<本文>
1.放射線防護の3原則
放射線による外部被ばく防護の3原則は、時間(time)・遮へい(shield)・距離(distance)という3つである(
図1参照)。「時間」の原則は、放射線作業従事者(以下「作業者」という)が放射線に曝されている時間を短縮することにより被ばく線量を低減することである。「遮へい」の原則は、放射線源と作業者の中間に遮へい物を設置することにより被ばく線量を低減することである。「距離」の原則は、放射線源と作業者との距離を離すことにより、作業時における空間線量率を低減することである。以下、個々の原則について記述する。
「遮へい」の原則は、具体的には放射線源と作業者との間に遮へい物(コンクリート壁、鉄壁等)を設置することにより、作業者の受ける被ばく線量を低減することである。広義には、作業者(
X線技師等)が着用する前掛け型プロテクタ等も「遮へい」に含まれる。
「距離」の原則は、
γ線(X線)の空間線量率が「放射線源からの距離の自乗に反比例する」ことにより、作業者と放射線源とを離すことで作業場所における空間線量率を低減することである。
「時間」の原則は、具体的には放射線作業量・手順を合理的に設計することにより作業時間の短縮を試みること(無駄な被ばくの低減)や、作業者の熟練度を向上させること(余計な被ばくの低減)などである。
2.放射線防護の3原則の順位と対象範囲
(1)施設の設計等に着目した場合
放射線防護の3原則は、それぞれ独立した原則であるため、本来優先順位はないが、これを適用する場合の諸条件によって、おのずから順位が存在する。たとえば原子力施設や放射線取扱施設等を設計する場合は、施設内で行われる個々の作業条件を設定することは困難である。したがって作業時間は通常の年間の作業時間等を仮定して、施設内の線源と作業位置との距離等を勘案して、遮へい設計に反映されることになる。
(2)施設内の放射線作業に着目した場合
原子炉施設等では、施設内の放射線量率分布は、場所により、また運転条件によって異なる。この中で点検作業や、補修作業等を行う場合、3原則のすべてに関係する。しかし個々の作業については、作業位置と放射線源の間に、仮設の遮へい物を置くのが有効な場合もあり、遠隔操作が有効な場合もあり、また作業のリハーサル等を行って、作業時間の短縮を図るのが有効な場合もある。
実際には作業計画を立てるときに、これらの組合せを考慮して、最適化を図ることになる。
「遮へい」「距離」の原則は、施設設計に関連しているため、経済的制約や
放射線利用に絡む諸事情をも考慮した総合的意思決定の過程に含まれる。この意思決定過程は、「放射線防護の最適化」であり、放射線防護体系の中心的な過程である。
「遮へい」「距離」「時間」は、放射線源に関する(source related)防護であり、透過性のある放射線による体外被ばく線量を低減するための原則である。体内被ばくの場合、体内摂取されてしまった
放射性物質に関しては体外への排出を促す以外に手段はないため、体内被ばく線量を低減するためには、放射性物質を体内に摂取しないようにすることが防護対策の目的となる。これらの手立てとしては、例えば放射性物質の密閉系への閉じ込めのほかに、吸入防止用のマスクや負圧換気設備を用いる等の防護手段がある。
<図/表>
<関連タイトル>
ICRPによって提案されている放射線防護の基本的考え方 (09-04-01-05)
ICRPによる放射線防護の最適化の考え (09-04-01-07)
<参考文献>
(1)ICRP Publication 26,Pergamon Press,1977
(2)「放射線の防護」丸善、p283−284、1978
(3)吉澤康雄:「放射線健康管理学」、東京大学出版会、1984
(4)吉沢康雄:「放射線管理のやり方・考え方」、東京大学出版会、1978