<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 基礎研究と基盤技術開発については、今後重点的に推進されるべき研究分野として、例えば、原子核・原子科学に関する研究、TRUや超重元素に関する研究等のほか、医学・ライフサイエンス、材料その他の工学的分野等が挙げられ、これらの原子力を支える科学技術について基礎研究を進める。また、基盤技術開発については、大きな技術革新を引き起こし、科学技術全般への波及効果が期待される原子力のフロンティア領域を重視する。当面の対象として、放射線生物影響分野、原子力用材料技術分野、計算科学技術分野等がある。また、原子力エネルギーの生産と原子力システムに関する研究開発については、新しい概念の原子力システムに関する研究開発、高温工学試験研究、原子力船研究開発を進める。
 本稿は原文を掲載する。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
第3章 我が国の原子力開発利用の将来計画
8.原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化
(1) 基礎研究と基盤技術開発
1) 基礎研究
  原子力技術はなお多くの可能性を秘めており、原理・現象に立ち返った研究は、現在の技術の改良をもたらすのみならず、未知の新技術を生み出し、現在の原子力技術を大きく変えていくものと期待されます。その夢に挑戦し、新たな可能性の探索・実現を図っていくためには、基礎研究の充実強化が不可欠です。その際、原子力分野における基礎研究の成果は、原子力分野のみならず他の科学技術分野に影響を与え、科学技術全体の進歩に大きく貢献することに留意し、異分野交流、幅のある目標設定等を行い、基礎研究の柔軟な推進を図っていきます。
 また、基礎研究は、基本的には研究者個人の自由な発想を尊重しつつ幅広い分野において進められるべきものですが、今後重点的に推進されるべき研究分野としては、例えば、原子核・原子科学に関する研究、TRUや未知の超重元素に関する研究、各種ビームの発生と利用に関する研究を挙げることができます。また、このほか、物理・化学分野、医学・ライフサイエンス分野、環境科学分野、燃料・材料その他の工学的分野等、原子力を支える科学技術について基礎研究を進めます。
2) 基盤技術開発
 我が国は、原子力技術の先進国として、既存の原子力技術にブレークスルーを引き起こし、基礎研究とプロジェクト開発とを結びつける基盤技術開発に積極的に取り組む必要があります。とりわけ、原子力技術に対するニーズの一層の多様化や高度化に対応するとともに、技術シーズの探索、体系的な研究開発の積み重ね等により、将来の新しい原子力技術体系を意識的に構築していくため、大きな技術革新を引き起こし、ひいては科学技術全般への波及効果が期待される原子力のフロンティア領域を重視していきます。このような基盤技術開発の当面の対象として、放射線生物影響分野、ビーム利用分野、原子力用材料技術分野、ソフト系科学技術分野及び計算科学技術分野について重点的に研究開発を行うべき領域を設定し、放射光施設やスーパーコンピュータ等の先端的な研究設備・機器を用いつつ、広範な科学技術分野のポテンシャルを結集して研究開発を進めていきます。なお、ソフト系科学技術においては、原子力技術と人間社会との関係の重要性を踏まえ、社会科学や人文科学の知見の蓄積を含め幅広い調査研究に取り組んでいきます。

(2) 原子力エネルギーの生産と原子力利用分野の拡大に関する研究開発
 原子力によるエネルギーの効果的な生産・利用を進める革新的な技術の研究開発ついては、安全確保はもちろんのこと、安全性の向上、エネルギー生産、燃料生産、放射性廃棄物の消滅に配慮するとともに、環境負荷の低減、核不拡散への対応、経済性等の現実的に対応すべき諸点を加えた総合的な観点から、これに取り組んでいきます。また、原子力研究の高度化を含め、利用分野の拡大についても積極的に取り組んでいきます。
1) 新しい概念の原子力システムに関する研究開発
  受動的安全性を高めた原子炉は、静的手段の積極的採用により、システムの簡素化、信頼性、安全性、経済性の向上等の可能性を有しており、特に中小型の受動的安全炉については、大容量の電力や動力源を必要としない地域において利用される可能性も期待されることから、その研究開発を進めていきます。
 また、プルトニウムをほぼ完全に燃焼させてそのまま廃棄物とすることを目指す軽水炉やエネルギーを取り出しながら実質的なプルトニウムの炉内貯蔵を目指す軽水炉等の可能性について基礎的研究を進めます。さらに、優れた経済性や安全性を持つ高速増殖炉の開発を目指して、種々の新型燃料や冷却材の可能性について基礎的研究を進めます。
 これら新しい概念の原子炉の実現に当たって必要となる炉工学技術や設計研究を総合的、効率的に行うための知的情報処理技術を活用した設計・実験システムの研究開発を進めます。
 再処理技術に関しては、アクチニドの回収に関する研究、湿式法における新しい抽出剤の研究、高温化学法などの新しい技術に関する研究等を進めます。また、新しい再処理法に適した燃料の研究や原子炉と燃料サイクル施設の一体化を含めた総合的なシステムに関する検討を進めます。
 核種分離・消滅処理については、湿式・乾式の核種分離に関する研究や原子炉、大強度陽子加速器等を用いて長寿命核種を短寿命化・非放射化する消滅処理法の研究を進めます。また、このために必要となるTRUの核データ等の整備、充実を図ります。
2) 高温工学試験研究
  高温工学試験研究については、高温の熱を発生することによって多様な利用の可能性が期待されるため、高温ガス炉技術の基盤の確立、高度化及び高温工学に関する先端的基礎研究を進めます。そのための中核的施設として建設中の高温工学試験研究炉HTTR)については、1998年頃の臨界を目指した建設を着実に進めるとともに、HTTRを活用した研究開発の計画的な進展を図ることが重要です。
3) 原子力船研究開発
  原子力は将来の船舶の動力源として有力な選択肢となる可能性があり、原子力船研究開発については、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)において、原子力船「むつ」の解役工事を安全かつ確実に進めるとともに、「むつ」によって得られた成果等を内外の新たな知見と合わせて蓄積・整備しつつ、舶用炉の改良研究を推進します。また、船舶技術研究所においても基礎研究を引き続き実施することとします。
<関連タイトル>
原子力開発利用の基本方針(平成6年原子力委員会) (10-01-03-03)
原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化[その2](平成6年原子力委員会) (10-01-04-13)
原子力開発利用の推進基盤の強化[その1](平成6年原子力委員会) (10-01-04-15)
原子力開発利用の推進基盤の強化[その2](平成6年原子力委員会) (10-01-04-16)

<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力 −原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画− 大蔵省印刷局(平成6年8月30日)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版 大蔵省印刷局(平成7年2月1日)
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1753号(1994年8月4日)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ