<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 研究炉用燃料又はMOX燃料を、海外又は国内の燃料加工施設から日本原子力研究開発機構の研究炉、高速実験炉「常陽」、高速増殖原型炉「もんじゅ」等へ輸送する際には、軽水炉使用済燃料と同じB型輸送物として取り扱われ、事故時においても輸送物の密封性能、遮蔽性能、未臨界性能等を維持できる構造の輸送容器を用いることが要求されている。
<更新年月>
2010年09月   

<本文>
 かつて研究炉で使用されていた高濃縮ウランは、核不拡散の観点から米国が供給停止する措置を取り(1997年4月のカーター宣言及び1998年核不拡散法の発効)、それ以来、研究炉では高濃縮ウランに代わって20%以下の濃縮ウランが使用されている。研究炉用のMTR型等の燃料としては、米国、フランス等の燃料加工施設から20%以下の濃縮ウラン燃料が我が国に輸送され、また、MOX燃料としては、日本原子力研究開発機構核燃料サイクル工学研究所の加工施設から、「常陽」及び「もんじゅ」へMOX燃料集合体が輸送されている。これらの燃料は、5%以上の濃縮ウラン、またはウラン−プルトニウム混合酸化物(MOX)を含み、核燃料物質等の運搬に関する法令では、B型輸送物として輸送される。したがって、これらの燃料を収納して、輸送する輸送容器としては、1.2メートルからの落下試験等の平常時の試験条件に加えて、9メートルからの落下試験、1メートルからの貫通(落下)試験、800℃、30分間の耐火試験等の事故時の試験条件においても、輸送物の密封性能、遮蔽性能、未臨界性能等を維持するような構造が要求される。B型輸送物の代表である軽水炉の使用済燃料の輸送では、一般的に80〜100トン級の大型の輸送容器により、ほとんどが海上輸送されている。これに対して、研究炉用の燃料は主に国外の燃料加工施設から海上輸送された後、国内では陸上輸送されており、また、高速炉用MOX燃料は国内の燃料加工施設から陸上輸送されている。輸送容器は、約5トン以下の比較的小型の容器である。
 研究炉用使用済燃料の輸送容器の例を図1に、高速炉用MOX燃料の輸送容器の例を図2に例示する。
 一般的な輸送容器の構造としては、内側の雰囲気が空気、ヘリウムガス等で充填された乾式タイプの輸送容器で、遮蔽材としては、γ線に対してステンレス鋼等の鋼材が、また、中性子線に対してはポリエチレン、レジン等の軽量材料が使用されている。これらの輸送容器はB型の技術基準が適用されることから、9メートル落下に対する緩衝対策及び800℃で30分間の耐火試験に対する断熱対策としてバルサ材等の木材が使用される。また、密封性能を確保するため、輸送容器の内部に密封性能を持たせた核燃料物質の収納容器を配置している。なお、輸送の実施に当たっては、発送に先立って、密封容器の密封性能が検査されている。
 一方、原子力平和利用にとって不可欠な核物質防護条約(PP条約)の発効に伴い、1989年5月に原子炉等規制法核物質防護の観点から改正され、プルトニウム、濃縮ウランなどの特定核燃料物質の取扱いや輸送に関する防護上の規定が設けられた。即ち、特定核燃料物質の防護のために必要な措置、特定核燃料物質を取り扱う者が作成する核物質防護規定に盛り込む事項、認可申請手続き等である。したがって、1989年5月以降、研究炉用燃料及びMOX燃料の輸送に当たっては、輸送に必要な申請手続きに加えて、核物質防護に必要な取り決め等の手続きが行われている。
(前回更新:1998年3月)
<図/表>
図1 研究炉用JRC-80Y-20T型輸送物外観図
図1  研究炉用JRC-80Y-20T型輸送物外観図
図2 高速炉(常陽)用新燃料輸送容器
図2  高速炉(常陽)用新燃料輸送容器

<関連タイトル>
わが国の核燃料物質輸送に係る安全規制 (11-02-06-01)
発電所用ウラン燃料の輸送 (11-02-06-02)
使用済燃料の輸送 (11-02-06-04)

<参考文献>
(1)動力炉・核燃料開発事業団パンフレット:ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料の輸送(1995年7月)
(2)International Atomic Energy Agency:Safety Series No.6, Regulations for the Safe Transport of Radioactive Material(1985 Edition), International Atomic Energy Agency(1985)
(3)科学技術庁原子力安全局核燃料規制課ほか(監修):放射性物質等の輸送法令集1997年版、日本原子力産業会議(1997年1月)
(4)科学技術庁パンフレット:核燃料サイクルと輸送−輸送物と安全対策−
(5)青木成文:放射性物質輸送のすべて、日刊工業新聞社(1990年6月)p.133
(6)松岡 理:核燃料輸送の安全性評価、日刊工業新聞社(1996年11月)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ