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<概要>
 国立保健医療科学院は、保健医療事業及び生活衛生に関係する職員ならびに社会福祉事業に関係する職員その他、これらに類する者の養成及び訓練、ならびにこれらに関する調査及び研究を行なう新たな機関として2002年4月1日、設置された。
<更新年月>
2004年08月   

<本文>
 国立保健医療科学院は厚生労働省の国立試験機関の重点整備・再構築の一環として、旧・国立公衆衛生院、旧・国立医療病院管理研究所および国立感染症研究所・口腔科学部の一部を統合し、埼玉県和光市(和光庁舎)及び東京都港区(白金台庁舎)で2002年4月に新しく発足した。
 国立保健医療科学院は保健医療、生活衛生、社会福祉に関係する指導者・専門家の養成とそれに必要な調査研究を行なうことを目的としている。図1に国立保健医療科学院の組織図を示す。この組織再編を機に、これまで旧国立公衆衛生院放射線衛生学部が担当してきた放射線・放射能分野の研究および教育は、生活環境部環境物理室が担当している。
 生活環境部は、環境物理室のほか環境化学室、快適性評価室があり生活環境における物理的・化学的因子の保健衛生、安全対策および快適性に関する研究を行なっている。
 環境物理室では電離放射線、電磁界、紫外線などの物理的要因による健康影響とその安全対策に関する調査研究を行い、これらの物理的因子の適切な曝露評価ならびに防護、低減化のための生活環境の中の実態を調査・解析評価を行なっている。また、これらの研究は情報評価室との協力により広くリスク評価への応用が試みられている。
 さらに地方自治体職員、理工系の学生などを対象にして環境放射線、医療放射線に関して幅広くかつ高度な教育を行なっている。
1.環境放射線に関する研究
 環境放射線に関わる調査・研究は、食品の安全確保に資するための調査研究および環境から食品への核種の移行・蓄積に関する放射生態学研究と、これらに伴う被ばく線量評価に区分される。
(1)食品衛生の安全確保に資するための調査研究
 厚生労働省では、日本に輸入される食品を対象として、「食品衛生法」に基づき多種類・多品目の有害物質の安全性の評価を行なっている。これらの中にはチェルノブイリ原子力発電所の事故発生以来、放射性セシウムを対象としたヨーロッパ産輸入食品の放射能検査も含まれている。検査対象食品はキノコ、トナカイの肉、ハーブ、ビーフエキスである。
 また、ヨーロッパに限定せずに広く各種輸入食品中の放射能濃度の実態の調査を行なっている。すなわち、輸入されて市場に流通される以前の食品を対象にしてγ線放出核種の濃度調査を実施している。人工放射性核種として検出されたものは137Csのみであり、キノコを除く他の各種食品は国内に産する食品に含まれる137Csと同レベルの低いレベルで国外における食品の汚染の程度には差のないことが明らかになりつつある。
 さらに、放射能摂取量調査や食の摂取形態の差異による放射能摂取量調査研究を計画している。対象核種としては、γ線放出核種、放射性Srおよびウランを選定している。
(2)環境から食品への核種の移行・蓄積に関する放射生態学的研究
 キノコ中の放射性セシウム濃度は野菜や穀類などをはじめ他の各種食品中の濃度より高い傾向にある。とくに、食用のヒラタケを用いたトレーサー培養実験では菌根性種あるいは腐朽性種に関わらずキノコのセシウム濃度は生息基質中のセシウム濃度に準ずることを示した。この課題の解明を、微生物学あるいはキノコ学、森林学などの複合・境界領域的な研究の立場からとりあげている。このような放射生態学的研究を基にしたモニタリングあるいは要因の解明・排除に関する知見は、公衆の放射線被ばくに対する不安解消の一助として還元されている。
 なお、2003年度より、環境物理室および情報評価室を中心にして下水処理場に着目し、汚泥焼却灰等の再利用および核医学診断・治療における使用核種の放出に視点を据えたモニタリングならびにリスク評価について検討を行なう。
2.医療放射線の適性利用、防護に関する研究
 放射線診療において安全を確保するため、医療機関における放射線管理をより適正なものにすることが不可欠である。
(1)放射線診療における放射線曝露量推定に関する研究
 適切な放射線診療を行なうには患者および放射線診療従事者、医療機関スタッフ等の放射線曝露量を知る必要がある。したがって、放射線曝露量の推計法の開発と医療被ばくの実態把握調査を研究協力機関とともに進めている。これまでその被ばくの現状が必ずしもよく把握されていなかった肝臓疾患、頭部塞栓術、血管内照射等の放射線療法における患者の皮膚吸収線量や術者の被ばく線量を調査している。
(2)放射線診療における安全性確保に関する研究
 放射線診療に限らず、医療行為ではある確率により何らかの事故を伴うことは避けがたい。このため、比較的リスクが大きいと考えられる放射性医薬品投与時の事故について放射線曝露量の推計法の開発が進められている。その結果、70MBqの塩化タリウムの静脈内投与時の皮下への放射性物質の漏洩が10%であった場合には、真皮での組織吸収線量が1.2Gy程度となりうることを明らかにした。
(3)医療放射線の管理・規制の在り方に関する研究
 医療機関における放射線管理および行政機関による検査等の手順・手法について科学的根拠を基にした研究を進めている。さらに、地方自治体からの医療放射線管理等に関する問い合わせに対し、技術的な支援を行なっている。
3.電磁界の生体影響と健康リスク評価に関する研究
 非電離放射線の中でも電磁界については公衆衛生学上深い関心がもたれている。具体的には、携帯電話で使用されるGHz帯および電力線や家電製品で使用される50Hzあるいは60Hzの商用周波電磁界の安全性評価と、静的電磁界(直流磁界)の生体影響を研究している。
 これらの結果は、経済産業省原子力安全・保安院委託事業である電磁界情報提供委員会に中立的な立場で情報提供を行なっている。
 高周波電磁界の健康リスク評価は2006年〜2007年に行なわれる予定であるが、商用周波電磁界では、磁界曝露に伴って小児白血病、乳がん、脳腫瘍等がんの発症リスクが増加すると懸念されている。マウスを用いて皮膚微小循環動態が、また脳軟膜微小循環動態が観察可能な方法を開発した。その結果、居住環境レベルを遥かに超えた磁界密度でも腫瘍増殖能を昂進させることはなく、統計的に有意ではないものの逆に抑制傾向が認められている。
 高周波電磁界では、携帯電話より発射されるレベルの電波照射で、血液・脳関門機能が破綻するとの報告がスウェーデンやフランスからあり、再現研究を実施した結果、携帯電話で使用される電波強度を大きく上回った曝露レベルでも、急性的にも慢性的にもなんらの影響も認めなかった。また、直流電磁界の循環動態への影響を明らかにし、将来的には医療応用に向けた研究も行なう。
4.リスク評価の方法論に関する研究
 原子力利用における合理的な安全確保のためには、常に最新の科学的知見をリスク評価に反映させることが重要である。
 情報評価室では、健康リスクに関して生物統計学や情報科学の観点から、科学的根拠に基づくリスク評価の方法論に関して研究を行なっている。放射線リスクについては、(1)実験的研究、疫学的研究の両者を含めて、研究ごとに存在する複雑な多様性をできるだけ客観的に評価すること、(2)リスクに関する様々な科学的根拠を科学的に統合するための方法論を確立すること、(3)とくに低線量・低線量率の放射線について実験データおよび疫学データに基ずいて定量的なリスク評価を行なうこと、などを主なテーマとしている。
5.放射線に関する教育
 主に、(1)修業年限1年以上の長期課程、(2)1年未満の短期課程、(3)インターネットを利用した遠隔教育に分けられる。放射線に関連する教育としては、「放射線衛生学」、「放射線衛生学特論」、「毒性学」などがある。また、近年充実化を図っている遠隔教育においては環境保健の中の1科目として「放射線と健康影響」がある。また、短期課程における「食品衛生監視コース」、「疫学統計コース」、「建築物衛生コース」、「医療放射線監視コース」などにおいても放射線防護に関する教育内容が含まれる。とくに、「医療放放射線監視コース」は放射線の専門家(医療放射線従事者)を対象として行なわれるもので地方自治体などにおける医療放射線の監視および管理の業務に従事する専門技術者を対象に開講されているコースであり立ち入り検査の質の向上を目指している。
<図/表>
図1 国立保健医療科学院の組織図
図1  国立保健医療科学院の組織図

<関連タイトル>
食品中の放射能 (09-01-04-03)
飲食物摂取制限 (09-03-03-06)
食品中放射性物質の基準濃度 (10-07-02-02)
放射線業務従事者の教育訓練 (09-04-09-06)

<参考文献>
(1)国立保健医療科学院:国立保健医療院資料(2003年4月)
(2)大久保千代次、杉山英男、山口一郎、緒方裕光:国立医療保健科学院における放射線・放射能に関する研究と教育、保健物理、38、211-215(2003)
(3)国立保健医療科学院:http://www.niph.go.jp
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