<本文>
以下、要約を示す。
1.総論
我が国の原子力利用は、平和利用の堅持と安全確保を大前提に着実に進展し、国民生活及び産業活動に必要不可欠なエネルギ−源となっているが、我が国は、エネルギ−供給構造の脆弱性等の問題を抱え、エネルギ−需要の増大を抑制するとともに、石油依存度の低減及び石油代替エネルギ−の開発・導入を進めることが必要であり、特にエネルギ−供給の安定性、経済性の面に優れた原子力を機軸に、その開発利用を推進することが重要である。
ところで、プルトニウムの返還輸送を契機に、我が国のプルトニウム利用に対し国内及び国外の理解を得て、核燃料リサイクルに取り組むことが益々重要となってきた。
一方、旧ソ連の核兵器解体後の核物質管理、イラクの
IAEAへの未申告核物質の保有、北朝鮮の核兵器開発疑惑等の問題を抱えているなか、核不拡散体制の強化が、一層、重要性を増している。
そうしたなか、原子力委員会は平成4年9月より原子力開発利用長期計画見直しため、調査審議を開始した。
こうした情勢を踏まえ、以下に示す各分野の具体策を講じ原子力開発利用の総合的かつ計画的推進を図る。
まず、安全確保対策の総合的強化として、従来の安全確保対策の充実に加え、
原子力発電所の高経年化対策の強化など安全性の一層の向上を図る。
また、原子力発電の推進については、安全性・信頼性を向上させるとともに、技術の高度化を図る。
早期確立が望まれる核燃料サイクルについては、特に、青森県六ヶ所村に建設中である核燃料サイクル施設の支援、放射性廃棄物対策の推進の他に、核燃料物質等輸送対策を、国内外の理解のもとで推進することが一層重要になってきている。
高速増殖炉
原型炉「もんじゅ」については、
臨界を達成するとともに、性能試験を進めるなど新たな展開を進める。
さらに、先導的プロジェクトとして、国際規模で工学的設計段階に入っているITER計画を積極的に推進するほか、平成5年度重粒子線がん治療の臨床試行の開始を目指すなど放射線利用の一層の促進を図る。
一方、原子力分野における国際的貢献への要請に応じ、
IAEA保障措置の整備・強化等に積極的役割を果すなど、世界の核不拡散体制の一層の強化に貢献していくことが必要とされている。さらに、国際的波及度の高い原子力発電所事故の影響に鑑み、特に、旧ソ連・東欧における原子力発電所の運転の安全対策、応急的な技術改良等を通じて積極的に安全性向上に資する必要がある。
今後とも、安全確保の実績を着実に積み重ね、国民の理解と協力の増進を図りつつ、積極的に国際貢献を果たし、原子力の開発利用の着実な発展を図っていくことが重要である。
2.各論
(1)安全確保対策の総合的強化
原子力の開発利用を進めるに当り、安全規制に必要な各種安全審査指針・基準等の整備を行うほか、原子力発電所の高経年化を踏まえ、総合的な予防保全対策を強化する等、安全確保対策を更に充実させる。また
設計基準事象の範囲を超えた
シビアアクシデントの基本的考え方を取りまとめ、具体的対応について検討を進めるとともに、プルトニウム等の放射性物質の安全輸送対策等を図り、安全研究を推進する。
また、環境中における放射能の挙動及び影響等に関する研究等の環境放射能安全研究及び放射性廃棄物安全研究を推進する。
さらに、ソ連原子力発電所事故調査特別委員会報告書を踏まえ、原子力防災支援機能の検討を加えるなど、防災対策等のより一層の充実を進めるとともに、安全確保に係る国際協力を積極的に行う。
(2)原子力発電の推進
軽水炉の信頼性の一層の向上及び稼働率の向上を図るとともに、核燃料利用効率の高い高転換炉の技術開発を引き続き実施する。
また、実用発電用原子炉の廃止時期に備えて、原子炉の解体技術開発を推進する。
(3)核燃料サイクルの確立
我が国の自主的核燃料サイクルを早期に確立するため、海外ウラン探鉱活動の推進、ウラン濃縮国産化対策の推進、再処理技術の実証と確立、放射性廃棄物の処理処分対策の推進、核燃料物質等輸送対策の推進等を行う。
特に、ウラン濃縮国産化対策として、新素材高性能遠心分離機の実用規模カスケ−ド試験装置による試験を進めるとともに、遠心分離機の高度化及び先導的研究開発を推進し、民間によるウラン濃縮商業プラントの円滑な操業を推進するほか、ウラン濃縮新技術の開発として分子レ−ザ−法によるブレ−クスル−研究を行う。
また、高速増殖炉の
使用済燃料の再処理技術の確立のため、工学規模の試験装置リサイクル機器試験施設(RETF)の建設を開始し、
回収ウランに関してはUF-6転換及び
再濃縮に関する研究を進める。
放射性廃棄物処理処分対策については、
海洋投棄への慎重な対応を決定。高レベル放射性廃棄物の研究開発については、ガラス固化技術開発施設の試験運転を実施するほか、幌延町における貯蔵工学センタ−計画に対し、重要電源等立地推進対策補助金等を用い広報活動の積極的な展開を図る。さらに、核燃料物質等の輸送についての国内外の理解が得られるよう施策を推進する。
(4)新型動力炉の開発及びプルトニウムの利用
高速増殖炉実験炉「常陽」の高度化改造に着手するとともに、原型炉「もんじゅ」の臨界の達成及び性能試験等を進める。同実証炉の開発については、原子炉冷却系総合試験開発を推進する。
新型転換炉実証炉については、平成13年度運転開始を目途に用地取得等を進める。
また、プルトニウム利用についての国内外の理解を得らための施策を推進する。
(5)先導的プロジェクト等の推進
核融合研究については、臨界プラズマ試験装置(JT-60)による重水素を用いた高性能化実験を実施するなど、国立試験研究機関による研究等を推進する。また、国際熱核融合実験炉(ITER)計画については、工学設計活動に関する協定に基づき、日本、米国、
ECに設置された共同中央チ−ム等において設計作業を積極的に実施するほか、工学設計活動に必要な工学及び物理研究開発を着実に進める。また、トカマク装置の多国間研究協力等を推進する。
放射線利用については、平成5年度の臨床試行の開始を目指し、難治性がん治療を可能とする
重粒子線がん治療装置の建設及び治療体制の整備を進めるとともに、重粒子治療センタ−を設置する。また、原子力分野の広範な基礎研究に役立つ大型放射光施設(SPring-8)の建設を推進する。
原子力船「むつ」に関しては、解役を進めるとともに、実験航海により得られた知見、デ−タ等の解析・整備を進め、引き続き将来の舶用炉の開発のための研究を進める。
高温工学試験研究については、高温工学試験研究炉の建設を進めるほか、燃料、材料試験、高温計装技術開発、高温熱利用研究、高温ガス炉の要素技術の開発を推進する。
(6)基盤技術開発等の推進
当面、原子力用材料、原子力用人工知能、原子力用レ−ザ−及び放射線リスク評価・低減化の4つの技術領域について基盤技術開発を推進する。また、先端基礎研究センタ−を設置し基礎研究の充実を図る。
また、原子力総合研修センタ−及び放射線医学総合研究所において、原子力関係科学技術者の養成訓練を行うとともに、原子力発電所等の運転員の資質向上を図る。
(7)主体的・能動的な国際貢献
近隣諸国及び旧ソ連・東欧諸国の原子力関係者に対する原子力安全確保の研修制度の拡充、旧ソ連・東欧諸国の原子力発電所の運転安全対策、事故等の防止のための応急的な技術改良等により、安全性向上に努める。また、国際科学技術センタ−に対して、研究プロジェクトを提案するとともに、関連資金を提供する。さらに、保障措置及び核物質防護等の充実・強化とともに、世界の核不拡散体制維持強化を図る。
(8)国民の理解と協力
国民の理解と協力のもとで、原子力の研究利用開発を円滑に進めていくために、
原子力施設の安全運転の実績を積み重ね、国民の信頼感を得るとともに、原子力についての正確な知識及び情報を国民に伝えるための施設を推進する必要がある。
広報活動等の推進に際しては、一般国民各層を対象とした適時的確で懇切丁寧な広報活動を展開する。
また、引き続き電源三法等の活用及び給付金の交付制度の拡充、企業立地促進策の拡充を図るなど地域振興方策を充実・推進するとともに、環境放射能監視体制の整備、従事者等の追跡健康調査、防災対策、安全性・信頼性実証試験等を推進し、原子力施設等の立地の円滑化を図る。
<関連タイトル>
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)総論 (10-01-05-01)
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)各論 (10-01-05-02)
平成4年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-02)
<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力局(編集):原子力委員会月報 通巻第439号(第38巻第3号)大蔵省印刷局(1993年6月)