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<概要>
 家畜飼料に用いられている魚粉や骨粉などにはサルモネラ菌や大腸菌などで汚染されているものが多く、幼動物などの病気の原因になっている。また、輸入穀類には毒素を産生するカビや外来雑草種子が混入していることが多く家畜や農業に被害をもたらしている。家畜飼料を5kGy(キログレイ)照射することによりサルモネラ菌や大腸菌、カビなどが殺菌され、外来雑草種子も不活性化される。
 実験動物は医学や食品等の安全性試験などで役立っているが、衛生管理の上から飼料の殺菌処理が必要である。放射線での殺菌(25〜50kGy)は蒸気またはエチレンオキサイドガスに比べて動物の生育が良好であり、多くの国で実用化されている。わが国でも30年以上にわたり実用化されており、照射食品の安全性を証明する一つの証拠になっている。
<更新年月>
2001年11月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.飼料をめぐる問題点
 魚粉や骨粉、肉粉などの飼料用原料にはサルモネラ菌や大腸菌などの病原性細菌で汚染されているものが多く、家畜の幼動物や雛などの病気の原因になっている。この対策として、抗生物質が大量に用いられているが、これが薬剤耐性菌を誘発して医療の上で大きな問題になっている。飼料に用いられるトウモロコシなどの穀類原料の多くは海外からの輸入に依存しているが、アフラトキシンなどのカビ毒を産生するカビで汚染されていることが多い。カビ類の多くは水分含量15%前後で増殖するため、カビ毒が原因での家畜の病気が発生することがある。また、飼料にカビが発生すると飼料としての栄養価が著しく低減する。穀類原料などには日本に分布していない外来雑草種子も混入していることが多く、家畜の糞を通じて農地に散布され、農業や家畜に大きな被害を与えている。
 実験動物は医学、生理学、栄養学、食品等の安全性試験などの進歩に重要な役割を果してきている。実験動物の場合には、実験材料としての均一性、基準化の上で微生物感染がない状態が望ましい。実験動物は微生物学的質の程度によって、1)無菌動物、2)ノートバイオート(Gnotobiotes;体内に既知の微生物を1種以上有している)、3)SPF動物(Sphecific Pathogen Free;病原菌を保有していない)、4)通常の動物、に分類する事ができる。この中で、通常動物以外は隔離方式または閉鎖方式の無菌環境下で飼育されているため、飼料の無菌化が必要である。また、通常動物飼料もサルモネラ菌などの病原菌を殺菌しておくことが望ましい。
2.飼料の放射線処理効果
 家畜用配合飼料には1g当たり十万から百万個の微生物で汚染されており、カビによる汚染も著しい。カビ類や大腸菌群は 図1 に示すように5〜6kGyで殺菌されるが、一般細菌は10kGyでも多く生き残っている。しかし、配合飼料の場合、高線量で生き残っている細菌類は病原性のない植物共生菌である。なお、配合飼料を5kGy照射して貯蔵するとカビの発生が抑制された。魚粉や骨粉などにはサルモネラ菌や大腸菌で汚染されているものが多く、サルモネラ菌は250g当たり1〜20個、大腸菌は1g当たり4〜10万個検出されることがある。魚粉中でのサルモネラ菌や大腸菌の殺菌効果はほぼ同じであり、 図2 に示すように5〜6kGyでほぼ殺菌され、8kGyで完全に殺菌される。外来雑草種子は 表1 に示すように1kGyでは発芽し成長するものがあったが、2kGyで繁殖能力が失われた。これらの結果から、放射線処理は配合飼料の段階で行うのが望ましく、5kGyの放射線処理により病原菌やカビの殺菌及び外来雑草種子の不活性化が可能である。なお、狂牛病原体のプリオンはタンパク質の一種で放射線に著しく耐性のため、牛や羊の解体廃棄物は飼料原料に用いるべきではないであろう。
 実験動物用飼料は一般にはペレット化されており、加工時に70〜80℃で短時間加熱されているが、1g中に千〜百万個の微生物で汚染されている。以前は、実験動物用飼料の殺菌は高圧蒸気殺菌やエチレンオキサイドガス殺菌が行われていた。しかし高圧蒸気殺菌はペレット状飼料を硬化させるため幼動物の哺育が悪くなり、嗜好性や成分変化を引き起こす。またエチレンオキサイドガス殺菌の場合には殺菌効果が不十分だけでなく、ビタミンやアミノ酸などの栄養分を分解させたり残留ガスによる毒性の問題、産児数の減少が報告されている。このため放射線殺菌が注目されるようになった。 図3に示すようにガンマ線による飼料の殺菌曲線および滅菌指標菌の生存曲線から完全殺菌線量を求めると25〜35kGyとなり、安全を見越して50kGy照射することもある。また飼料中のサルモネラ菌などの病原菌を殺菌するには5〜10kGyで十分である。
3.飼料への照射の影響
 1977年10月にブルガリアで開催されたFAO(国連食糧農業機関)・IAEA(国際原子力機関)の「飼料の放射線処理に関する専門家会議」では、飼料中の蛋白質は放射線を受けても変化せずに安定であり、70〜100kGy照射してもアミノ酸含量はほとんど変化せず、60kGy以上でリジンが若干減少することがある程度であること、ビタミンについても、 表2 に示すように、熱処理より放射線の方が安定であることが明らかになった。一方、133℃での加熱処理では蛋白質の消化率が50%近く減少する。ハンガリーの報告では、25kGy照射により飼料中のビタミンの分解量は、カロチン13%、ビタミンA22%、ビタミンE5%、ビタミンC21%であるが、120℃・20分の加熱後にはビタミンA53%、ビタミンE44%、ビタミンC100%が分解したという。脂肪は放射線により酸化されやすいが、30kGy程度の線量では過酸化物価の増加はそれほど著しくない。また、加熱処理の場合でも脂肪の酸化が著しく起ることが報告されている。動物試験についても、例えば三共(株)の岩藤らがSPFラットを用いて飼育試験した結果では、30kGyおよび60kGy照射した飼料の方が、120℃・20分加熱したものより明らかに生育が良好であった( 図4 )。武田薬品工業(株)の結果でも、SPFラビットを33kGy照射した飼料で飼育した場合には生育が良好で繁殖率も良かったが、121℃・20〜40分加熱処理した飼料では死亡率が増加したという。これら栄養成分の変化および動物飼育試験の結果を総括して、本専門家会議は、50kGy程度の照射は飼料になんらの悪影響を与えないとの結論を出した。その後も、(財)実験動物中央研究所などでも、ラットなどによる照射飼料の栄養価の評価、飼育試験が行われ、放射線殺菌法が優れていることを確認している。
 家畜飼料の栄養価に及ぼす照射の影響については、農林水産省畜産試験場で白色レグホンの雛について検討し、照射による悪影響が認められないことを明らかにしている( 表3 )。
4.実用化の現状
 家畜用飼料の放射線処理はオランダなどで実用化されているが、特殊の目的に限られているようである。しかし、2001年に米国食品医薬品局が家畜用飼料の放射線殺菌を認可したため、今後、世界各国で実用化されていくものと思われる。わが国でも家畜用飼料の放射線処理の実用化を希望する動きがでてきている。家畜用飼料の放射線処理の認可は農林水産省の管轄でありすでに許可要請が行われているようである。
 なお、日本でも実験動物用飼料の放射線殺菌は1970年ころから実用化されており30年以上の実績がある。処理量は年間400〜500トンであり安定した需要があるようである。多くの先進国でも実験動物用飼料の殺菌は放射線で行われており、これらの長年にわたる実績は照射食品の安全性を証明する一つの根拠になっている。
<図/表>
表1 外来雑草種子の放射線による不活性効果
表1  外来雑草種子の放射線による不活性効果
表2 実験動物用ペレット状飼料中のビタミン含量の変化
表2  実験動物用ペレット状飼料中のビタミン含量の変化
表3 照射飼料の白色レグホン雛の栄養価に及ぼす影響
表3  照射飼料の白色レグホン雛の栄養価に及ぼす影響
図1 家畜用配合飼料の放射線殺菌効果
図1  家畜用配合飼料の放射線殺菌効果
図2 乾燥魚粉中でのサルモネラ菌の殺菌効果
図2  乾燥魚粉中でのサルモネラ菌の殺菌効果
図3 実験動物用ペレット状飼料の殺菌効果
図3  実験動物用ペレット状飼料の殺菌効果
図4 ラットの体重増加曲線
図4  ラットの体重増加曲線

<関連タイトル>
食品に対する放射線照射(食品照射) (08-03-02-01)
放射線の種類と生物学的効果 (09-02-02-15)
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
国連食糧農業機関(FAO) (13-01-01-20)

<参考文献>
(1) Decontamination of Animal Feeds by Irradiation: STI-TUB-508,IAEA, Vienna, 1979
(2) 伊藤 均:飼料の放射線滅菌の現状、放射線と産業、No.24、19-23(1983)
(3) 伊藤 均、久米民和、武久正昭、飯塚 廣:配合飼料中の微生物分布と放射線殺菌効果、農化、55(11)、1081-1087(1981)
(4) 伊藤 均、A. Begum、久米民和、武久正昭:飼料用魚粉の微生物分布と放射線殺菌効果、農化、57(1)、9-16(1983)
(5) 高谷保行、伊藤 均:外来雑草種子の繁殖防止を目的とした放射線照射効果、食品照射、34(1,2)、23-29(1999)
(6) 土黒定信、武政政明、伊藤 均、久米民和:飼料の放射線処理が殺菌効果および雛に対する栄養価に及ぼす影響、畜産試験場研究報告、No.40、57-64(1983)
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