<本文>
以下、要約を示す。
1.総論
我が国の原子力利用は、平和利用の堅持と安全確保を大前提に着実に進展し、国民生活及び産業活動に必要不可欠なエネルギ−源となっている。また、その需要は民生用需要の堅調な伸びを背景に着実な進展が予想されるが、我が国は、エネルギ−供給構造の脆弱性等の問題を抱え、エネルギ−需要の増大を抑制するとともに、石油依存度の低減及び石油代替エネルギ−の開発・導入を進めることが必要で、特にエネルギ−供給の安定性、経済性の面に優れた原子力を機軸にして、開発利用を推進することが重要である。
平成4年6月「環境と開発に関する国連会議」いわゆる地球サミットでは、地球温暖化や酸性雨対策に貢献するなど地球環境保全に重要な役割を果たすなどの観点から原子力への期待が高まっている上、医療、工業、農業等の非発電分野への幅広い応用を通じ、原子力は国民生活の向上に大きく貢献するものとして、一層の普及・拡大及び利用技術の高度化を図ることが必要である。一方、旧ソ連の核兵器解体後の核物質管理、イラクの
IAEAへの未申告核物質の保有等の問題を抱え、核不拡散体制の強化が一層重要性を増している。
こうした状況を踏まえて、以下に示す各分野の具体策を講じ、原子力開発利用を総合的かつ計画的に推進する。
まず、安全確保対策の総合的強化としては、従来の安全確保対策の充実に加え、平成3年2月の関西電力(株)美浜発電所2号炉蒸気発生器事故を踏まえ、事故・故障等の調査機能を強化するなど安全性の一層の向上を図る。
また、原子力発電の推進については、安全性・信頼性を向上させるとともに、技術の高度化を図る。
核燃料サイクルの確立については、原子力発電の供給安定性を高める上で一層重要であるが、特に、青森県六ヶ所村に建設中である核燃料サイクル施設の支援、ガラス固化技術開発施設の試験運転を開始する高レベル
放射性廃棄物の処理処分等の研究開発等を、国民の理解のもとで、推進する。
また、
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の
臨界を目指し準備を進めるほか、平成4年秋頃に行われる
プルトニウムの海上返還輸送については、国内外の理解を得て円滑に実施できるように図る。
先導的プロジェクトとしては、臨界プラズマ試験装置(JT-60)の高性能化実験として
重水素プラズマの研究に着手するとともに工学的設計段階に入ったITER計画の積極的な推進、また、重粒子線がん治療研究開発の推進、解役作業にはいる
原子力船「むつ」に関しても将来の舶用炉開発として一層研究を進めることが重要である。
一方、近年我が国の国際社会への貢献に対する要請が高まっており、核不拡散体制のなかで、
IAEA保障措置の整備・強化等に積極的役割を果たし、世界の核不拡散体制の一層の強化に貢献していくことが必要とされる。
原子力の開発利用は、厳正な安全規制等のもとで安全確保の実績を着実に積み重ながら、国民の理解と協力の増進を図りつつ着実に発展を続けていくことが重要である。
2.各論
(1)安全確保対策の総合的強化
原子力の開発利用については、従来から厳重な規制と管理を実施しているが、平成3年2月の関西電力(株)美浜発電所2号炉の蒸気発生器伝熱管損傷事故を機会に、事故・故障等の調査機能を強化するなど原子力安全規制行政の一層の充実を図ることが重要である。また、
軽水炉、新型炉、高速増殖炉、再処理施設等
原子力施設等の安全性の向上を図るほか、原子力防災研修、緊急時への対応など
防災対策を充実させ、環境放射能調査の的確な監視体制の整備・充実を図る。放射性廃棄物安全研究に関しては、低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分安全フィ−ルド試験、環境シミュレ−ション試験等の実施を加え、高レベル放射性廃棄物の
地層処分に関する研究を引き続き行うなど安全研究を促進するとともに、原子力の安全確保に係る国際協力を積極的に推進する。
(2)原子力発電の推進
軽水炉の信頼性及び稼働率の向上、作業員の
被ばくの低減化等の観点から、技術の高度化を図るとともに、安全性・信頼性を実証するための実証試験等を推進する。また、実用発電用
原子炉の廃止時期に備えて、原子炉の解体技術を推進し、高度化させるとともに解体後の放射性廃棄物の除去に係る安全性実証試験を引き続き実施する。
(3)核燃料サイクルの確立
我が国の自主的核燃料サイクルを早期に確立するため、海外ウラン探鉱活動の推進、ウラン濃縮国産化対策の推進、国内再処理事業の確立のための施策の推進、放射性廃棄物の処理処分対策の推進等を行う。
特に、ウラン濃縮国産化対策として、新素材高性能遠心分離機の高度化に係る研究開発に加え実用規模カスケ−ド試験装置の建設を進めるほか、民間ウラン濃縮商業プラント建設・運転の推進、ウラン濃縮新技術として、炭酸ガスレ−ザ−法の高度化試験等のレ−ザ−法ウラン濃縮技術開発を推進する。
また、高速増殖炉での照射燃料を用いるリサイクル機器試験施設の準備工事等、
使用済燃料の再処理技術の確立を推進する。
放射性廃棄物の処理処分対策については、特に高レベル放射性廃棄物の処理処分研究開発としてガラス固化処理の関連技術の開発及びガラス固化技術開発施設の建設及び試験運転を推進する。また、地層処分技術の確立とガラス固化体貯蔵を行う貯蔵工学センタ−に関しては概念設計を進めるほか、広報活動により地域住民の理解を深めるように努力する。
(4)新型動力炉の開発及びプルトニウムの利用
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」は臨界を目指し準備を進めるほか、新型転換炉実証炉は平成12年運転開始を目途に計画を推進をする。また、秋ころからのプルトニウムの返還輸送に伴う受入準備を整えるとともに、海上輸送の円滑化を図るため、我が国のプル
トニウム利用の国際的理解を得られるよう努める。
(5)先導的プロジェクト等の推進
核融合研究については、臨界プラズマ試験装置(JT-60)による重水素を用いた高性能化実験を実施するとともに、国立試験研究機関による研究等を推進する。また、国際熱核融合実験炉(ITER)計画については、工学設計活動の実施に必要な工学及び物理研究開発を着実に進めるとともに、我が国に設置される真空容器外機器を担当する共同設計チ−ム等において工学設計を積極的に推進する。
放射線利用については、医療、工業、農林水産等の各分野での研究開発を推進し、放射線利用の普及・拡大及び利用技術の高度化を図る。特に、難治性がんの治療を可能とする
重粒子線がん治療装置の建設、重粒子線棟の建設等治療体制の整備を推進する。さらに、原子力分野の広範な基礎研究に役立つ大型放射光施設(SPring-8)の建設を推進する。原子力船「むつ」の燃料取り出し等の解役を進めるとともに、実験航海により得られた知見及びデ−タを活用し、引き続き将来の舶用炉の開発のための研究を進める。
高温工学試験研究については、高温工学試験研究炉の建設を進めるほか、燃料、炉心構造物等の物性試験など関連する試験研究、高温ガス炉の要素技術の開発を推進する。
(6)基盤技術開発等の推進
当面、原子力用材料、原子力用人工知能、原子力用レ−ザ−及び放射線リスク評価・低減化の4つの技術領域について基盤技術開発を推進するとともに、燃料・材料の照射試験研究等の基礎研究の推進を図る。
また、原子力関係科学技術者の養成訓練を行い、原子力発電所等の運転員の資質向上を図る。
(7)主体的・能動的な国際貢献
ソ連チェルノブイル原子力発電所周辺地域の放射線影響等の調査を行うなど、主体的・能動的な国際貢献を果たしていくこととする。このため、研究交流、研修制度等の拡充など適切な国内環境の整備を進める。さらに、近隣諸国及び旧ソ連・東欧諸国の原子力安全確保のためIAEAの活動を通じた支援を行うとともに原子力関係者に研修等の施策を講ずる。
我が国の核不拡散対応を一層明確かつ主体的なものとして確立するため、保障措置及び核物質防護体制の充実・強化を図る。
(8)国民の理解と協力
原子力の研究利用開発を円滑に進めていくためには、原子力施設立地域住民を始めとする国民全般の理解と協力が極めて重要である。このため、原子力施設の安全運転の実績を積み重ね、国民の信頼感を得るとともに、原子力についての正確な知識及び情報を国民に伝えるための施設を推進する必要がある。
広報活動等の推進に際しては、一般国民各層を対象とした適時的確で懇切丁寧な広報活動を展開する。
また、引き続き電源三法等の活用による地域振興方策を充実・推進するとともに、環境放射能監視体制の整備、従事者等の追跡健康調査、防災対策、安全性・信頼性実証試験等を推進し、原子力施設等の立地の円滑化を図る。
<関連タイトル>
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)総論 (10-01-05-01)
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)各論 (10-01-05-02)
平成3年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-01)
<参考文献>
(1)科学技術庁原子力局(編集):原子力委員会月報 通巻第427号(第37巻第3号)大蔵省印刷局(1992年6月)