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<概要>
 原子力安全委員会は、原子力船「むつ」の放射線漏れが原子力安全行政全般に対する国民の不信感を招くきっかけとなったことを踏まえ、原子力安全確保のための体制を強化することが不可欠な措置であるとの判断のもと、第84回通常国会において成立した原子力基本法等の一部を改正する法律に基づき、昭和53年10月設置された。
 ここに示されているのは、原子力安全委員会の当面の施策についての基本的考え方であり、昭和53年12月27日原子力安全委員会において決定され、さらに昭和57年11月25日に一部改正されたものである。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足したため、本データに記載されている原子力安全規制に関する考え方や具体的な指針についても見直しや追加が行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会および原子力安全・保安院は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 以下、標題の資料の全文を示す。
 原子力安全委員会は、第84回通常国会において成立した原子力基本法等の一部を改正する法律に基づき、昭和53年10月設置された。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
 同法は、原子力行政懇談会の意見に基づき原子力の開発推進機能と安全規制機能の分離及び行政責任の明確化を図るとの観点から、原子力委員会と別に新たに原子力安全委員会を設置し、また原子炉に関する安全規制行政を一貫化することを主要な柱としている。
 当委員会は、発足以来、原子力行政懇談会の意見及び同法に対する両議院における附帯決議の趣旨を体し、各界の意見を踏まえつつ、任務遂行に当たっての基本的考え方について検討を進めてきた。
 原子力安全規制政策については今後なお広く検討を進めていく必要があるが、昭和54年1月4日に原子炉に関する安全規制の一貫化の施行をひかえ当委員会はここに当面の施策について基本的考え方を明らかにし、広く国民一般の理解を求めたい。

1.原子力安全委員会の任務
 当委員会は、国民の健康と安全を確保しつつ、福祉と経済の向上を図るために必要なエネルギー源として原子力の平和利用が行われるべきであり、このため原子力安全規制行政が国民に信頼されるよう充実強化されることが重要であると考える。
 原子力安全委員会の任務は、原子力基本法に基づき、(1)安全確保のための規制政策(2)核燃料物質及び原子炉の安全規制(3)原子力利用に伴う障害防止の基本等に関して企画し、審議し及び決定することにあり、行政庁はその決定を十分尊重することとなっている。
 当委員会は、我が国の原子力行政の「かなめ」ともいえるものであり、課せられた責務は重大であると考える。
 当委員会は、こうした任務を果たしていくに当たり以下のことを重要事項として実施にうつしたいと考える。

2.当面の重要施策
(1)原子力施設安全審査
 昭和54年1月4日以後、原子炉に関する安全規制行政の一貫化によって、実用発電用原子炉は通商産業省、実用舶用原子炉は運輸省、試験研究の用に供する原子炉及び研究開発段階にある原子炉として政令で定める原子炉は科学技術庁が規制を一貫して行うこととなっている。政令で定める原子炉については、当委員会は所管三大臣の諮問を受け昭和53年12月8日答申を行ったところである。
 加工、使用、再処理施設等核燃料施設については、従来どおり科学技術庁が規制を一貫して行うこととなっている。
 このような体制において、当委員会は、開発推進の任にもある行政庁とは別の立場から安全性に関して審議を行い、原子力の安全確保に万全を期すとともに、それぞれの行政庁の安全規制を統一的に評価する責務を有している。
 当委員会は、行政庁の行う設置許可等に関する安全審査について、最新の科学技術的知見に基づいて客観的立場から再審査(ダブルチェック)する。その際行政庁から提出される安全審査書案等について総合的に審査するが、特に(1)既に設置の許可等の行われた施設と異なる基本設計の採用(2)新しい基準または実験研究データの適用(3)施設の設置される場所に係る固有の立地条件と施設との関連に関する安全上の重要事項を中心に審議する。
 実用発電用原子炉等主要施設に関する審査に当たっては現地調査、公開ヒアリング等により地元の状況、地元住民の意見を把握しこれを参酌することとする。設置許可等の後の各段階における重要事項についてもそれぞれの行政庁より報告を受け、審査することとする。
 ダブルチェックのための体制については、原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会に学識経験者を配し万全を期すこととしているが、さらに日本原子力研究所、放射線医学総合研究所等の研究機関の機能を活用する方策を考える。
 審査に当たっては、その客観性、合理性を高めるとともに行政庁間の安全規制の斉一化を図るため、指針等を整備することが重要である。当委員会は従来原子力委員会において用いられていた審査指針等を用いることを既に決定した。今後これを最新の科学技術的知見を加えて逐次見直すとともに、さらに必要に応じ、新たに各種基準及び指針を策定する方針である。このため、当委員会は既に原子炉安全基準専門部会及び核燃料安全専門部会の設置を決定したところである。
(2)公開ヒアリング等の実施及び公開シンポジウムの開催
 原子力の安全性について理解と信頼を得るためには、厳正なダブルチェックを実施し、安全性を確保する外、国民と十分な意見の疎通を図り、国民の意見を原子力行政に反映させることが必要である。このために、原子力発電所等の設置に際して公開ヒアリング等を実施するほか、資料の公開を可能な限り行い、また専門家による公開シンポジウムを開催することとする。
(イ)公開ヒアリング等
 当委員会は、実用発電用原子炉の設置許可等の際、通商産業省より提出される安全審査書等についてダブルチェックを行うに当たり、施設固有の安全性の問題について公開ヒアリング等を実施する。
 当委員会の行う公開ヒアリング等の目的は、ダブルチェックに当たり、当該原子炉施設の固有の安全性について地元住民の意見等を聴取し、これを参酌することにある。
 公開ヒアリングは、地元の協力を得つつ、原則として、地元において対話方式を取り入れて行うものとする。ただし、地元の個別事情を勘案して、これに代わる他の方式によることが適切であると認められる場合には、その方法により地元住民の意見等を聴取するものとする。
 その他の主要な原子力施設の新増設についても、上記に準じて公開ヒアリング等を実施する。
(ロ)公開シンポジウム
 原子力に関する安全問題のうち、特定の施設に固有の問題は公開ヒアリング等で取り扱われるが、共通の問題については専門家による公開シンポジウムを開催し、重要な意見については安全規制政策に反映させることとする。第1回公開シンポジウムの開催をできるだけ早い時期に企画する考えである。
(3) 安全研究の推進
 原子力施設の安全規制を行うに当たっては、安全研究を総合的に実施し、基準及び指針の整備、見直しのための客観的、合理的資料の蓄積を図り、また安全評価における裕度の定量的把握を進めることが肝要である。
 当委員会は、原子力施設等安全研究専門部会及び環境放射能安全研究専門部会を発足させ、原子力安全研究の企画、立案並びにその成果の評価及び活用を積極的に行う考えである。

3.引き続き検討すべき問題
 当委員会は、早急に行うべき当面の施策として以上の事項を重点的に審議してきたが、今後放射性廃棄物の処理処分の安全問題、放射性物質の輸送の安全問題、放射性同位元素の安全規制、原子力関係従業員の放射線被ばく及び環境放射能に関する問題等について積極的に取り組み、逐次施策を具体化する考えである。そのため、当委員会は既に、放射性廃棄物安全技術専門部会、放射性物質安全輸送専門部会及び環境放射線モニタリング中央評価専門部会の設置を決定したところである。
<関連タイトル>
原子力安全委員会 (10-04-03-01)
原子力施設に対する国の安全規制の枠組 (11-01-01-01)
原子力安全委員会の安全規制に関する活動(2001年) (11-01-01-02)

<参考文献>
(1)科学技術庁原子力局監修:原子力ポケットブック1994年版,日本原子力産業会議 (1994年3月)
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