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<概要>
 地球温暖化防止に有効な電源として原子力発電を挙げる国民は少ない。さらに、原子力発電は発電の際、二酸化炭素を排出しないにも関わらず、原子力発電が地球温暖化を進めると考える人は半数にも及んでいる。そこで、なぜ人々は原子力発電が地球温暖化の原因になると考えるのかを探ることを目的として行われた原子力発電と地球温暖化に関する意識調査の結果を述べる。
<更新年月>
2006年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 2005年2月京都議定書が発効し、わが国は温室効果ガスの総排出量を基準年から6%削減する約束事項の達成に向けた取組みを推進すべく、同年4月28日に「京都議定書目標達成計画」が閣議決定された。本達成計画において、エネルギー供給部門の二酸化炭素低減化として「原子力発電の着実な推進」、「新エネルギー導入の促進」などが挙げられている。しかしながら、新エネルギーや省エネルギーの推進に大きな期待を寄せる人は多いものの、原子力発電が地球温暖化防止に有効な電源であると考える人は少ない。
 さらに、先進諸国およびわが国における調査(参考文献(1)(2))によると、原子力発電が地球温暖化の原因になるという見方をする人が半数に及んでいることが示されている。また、原子力発電所の立地地域である福井県においても同様の傾向があることが明らかとなり(参考文献(3))、原子力発電に対するなじみや知識の多さとは無関係に、広く一般的に存在する傾向であることが分かっている。
 そこで、原子力発電が地球温暖化の原因になると考えるのはどのような要因が影響しているのかを探るべく行われた意識調査の結果を報告する。なお、この意識調査は(株)原子力安全システム研究所によって行われたものである。

2.意識調査の概要
調査地域:大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県、
福井県の一部(嶺南地域)
回収数/標本数:1,065/1,500   回収率:71.0%
抽出方法:層化2段無作為抽出法
調査方法:訪問留置法
調査時期:平成15年10月9日〜11月9日
質問項目:地球温暖化問題に関する知識・認識
原子力に対するイメージ
熱による地球温暖化への影響に関する認識
原子力発電の環境への有用性への評価

3.意識調査の結果
(1)原子力発電が地球温暖化の原因か防止かを考える要因
 原子力発電の利用が増えることが地球温暖化の「原因になる」「どちらかといえば原因になる」と回答した人の割合は合わせて51%、一方「防止になる」「どちらかといえば防止になる」と回答した人の割合は48%であり、これまでの調査と同様、ほぼ二分されるという結果が得られた(図1)。なお、女性は男性に比べ原子力発電が地球温暖化の原因と考える割合が高く、原子力発電の地球温暖化への有用性に対し否定的であった。
 「原子力発電の利用が増えることが地球温暖化の原因か防止か」という認識を目的変数として、多変量解析の一つである「ロジスティック回帰分析」により要因分析を行った。統計的に有意になった質問項目(独立変数)と目的変数の関係を図2に示す。図に示した偏回帰係数βは、その絶対値の大きさが「原子力発電が地球温暖化の原因か防止か」という認識への影響度を示し、符号が正の場合は原子力発電が地球温暖化の原因になるとの考えに、負の場合は原子力発電が地球温暖化の防止になるとの考えに影響することを示している。
 この結果から、原子力発電が地球温暖化の防止になるとの判断には、「原子力発電が発電の際、二酸化炭素を排出しない」という正しい認識が最も影響を及ぼす要因であることが明らかになった。一方、原子力発電が地球温暖化の原因になるとの判断に最も影響を及ぼす要因としては、「原子力発電所から出る放射性物質が地球温暖化を進める」という誤った認識が挙げられた。以下、これらの要因についてデータを示す。
(2)原子力発電の地球温暖化防止への有用性に関する認識
 「原子力発電が発電の際、二酸化炭素を排出しないと思うか」という質問に対し、「正しい」「たぶん正しい」と回答した人を合わせても43%と半数に満たず、電気事業者等が積極的に広報しているにも関わらず、原子力発電が二酸化炭素排出量抑制に貢献しているという認識はあまり浸透していない(図3)。
 地球温暖化に影響を与える電磁波に関する知識と原子力発電が二酸化炭素を排出しないという知識とのクロス集計を行った(図4)。地球温暖化には「赤外線」が関与していること、すなわち地球温暖化の仕組みを知っている人は、原子力発電が二酸化炭素を排出しないことを認識している割合が他の層に比べ多く、どちらともいえないという中間的な意見を持つ人の割合が少なくなっている。このことから、地球温暖化の仕組みの理解が原子力発電の環境特性に対する正しい判断につながっているものと思われる。
(3)放射性物質が地球温暖化を進めるという認識
 原子力発電が地球温暖化の原因になるとの判断に最も大きな影響を及ぼす要因である「原子力発電所から出る放射性物質が地球温暖化を進める」という認識について、「正しい」「たぶん正しい」と回答した人が36%、「間違っている」「どちらかといえば間違っている」と回答した人は29%であり、ほぼ同程度の割合であった(図5)。
 この認識と地球温暖化に最も影響を与える物質(温室効果ガス)に関する知識とのクロス集計を行ったところ(図6)、放射性物質が地球温暖化を進めると思っている人では地球温暖化に最も影響を与える物質として「二酸化炭素」と回答した人より「フロン」を挙げた人の方が多かった。その一方で、「放射性物質」を挙げた人は6%と少なかった。このことから、放射性物質が地球温暖化を進めると思っている人であっても、放射性物質が地球温暖化の直接の影響物質とは考えておらず、考え方に矛盾がみられる。すなわち、放射性物質の地球温暖化への影響に関して確固たる考えを持っているのでなく、大量の放射性物質の放出事故が生じた場合の自然環境破壊への懸念など、ネガティブなイメージにより原子力発電は地球温暖化の原因になるという回答につながったのではないかと推測される。
(4)地球温暖化防止のための原子力発電の推進への態度
 京都議定書の目標達成には原子力発電所の新増設以外に方法がないとの条件設定の下、原子力発電の新増設に対する賛否を質問したところ、賛成・反対・どちらともいえないが三分された。
 そこで、地球温暖化に影響を与えるもの(電磁波)に関する知識と原子力発電所の新増設への賛否についてクロス集計を行った(図7)。「赤外線」が地球温暖化に影響を与えるという仕組みを知っている人においては、45%の人が原子力発電所の新増設に賛成し、他の層よりも高い割合となっていた。その一方で、反対する人もやや増加している。「電波」や「放射線」が地球温暖化に影響を与えると回答している層においては4割程度の人が「どちらともいえない」と中間的な立場をとっているのに対し、「赤外線」と回答した層では15%と少ない。これは、地球温暖化の仕組みについて誤った知識を有している層では原子力発電の推進への態度を保留している人が多いのに対し、地球温暖化の仕組みを正しく認識している人では、その知識を踏まえた上で、原子力推進への賛否を判断し、態度を決定したものと思われる。

4.まとめ
 原子力発電が地球温暖化の防止になるという考え、あるいは原因になるという考えに影響を及ぼす要因を探った。その結果、防止になるという考えには「原子力発電が発電の際、二酸化炭素を排出しない」という正しい知識の影響が大きかった。一方、原因になるという考えには「原子力発電所から出る放射性物質が地球温暖化を進める」という誤った認識の有無が大きな影響を与えていた。
 これらのことから、原子力発電が地球温暖化の防止に有効な電源であるとの認識を向上させるには、原子力発電が発電時に二酸化炭素を排出しないことや地球温暖化の仕組み等の知識の普及、放射性物質等が地球温暖化には関係しないことの認識を向上させることである。なお、原子力に対するネガティブなイメージの払拭には、安全・安定運転を継続し原子力発電の信頼感を醸成することが基本であることは言うまでもない。
<図/表>
図1 原子力の利用が増えることが地球温暖化の原因か防止かの認識
図1  原子力の利用が増えることが地球温暖化の原因か防止かの認識
図2 ロジスティック回帰分析による要因分析結果
図2  ロジスティック回帰分析による要因分析結果
図3 原子力発電が発電の際、二酸化炭素を排出しないという認識
図3  原子力発電が発電の際、二酸化炭素を排出しないという認識
図4 地球温暖化に影響を与えるものと原子力発電が発電の際、二酸化炭素を排出しないという認識とのクロス集計
図4  地球温暖化に影響を与えるものと原子力発電が発電の際、二酸化炭素を排出しないという認識とのクロス集計
図5 原子力発電所から出る放射性物質が地球温暖化を進めるという認識
図5  原子力発電所から出る放射性物質が地球温暖化を進めるという認識
図6 放射性物質が地球温暖化を進めるという認識と地球温暖化に最も影響を与える物質に関する知識とのクロス集計
図6  放射性物質が地球温暖化を進めるという認識と地球温暖化に最も影響を与える物質に関する知識とのクロス集計
図7 地球温暖化に影響を与えるものと原子力発電所の新増設への賛否とのクロス集計
図7  地球温暖化に影響を与えるものと原子力発電所の新増設への賛否とのクロス集計

<関連タイトル>
エネルギー・原子力に関する世論調査(1994年)「エネルギー・環境問題(1)」 (10-05-01-04)
エネルギー・原子力に関する世論調査(1994年)「エネルギー・環境問題(2)」 (10-05-01-05)
「エネルギーと環境」に関する中学生の意識調査報告書 (10-05-01-13)
原子力と環境リスクに関する意識調査(東海村) (10-05-01-14)

<参考文献>
(1) 河波 潤:環境・エネルギーに対する認識と将来のエネルギー選択意識−日・米・独・仏における世論調査結果の比較−、日本社会心理学会第42回大会発表論文集、 (2001)、p.352-353
(2) 深江千代一:仮想評価法による太陽光発電、原子力発電の二酸化炭素排出抑制効果、INSS JOURNAL Vol.10、(2003)、p.71-81
(3) エネルギーの総合的な学習検討委員会(編):福井県におけるエネルギーの総合的な学習づくりの推進に関する調査結果報告書 (2002年)
(4) 深江千代一:原子力発電が地球温暖化の原因と考える人々の認識、INSS JOURNAL Vol.11、(2004)、p.50-61
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