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<概要>
 代替固化法としては、現在主流のガラス固化法における固化媒体(ガラス)の性質を改善する方法とセラミックス等ガラスとは異なる媒体を使う方法に大別される。1980年代初期にはホウケイ酸ガラス固化法をほとんどの国が採用し、代替固化法の研究としては前者が主体となった。すなわち、ガラス固化体の欠点である長期安定性(失透現象)、熱伝導性及び強度等を改善するため、ガラスセラミックス、被覆固化体、金属複合体(サーメット)、金属マトリックス(ビトロメット)、鉛—鉄リン酸ガラス等が研究された。後者のガラス以外の固化媒体を使う代替固化法としては、シンロックの研究(「シンロック」を参照)が他の廃棄物への適用性の検討も含めて、現在も継続されている。
<更新年月>
2006年09月   

<本文>
 1950年代には、高レベル放射性廃液を液体状態で深い地層の岩盤の間隙に注入する方法、あるいは単純に液体を蒸発させ、含まれる放射性物質を酸化物の粉末(仮焼体:Calcine)にして、そのまま深い地中に処分することも検討されていた。その後、この仮焼体を安定な形態に固める多くの方法が研究された。その主な方法として、ホウケイ酸ガラス、高シリカガラス等ガラス質のほか、チタン化合物やアルミニウム化合物を主成分としたセラミックス(シンロック、テイラードセラミックス等)を使う固化法が挙げられる。また、廃棄物を固化したガラスビーズを炭素やセラミックで被覆したり、ビーズ間隙に溶融鉛を充填する固化法が開発され、相互間で長所短所が比較検討された。例えば、固化体からの放射性物質の溶け出し難さ(耐浸出性)、処理プロセスの工学的難易度、処理経費等について専門家グループによる相対的評価が行われた(図1参照)。
 1980年代初期には多くの国がホウケイ酸ガラス固化法を採用することになった。しかし、ガラスは失透現象が起こり、長期の時間経過と共に脆くなる欠点があるため、改善するための基礎研究が行われた。例えば、ガラス結晶化過程をコントロールすることにより、ガラスセラミックスを作り、失透を避ける方法の研究が行われた。また、ガラスビーズまたはセラミックビーズを化学的に安定な低融点金属(鉛または鉛合金)母材に埋め込み、熱伝導性と機械的強度を向上させる「ビトロメット法」といった複雑な形態のものも開発された。さらに、核分裂生成物超ウラン元素(TRU)を結晶構造内に取り込んで安定な結晶の固化体とするシンロック法の研究(「シンロック」を参照)もなされている。これら代替固化体の性状を表1に示す。
 以下に代替固化法の概要をとりまとめる。
(1) ガラスセラミックス
 ガラス固化体を熱処理し結晶化させたもので、プロセスとしてはガラス固化法とほぼ同じである。ガラス組成については様々な種類が検討されてきた。例えば、ホウケイ酸ガラスを対象としたものでは、セルシアン系(Celsian,BaO・Al2O3・2SiO2)及びディオプサイト(Diopside, CaO・MgO・2SiO2)を主結晶として析出させる組成が選ばれている。
 浸出率は、ガラス固化体と同等であるが、熱伝導率及び熱安定性が向上している。一方、結晶化することにより、廃液の成分に対する自由度が減少し、残存ガラス相に核種が濃縮するという現象も観察されている。
(2)被覆固化体
 ペレットまたは球状に成形したガラス固化体にプラズマガンを用いて、金属またはセラミックスを被覆したもの。研究開発の段階にあり、被覆の安定性、放射線による影響、ガラスへの付着安定性等について十分検討する必要がある。
(3)金属複合体(サーメット)
 ガラス固化体粉末、ペレット等と銅、鉛、アルミニウム等を溶融または焼結して複合体とする。
(4)金属マトリックス(ビトロメット)(表2参照)
 ホウケイ酸ガラスを直径およそ5mmのビーズ状に処理し、キャニスターの中で鉛または鉛合金と混合し、鉛等を溶融する熱処理後、固体状のビトロメット・ブロックとする。
 このブロックは熱伝導性が極めて高いため、発熱度の高い廃棄物パッケージや、冷却期間の短いFBR使用済燃料の再処理からの高レベル廃液の固化に適しているといわれている。
 ベルギー・モルPAMELAにおいて、1986年3月までに廃液50m3を処理し、約440本のガラスブロックと100本のガラスビーズ鉛マトリックス固化体を製造した。1994年運転終了までに約2,200本のガラス固化体を製造・貯蔵した。
(5)鉛—鉄リン酸ガラス
 低い溶融温度での処理、高化学耐久性を有する固化体を目指したガラス固化体として、主として米国、欧州で研究開発された。塩濃度の高い地下水に対する化学耐久性に優れていることが示されているが、実験室規模での研究がほとんどで、実用化の検討は残されたままである。
 国際的には、これらの他にも多くの代替固化法が研究開発され、それぞれ実証に近いレベルまで検討された例もあるが、いろいろな理由により、現在ではそれらの実用規模への採用は実現していない。しかし、これら代替固化法の研究開発成果は、現在のガラス固化施設の設計、建設、運転のための有用なデータとして役立っている。
<図/表>
表1 各種代替固化体の性状
表1  各種代替固化体の性状
表2 各種金属マトリックス材の主要特性例
表2  各種金属マトリックス材の主要特性例
図1 固化体の総合特性評価結果
図1  固化体の総合特性評価結果

<関連タイトル>
高レベル廃液ガラス固化処理の研究開発 (05-01-02-04)
シンロック (05-01-04-03)
高レベル放射性廃棄物の処理対策の概要 (11-02-04-03)

<参考文献>
(1) 日本原子力産業会議(編):放射性廃棄物管理−日本の技術開発と計画、日本原子力産業会議(1997年7月)p.69およびp.176
(2) 日本原子力産業会議(編):放射性廃棄物管理ガイドブック 1994年版、(1988年) p.68
(3) K.D.Kuhn et al.: ”Vitrification of high level waste in the FGR;Devel−opmentand operation of the PAMELA process”, Proceedings of the 1989 joint international waste management conference, Vol.2 p.111, October 22−28 1989, Kyoto, JAPAN
(4) IAEA BULLETIN,”Radioactive waste”,Vol.31,No.4(1989)
(5) 科学技術庁:「高レベル放射性廃棄物」(パンフレット)(1993)
(6) 天沼、阪田(監修):「高レベル放射性廃棄物の処理および処分」、放射性廃棄物処理処分に関する研究開発、産業出版・テクノプロジェクト(1983) p.285
(7) B.C. Sales, L.A. Boatner, in: W. Lutze, R.C. Ewing (Eds.), Radioactive Waste Forms for the Future, Elsevier, Amsterdam, 1988, p.193.
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