<本文>
以下、要約を示す。
1.総論
我が国の原子力開発利用は、平和利用の堅持と安全確保を大前提に着実に進展している。現在、原子力発電は総発電電力量の約3割を賄っており、国民生活及び産業活動に必要不可欠なエネルギー源となっている。
我が国のエネルギー需要は今後、民生用需要の堅調な伸びを背景に着実な伸びが予想されるが、今回の湾岸危機により、我が国のエネルギー供給構造の脆弱性がクローズアップされ、改めて、エネルギー安全供給の重要性が認識された。
したがって、引き続きエネルギー需要の増大を抑制するとともに、石油代替エネルギーの開発導入を進めることが必要で、特に供給安定性、環境影響等の面で優れた原子力を機軸エネルギーとして、その開発利用を推進することが重要である。
原子力の開発利用に当たっては、安全確保に万全を期すことが極めて重要で、本年2月の関西電力(株)美浜発電所2号炉の蒸気発生器伝熱管損傷については、原因の徹底究明を図り、これに基づいて万全の対策を講じることが重要である。
また、
核燃料サイクルの確立は、原子力発電の供給安全性を高めるために重要である。特に、六ヶ所村における核燃料サイクル施設計画の支援、高レベル
放射性廃棄物対策の推進が重要である。
使用済み燃料を
再処理して得られる
プルトニウムは、貴重なエネルギー資源であり、プルトニウムの利用を推進するとともに、プルトニウムの返還輸送についても円滑に輸送が実施できるよう準備を進める。
先導的プロジェクトについては、ITER計画参加を中心とした核融合研究開発の推進及び重粒子線がん治療の推進等の
放射線利用の一層促進を図ることが重要である。
一方、国際的には、近年我が国の国際社会への貢献に対する要請が高まっており、核不拡散との両立を図りつつ、主体的・能動的な国際対応を展開する。
総じて原子力開発利用の推進に当たっては、国民の理解と協力を増進することが極めて重要である。
2.各論
(1) 安全確保対策の総合的強化
原子力安全確保のための規制については従来から厳正な安全規制を行っているが、今後とも安全審査機能、運転管理監督体制、
原子炉主任技術者制度等のより一層の充実・強化などにより安全確保を図る。また、原子力安全に関する国際協力を一層推進し、我が国の
安全審査指針・基準等の整備等安全規制の充実に資するとともに世界の原子力安全確保の向上に貢献するよう務める。
安全研究については、安全規制の裏付けとなる科学技術的知見を蓄積し、原子力の安全性向上に資するため、
原子力施設等安全研究、環境放射能安全研究及び放射性廃棄物安全研究を推進する。
また、これらに合わせて、万一の緊急時における
防災対策の推進、防災業務関係者の資質の向上を図り、環境放射能調査の充実・強化により環境放射能の的確な監視体制の充実を図る。
(2) 原子力発電の推進
軽水炉の信頼性のより一層の向上及び稼働率の向上を図るとともに、実用発電用原子炉の廃止の時期に備えて、原子炉の解体技術開発を推進する。
(3) 核燃料サイクルの確立
我が国の自主的核燃料サイクルを早期に確立するため、海外ウラン探鉱活動の推進、ウラン濃縮国産化対策の推進、国内再処理事業の確立のための施策の推進、放射性廃棄物の処理処分対策の推進等を行う。
特に、ウラン濃縮国産化対策の推進については新素材高性能遠心分離機の開発、民間ウラン濃縮施設の建設計画推進、レーザー法ウラン濃縮技術開発の推進が重要である。
使用済燃料の再処理の推進のためには、民間再処理施設の建設計画推進、
高速増殖炉の燃料を再処理する技術の開発の推進が重要である。また、大型再処理施設等からの周辺環境への影響を適切に評価するための継続的・体系的放射能影響調査を行うための経費の交付を行う。
放射性廃棄物の処理処分対策については、特に高レベル放射性廃棄物処分研究開発の推進、貯蔵工学センター計画の推進及び核種分離・消滅処理に関する研究開発の推進等が重要である。
(4) 新型動力炉の開発及びプルトニウムの利用
核燃料の有効利用を目指す新型動力炉である高速増殖炉(FBR)及び新型転換炉(
ATR)の開発を推進し、特に高速増殖炉原型炉「
もんじゅ」の平成4年度臨界を目指した建設及び新型転換炉実証炉の建設計画を推進する。また、海外からのプルトニウム返還輸送のための準備を推進しつつ、プルトニウム利用についての国際的理解の増進を図る。
(5) 先導的プロジェクト等の推進
核融合研究については、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の臨界プラズマ試験装置(JT-60)において高性能化実験を実施するなど、国立試験研究機関による研究等を計画的に推進する。また、国際熱核融合実験炉(ITER)工学設計活動に主体的かつ積極的に参加する。
放射線利用については、医療、工業、農林水産等の各分野での研究開発を推進し、放射線利用の普及・拡大及び利用技術の高度化を図る。特に、従来の放射線に比べ、がん治療成績の著しい向上が期待される重粒子線がん治療法の推進及び大型放射光施設(SPring-8)の建設推進を行う。
原子力船の研究開発については、原子力船「むつ」による研究開発及び将来の舶用炉の開発のための研究を引き続き進めることとし、「むつ」の実験航海等を実施するとともに、実験航海終了後の解役に備えた準備等を行う。
高温工学試験研究については、高温工学試験研究炉の建設を進め、関連する試験研究、要素技術の開発を推進する。
(6) 基盤技術開発等の推進
当面、原子力用材料、原子力用人工知能、原子力用レーザー及び放射線リスク評価・低減化の4つの技術領域について基盤技術開発を推進する。
また、原子力関係科学技術者の資質向上に努め、原子力発電所等の運転員についても長期養成計画、資格制度等の運用により資質向上を図る。
(7) 主体的・能動的な国際貢献
ソ連チェルノブイル原子力発電所周辺地域の放射線影響等の調査を行うなど、主体的・能動的な国際貢献を果していくこととする。このため、研究交流、研修制度等の拡充など適切な国内環境の整備を進める。
また、我が国の核不拡散対応を一層明確かつ主体的なものとして確立するため、種々の検討を積極的に進めることとし、保障措置及び核物質防護体制の充実・強化を図る。
(8) 国民の理解と協力
原子力の研究開発利用を円滑に進めていくためには、原子力施設立地地域住民を始めとする国民全般の理解と協力が極めて重要である。このため、原子力施設の安全運転の実績を積み重ね、国民の信頼感を得るとともに、原子力について正確な知識及び情報を国民に伝えるための施策を推進する必要がある。
広報活動等の推進に際しては、一般国民各層を対象とした適時的確で懇切丁寧な広報活動を展開する。
また、引き続き電源三法等の活用による地域振興方策を充実・推進するとともに、環境放射能監視体制の整備、従事者等の追跡健康調査、防災対策、安全性・信頼性実証試験等を推進し、原子力施設等の立地の円滑化を図る。
<関連タイトル>
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)総論 (10-01-05-01)
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)各論 (10-01-05-02)
<参考文献>
(1)科学技術庁原子力局(編集):原子力委員会月報 通巻第415号(第36巻第3号)大蔵省印刷局(1991年6月)