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<概要>
 核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)が北海道幌延町に計画している幌延深地層研究計画では、堆積岩を対象にした地層科学研究と地層処分研究開発などが行なわれる。研究は、第1段階(地層表調査)、第2段階(坑道掘削調査)および第3段階(坑道利用調査)に分け、全体で20年程度となる。この研究計画では、高レベル放射性廃棄物を深地層で堆積岩を選定した場合の安全性、信頼性を調査・研究するとともに、処分施設建設、埋設等に係る技術(掘削工法、人口バリア試験坑道の閉鎖工法)を開発する。2000年4月2日に幌延深地層研究センターが開設され、2001年3月、第1段階の調査研究計画である2000年度調査研究計画を地元に説明し、環境調査を開始した。以来、空中物理探査、地上物理探査、地質調査、試錐調査(ボーリング等)が行われている。
<更新年月>
2005年01月   

<本文>
A.幌延深地層研究計画の概要
 1998年12月、北海道および幌延町に本計画を申し入れ、2年にわたって北海道においてその受入れについて検討された。その後、2000年10月に北海道知事が受け入れの意思を表明、同11月、北海道、幌延町、サイクル機構(現日本原子力研究開発機構)の間で協定書(「幌延町における深地層の研究に関する協定書」)が締結された。
1.目的
 「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性−地層処分研究開発第2次取りまとめ」(参考文献1)で示された地層処分の技術を実際の深地層の地質環境(堆積岩)で適用し、確認することにより、その技術的信頼性を向上させることを目的としている。
 地下深部は、地上に比べて物質の動きがゆっくりしているため、高レベル放射性廃棄物の放射能が減衰するまで「十分な時間」をかせぐことができる。このような地質特性(「天然バリア」:放射能の閉じ込め)等について研究調査する。また、処分技術(掘削、定着、閉鎖)を確認する。
 本計画で得られる成果は、岐阜県の東濃地科学センターにおける地層科学研究、核燃料サイクル開発機構(サイクル機構)の東海事業所で行っている地層処分研究および国際共同研究の成果と合わせて、実施主体(原子力発電環境整備機構)が行う処分事業や国が行う安全規制などに反映される。
 また、深地層の研究施設は、その科学的技術的目的のほかに、一般の人々が地下深部の環境やそこで行われている研究を実際に見て体験することにより、地層処分に関する研究開発について理解を深める場としても位置付けられている。
 なお、深地層の研究施設の計画は、処分場の計画と明確に区別して進められるものである。
2.研究スケジュール
 研究はその地下施設の建設工程を挟んで段階的に進めることとし、以下の3段階、全体で約20年程度の計画としている。(図1参照)
(1)地上からの調査研究段階
 空中や地上から磁気や電流などを使って地下深部の様子を調べる物理探査や試錐調査によるサンプルの採取など広域的な調査を実施する。得られたデータをもとに、地下深部の地下水や岩盤の様子がどうなっているのかを予測する。
(2)坑道掘削(地下施設建設)時の調査研究段階
 実際に地下に坑道を掘り進みながら、地上からの調査研究で立てた予測を確認し、調査手法や解析評価手法の妥当性を検討する。また、坑道を掘削することに伴う影響とその範囲なども調査する。
(3)地下施設での調査研究段階
 地下に掘削した坑道の中で精密な物理探査や試錐調査などを行い、坑道周辺の地層、地下水の性質、地震への影響などの長期的変化を調べる。また、処分システムの設計・建設に関する技術や坑道を密閉する技術の開発も行う。
3.幌延町の地質環境の特徴
 文献やこれまでの調査等により、幌延町には研究の対象となる比較的軟らかい堆積岩の分布が確認されており、さらに地下深部には塩水系の地下水の存在が確認されている。堅硬な花崗岩と淡水系地下水を対象とする瑞浪(岐阜県)の超深地層研究所とは対照をなすものである。
4.研究開発課題
 研究開発課題は、地層科学研究(4項目)と地層処分研究開発(3項目)に区分され、その実施内容をつぎに示す。(図2参照)
4.1 地層科学研究
 地質構造や地下水の動き、岩盤の性質などを明らかにするための総合的な研究分野である。併せて、調査技術の開発および地震、活断層などに関する研究を行う。
(1)地質環境調査技術の開発
 地質環境を把握(調査、推定)するための地上からの調査技術および坑道からの詳細な調査技術を実際に適用することにより、その有効性を確認する。併せて、具体的な堆積岩における深部地質環境データを蓄積する。
(2)地質環境モニタリング技術の開発
 ボーリング孔を用いた地下水のモニタリング技術や地下の物性の変化を遠隔的にモニタリングする技術を開発、適用し、その適用性を確認する。
(3)深地層における工学的技術の基礎の開発
 堆積岩中の地下深部に大規模な施設を設計・施工する技術や、坑道掘削が岩盤領域へ与える影響を修復する技術の適用性の確認など、地下空間の利用に必要な技術の開発を行う。
(4)地質環境の長期安定性に関する研究
 幌延を含む北海道北部地域がユーラシアプレートと北米プレートの境界に位置し、新第三紀および第四紀の地殻変動が認められる地域であるというこの地域の特徴に着目し、地震・断層活動、隆起・沈降、気候・海水準変動、火山・火成活動などの研究や地殻変動に関する観測を行う。
4.2 地層処分研究開発
 地層科学研究の結果に基づき、地質環境の特性に適合した人工バリアの技術開発を行う。また、実際に坑道を使用して詳細設計手法の研究や安全評価手法の信頼性向上に関わる試験も行う。
(1)人工バリア等の工学技術の検証
 地層処分システムの人工バリアの搬送・定置技術および埋め戻し技術を、実際の深地層に適用することにより、その適用性の確認を行う。
(2)設計手法の適用性確認
 埋設する地層も含めた処分場全体を設計するための調査研究を行う。
(3)安全評価手法の適用性確認
 「第2次取りまとめ」で示された安全評価手法を事例的に適用し、核種移行挙動等の予測解析およびその結果の実測値との比較より、安全評価モデルの適用性や安全評価に必要な地質環境データの信頼性、不確実性等について確認する。
5.施設の計画
 2002年8月〜03年2月にかけての幌延町北進地区における物理調査、試錐による地質調査、環境調査を行い、その調査結果を参考に北進地区の19万m2を最終的に研究所用地候補に選定して土地売買契約を結んだ。図3に今後の研究の主たる実施地区となる研究所用地を示す。
・地上施設
 地上施設として、研究管理棟、コア倉庫棟、ワークショップ棟、展示館や国際交流施設等を建設する。
・地下施設
 地下500m以深を目途に研究坑道を展開する。研究坑道までのアクセス坑道については、スパイラル坑道方式、立坑方式などを検討しており、地表からの調査により取得される地質環境データに基づき具体化することとしている。(図4参照)
6.その他の研究
 深地層を対象とした研究は極めて学際的であり、その実施にあたっては広く国内外の研究機関や専門家の参加を得つつ総合的に進める。
 また、堆積岩を対象とした500m以深の地下の研究施設は貴重な研究の場であり、この地域の地質学的特徴に着目した地震研究や地下深部の環境を活用した研究(地下空間を利用する研究)を行う場として、施設を学会や産業界の利用に供するなど開かれた研究を行う考えである。
B.2001年度までの調査研究の進捗状況
 2000年4月2日に幌延町に幌延深地層研究センターを開設し、調査研究を進めてきている。2001年度までに実施した現地調査についてその概要を述べる。
(1)空中物理探査
 実施地域の地表から地下150m程度の地質構造を把握する事を目的として、空中放射能探査、空中磁気探査、空中電磁探査を約150km2にわたって行った。図5に電磁探査結果の一例を示す。
(2)地上物理探査
 空中物理探査で推定できる深度(地下150m程度)より深いところ(地下2,000m程度)までの地層の分布などを把握するために電磁探査による測定を行った。測定点の配置は地域の地質・地質構造や大曲断層などの分布を考慮し、計60点について実施した。図6および図7に電磁探査の原理、測定状況および探査結果を示す。
(3)地質調査等
 幌延町周辺地域においてこれまでに実施されている石油・天然ガス探査や学術研究として行われている地質調査・試錐調査結果などを基に、地域の地層の重なり方や地層の性質、断層などの地質構造に関する情報の整理を行うとともに、リニアメント解析、地表の露頭を調査する地質調査を実施した。さらに、現在採取した岩石サンプルを用いて鉱物試験、花粉分析、顕微鏡観察を実施中である。
(4)試錐調査
 2ヶ所でそれぞれ掘削予定深度約700mの試錐調査を実施中である。2001年12月14日現在の掘削深度は、HDB−1孔: 217.3m, HDB−2孔: 121.8m。採取した試錐コアや試錐孔を用いて下記の試験等を実施中である。(図8図9図10および図11参照)
・岩芯採取・観察(岩相、堆積構造)
・物理検層、水理試験(透水・揚水)、地下水採水(揚水試験時)・分析、孔内水圧破砕試験
・掘削時のガス成分等連続モニタリング
・岩芯室内試験
 基本物性、力学特性(一軸・三軸圧縮試験等)、熱特性/帯磁率/比抵抗、室内透水試験、岩芯からの地下水・ガスの抽出/分析、微少空隙構造同定、鉱物試験、微化石分析、同位体比測定
・岩芯からの地下水抽出・分析
(5)環境調査(動植物調査、水利用調査)
 動物(哺乳類、鳥類、両生・爬虫類、魚類、昆虫類、底性動物)および植物の生息状況調査、水利用:表流水、地下水(井戸)利用状況等の調査を実施中。これまでの調査から、ムクゲネズミ、エゾライチョウ、エゾサンショウウオ、エゾトミヨ等からミズムシ(図12参照)等の底性動物の生息、およびオオバタチツボスミレなどを確認した。
<図/表>
図1 研究スケジュール(予定)
図1  研究スケジュール(予定)
図2 試験研究のイメージ図
図2  試験研究のイメージ図
図3 研究所用地
図3  研究所用地
図4 地下施設のイメージ(スパイラル/立坑)
図4  地下施設のイメージ(スパイラル/立坑)
図5 空中物理探査の様子と調査結果(電磁探査)の例
図5  空中物理探査の様子と調査結果(電磁探査)の例
図6 地上電磁探査の原理と測定状況
図6  地上電磁探査の原理と測定状況
図7 地上物理探査結果の例(見掛比抵抗断面図:幌延町北進地区)
図7  地上物理探査結果の例(見掛比抵抗断面図:幌延町北進地区)
図8 試錐調査現場全景(HDB−1孔)
図8  試錐調査現場全景(HDB−1孔)
図9 推定地質層序とケーシングプログラム
図9  推定地質層序とケーシングプログラム
図10 試錐コア(HDB−1孔:深度GL−140〜144m;声問層泥岩)
図10  試錐コア(HDB−1孔:深度GL−140〜144m;声問層泥岩)
図11 試錐コア(HDB−2孔:深度GL−96〜100m;声問層もしくは稚内層泥岩)
図11  試錐コア(HDB−2孔:深度GL−96〜100m;声問層もしくは稚内層泥岩)
図12 ミズムシ(甲殻網、ワラジムシ目、ミズムシ科、ミズムシ)
図12  ミズムシ(甲殻網、ワラジムシ目、ミズムシ科、ミズムシ)

<関連タイトル>
わが国における高レベル放射性廃棄物の処分についてのシナリオ (05-01-03-06)
深地層処分 (05-01-04-04)
瑞浪超深地層研究所計画 (06-01-05-13)
高レベル放射性廃棄物地層処分技術の研究開発 (10-02-02-16)

<参考文献>
(1)核燃料サイクル開発機構:「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性−地層処分研究開発第2次取りまとめ」、原子力委員会提出、(1999年11月26日)
(2)核燃料サイクル開発機構、幌延深地層研究センター:
(3)核燃料サイクル開発機構、幌延深地層研究センター、センターでの研究について:研究紹介
(4)核燃料サイクル開発機構、幌延深地層研究センター:パンフレット DREAM FOR THE FUTURE(2003.12)
(5)核燃料サイクル開発機構、幌延深地層研究センター:「幌延町における深地層研究に関する協定書」に基づく幌延町及び北海道に対する平成12年度調査研究成果の説明について(2002年1月15日)
(6)核燃料サイクル開発機構、幌延深地層研究センター:幌延深地層研究計画 平成13年度調査結果の概要(2001年8月28日)(2002年1月15日)
(7)核燃料サイクル開発機構、幌延深地層研究センター:幌延深地層研究計画 平成12年度研究結果報告、JNC TN 1400 2001−008(2001年7月)
(8)日本原子力学会:日本原子力学会誌、Vol.43 No.6,p.4(2001)
(9)日本原子力学会:日本原子力学会誌、Vol.43 No.11,p.2(2001)
(10)日本原子力産業会議(編集発行):原子力年鑑2004年版・各論、p.160(2003.11)
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