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<概要>
 原子力発電所などの放射線施設には、施設に起因する放射線による線量線量限度を充分下回っていることを確認する目的で、様々な放射線管理機器が設置されている。
 このような放射線管理機器に使用されている検出器は、放射線のエネルギーを電気信号に変換するものがほとんどであるが、これらの作用を利用する検出原理そのものは従来からの手法であることが多い。
 一方、電気信号を処理する回路に関しては、最近の目覚しいエレクトロニクス技術の進歩により、高機能、高性能で超小型、低消費電力の素子が数多く開発され、実用化されている。放射線管理機器においてもこれらのエレクトロニクス技術が取り入れられ、高機能、高性能の機器が普及している。
 ここでは、放射線管理機器の中からいくつかの例を取り上げ、その機器とエレクトロニクス技術の関わりについて述べる。
<更新年月>
2007年08月   

<本文>
1.サーベイメータ
 サーベイメータは、大きく分けて管理区域内で使用した物や発生した廃棄物を区域外に搬出する際にそれらの表面の放射線汚染密度を測定し、法令に定める値以下であることを確認する表面汚染測定用サーベイメータと、場の線量当量率の測定に用いる線量当量率測定用サーベイメータの2種類があり、これらは携帯型の測定器である(図1)。
 これらのサーベイメータにはワンチップCPU(Central Processing Unit)が搭載され、各ブロックの動作を制御している。これにより、検出器用高圧電源の電圧校正機能、プラトー特性の自動測定機能および自動ゲイン調整機能などの組み込みが可能となり、安定した性能を確保できるようになった。
 また、このような測定器は、万が一の原子力事故の際の緊急サーベイにも用いられる。この場合、迅速な測定が必要であるが、通常のサーベイメータでは時定数の関係から測定を開始してから指示値が安定するまで10秒〜90秒程度の時間が必要である。そのため、測定開始直後の指示値の応答を”1次遅れ系”で解析して数秒以内に最終値を予測する技術が開発されている(2)。このシステムの予測値と最終値の誤差は数%以内と十分な精度を有しており、サーベイメータのみならず他の測定装置への応用が期待される。
2.環境放射線測定装置
 放射線施設の周辺監視区域境界付近に設置され、環境ガンマ線の線量率を連続で監視する測定装置であり、シンチレーション式モニタと電離箱式モニタが対になって使用される場合が多い。従来のシンチレーション式モニタは主に線量率情報を表示していたが、高性能のデジタル信号処理プロセッサ(Digital Signal Processor;DSP)の出現により、個々の放射線検出パルスを高速デジタル処理できるようになったため、線量率情報に加えてエネルギー情報も容易に得られるようになった。これにより、指示上昇が発生した場合、その放射線のエネルギーを観測すればどの核種による上昇かを特定できるため、放射線施設に起因するものか否かを容易に判定できる。さらに、大容量化が実現した各種電子媒体を利用して、多数の測定データを短い時間間隔で長期間にわたり記憶する機能も備わった。このため、後になって特異的な指示上昇が発見された時でも、過去に遡って詳細な調査を行うことができるなど、放射線施設の安全性を確認するための機能が大きく向上した。図2に装置の例を示す。
 また、最近は放射性薬剤を利用した病気の治療や検査が広まり、薬剤を注射された患者さんが装置に接近することで指示値が上昇するケースが昔に比べると多くなっている。X線検診車が近くに駐車した影響で指示値が上昇するケースもある。このような薬剤に使用される放射性核種や、X線検診車の発生するX線エネルギーは種類が限られているので、指示上昇が発生した時点での各種測定データやエネルギー情報を調査すれば、上昇原因の特定が可能である。
 また、指示上昇に対する原因究明の手段のひとつとして、指示上昇を引き起こした放射線の飛来方向の特定も有効であり、そのための技術が開発されつつある(3)。これは、断面が扇形をした3つのシンチレータを円柱形状に組み合わせ、それぞれのシンチレータの計数比を基に放射線飛来方向を特定し、そのエネルギーも同時に判定するものである。この計数比の算出、エネルギーの判定にも、デジタル信号処理技術は欠かすことができない。
3.電子式個人線量計
 放射線施設内で放射線作業に従事する放射線業務従事者は法令で個人の線量限度が定められており、日々の線量を測定・管理する必要がある。この目的で使用されるのが個人線量計であり、フィルムバッジやガラスバッジなどの受動型線量計と、電子式線量計などの能動型線量計の二つに分類される。
 電子式個人線量計は、読んで字のごとく電気回路を使用した線量計であり、受けた線量をリアルタイムで表示し、またアラームを発する機能を有しているため、過剰被ばくの防止に非常に有効である。
 以前の電子式個人線量計は測定対象がγ線だけであり、回路故障によるデータ消失の恐れもあったため、受動型線量計の補助的役割(作業中の線量監視用)で用いられることが多く、正式な線量記録にはフィルムバッジなどの測定結果を採用する場合がほとんどであった。しかしながら、電子技術の進歩や堅牢性の向上、メモリデータバックアップ機能の充実により、高い信頼性が確保された電子式個人線量計が製品化されたのに加え、近年β線や中性子の線量測定もできる線量計が実用化された。このタイプの線量計は管理区域立入毎の線量測定が可能なだけでなく、ソフトウエアの工夫により収集した個人の線量データを様々に集計加工できる大きなメリットがあることから、受動型線量計に代わる線量記録用の線量計として、広く放射線施設で使用されている。図3に主に原子力発電所向けの電子式個人線量計の例を示す。
 一方、病院や研究所などでは、より小型で軽量なタイプの電子式個人線量計が使用されている。図4に代表例を示す。この線量計は使用環境の違いから大音量のアラームは要求されず、また堅牢性も原子力発電所で使用されているタイプとは異なるが、トレンド機能やデータ通信機能、警報機能などを有している。また、個人線量管理システムと組み合わせることにより個人専用と共用のいずれにも対応でき、入退室管理用の端末として用いることも可能である。
 これらの線量計の製品化は、低消費電力のワンチップCPUや電池電圧で動作する集積回路、小型でかつ高容量の電池といったエレクトロニクス技術の進歩無しではあり得ないものである。
4.遠隔校正技術(4)
 放射線管理機器の校正にあたっては、測定のトレーサビリティが確保されていることが測定値の信頼性を確保するためには必要不可欠である。従来、このようなトレーサビリティを確保するためには、校正を受ける機器を国家標準を有している産業技術総合研究所(以下、産総研)に持ち込んだり、機器のある場所まで産総研職員が出張する必要があった。このため、最近インターネット技術を用いて、遠隔操作で校正を行う技術(e−trace)が開発された。このシステムは、現場にある被校正機器を計算機に接続して、その計算機を産総研が遠隔で制御し、産総研が現場に送付した線源の測定を行うものである。加圧型電離箱を用いた実証試験の結果、今までの方法と不確かさの範囲内で一致する結果が得られ、迅速で安価な校正と省力化をもたらすものと期待されている(図5)。
5.大規模放射線監視システム(5)
 放射線施設の放射線監視システムは、施設内外の放射線状況を24時間連続で監視する非常に重要なシステムであり、各作業場所に設置された放射線検出部の信号を中央制御室に伝送し、そのレベルを放射線監視盤で集中管理するものである。
 従来のシステムは、放射線検出部と放射線監視盤を1対1でケーブル接続する構成となっており、大規模なシステムではその構成上、大きな制約を受けていた。
 近年、放射線管理の高度化が進み、放射線管理システムに対して、より一層の信頼性の向上や保守・点検の省力化、監視機能の向上が求められている中で、半導体技術や情報処理技術の進歩を受けて、Ethernet(米国Xerox Corp.の登録商標)などの伝送インターフェースを組み込んだ情報伝送システムが開発された(図6)。情報処理システムの計算機に最新のWeb技術を採用することにより、関係者および関連部門全体で監視情報の共有化を行える他に、リアルタイム監視機能や情報公開が可能である。
 このシステムは、汎用の伝送インターフェースを取り入れたことで、システムを構築するうえでの制約がほとんど解消できる他に、今後進歩を続けるであろう情報処理技術の取り込みを容易にしたものであり、今後の発展が期待できる。
<図/表>
図1 表面汚染測定用サーベイメータの例
図1  表面汚染測定用サーベイメータの例
図2 環境放射線測定装置の例
図2  環境放射線測定装置の例
図3 電子式線量計(発電所向け)の例
図3  電子式線量計(発電所向け)の例
図4 電子式線量計(一般向け)の例
図4  電子式線量計(一般向け)の例
図5 放射能の遠隔校正スキーム
図5  放射能の遠隔校正スキーム
図6 放射線監視システム
図6  放射線監視システム

<関連タイトル>
環境放射線の測定法 (09-01-05-03)
標準測定と校正 (09-04-03-01)
個人線量計 (09-04-03-03)
サーベイメータ(α線、β線、γ線、中性子等) (09-04-03-04)
環境集中監視システム (09-04-03-15)

<参考文献>
(1)山野俊也:放射線管理機器とエレクトロニクス技術の進歩、Isotope News、No.628、2-5(2006年8月)
(2)飯田治三、ほか:動的予測によるサーベイメータ応答の高速化、RADIOISOTOPES、Vol.56、No.7、351-357(2007)
(3)小林祐介、ほか:モニタリングポスト型全方向性γ線検出器のエネルギー応答特性、RADIOISOTOPES、Vol.55、No.1、13-20(2006)
(4)産業技術総合研究所、佐藤泰:放射能測定装置における遠隔校正技術の開発
(5)藤本敏明、ほか:大規模放射線監視システム、富士時報、Vol.77、No.5(2004)
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