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<概要>
 放射線イメージング技術とは、人間の目では直接見ることができない物体の内部の形状や機能を、放射線で映像化する技術で、古くからX線写真(ラジオグラフィ)として知られている。映像化には二つの方法がある。一つは、物体に外部から放射線を透過して、透視像として映像化する方法であり、他の一つは、物体自身から外部へ放出される放射線をもとにして物体そのものや機能を映像化する方法である。近年、放射線源や放射線検出器の開発、エレクトロニクスやディジタル技法の発展に伴って、映像化の技術は非常に進展し、X線写真の概念をはるかに超えているので、放射線イメージングと総称され、応用分野も大いに広がっている。
 ここでは、理工学・産業分野における放射線イメージング技術を中心にして、診療分野にも若干触れながら、この技術の研究開発の状況、すなわち、放射線源の開発、放射線検出器の開発、像取得のハードおよびソフトの開発、先端的な応用例、および今後の展望について述べる。
<更新年月>
2005年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 1895年暮れに、レントゲンが人の手の内部の形状を乾板上に見せたことが放射線透過像法の始まりであり、X線写真、あるいはラジオグラフィと呼ばれている。翌年春に、ベクレルがウラン塩鉱石から放出される放射線で線源像を見せたのが、放射線源像法の始まりであり、一般にオートラジオグラフィと呼ばれている。しかし、第2次大戦後、原子炉による放射性同位元素(以下RIと略称)の生産、および加速器のめざましい発展、などによって新しい放射線源が使用できるようになった。また、それに応じて、適切な放射線検出器やデータ処理ソフトが開発されてきた。これらのことによって、像を得る手法や得られた像の質が著しく進展し、放射線イメージングと総称されている。応用分野からの新しいいろんな要求を満たす形で、放射線イメージング技術は一層の発展を遂げている。以下、これらをやや項目別に述べる。
[1].放射線イメージングの手法
 放射線イメージングの手法には大別して二つの方法がある(図1)。
 (1)一つは物体の外側から放射線が入射した際、物体内部の構造や構成物質の相違による吸収(あるいは透過、場合によっては散乱、屈折、回折、位相差など)の大きさの差を用いて物質の像(主として透過像)を得る方法である。この方法は近年、X線CT(Computed Tomography)として、飛躍的な発展を遂げているが、線状あるいは扇状のX線ビームで、物体の水平面あるいはらせん状面を多くの異なる方向から走査し、測定された各X線強度から、物体の内部の像を再構成する手法である。物体の動的な像、すなわち「X線テレビ」や物体の内部の任意の点に視点を置いて見た像などを得ることも可能になっている。
 (2)他の一つの方法は、物質から放出される放射線を外部で測定し、放射線源そのものの像を得る方法で、ここでは放射線源像法と呼ぶことにする。この呼称は一般的に認知されているわけではないが分類としては実態に即している。RIで標識された線源物質にフィルムなどの面状検出器を密着して像を得るオートラジオグラフィ法や、やや離れた位置でγ線を測定するSPECT(Single Photon Emission CT)と呼ばれる方法とPET(Positron Emission Tomography)と呼ばれる方法がある。SPECTとPETはECT(Emission CT)とも呼ばれ、
(1)のX線CTをTCT(Transmission CT)とも呼んで区別している。そのほか、X線天文学やコンプトンカメラ法なども線源像法の分類に入れることができる。
[2].放射線検出器の開発
 ラジオグラフィーの時代の放射線検出器はほとんど写真乾板や写真フィルムである。20年ほど前に我が国で開発されたイメージングプレート(IP)は、X線フィルムと比較して百倍以上の高感度を有し、位置分解能もX線フィルムにほぼ匹敵する。露出後直ちに読出して、ディジタル情報として保存できる。この検出器の出現は放射線写真の概念を一変させ、実質的なディジタルラジオグラフィ時代を到来させた。X線診断、X線回折実験、など今までX線フィルムを使用していた分野で多用されている。極めて特殊な応用例ではあるが高感度を利用して生体内等に含まれる極微量の自然放射能分布の測定例を示す(図2)。
 また、X線検査像を動的に観察するためにX線用カメラが開発された。これにはX線II(Image Intensifier)と呼ばれるもの、あるいはディジタルカメラで多用されているCCD(Charge Coupled Device)とX線IIを結合させてディジタル信号として読出しの出来るものがある。また、この検出システムの延長として、ディジタルカメラの光の検出手法を放射線検出の分野に活かしたフラットパネル検出器と呼ばれる検出器が実用の域にほぼ達している。この検出器にもいくつかの方式があるが、いずれも40cm×40cm程度の大きさを有し、放射線検出器部分と前述のCCD方式的な信号読出し部分からなっている。フラットなパネル状をしているのでフラットパネル検出器と呼ばれる(図3)。この検出器を含むX線カメラの出現は、位置分解能の非常に良いリアルタイムイメージングを可能にしている。また、X線CTにおける必要性から、多数の小型固体放射線検出器を並べた検出効率の高い検出器群が開発された。X線CTにおいては欠かせない検出システムである。
 これまで述べて来た放射線検出器は放射線強度を電流として測定する方式で、放射線の数を計数する方式ではない。しかし、SPECTやPETではあまり強度が強くないことから、また同時計数の必要性からγ線の数を計数しなければならない。このための検出器の開発には、現在がんの診断などでもてはやされているPETの次世代の装置の主導性を確保するために、先進各国で大きな努力が払われている。2次元の検出システムを3次元のシステムにしようとしており、我が国はその先端を走っているといえよう(図4)。
 極微小領域を対象としたものではあるが、放射線飛跡検出の手法と原子間力顕微鏡の手法を組み合わせた方法などもある。
[3].放射線源の開発と関連したいくつかの応用
 X線源に関しては、レーザー生成プラズマからの軟X線顕微鏡がある。生物試料中に含まれる炭素原子の分布イメージングを行い、光学顕微鏡と電子顕微鏡の中間程度の高分解能(数十nmの程度)で観察できる(図5)。極微小焦点を持ったマイクロフォーカスX線源の開発は、ますます微細化するエレクトロニクス素子や昆虫等小生物の微視的観察を可能にしている。微小焦点で強度の高いファンビーム状のX線源や加速器を用いたエネルギーの高いX線源の開発は、工業用X線CTの実用化をもたらした(図6)。空港などにおける手荷物の検査にいわゆるX線カメラが使われているが、食品検査、精密工業品の品質向上などの目的にも使われるようになっており、最近では加速器を使った高エネルギーX線を用いて、税関などにおけるコンテナ車の中身の迅速検査などにも使われている(図7)。X線CTにおいては、特に医用の分野においてソフトの開発が盛んで、単に断面を見せたり、外からの視点の位置を変えて見るだけでなく、視点を被検体の内部に置いて、その位置を自由に動かすことのできる仮想化内視鏡システムVES(Virtual Endoscopy)がある(図8)。またX線CTを動的な対象にまで広げた4次元CTの開発もなされている。
 原子炉によって作られる中性子ビームは中性子ラジオグラフィーとして、水素などの軽元素を含む物質の挙動の撮影に活躍しつつある。最近は植物の水生理の研究に大いに使われつつあるが、詳細は関連タイトルに譲る。原子炉で製造されるγ線源はγ線ラジオグラフィに活用されている。国産の線源には192Irや169Ybなどがある。前者は定期的な配布システムができている。後者の線源は薄物の溶接の検査に大量に使われた。99mTcmのような医用RIはSPECTに多用されてがんの診断に威力を発揮し、医用におけるRIイメージングの本格的な到来をもたらした。加速器(主として小型サイクロトロン)によって生産されるポジトロン(陽電子)放出核種(11C,13N,15O,18Fなど)は医用への利用が極めて盛んであるが、小型小動物、植物などの研究にも用いられている。
 シンクロトロン放射光はほとんど完璧な平行性、偏光性、可干渉性、回折結晶と組み合わせた単色性、など従来にないX線の特性を有するため、新しい応用の研究が盛んである。放射線イメージングの分野においても、屈折(図9)や暗視野法(図10)を利用した新しい応用がなされつつある。
 直径1μm以下の荷電粒子ビーム線源の開発は、荷電粒子照射によって発生する特性X線分析、すなわちPIXE (Particle Induced X-ray Emission)法において、イオンビームを走査することによる元素マッピングを数μmの位置分解能で可能にしている。また、荷電粒子の弾性散乱を利用したRBS(Rutherford Backscattering Spectroscopy)は数nm程度の高分解能で、深さ方向の元素マッピングを可能にしている。これらの質の高い荷電粒子ビームはユニークな応用をもたらす。
[4].今後の展望
 検出器:放射線イメージングに関する限り、フラットパネルのように、大面積を多くのピクセル(小さな検出素子)で埋め尽くし、それぞれからの放射線検出情報を瞬時に読み出す検出器が主流となるであろう。その中では、S/N比の良い計数方式が優れているためその開発研究がなされているが、測定時間を短縮するには電荷方式も大いに価値がある。また、数百keV以上のより高エネルギーの放射線の検出のための工夫も必要である。
 放射線源:加速器の小型化の研究が積極的になされているが、通常のX線源に加えて、加速器放射線(高エネルギー放射線やシンクロトロン放射線、荷電粒子放射線、時間変調放射線など)の一層の実用化が期待できる。PET核種の入手もより容易になると思われる。完成間近い50GeVの大強度陽子加速器(J-Parc)は新しいイメージング法をもたらすかもしれない。
 他の手法との併用:医療診断の分野でPETとX線CTの併用が行われて効果を挙げているように、異なるイメージングの手法の併用は、それぞれの手法の特長を活かし、かつ欠点を補い合うように使うことが可能である。
 しかし、今後の発展を支えるものは、何よりも応用からの要望である。ことに「こんなことが出来ればいいなあー」という夢想にも近い人の想像力、強い願望である。それに向かっての技術進展の努力はやがては夢想の現実化を可能にする。
<図/表>
図1 放射線イメージング技術の二つの方法
図1  放射線イメージング技術の二つの方法
図2 イメージングプレートによる自然放射能分布の測定例
図2  イメージングプレートによる自然放射能分布の測定例
図3 フラットパネルX線検出器の一例
図3  フラットパネルX線検出器の一例
図4 PETシステムの原理図および2次元(2D)モードと3次元(3D)モードの相違の説明図
図4  PETシステムの原理図および2次元(2D)モードと3次元(3D)モードの相違の説明図
図5 レーザー生成プラズマ軟X線顕微鏡とマイクロフォーカスX線源の原理とそれぞれの応用
図5  レーザー生成プラズマ軟X線顕微鏡とマイクロフォーカスX線源の原理とそれぞれの応用
図6 X線CTの産業利用
図6  X線CTの産業利用
図7 コンテナ貨物用大型X線検査装置によるコンテナ内容物検査
図7  コンテナ貨物用大型X線検査装置によるコンテナ内容物検査
図8 X線CTにおける仮想化内視鏡システム
図8  X線CTにおける仮想化内視鏡システム
図9 シンクロトロン放射光を用いたX線屈折コントラスト法の原理図と得られた像
図9  シンクロトロン放射光を用いたX線屈折コントラスト法の原理図と得られた像
図10 X線暗視野法の説明図と得られた像
図10  X線暗視野法の説明図と得られた像

<関連タイトル>
X線診断 (08-02-01-01)
PETの原理と応用 (08-02-01-04)
中性子ラジオグラフィの原理と応用 (08-04-01-01)
中性子イメージングプレートとその応用 (08-04-01-02)
工業用ラジオグラフィ(放射線透過試験) (08-04-02-03)

<参考文献>
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