<本文>
1.世界における核物質輸送の現状
1.1輸送規則
現在の核燃料物質の輸送は国内輸送および国際間輸送において1985年に国際原子力機関(
IAEA)が発行したIAEA輸送規則(1985年版)の考え方に準じて実施されている。このIAEA輸送規則はIAEAに加盟している各国の政府当局および諸国際機関に対して、実効可能な限り国内規則および関連基準、条約等の基礎として使用するよう勧告され、1991年1月1日から日本政府当局および殆どの政府当局および諸国際機関の規則として取り入れられた。また海上輸送に用いられる船舶(専用運搬船)は国際海事機関(IMO)で採択されている海上人命安全条約(SOLAS)および照射済燃料等国際海上安全輸送等級(INFコード)の基準に適合している船舶である。
また、その後約10年間の輸送技術開発の進展および経験を反映してIAEAにおいて輸送規則の改訂作業を進め、六フッ化ウラン、プルトニウムの航空輸送等の要件を新しく追加した1996年版IAEA輸送規則が発行された。このIAEA輸送規則は2001年1月1日までに日本を含むIAEA加盟各国の国内規則に取り入れられるよう勧告された。
1.2使用済燃料輸送に係わる新日米協定
日本国政府およびアメリカ合衆国政府は、日米原子力協定(1968年締結、1973年一部改正)を全面的に改定し、1988年7月17日、新協定を発効した。
旧協定では、使用済燃料の
再処理を行う場合には、アメリカの事前の個別審査が必要であり、再処理施設への輸送(第三国移転)においてもアメリカの事前同意が必要であったが、新協定では、規定される施設における再処理およびわが国の
原子力発電所等から規定される施設への使用済燃料の輸送が包括事前同意となり、個別にアメリカの審査を受ける必要がなくなった。
1.3世界における核燃料物質輸送の現状
世界における核燃料物質輸送の現状として、以下のような核燃料物質が一般的に輸送されている。
1)アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニジェール等で産したウラン鉱石は現地の精製工場に輸送され、八酸化三ウランと呼ばれる黄色い粉末状の酸化物(
イエローケーキ)に精製され、輸送される。
2)天然八酸化三ウランはドラム缶に収納され、トラックに積載された後、精製工場から転換工場(八酸化三ウランから六フッ化ウランへの転換)に輸送される。
3)天然八酸化三ウランは転換工場で、六フッ化ウランに転換し、核分裂性物質の濃度を高めるため、天然六フッ化ウラン輸送用シリンダーに詰められ濃縮工場に輸送される。
4)天然六フッ化ウランは濃縮工場で核分裂性物質(ウラン−235)の濃度が高められ、濃縮六フッ化ウランに生成され、濃縮六フッ化ウラン輸送用シリンダーに詰められ、転換工場(六フッ化ウランから二酸化ウランへの転換)へ輸送される。
5)濃縮六フッ化ウランは転換工場で濃縮二酸化ウラン粉末に転換され、ドラム缶型二重
輸送容器に収納されて、燃料加工工場に輸送される。
6)燃料加工工場で濃縮二酸化ウラン粉末は
原子炉用燃料集合体に加工され、新燃料集合体用輸送容器に収納して、原子力発電所に輸送される。
7)原子炉に装荷された燃料集合体はほぼ3〜5年間使用されてから炉心かり出され、使用済燃料プールで冷却、貯蔵された後、この使用済燃料は国内外の再処理工場に輸送される。
以上のように種々の核燃料物質が国内および国際的に輸送されている。
2.国内外における核物質輸送の将来
2.1輸送規則
IAEA輸送規則(1985年版)は、前述したように1991年1月1日までにIAEA加盟各国および関係国際機関の諸規則および諸基準に取り入れられたが、六フッ化ウラン、プルトニウム等の輸送基準(追加要件)についてIAEAにおいて検討が行われ、1966年にIAEA輸送規則の改訂版が発行された。今後2001年1月1日までにわが国の国内規則をはじめ各国の国内規則および関係国際機関の諸規則に取り入れる予定である。
2.2使用済燃料輸送に係わる新日米協定
日本国政府およびアメリカ合衆国政府は、日米原子力協定(1968年締結、1973年一部改正)を全面的に改定し、1988年7月17日、新協定を発効し、施設への使用済燃料の輸送が包括事前同意となり、個別にアメリカの審査を受ける必要がなくなった。
2.3世界の核燃料物質輸送の将来
核燃料物質輸送としては世界的に約30数年間の安全輸送の実績があり、国内および国際的にも定着している。今後も従来の核燃料物質の輸送が考えられ、核燃料サイクルの発展に伴い、将来新たに次の核燃料物質の輸送が考えられる。
1)プルトニウム
国内外の再処理工場で使用済燃料から回収されたプルトニウムを再度原子力発電所のウラン−プルトニウム混合酸化物燃料として利用するため、二酸化プルトニウム粉末としてMOX燃料加工工場に輸送することが考えられる。海外においては、英国核燃料会社(BNFL)および仏国核燃料会社(COGEMA)の再処理工場で再処理された使用済燃料から回収したプルトニウムが欧州内およびわが国に国際輸送が行われている。これらの輸送については輸送技術として
核物質防護の観点が必要である。国内においては今後青森県六ケ所村に商業規模の再処理工場の稼動が計画されており、その再処理工場からのプルトニウム輸送はわが国の社会状況等を十分考えた輸送容器、輸送方法、核物質防護等の観点から合理的な輸送システムを考える必要がある。
2)MOX燃料
ウランに再処理工場で再処理された使用済燃料から回収したプルトニウムを混合し新たなウラン−プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料として
軽水炉、高速増殖炉等に利用することが国内外で行われている。
国際的には欧州内におけるMOX新燃料集合体の輸送および欧州からわが国へのMOX燃料の輸送が行われている。
一方、国内においては動力炉・核燃料開発事業団(動燃(現日本原子力研究開発機構))東海事業所のMOX燃料加工工場等から国内の原子力発電所へのMOX燃料輸送が行われている。
MOX燃料は、新燃料として原子炉に装荷されるため、振動、加速度等の観点から十分なMOX燃料集合体の品質保証が要求され、MOX燃料が原子力発電所に到着したのち、原子炉に装荷される前にMOX燃料の検査が綿密に実施される。このことがMOX燃料輸送と使用済燃料輸送の違いと言える。
さらにMOX燃料の輸送に当たっては燃料集合体の輸送技術の他にプルトニウムと同じように核物質防護の考慮が必要である。
3)回収ウラン
国内外の再処理工場では使用済燃料から回収されるプルトニウムのほかにウラン(回収ウラン;ウラン−235濃縮度:0.9−1.3%)がある。この回収ウランは再び軽水炉、高速増殖炉等の原子力発電所の燃料として利用することが可能である。国内においては、回収ウランは、動燃東海事業所の再処理工場および青森県六ケ所村の再処理工場から精練・転換工場に輸送されるが、さらに転換工場〜燃料加工工場〜原子力発電所への核燃料サイクル上の回収ウランの輸送が行われる。
国際的には今後欧州内、欧州および米国からわが国への回収ウランの輸送が考えられる。
回収ウラン(U−235濃縮度:0.9−1.3%)と天然ウランとの違いは、核分裂性物質(ウラン−235)の濃度が天然ウランの濃度(ウラン−235の占める割合:0.72%)より高くなっていることおよびウラン−234の割合が天然ウランのそれより高いこと等がある。そのほかに回収ウランの特徴は極く微量の
FP(
核分裂生成物)および
TRU(
超ウラン元素)が含まれることが挙げられる。
これに対応して、IAEAが中心になって回収ウラン輸送についてどのようにIAEA輸送規則を適用するかの議論が行われており、現行のIAEA輸送規則(1996年版)に取り入れられ、放射能濃度により輸送物の分類を行うことにより従来の輸送システムが利用できることが明確になった。
<関連タイトル>
六フッ化ウランおよび二酸化ウランの輸送 (11-02-06-03)
使用済燃料の輸送 (11-02-06-04)
わが国の核燃料物質輸送に係る安全規制 (11-02-06-01)
国際海事機関(IMO)の活動 (13-01-01-16)
<参考文献>
(1)International Atomic Energy Agency: IAEA Safety Standards Series, Regul−ations for the Safe Transport of Radioactive Material(1996 Edition), Re−quirements(No. ST−1), International Atomic Energy Agency(Dec.1996)
(2)科学技術庁原子力安全局核燃料規制課ほか(監修):放射性物質等の輸送法令集1997年版、日本原子力産業会議(1997年1月)
(3)日本原子力産業会議編:原子力ポケットブック1997年版、日本原子力産業会議(1997年5月)、p.149, 183−184, 297
(4)科学技術庁(編):平成7年度科学技術六法、大成出版社(1995年4月)、p.1407−1426
(5)通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課(編):原子力発電便覧1997年版、電力新報社(1997年8月)、p.187−192
(6)原子力産業会議編:原子力年鑑 平成9年版 原子力産業会議(1997年10月)、p.159
(7)久保 稔:プルトニウムの輸送、原子力工業、40(1)、49−54(1994)