.MCPR(最小限界出力比)の設定
 MCPR限界値は、炉心内の燃料棒の99.9%以上が沸騰遷移を起こさないという基準を満足するように定められる。つぎの項目についてより詳細に検討を行った。
1.1 標準偏差値等の影響
 MCPR限界値を定めるための計算に使用される出力分布については、炉心寿命中に発現する確率が極めて低く、かつ熱的余裕が少なくなる分布を想定してこれを入力値としている。したがって、99.9%以上の燃料が沸騰遷移を起こさない確率が極めて高いことを保証すると考えられる。また、各プロセス量の統計的変動幅(標準偏差σ)に関しては、GE社の経験に基づく推奨値が一般に用いられている。標準偏差値の感度解析の結果、MCPR限界値への影響は大きくないことが示されている。
1.2 燃料タイプおよび炉心格子構造の影響
 MCPR限界値への燃料タイプおよび炉心格子構造の影響は、燃料集合体内の局所出力ピーキングを通して現れる。BWR各プラントのMCPR限界値は 表3 のようにまとめられる。
2.熱的運転制限値の決定
 前述のMCPR限界値が、運転中に予想される異常な過渡変化時(以下、過渡変化時と略記する)にも守られるように、各過渡変化時のMCPRの変化(ΔMCPR)を計算し、これを限界値に加えたものを運転制限値とする。ΔMCPRの計算に当って、影響の大きい事項には、(1)燃料集合体のタイプ、(2)ボイド係数、(3)スクラム特性、(4)バイパス容量、(5)サーマルパワーモニタの有無、がある。これらは、解析条件を選定する場合に特に留意すべきものである。
2.1 検討した過渡変化
 従来から「原子炉設置許可申請書」添付書類10において取り上げられている過渡変化項目について、GETABの適用方法とその結果について検討し、各系統毎に最も厳しくなる過渡変化を確認することとした。
2.2 解析条件
 燃料集合体タイプ、バイパス容量、サーマルパワーモニタについては、各原子炉の設計と燃料装荷状況とから直ちに決定されるものである。ボイド係数については、炉型、燃料タイプによって変化するのみならず、燃焼の進行によっても変化する。スクラム特性に関しては、特にBWR-4、BWR-5型については、「早期炉心用スクラム曲線」と「平衡炉心末期用スクラム曲線」の2通りのスクラム特性を用いて解析を行うことが電力各社より提案された。提案されたスクラム曲線を使用すれば「平衡炉心末期」はスクラム特性が劣化することになる。過渡変化時に再循環ポンプトリップして出力上昇を軽減するための「再循環ポンプトリップ系」を設置する旨の説明がなされたので、「平衡炉心末期」についてはこの系が設置されているものとして行った解析を検討の対象とした。
2.3 解析結果の検討
 解析された結果についての検討結果はつぎのとおりである。
(1)GETAB適用の妥当性
 提案されている過渡変化時の各項目について、MCPRの最小値が生ずる時点ないしその近傍において、炉心圧力、流量および入口サブクーリングが適用範囲にあることを確めた。(2)最大のΔMCPRを生ずる過渡変化
 最も大きいΔMCPRを生ずる過渡変化を炉型ごとに選定した( 表4 参照)。
c.結論
 検討結果にかんがみ、既に設置が許可されているGE型の沸騰水型原子炉13基に対しては、2.1および2.2に述べた条件が守られることを前提として表3に示すMCPRを熱的運転制限値とすることは妥当と認める。
<図/表>
表1 GEXL相関式作成に用いられたデータ数
表1  GEXL相関式作成に用いられたデータ数
表2 日本の沸騰水型原子炉13基におけるMCPR限界値および通常運転時の制限値
表2  日本の沸騰水型原子炉13基におけるMCPR限界値および通常運転時の制限値
表3 GE社BWR型式におけるMCPR限界値
表3  GE社BWR型式におけるMCPR限界値
表4 BWR熱的運転制限値決定のために解析すべき過渡変化
表4  BWR熱的運転制限値決定のために解析すべき過渡変化
図1 BWRの炉心熱設計におけるCPR(限界出力)図式決定法
図1  BWRの炉心熱設計におけるCPR(限界出力)図式決定法
図2 予測対測定限界出力(7×7格子、16本)
図2  予測対測定限界出力(7×7格子、16本)
図3 予測対測定限界出力(7×7格子、49本)
図3  予測対測定限界出力(7×7格子、49本)
図4 予測対測定限界出力(8×8格子、64本)
図4  予測対測定限界出力(8×8格子、64本)
図5 ヒストグラム(頻度対ECPR、7×7格子)
図5  ヒストグラム(頻度対ECPR、7×7格子)
図6 ヒストグラム(頻度対ECPR、8×8格子)
図6  ヒストグラム(頻度対ECPR、8×8格子)

<関連タイトル>
発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針 (11-03-01-05)
発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針 (11-03-01-10)
BWRの炉心設計 (02-03-02-01)

<参考文献>
(1) 内閣総理大臣官房原子力安全室(監修):改訂10版 原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版社(2000年11月)
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