<本文>
核燃料サイクルの概念を、
図1に示す。このサイクルの中で輸送の対象となる核燃料物質等(核燃料物質または核燃料物質によって汚染された物)の形態・性状は多岐にわたる。
イエローケーキ、六フッ化ウラン、二酸化ウラン、混合酸化物燃料などの化学形体の異なるもの、または、これらを加工し、
燃料集合体として原子炉燃料としたもの、または、
放射能の高い使用済燃料などがある。
これらの輸送は、わが国はもとより世界の多くの国で行われており、これらの輸送の安全を期するため国際的な規制が国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)で「
放射性物質安全輸送規則」(
IAEA輸送規則)として定められており、わが国でも、この規則(1996年版)を取り入れて、輸送に関する規則等を定めている。具体的には、2001年1月の中央省庁再編後の6月に省令、告示等の大幅な改正が行われ、核燃料物質等の安全輸送を規制している。
また、1999年9月に発生したJCO
臨界事故から、
核物質輸送時の緊急時対応としての
原子力災害対策特別措置法が制定された。
一般に、核燃料物質等を輸送する場合、これらを
輸送容器に収納した状態で輸送するが、我が国の原子炉等法の定義によると、このように輸送容器に収納されているものを核燃料輸送物と呼ぶ。すなわち、輸送容器と核燃料物質等が一体となって核燃料物質等の輸送物となる。輸送容器の中に入れる物を収納物と呼んでいる。
輸送物の区分は、IAEA(1996年版)でも述べているように収納物の放射能限度及び物質の制限に従い、かつそれぞれに対応した要件に適合するものとして、主にA型、B型、C型に分けられる。また、
原子炉等規制法では、A型の中で、輸送物の表面の放射線量が低く、同時に収納物の放射能量が少ない輸送物を特にL型と呼んでおり、これは我が国独自の輸送区分名称である。なお、C型については我が国は現在検討中となっている。
さらに、核燃料輸送物については、ある条件を満たすと臨界になる性質を持っているものもあるので、「核分裂性輸送物」として別に区別されている。核分裂性輸送物は、平常の輸送および事故時に遭遇しそうな条件の下で未臨界が維持されるよう梱包され輸送されなければならない。
核燃料物質の輸送には、陸上運搬、海上運送、航空輸送の3つの輸送モードがあり、各モードに対し法的な規制がある。これらの法令は
図2に示す体系になっている。すなわち、陸上輸送については、原子炉等規制法(「
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」の略称)に基づいて、文部科学省が簡易運搬(人や台車等による運搬)および輸送物に関する安全の確保を分担し、国土交通省が車両への輸送物の積載方法、積載限度、車両標識、等輸送方法に関する安全の確保、都道府県公安委員会が輸送経路、日時の指示等輸送途上の安全確保をそれぞれ分担し、必要な規制が実施されている。
また、海上輸送については、船舶安全法に基づき国土交通省が輸送物および船舶への積載、標識等の輸送方法に関する安全の確保、海上保安庁が運搬中の安全の確保を分担し、必要な規制が実施される。さらに、航空輸送についても、航空法に基づき国土交通省が一元的に安全の確保のための規制を行っている。
ところで、輸送物(核燃料輸送物の略称)は、輸送中に温度変化や振動など外的な要因により破損しないことが要求される。このため国内法の規則(核燃料物質等の工場又は事業所の外における運搬に関する規則)および告示(核燃料物質等の工場又は事業所の外における運搬に関する技術上の基準に係る細目等を定める告示)で、輸送物に対する技術基準として、以下に示すような試験条件を満足することとしている(
表1)。
輸送物は、内部に収納する放射能量によりL型、A型、B型に区分される。その規定量は、A1値およびA2値として規則等により定められている。この値以下の量の放射性物質を輸送する場合はA型輸送物、これを超える量の場合はB型輸送物として取り扱われる。この大略の区分けは以下のとおりである。
(a)L型輸送物
固体及び気体は規定量の千分の1以下、液体は規定量の1万分の1以下の放射能量で輸送物の表面で5μSv/h以下のもの。
(b)A型輸送物
規定量以下放射能量で、輸送物の表面および表面から1mの点での線量当量率が各々2mSv/h、100μSv/h以下のもの。
(c)B型輸送物
A型輸送物の放射能規定量を超え、輸送物の表面および表面から1mの点での線量当量率が、各々2mSv/h、100μSv/h以下であるもの。
なお、輸送物表面で線量当量率が2mSv/hを超え、かつ表面から1mの点で100μSv/hを超える輸送物に対しては、表面から1mの地点で10mSv/h以下であれば、特別な安全措置を施して国の承認を得た上で輸送できることになっている。
輸送物が満足すべき技術基準を
表2、
表3に示す。L型は一般要件(表中の1〜15の項目)を満足すること。A型は一般要件および一般の試験条件を満足すること、B型は、一般要件、一般の試験条件および特別の試験条件を満足することが要求されている。なお、表中、B型はBM型とBU型に分けられ、BM型は国際輸送に関係するすべての国の承認が必要となる輸送物で、BU型は設計国の1か国が承認すればよい輸送物である。
輸送を実際に行う場合、規則に従って国の確認を受けるなどの措置が必要である。この手続きの流れとして陸上輸送を例に示す(
図3)。すなわち、輸送物の設計段階、輸送容器の製作段階、実輸送における発送前段階で、国の承認等を得る必要がある。ただし、L型、A型の非核分裂性核物質は、国の定める要件を満足する方法で輸送でき、国の承認を受ける必要はない。
このほか核燃料物質の輸送に際しては、
核物質防護のための必要な措置を講ずることが定められている。核原料物質と核燃料物質の区分を
図4に、また、特定核燃料物質(核物質)に対応した防護措置の区分を
表4に示す。特定核燃料物質の輸送にあたっては、収納する容器に施錠・封印を行うこと、輸送開始前に発送人、受取人および運搬の責任を有する者との間で、運搬に関する取決めを行うこと等が規定されている。
<図/表>
<関連タイトル>
発電所用ウラン燃料の輸送 (11-02-06-02)
六フッ化ウランおよび二酸化ウランの輸送 (11-02-06-03)
使用済燃料の輸送 (11-02-06-04)
<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技術協会(昭和61年6月)
(2)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成9年版、大蔵省印刷局(1998年10月)p.134−144
(3)麻岡秀行:高レベル放射性廃棄物輸送物の安全性について、原子力工業、41巻10号、日刊工業新聞社(1995年10月)p.24−30
(4)科学技術庁原子力安全局核燃料規制課核燃料物質輸送対策室(監修):パンフレット「核燃料サイクルと輸送−安全輸送をめざして−」、(財)原子力安全技術センター(1999年1月)
(5)科学技術庁原子力安全局核燃料規制課(監修):パンフレット「核燃料輸送の安全性−使用済燃料輸送容器信頼性実証試験−」、(財)電力中央研究所
(6)日本原子力産業会議(編集発行):原子力ポケットブック1997年版(1997年5月)p.209−210
(7)(財)電力中央研究所バックエンド研究会(編):核燃料輸送工学、日刊工業新聞社(1998年3月)
(8)松岡 理:核燃料輸送の安全性評価、日刊工業新聞社(1996年11月)
(9)青木成文:放射性物質輸送のすべて(第2版)、日刊工業新聞社(2002年4月)
(10)有富正憲ほか:特集「放射性物質の安全輸送−現状と将来の課題−」、日本原子力学会誌、Vol.39、No.3、(社)日本原子力学会(1997年3月)
(11)科学技術庁原子力安全局核燃料規制課、同課核燃料物質輸送対策室、同局放射線安全課、運輸省運輸政策局技術安全課、警察庁生活安全局生活環境課、同庁警備局警備課(監修)、日本原子力産業会議(編集発行):放射性物質等の輸送法令集1997年版、(1997年1月)
(12)科学技術庁原子力安全局(監修):原子力規制関係法令集1998年版、大成出版社(1998年6月)
(13)IAEA Safety Standards Series, Safety Series No.6 Regulations for the Safe Transport of Radioactive Material,1985 Eddition
(14)IAEA輸送規則編集委員会(編):IAEA放射性物質安全輸送規則1985年版解説、情報センター出版会(1985年)