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第2章 我が国の原子力開発利用の在り方
1.我が国の原子力開発利用の目標
第1章においては、21世紀の地球社会を展望し原子力の役割を概観しましたが、本節では、それを踏まえつつ、我が国としていかなる目標を掲げて原子力開発利用を推進していくべきかということを示します。
(1) エネルギーの安定確保と国民生活の質の向上
我が国が原子力開発利用を推進してきた最大の理由は、エネルギー資源を安定的に確保し、国民生活の水準向上に寄与するためです。
既に我が国は十分に豊かな社会を実現しているという見方もあり、エネルギーの浪費は厳に慎むべきですが、国民の多くは省エネルギーを重視しつつも今後とも豊かで快適な生活を送ることを望んでおり、また、今後相当程度の省エネルギーに努めることを前提とした試算によっても、なお国内のエネルギー需要は、2010年度には1991年度の約1.2倍に増加する見通しです。また、1970年度には約26%であった
電力化率(一次エネルギー総供給量に占める電力向け投入量の割合)は、1991年度に約40%に高まっており、エネルギーの中でも便利で安全な電力の消費量は、我が国が高度情報化時代に入っていくことともあいまって今後とも増大していくことが予想され、質の良い電力の安定した供給を維持していくことの重要性は一層高まっていきます。
ところが、我が国のエネルギー供給構造は極めて脆弱です。エネルギーの輸入依存度は8割を超え(83.6%)、エネルギーの石油依存度は約6割(58.0%)に達し、その石油はほぼ全量(99.6%)を輸入(石炭や天然ガスもそれぞれ94.4%、96.0%を輸入)に依存しています。これは、米国(エネルギーの輸入依存度は16.4%)、ドイツ(同52.7%)、フランス(同51.7%)、英国(同1.3%)などの主要先進国に比べて極端に不安定なエネルギー供給構造と言えます。また、我が国は、アジアの島国であり、欧州に見られるように国境を越えて諸国が互いに電力を融通する仕組みの中にありません。
原子力は、技術集約型エネルギーとしての特長などに着目すると
準国産エネルギーと考えることができますから、我が国のエネルギー供給構造の脆弱性の克服に貢献する基軸エネルギーとして位置付けて、これを推進していくこととします。さらに、ウラン資源にも限りがあり、また我が国にはウラン資源はほとんど存在しないことを踏まえると、ウラン資源を最大限有効に利用するという考え方が重要であり、我が国においては、
使用済燃料は
再処理して、回収したプルトニウム、ウラン等を再び利用していくという核燃料リサイクルの推進を今後とも政策の基本とします。
エネルギー政策は、資源、技術力など各々の国の国情によって差があることが当然であり、エネルギー資源に恵まれない我が国としては技術力を活かした方法でエネルギーを確保していくことが必要です。
また、原子力は、電力供給の観点から日常生活に不可欠な役割を担っていることは言うまでもありませんが、
放射線利用についても、医療、農業、工業、生命科学、基礎研究、環境保全など広範な分野で普及しています。今後、高齢化社会が本格的に到来するとされている中で、放射線を利用した環境条件の向上や重粒子線によるがん治療技術の研究開発にみられるような、質の高い健康維持など身の回りの生活を豊かなものとする上で一層その役割が大きくなると考えられます。
このように、我が国の原子力開発利用は、まず第一にエネルギーの安定確保と国民生活の質の向上を目指すものです。
(2) 人類社会の福祉の向上
原子力開発利用を推進していくに当たっては、我が国は独り自国の短期的繁栄のみを目指すのではなく、常に人類社会への貢献という視点を持ちつつ、これに取り組むことが必要です。
前述のとおり、先進国が
原子力発電を導入することにより、
化石エネルギーの廉価・安定供給の観点や二酸化炭素の排出低減など地球環境保全の観点で開発途上国も含め世界全体にその恩恵が及ぶことから、我が国が原子力開発利用を積極的に推進していくことは、それ自体が結果的に国際貢献になっていますが、これを受動的に捉えるのではなく、エネルギー資源を大量に消費する一方、豊かな経済力と高度の科学技術を併せ持つ我が国が、その経済力を単に資源の購入に用いることなく、それらを活かして原子力開発利用に取り組むことは、我が国の国際的な責務と考えられます。また、このことは、その恩恵が、単に現在の世代のみならず、我々の子孫にも及ぶことを考えれば、後世代に対する責務ともいうことができます。
我が国は、原子力開発利用の推進を「
地球温暖化防止行動計画」に組み込んでおり、今後とも地球環境保全という観点を重視しつつ原子力開発利用に取り組んでいきます。
また、我が国が原子力開発利用に取り組むに当たっては、人類にとってのエネルギー供給の多様化を図るという姿勢が重要ですが、この観点からは、まず現在、原子力発電を行っている国が原子力発電システムの信頼性を一層向上させていくこと、さらにはそれを世界的に普及させていくことが重要です。一方、核燃料リサイクルについては、技術的・経済的能力、
核不拡散の確保等を考慮すれば、短中期的にはこれに取り組むことのできる国は限られており、我が国としてもこれを世界に普及させていくことには十分慎重でなければなりませんが、これを必要とし、かつその能力を持つ我が国は、将来の人類のエネルギー供給源の選択肢を広げていくとの認識の下にこれに取り組んでいきます。我が国は科学技術先進国として、核燃料リサイクルを推進するとともに太陽光などの新エネルギーや核融合などの研究開発を推進し、エネルギー技術の共生、すなわち多様なエネルギー技術が互いに補完し合いながら使われていく人類社会の実現を目指していきます。
進んだ科学技術を持ち、かつ経済的にも恵まれている我が国としては、原子力分野においても基礎的な研究の振興、積極的な国際協力等を進めていくことにより、いわば国際公共財ともいうべき成果を生みだし、これを国際社会に還元していくことが今後一層重要になっていきます。我が国は、原子力開発利用を通じて科学技術水準の向上など人類共通の利益を追求していくこととします。
このように、我が国は、常に人類社会への貢献という視点を持ちつつ、原子力開発利用に取り組んでいきます。
<関連タイトル>
原子力開発利用の大前提(平成6年原子力委員会) (10-01-03-02)
原子力開発利用の基本方針(平成6年原子力委員会) (10-01-03-03)
<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力 −原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画− 大蔵省印刷局(平成6年8月30日)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版 大蔵省印刷局(平成7年2月1日)
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1750号(1994年7月14日)