<本文>
1) 放射線防護上の遮へい
放射線防護上の遮へいとは、
放射線源と防護の対象となる人体との間に放射線を減弱させる物体を置く事を言い、放射線を減弱させるために置いた物体を遮へい体と言う。
2) 遮へいの目的
放射線防護上の遮へいの目的は、作業者および一般公衆の被ばくを線量限度以下にするとともに、放射線による
外部被ばくを合理的に達成可能な限り低減することである。
3) 遮へいの対象となる放射線
放射線にはいろいろな種類があるが、外部被ばくを防ぐという観点から遮へいを必要とする放射線は、ガンマ線・エックス線および中性子線が最も重要である。すなわち、これらの放射線は、他の放射線と比べると物質の透過能力が極めて高いためである。
ベータ線は、物質の透過能力は弱いが、
放射能(量)が多い場合や作業者がベータ
線源を身近で取扱う場合は遮へいを必要とする。ベータ線の
飛程より厚い物質によって簡単に遮へいできる。β線の最大エネルギー:Eβ(
MeV)に対するアルミニウム中での飛程(Rg/cm
2
)は、
R=0.542Eβ−0.133(Eβ>0.8MeV)
R=0.407Eβ
1.38(0.8>Eβ>0.15MeV)
で与えられる。
図1 にβ線の最大飛程(遮へい厚)とエネルギーの関係を示す。β線に対しては
制動放射線の発生が伴うので、原子番号の小さいプラスチックのような物質を使うのが望ましい。制動放射線により発生する
X線の遮へいも考慮しなければならない。
アルファ線は、物質の透過能力が極めて弱く紙程度で遮へいできるので、外部被ばくを防ぐという観点からは遮へいを必要としないが、アルファ線を放出する
核種のうちで同時にガンマ線等他の放射線を放出する核種は遮へいの対象となる。
4) 遮へい材
A. ガンマ線遮へい材
一般的にいって原子番号の大きい元素はガンマ線を減弱させるのに有効である。ガンマ線の遮へい材としては下記のものが多く利用されている。
a. 鉛
ガンマ線の遮へい材としてよく利用され、ブロック状に加工したものがよく用いられる。また、作業者が直接身につける遮へい用具として、含鉛手袋、含鉛エプロン等がある。
b. 鉄
遮へい性能としては中程度であるが、構造材としての性能が優れており、他の遮へい体と組み合わせてよく使用される。
c. コンクリート
組成をいろいろ変えることにより、目的にあった性能の遮へい材を作ることができる。ガンマ線の遮へい能力を高めるために、磁鉄鉱や鉄片を混合したものを重コンクリートと言う。
B. 中性子線遮へい材
速中性子線を低速中性子線に減速する確率の高い元素は中性子線の
減速材として適している。速中性子線が減速されて低速中性子線または熱中性子線になると
原子核に吸収されやすくなる。したがって、吸収能力の大きな元素が中性子の遮へい材に適しているが、中性子線が吸収されたことにより生じるガンマ線のエネルギーおよび放出割合が低い元素が望ましい。
中性子線の遮へい材としては下記のものが多く利用されている。
a. コンクリート
水分を多量に含んでいることから、中性子線に対しても有効な遮へい材である。
b. パラフィン
中性子線の遮へい材としてよく利用され、ブロック状に加工したものがよく用いられる。これに類似したものとしてポリエチレンがある。
c. 水
水冷却型の
原子炉では、中性子線の遮へい材として利用され、
冷却材や減速材の性質ももっている。また、ガンマ線の遮へい材として、使用済燃料プール等にも使用されている
5) 遮へい材の放射線透過率
A. ガンマ線透過率
鉛、鉄、普通コンクリートのガンマ線透過率をそれぞれ
図2-1、
図2-2および
図2-3に示す。
図はいずれも、縦軸が対数目盛りで放射線の透過率を、横軸は遮へい材の厚さを表している。これらの図から、放射線源が同じであっても、遮へい体の材質によって必要な厚さが違うことが分かる。例えば、セシウム137の放射線源を遮へいする場合、透過率を10E−2(放射線の強さ1/100)とするには、鉛では約5cm、鉄では約12cm、コンクリートでは約45cm厚さのものが必要となり、鉛と比べてコンクリートは9倍の厚さが必要なことが分かる。
B. 中性子線透過率
水および普通コンクリートの速中性子線の透過率を
図3 に示す。図の見方は図2と同様である。また、
252Cf中性子源の透過率を
図4 に示す。
1例として、コンクリートに着目すると、透過率を1/100とするには、ガンマ線では約45cmの厚さが必要だが、中性子線では約65cmの厚さが必要となり、放射線の違いによって遮へいに必要な厚さが違うことが分かる。
6) 遮へい時の留意事項
放射線源の遮へいは、遮へい体を可能な限り線源に近づけると容易である。例えば、懐中電灯の光を遮るとき、光源から離して遮光物を置くと光が散乱して周囲に漏れるが、密着させると漏れないのと同様である。
遮へいの際には、次のような事に注意が必要である。
A. 遮へい体と遮へい体の間に隙間を作らない。
B. 遮へいの対象が中性子線の場合は、遮へい体中でエネルギーを失うときに捕獲ガンマ線を放出するので、パラフィン等その放出割合が低い遮へい材とガンマ線遮へい材を組み合わせて用いる。
C. 遮へいの対象がベータ線の場合は、遮へい体中でエネルギーを失うときに制動放射線を放出する。このX線は、遮へい材の原子番号が大きくなる程エネルギーが高くなるので、内側に原子番号の小さい遮へい体を、外側に原子番号の大きい遮へい体を置く。
D. 遮へい体の転倒防止策を構じる。
<図/表>
<関連タイトル>
放射線の遮へい (08-01-02-06)
放射線管理基準 (09-04-05-01)
線量限度 (09-04-02-13)
放射線防護機材(マスク、手袋、衣服等) (09-04-10-02)
放射線防護の3原則 (09-04-01-09)
<参考文献>
(1) 原子炉工学講座2−放射線防護:石森富太郎編、培風館(1971)
(2) アイソトープ手帳:日本アイソトープ協会(1989)
(3) ICRP Publication 21:体外線源からの電離放射線に対する防護のためのデータ
(4) 科学技術庁原子力安全局(監修)・原子力安全技術センター(編):最新放射線障 害防止法令集 平成六年、第一法規出版(平成6年9月)
(5) 科学技術庁原子力安全局(監修):原子力規制関係法令集1995年版、大成出版社(1994年12月)
(6) 日本アイソトープ協会:アイソトープ便覧改訂3版、丸善(1995年4月)