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<概要>
 原子力安全委員会は、2003年3月3日に「規制調査の実施方針について」を決定し、規制行政庁の行う原子力施設の設置許可等の後の安全規制(後続規制)を合理性、実効性、透明性等の観点から監視・監査する規制調査を実施してきた。これまでの規制調査の実施経験を踏まえ、より一層実効的な規制調査を行うため、原子力安全委員会は2004年7月1日「規制調査の実施方針について」を改訂した。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足したため、本データに記載されている原子力施設の安全規制に関する調査活動や具体的な対策についても見直しや追加が行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会および原子力安全・保安院は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2007年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.経緯
 原子力安全委員会(以下、委員会)は、1999年9月に発生したウラン加工工場の臨界事故を踏まえ、後続規制の実施状況等を把握し、確認するとともに、安全確保の観点から必要に応じて規制行政庁に意見を示すことを目的として規制調査を実施してきた。。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)その後、2002年に、原子力発電所において電気事業者の自主点検記録の不正等が発覚し、その主たる原因が事業者の安全確保に対する一義的な責任の欠如にあることに加えて、その背景要因として事業者の自主点検の位置付けが法令上明確でなかったことや規制制度の運用が一部不明確であったこと等、規制制度の合理性や透明性の観点での問題点も指摘された。
 委員会は、この自主点検記録の不正等により著しく損なわれた原子力安全の信頼を回復するため、2002年10月29日に、国と事業者の責任分担の明確化、運転段階の安全を重視した規制制度の整備および情報公開と透明性の向上について、内閣総理大臣を通じて経済産業大臣に対して勧告を行った。これらを受け、2002年事業者の自主点検の位置付けを法令上明確にするとともに、規制行政庁に対し、後続規制の実施状況を当委員会へ四半期毎等に報告することを義務付けるなどを内容とする法令改正が行われた。
 このような背景を踏まえ、A)規制における科学的、技術的な合理性、B)事業者の自主的な安全確保の取り組みを促す規制、C)規制活動における過程(プロセス)の透明性と記録の追跡可能性(トレーサビリティ)の確保を主な視点(表1参照)として、「後続規制における安全確保上の共通課題や重要事項」、「後続規制における重要な個別の行政処分」、「設置許可時の安全審査の際に指摘した重要事項」を対象として、委員会の規制調査が実施されてきた。
 規制調査の実施により、委員会は規制行政庁の規制活動の内容を把握し、必要に応じて委員会の意見や見解を示してきたが、今後、これらの意見や見解を踏まえつつ、より一層実効的な規制調査を行うため、上記A)〜C)の従来の視点に新たに以下の視点を加え、委員会の規制調査の実施方針を2004年7月1日に改定した(図1および図2参照)。
(1)規制活動の継続的な品質の向上
 規制活動の品質と透明性の継続的向上を促す観点から、品質監査の手法を取り入れた調査が有効である。
(2)効果的な安全規制システム構築
 効果的な安全規制システム構築が重要であるとの観点から、現状の安全規制制度の課題を抽出するとともに、規制のあるべき姿に向けて規制体系の高度化に向けた提言を行うことが重要である。
(3)規制調査の効率化
 規制調査の効率化の観点から、調査のねらいや問題意識に応じて、調査の対象や手法を定め、それらを事前に明確に示すことが重要である。

2.規制調査の目的および実施内容
 具体的な規制調査の実施内容の策定に当たっては、規制調査の目的と上記の調査の視点を踏まえ、調査のねらいや問題意識に応じて、具体的な調査対象と調査手法を定めることとしている。
(1)規制調査の目的
 規制調査は、「原子力の安全確保に関する事項について企画し、審議し、決定する」という委員会の使命を果たす上で、後続規制における規制行政庁の行う規制活動を監視・監査するという重要な役割を担っており、その目的は以下のとおりである。
1)規制行政庁の行う後続規制の合理性、実効性および透明性の向上を促すことにより、事業者の行う安全確保レベルの向上を図る。
2)安全審査の答申の際に指摘した重要事項に関して、規制行政庁の行う規制活動の妥当性を確認することにより、安全確保を確実なものとする。
(2)調査の具体的な実施内容
1)後続規制の合理性、実効性と透明性の向上を目的とする規制調査
 規制行政庁の行う後続規制の合理性、実効性と透明性の向上を目的とする規制調査においては、従来からの視点に加え、新たな視点を考慮して、以下の3つのねらいに分けて調査の対象と手法を定める。
A)後続規制活動全般に対する規制調査
<ねらい>
・規制行政庁の行う後続規制活動全般について、品質と透明性の継続的向上を図る。
<調査対象>
・後続規制における個々の規制活動のうち、定期的(四半期毎)に原子力安全委員会に報告されたものを中心に任意に抽出する。
・調査対象の数や時期等について、年間計画を策定し、計画的に実施する。
<調査手法>
・規制調査の実施要領、判断基準(表2参照)に基づいて、規制行政庁(原子力安全基盤機構を含む)が行う後続規制の規制活動を品質監査手法により調査する。
・その際、品質監査手法による調査を効果的なものにするために、抜き打ち的な調査方法や規制活動の現場への立会いによる調査方法も活用する。
B)後続規制活動の重要課題に対する規制調査
<ねらい>
・安全上重要な後続規制について、主に運用面における合理性、実効性および透明性の向上を図る。
<調査対象>
・規制制度への品質保証の取り込み等、後続規制における安全確保上の共通的な課題や、新たな技術の採用等安全確保上の重要な課題を抽出する。
・後続規制における個々の規制活動のうち、安全確保上重要なものを抽出する。
<調査手法>
・規制行政庁(原子力安全基盤機構を含む)、事業者および関連事業者からの説明聴取等を行い、規制活動の実態を把握する。また、必要に応じて、現地調査を行う。
C)後続規制制度の課題に対する規制調査
<ねらい>
・現状の後続規制制度について、規制のあるべき姿に向けた制度体系の高度化を図る。
<調査対象>
・現状の後続規制制度における課題を上記A)およびB)の規制調査などで確認された制度面での課題や規制制度に関する海外の動向等に照らして抽出する。
<調査手法>
・規制行政庁(原子力安全基盤機構を含む)、事業者および関連事業者から説明聴取等を行い、規制活動の方針および実態を把握する。また、必要に応じて、現地調査を実施する。
・また、規制のあるべき姿の参考情報として、必要に応じて、国際機関等における安全確保に係る取り組み状況について調査を行い、比較整理を行う。
・調査結果は、必要に応じて、委員会の専門部会等の規制制度の高度化に向けた方向性を議論する場において引き続き検討を行う。
・必要に応じて、新たな規制制度の準備段階等において、予め委員会の意見や見解を示すものとする。
2)安全審査の答申の際に指摘した重要事項に関して、規制行政庁の行う規制活動の妥当性の確認を目的とする規制調査
<ねらい>
・設置許可等の安全審査の答申の際に指摘した重要事項に関し、規制行政庁から報告された当該重要事項に係る処理方針について、安全確保上の技術的妥当性の確認を行う。
<調査対象>
・規制行政庁から報告のあった処理方針を対象とする。
<調査手法>
・「原子力安全委員会の行う原子力施設に係る安全審査等について」(1979年1月26日原子力安全委員会)に基づき、当該処理方針について、規制行政庁より報告を受け、必要に応じて専門審査会において、安全確保上の技術的妥当性について審議を行う。
(3)留意事項
 調査に当たっては、以下の事項に留意することとする。
1)「後続規制活動全般に対する規制調査」については、委員会における規制調査実施体制の整備状況を踏まえつつ、適宜導入を図って行くこととする。
2)調査を機動的に行うため、原子力安全委員の指示の下、事務局職員が調査実務を実施することができるものとする。
3)規制調査の目的に鑑み、法令に定める報告事項以外のものについても、規制調査に必要な場合には、理由を示した上で規制行政庁に報告を求めることがある。
<図/表>
表1 規制調査の視点(2003年3月)
表1  規制調査の視点(2003年3月)
表2 品質監査型の規制調査に使用する判断基準
表2  品質監査型の規制調査に使用する判断基準
図1 規制調査の概要
図1  規制調査の概要
図2 規制調査の実施方針の概要
図2  規制調査の実施方針の概要

<関連タイトル>
JCOウラン加工工場臨界被ばく事故の概要 (04-10-02-03)
原子炉等規制法の一部改正及び原災法の制定について(1999年11月) (10-02-02-06)
原子力安全委員会の当面の施策の基本方針について(2000年1月) (10-03-02-09)
原子力安全委員会の当面の施策の基本方針について(2004年9月) (10-03-02-14)
原子力安全委員会 (10-04-03-01)
原子力施設に対する国の安全規制の枠組 (11-01-01-01)
原子力安全委員会の安全規制に関する活動(2001年) (11-01-01-02)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会ホームページ:規制調査関連
(2)原子力安全委員会ホームページ:規制調査の実施方針について(2003年3月)
(3)原子力安全委員会ホームページ:「規制調査の実施方針について」の改訂について(2004年7月)
(4)原子力安全委員会ホームーページ:平成17年版 原子力安全白書
(5)原子力安全委員会ホームページ:原子力安全委員会の当面の施策の基本方針について(2004年9月13日)
(6)原子力安全委員会ホームページ:品質監査型の規制調査における実施要領及び判断基準について
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