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<概要>
 プルトニウムの空輸に関する安全規制について、国際原子力機関(IAEA)では国際輸送規則として陸上、 海上及び航空の輸送モードに関係なく同じ輸送基準が適用されることが承認されている。現在、 現行のIAEA 輸送規則に新しく航空輸送基準を追加すべきかどうか、 また、 1996年のIAEA輸送規則改定の際に取り入れるかどうかについて検討中である。一方、 米国においては、 米国原子力規制委員会が1978年1月プルトニウムの航空輸送を証明するための規格基準(NUREG-0360)を設け、 医療用のプルトニウム及び少量のプルトニウムを除いてNUREG-0360の基準を満足しないかぎり、 航空輸送は禁止になった。
更に、1987年12月、米国議会で成立した、いわゆる「マコウスキー修正条項」の基準を満足する航空輸送容器の開発は、なお相当の期間を要する見込みである。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.これまでのプルトニウム空輸について
(1) 我が国におけるプルトニウム空輸について
我が国においては、 これまで、 限られたウラン資源の有効利用の観点から、また、国産エネルギー資源として有益なプルトニウムの利用技術開発の一環として、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の開発を行ってきた。
  これらのMOX燃料開発のために必要な原料としてのプルトニウムについて、1965年頃から1974年頃まで欧州及び米国から航空輸送により数十回事故等のトラブルもなく無事に実施された。
  航空輸送されたプルトニウムは動力炉・核燃料開発事業団(動燃(現日本原子力研究開発機構))の東海事業所のプルトニウム燃料開発施設においてMOX燃料に加工され、国内外の研究炉に装荷され、 MOX燃料開発に必要な貴重な照射データを生み出すことに役立った。また、新型転換炉原型炉「ふげん」、高速実験炉「常陽」及び高速増殖原型炉「もんじゅ」に必要不可欠な設計データに反映されてきた。さらに、これらのデータは我が国のみならず、国際的にも評価され、世界的にも新型原子炉開発の原動力になった。
(2) 欧州におけるプルトニウム空輸について
  欧州において、イギリスの再処理工場で回収されたプルトニウム( 二酸化プルトニウム−PuO2 )は、フランスの軽水炉プルサーマル) 及び高速増殖炉の燃料としてのMOX燃料製造のため、1970年代より、イギリスからフランスまでプルトニウム航空輸送が行われてきた。
  プルトニウム航空輸送の実態は、核物質防護上機微な情報であることもあり、具体的な輸送実績は把握できないが、国際原子力機関(IAEA)のデータでは、例えば、 1982年11回、 1984年2回、 1985年3回、 1986年3回の頻度で空輸された実績があり、現在でも実施されている。
  一回のプルトニウム航空輸送の輸送量としては、約80kgの二酸化プルトニウムが一航空機により輸送されている。
  プルトニウム輸送に使用されている輸送容器はIAEA輸送規則のB型輸送物に分類される、一番厳しい設計条件が課される輸送物である。
(3) 米国におけるプルトニウム空輸について
 1)米国におけるプルトニウム空輸の実態
米国におけるプルトニウム空輸については研究炉用の燃料及び原料として、早くからプルトニウムの航空輸送が実施されてきた。一部は米国から欧州及び我が国へのプルトニウムの国際輸送として、航空輸送が行われていたが、公法94-79 が制定された(1975年8月)後、医療用のプルトニウム及び少量のプルトニウムを除き、航空輸送は行われていない。
2)米国におけるプルトニウム航空輸送の規制
・プルトニウムの航空用輸送物を証明するための規格基準
  1975年8月9日制定された公法94-79号は米国原子力規制委員会に対して次のような制限を設けた。
米国原子力規制委員会は個人用に設計された医療機械に含まれる各種形態のプルトニウムを除き、輸出・輸入にかかわらず、全ての形態のプルトニウムの航空輸送を、 許可してはならないものとする。この制限規定は、原子力規制委員会が議会の合同原子力委員会に対して、安全な輸送容器が開発され、かつそれが高空を飛行する航空機の墜落及び爆発に相当する試験で破壊されないことが証明されるまで、適用するものとした。
米国原子力規制委員会は委員会自身がこのプルトニウムの航空用輸送物を証明するための規格基準を検討・作成するとともに同委員会の原子炉保障措置に関する諮問委員会及びアメリカ科学アカデミーの航空宇宙技術委員会がこの基準について審査を行い、承認したものであり、1978年1月NUREG-0360としてプルトニウムの航空輸送容器用の安全技術基準を制定した。(NUREG-0360 の詳しい技術基準については 表1−1表1−2 および 表1−3 を参照)
・マコウスキー条項
本条項は、米国アラスカ州選出のマコウスキー上院議員(共和党)からプルトニウムの航空輸送にたいして、フランス及びイギリスから我が国への輸送ルートとしてアラスカ州を経由する可能性があるとして、地元住民の安全性確保の観点から同議員が強く主張・提案し、1987年包括予算調整法案に盛り込まれ、1987年12月22日に成立したものである。
マコウスキー条項( 公法100-203 ) においては、現行の米国輸送規則「特定条件での放射性物質運搬及び輸送に対する放射性物質の輸送容器」の全ての適用要件を満たすことを前提として、プルトニウムの航空用輸送物を証明するための規格基準(NUREG-0360)の、極めて厳しい輸送規則の適用要件を満たす輸送容器に対して、追加要件として、更に、最高巡航高度からの輸送容器の落下試験、輸送容器を満載した貨物機の墜落試験、又は最悪の事故時条件にかかるであろう応力を想定した代替試験を実施して、輸送容器の安全性実証試験を実施すること、即ち、試験中に輸送容器が破裂せず、内容物が漏出しないことを実証することが要求された。(マコウスキー条項の詳しい技術基準については 表2 を参照)
2.今後のプルトニウム空輸について
(1) 輸送規則
1985年、国際原子力機関(IAEA)からIAEA輸送規則( 1985年版) が発行された。このIAEA輸送規則(1985年版) はIAEAに加盟している各国の政府当局及び諸国際機関に対して、実行可能な限り国内規則及び関連基準、条約等の基礎として使用するよう勧告され、1991年1月1日までに日本政府当局及び殆どの政府当局及び諸国際機関の規則として取り入れられた。
  その後、プルトニウム等の放射性物質の航空輸送( 高危険性を有する放射性物質等の航空輸送のための基準) については、現行IAEA輸送規則で十分か、または追加要件を課すべきかについて現在、国際原子力機関(IAEA)において検討が進められている。
  現在の検討中の追加要件は案として、衝突試験等の要件が審議されており、 1996年の次のIAEA輸送規則改定までに追加要件を決定する予定である。( 現在検討中の高危険性を有する放射性物質等の航空輸送のための基準( 案) については 表3 を参照)
(2) プルトニウム空輸の将来について
プルトニウム空輸の将来については、国際的には国際原子力機関(IAEA)における高危険性を有する放射性物質等の航空輸送のための基準の動向、及び米国におけるマコウスキー条項の詳しい技術基準の動向を見る必要がある。
プルトニウムの航空輸送容器の試験条件については、極めて厳しいことが考えられること、さらに、航空機の能力、飛行場等の社会的情勢を考えると、プルトニウム空輸の将来は極めて難しいと思われる。
<図/表>
表1−1 プルトニウムの航空用輸送物を証明するための規格基準(NUREG-0360)
表1−1  プルトニウムの航空用輸送物を証明するための規格基準(NUREG-0360)
表1−2 プルトニウムの航空用輸送物を証明するための規格基準(NUREG-0360)
表1−2  プルトニウムの航空用輸送物を証明するための規格基準(NUREG-0360)
表1−3 プルトニウムの航空用輸送物を証明するための規格基準(NUREG-0360)
表1−3  プルトニウムの航空用輸送物を証明するための規格基準(NUREG-0360)
表2 マコウスキー修正条項の概要
表2  マコウスキー修正条項の概要
表3 高危険性を有する放射性物質等の航空輸送のための基準(案)−IAEA輸送規則の追加要件−
表3  高危険性を有する放射性物質等の航空輸送のための基準(案)−IAEA輸送規則の追加要件−

<関連タイトル>
わが国の核燃料物質輸送に係る安全規制 (11-02-06-01)
研究炉用燃料およびMOX燃料の輸送 (11-02-06-05)
世界の核物質輸送の動向 (11-02-06-07)

<参考文献>
(1)IAEA SAFETY STANDARDS, SAFETY SERIES NO.6 Regulations for the Safe Transport of Radioactive Material 1985 Edition
(2)プルトニウムの航空用輸送物を証明するための規格基準(NUREG-0360)
(3)マコウスキー修正条項
(4)高危険性を有する放射性物質等の航空輸送のための基準(案)−IAEA輸送規則の追加要件−
(5)科学技術庁原子力安全局核燃料規制課ほか(監修):放射性物質等の輸送法令集 1994年版、日本原子力産業会議(1994年2月)
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