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<概要>
 原子力の研究開発は、幅広い分野について基礎から応用段階まで計画的、総合的に進めていくことが重要であり、民間、国、大学等の各研究開発機関が適切な役割分担の下にそれぞれに能力、特長を十分に活用し、発展させていくことが必要である。
 原子力研究開発を進めていくために必要となる先端的な研究設備・機器については、共同利用を推進し、効果的、効率的な利用を図っていく。政府関係研究開発機関と大学等との連携にあたっては、共同利用、共同研究等により、政府関係研究開発機関の保有する大型かつ高度な研究施設・機器を大学等における研究、教育の場へ提供しつつ、研究交流を深めることが重要である。このため、双方において、体制の整備等の適切な措置を講じる必要がある。
 本稿は原文を掲載する。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
第3章 我が国の原子力開発利用の将来計画
10.原子力開発利用の推進基盤の強化
(3) 研究開発の推進体制と研究基盤の高度化
1) 研究開発機関の役割分担
 原子力の研究開発は、幅広い分野について基礎から応用段階まで計画的、総合的に進めていくことが重要であり、民間、国、大学等の各研究開発機関が適切な役割分担の下にそれぞれの能力や特長を十分に活用し、発展させていくことが必要です。
(イ) 民間の役割
 軽水炉技術や事業化段階にある核燃料サイクル技術について、信頼性の向上、技術の高度化等に関する技術開発を積極的に実施していくことが期待されます。
(ロ) 政府関係研究開発機関の役割
 動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)は、高速増殖炉、新型転換炉を含めた核燃料サイクル各般に関連する開発及びこれに必要な研究を推進し、その発展、実用化を期すことを基本的な役割としています。今後とも国のプロジェクトとして高速増殖炉等の開発、使用済燃料再処理技術の開発、高レベル放射性廃棄物の処分の研究開発等を推進するとともに、実用化を見通した高速増殖炉固有の研究開発・先進的リサイクル技術に関する研究開発等を行っていきます。さらに、事業化が具体化しつつある技術課題に対しては民間との密接な連携、協力の下に技術移転、技術協力を進めるとともに軽水炉用 MOX燃料の利用に対する技術的支援等行い、将来の核燃料サイクルの実用化に向けた技術開発センターとしての諸活動を進めていきます。
 日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)は、原子力の開発に関する研究等を総合的かつ効率的に行い、原子力の研究、開発及び利用の促進に寄与することを基本的な役割としています。今後とも原子力の新たな可能性の探求と多様なニーズに対応するため、原子力全般を支える基礎的研究、基盤的研究及び安全研究の一層の推進に努めるとともに、高温工学試験研究、原子力船研究開発等新たな概念の原子炉等の研究開発、放射線利用研究、核融合研究開発等を推進します。また、研究者・技術者の養成、RI等の生産・頒布、共同利用施設の整備、多様な研究協力等を行い、我が国の原子力分野における中核的な総合研究機関として諸活動を進めていきます。
(ハ) その他の国の関係機関、国立試験研究機関、大学等においてはそれぞれの機関の目的に応じ、適切かつ計画的な推進を図っていきます。
 特に放射線医学総合研究所においては、放射線の生物影響、放射線障害の防止、放射線の医学利用等の中核的研究機関としての役割を担っていきます。また、理化学研究所は、物理・化学等の基礎的研究分野での優れた研究ポテンシャルを活かした適時適切な役割を果たしていくことが重要です。
 大学においては、学術研究機関として、我が国の学問的基盤の確保と水準の向上を図りつつ、研究開発の進展等に対応できる教育研究機関としての機能強化が期待されます。
2) 研究基盤の高度化
 先端的研究開発分野では研究の進展が速く、研究用の設備・機器等の使用年数は著しく短縮化する傾向にあります。そこで、研究レベルの維持、向上のため、既存の研究設備・機器の維持、更新等を適切に進めます。国としては、特に、研究用原子炉、大型加速器等の民間等では整備の困難な大型で先端的な設備・機器の整備やこれらを共同利用施設として産学官の幅広い分野の研究者が利用できるような体制の整備について検討していきます。
 原子力の先端的研究開発分野における研究活動を活性化し、その創造性を高めていくため、研究課題の性格や特徴に応じ、研究者の流動化を促進するための方策の拡充、国内外の研究者が同一課題について同一機関に一定期間結集し、集中的に研究を行うことができるシステムの構築など研究システムの充実に努めます。また、研究者の研究能力を十分に発揮させるための研究支援業務の見直し・強化、事務的な業務の簡素化等を進めます。
 研究開発を効果的、効率的に推進していくためには適正な研究評価が必要です。研究評価にあたっては、新しい芽を育てる観点からの評価と円滑な研究開発を進めるという観点からの評価とがありますが、研究開発の性格や段階に応じて両方の観点を組み合わせた適切な研究評価を行っていく必要があります。その際、研究開発課題についての評価のみならず、人材、設備・機器、資金等の研究資源の効率的、効果的な配分及び適切な研究開発体制の構築等の総合的な観点からの研究評価を国の内外や多様な分野からの意見に留意しつつ行い、将来の研究テーマの設定、研究資源の配分等に反映させていきます。
 また、原子力研究開発において大きな役割を担っている日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)、動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)、放射線医学総合研究所及び理化学研究所においては、優れた人材、研究設備・機器、充実した研究支援体制等を有する中核的な研究機能(センター・オブ・エクセレンス)の育成・整備に努め、世界に誇れる優れた研究成果を上げることが期待されます。国としては、優れた研究能力を有する研究機関に対し、資金の重点的な配分を行う等適切な支援を行っていきます。
 一方、国内外の原子力分野の科学技術情報は著しく増加しているため、これらの情報の収集、処理及び迅速な提供のための研究情報ネットワークの整備拡充によって、研究機関間の相互連携を緊密化し、有機的な情報流通体制の確立を目指していきます。
 さらに、加速器を用いた放射線利用技術等の研究開発の全国的な進展等に対応するため、研究開発施設等の地方への展開も望まれます。
3) 研究開発機関間の連携強化
 限られた研究資源によって多種多様化する研究開発を円滑かつ効率的に推進するためには、政府関係研究開発機関、民間、大学等の密接な協力が極めて重要であり、原子力分野のみならず幅広い分野の研究者や研究開発機関間の連携を一層緊密なものにする必要があります。このため、共同研究等による研究者の交流を進めるとともに、適切なテーマ毎に種々の分野の研究者で構成する研究会の設置等の拡充を図っていきます。
 原子力研究開発を進めていくために必要となる先端的な研究設備・機器については、共同利用を推進し、効果的、効率的な利用を図っていきます。研究開発機関に既に設置されている研究設備・機器のうち共同利用が可能なものについては、運営の弾力化により自ら実施する研究開発に支障のない範囲で利用機会の積極的な提供を進めることとします。今後、多分野の研究者の利用が期待できる先端的な研究設備・機器については、関係研究機関、関係省庁が適切な役割分担のもとに共同で設置することについて検討していくこととします。さらに、研究施設の共同設置及び共同利用は、国際間においても積極的に進められるべきであり、我が国の施設の外国への開放や外国にある先端的研究施設の利用のための国際共同研究の積極的な推進が必要です。
 特に、政府関係研究開発機関と大学等との連携にあたっては、共同利用、共同研究等により、政府関係研究開発機関の保有する大型かつ高度な研究設備・機器を大学等における研究、教育の場へ提供しつつ、研究交流を深めることが重要です。このため、双方において、共同研究や研究設備・機器の共同利用を調整・促進するための体制の整備等の適切な措置を講じる必要があります。
<関連タイトル>
原子力開発利用の基本方針(平成6年原子力委員会) (10-01-03-03)
原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化[その1](平成6年原子力委員会) (10-01-04-12)
原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化[その2](平成6年原子力委員会) (10-01-04-13)

<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力 −原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画− 大蔵省印刷局(平成6年8月30日)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版 大蔵省印刷局(平成7年2月1日)
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1754号(1994年8月11日)
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