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<概要>
 中国広東省陽江市の高自然放射線地域の住民約80,000人の被ばく線量は約6mSv/年である。被ばく線量約2mSv/年の対照地域の恩平および台山市の住民約80,000人と比較すると、がん死亡率(全がん)は有意には増加しない。遺伝性疾患と先天性異常の頻度は同程度である。ダウン症は前者の方が高頻度(通常の範囲内)であるが、これは母親の出産年齢の差によると解釈される。
<更新年月>
2002年10月   

<本文>
 中国南部、広東(Guandong)省陽紅(Yangjiang)市の高自然放射線地域(HBRA:High Background Radiation Area)でも中レベル線量地域である麻地村などでは、建築材料であるレンガ、泥などによる影響のため屋内線量が高く(0.39μGy/時)、屋外線量の平均1.5倍である。このため放射線による外部被ばくは屋内に居る時間が線量に影響する。夏期は屋内にいるのが0.8日、冬期は0.66日であることを考慮して外部被ばく線量は3.54mSv/年となる。内部被ばく線量は1.4mSv年である。このHBRAと社会的、人口学的条件の類似した対照地域(CA:Control Area)である恩平(Enping)市横陂仔村では、屋内環境放射線線量0.10μGy/時、屋外環境放射線線量0.06μGy/時で外部被ばく線量は0.90mSv/年、内部彼ばく線量は0.8mSv年である(図1参照)。
 放射線の生物影響としては、最も鋭敏な染色体異常誘発の研究と、生物影響の重要な指標となるがんの死亡率の研究がなされている。
 染色体異常の研究では、1)不安定型異常は高線量地域では年齢と共に有意に増加し、蓄積線量に比例する、2)安定型異常は年齢による増加は認められるが、放射線による増加は認められないことが明らかになった。
 がん死亡率の疫学研究は、約10万人の、対照集団を含む526の部落を単位とするコホート(共通の特性を持つ集団)を用いて進められている。各部落について人口学的な調査と慎重ながん診断の結果とからがんの死亡率を求め、また部落別の被ばく線量をTLD(熱ルミネッセンス線量計)による直接法と環境線量に基づく間接法を併用して求めている。その結果、HBRAとCAとを比べた全がん死亡率の相対リスクは全がん、固形がん共にほぼ1(0.99)であり、HBRAでも全がんの死亡率は有意には増加しないことが明らかになった(図2参照)。なお、喫煙・食習慣・EB(Epstein-Barr)ウィルスなど多くのがんの交絡因子について調査されたが、各線量群の間で有意な差異は認められていない。
 遺伝性疾患と先天性異常の発生率は、12才以下の子供について1975および1979年に調べられた。HBRAでは22.64×10-3(調査母数13,425人)、CAでは22.54×10-3(調査母数13,087人)で両地域間で差がない。しかし、ダウン症はHBRAで0.87×10-3(調査母数25,258人)、CAでは0.18×10-3(調査母数21,837人)で、HBRAが有意に高率である。しかし、広東の他の区域(0.60×10-3)や中国の他県(Hepei,0.39×10-3)の値と比べるとHBRAの値は通常の変動幅に入っている。出産時年齢が35才以上である母親の割合はHBRAでは12%、CAでは4.4%であるので、HBRAでの高齢出産が、ダウン症高率の原因と思われる。
<図/表>
図1 中国の高自然放射線地域
図1  中国の高自然放射線地域
図2 高自然放射線によるがん死亡率の線量効果
図2  高自然放射線によるがん死亡率の線量効果

<関連タイトル>
インドの高自然放射線地域における住民の健康調査 (09-02-07-02)
ブラジルの高自然放射線地域における住民の健康調査 (09-02-07-03)

<参考文献>
(1) Wei, L. et al.: High Levels of Natural Radiation---Radiation Dose and Health Effects, Proceedings of 4thlnternational Conference on High Levels of Natural Radiation. Elsevier (1997)
(2) Wei, L. and Sugahara, T.:High Background Radiation Area in China, Journal of Radiation Research Vol. 41, Supplement (2000)
(3) 日本原子力研究所:中国高バックグラウンド地域住民の疫学調査、低線量放射線安全評価データベース
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