<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 放射線被ばくして後、悪心又は嘔気、全身倦怠感、下血や下痢などの消化器症状を呈した後、それが原因となった脱水症電解質不均衡(体液の喪失に伴って陰・陽イオンも失われて、その結果、血清中のイオンのバランスが乱れること)によりもたらされる死である。事故または、原爆などにより5〜15Gyの線量を全身に受けた場合、腸粘膜上皮細胞の欠損が生じ(粘膜上皮細胞関門破綻)、この部位からの出血、体液の喪失が被ばく後3〜5日頃から始まる。粘膜欠落部位の上皮細胞再生の不全により出血や体液喪失が持続、さらに感染症を合併して重症度を増して被ばく7〜10日後に死亡に至る。
<更新年月>
2001年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 放射線被ばく者の臨床症状の観察から腸死症状をまとめると、被ばく後、腸管の粘膜上皮細胞に変性壊死などの退行性病変が起こり、6〜8時間で最高となる。
 壊死を起こすのは粘膜上皮細胞の幹細胞と、未分化未成熟な上皮細胞で、壊死を起こして剥離、脱落してゆく。この後を残存した上皮細胞が細胞質を偏平化して拡大して欠損部を補う。
 一方、腸絨毛の先端では生理的な脱落は続いている。再生に必要な幹細胞の増殖は一時停止したままなので、小潰瘍の発生が始まる。線量が少なければ被ばく3日後には再生が始まるが、線量が高い(5Gy以上)と再生は充分行われず、浅い潰瘍は広がり、その結果、上皮細胞関門の破綻が生じ、出血、蛋白質や電解質を含んだ体液がその部位から喪失する。
 また、この部位から細菌の侵入が起こる。本来であれば白血球が細菌の貪食などで防禦に当たるが、高線量被ばくによる造血器不全のため白血球が殆どないので細菌が侵入し、血中に移行、他臓器に移動し、菌血症(敗血症)の状態(血液内に細菌が存在している状態)が招来される。この時点で臨床的には発熱、血性下痢の持続が認められる。
 この脱水症からくる循環不全と感染症により被ばく7〜10日に被ばく者は死亡する。消化器粘膜上皮組織関門の破綻と造血器不全が合併して死がもたらされると考えられている。
<関連タイトル>
放射線の急性影響 (09-02-03-01)
放射線の造血器官への影響 (09-02-04-02)
放射線の消化器官への影響 (09-02-04-05)
放射線による骨髄の損傷(骨髄死) (09-02-04-06)
放射線による中枢神経障害(中枢神経死) (09-02-04-08)

<参考文献>
(1) E.J.Hall,(著):浦野宗保(訳):放射線科医のための放射線生物学、篠原出版(1980)
(2) L.F.Fajardo :“Pathology of Radiation injury” Masson Pub.USA (1982)
(3) 菅原努(監修)、青山喬(編著):放射線基礎医学、金芳堂(2000)
(4) 坂本澄彦:放射線生物学、秀潤社(1998)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ