<本文>
1.設立の経緯と目的
国連(UN)の専門機関の1つである国連食糧農業機関(FAO: Food and Agriculture Organization of the United Nations)は、旧国際連盟の万国農業協会の事業と資産を引き継ぎ、1945年にカナダのケベックで採択されたFAO憲章に基づいて設立(1945年10月16日、日本は1951年に加盟)された。その目的は、食糧、農産物の生産加工、流通の改善、栄養水準の向上と農村住民の生活向上を図り、飢餓をなくすことである。
2.任務
(1)栄養、食糧及び農業(漁業、林業を含む)に関する資料の収集、分析、解明、配布
(2)次の事項の達成に必要な国内的及び国際的措置の促進並びに勧告
a.栄養、食糧及び農業に関する科学的、技術的、社会的及び経済的研究
b.栄養、食糧及び農業に関する教育及び行政の改善並びに栄養及び農業の科学とその実践に関する一般知識の普及
c.天然資源の保全の保全及び農業生産性の改善された方法の採用
d.食糧及び農産物の加工、販売及び配分の改善
e.十分な国内的及び国際的農業金融を供与する政策の採用
f.農産物商品協定に関する国際的方針の採択
(3)各国政府が要請する技術援助を供与すること/連合国食糧農業会議の勧告及びFAO憲章の受諾により生ずる義務を果たすため、関係国政府と協議して同政府を援助するのに必要な使節団を組織すること及び憲章前文に述べられている機関の目的を達成するために必要かつ適当な全ての措置をとること
3.組織機構
FAO加盟国(国際機関を含む)は2004年現在、187カ国と国際機関の欧州共同体(EC)であり、本部はイタリアのローマに設けられている。地域別加盟国等を
表1−1、
表1−2及び
表1−3に示す。これら加盟国代表で構成される総会が最高決定機関であり、2年ごとに開催され、各種政策の決定と予算の承認を行う。また、総会で選出される49カ国の代表によって理事会が構成され、農産物の生産、消費、流通について各国政府に対し協力、助言する。また理事会の下に本部事務局と6カ所の地域事務所が設けられている。2005年1月現在の組織を
図1に示す。
4.主な事業活動
FAOは、人類の栄養および生活水準の向上、食糧および農産物の生産および分配効率の改善、土壌と水利の改善、肥料・農薬の合理的利用、食糧・農業における情報の収集および加盟国への提供、各種プロジェクトの推進等の分野で広範囲の活動を行っている。その中でも、次の活動はFAOの特徴をいかんなく発揮し、効果を上げている。
(1)世界食糧安全保障委員会(Committee on World Food Security)
食糧の適切な供給、市場の安定、食糧備蓄の確立の活動を行う。また、食糧緊急事態に備えて、情報提供と援助国への要請を行う。
さらに、近年、ますます深刻化しているアフリカの飢餓問題の解決のため、1985年の国連第23回総会で、世界各国政府がアフリカの飢餓と闘うことを宣言した「世界食糧安全保障条約」が採択されたことを受けて、FAOが、アフリカのエチオピア、スーダン、ソマリア、ケニア等での食糧緊急事態に対処する活動を行っている。
1996年には、世界各国からの首脳レベルを含む代表が参加して世界食糧サミットがローマで開催され、世界の栄養不足人口を2015年までに半減させるとの目標が書き込まれた「世界食糧安全保障に関するローマ宣言」と「世界食糧サミット行動計画」が採択され、そのフォローアップが本委員会において行われることなった。
2002年には、「世界食糧サミット5年後会合」がローマで開催された。栄養不足人口は、過去数年で、東アジアでは減少しているが、アフリカ、南アジアではむしろ増えていることから世界的な減少率は低く、このままで推移すれば、2015年迄に半減するとの目標の達成は困難と見られ、今後の確実な取り組みに向けた政治的意思が再確認された。
(2)FAO/WHO合同食品規格委員会(FAO/WHO Codex Alimentarius Commission)
FAOは世界保健機関(WHO)と共同して食品の規格基準(
国際食品規格:Cordex
Alimentarius)を制定するなど、食品衛生推進の活動を行っている。
この国際食品規格は、一定の形式によって表され、国際的に採択された食品規格の集大成であり、消費者の健康を保護し、食品の取引における公正な慣行を確立し、国際貿易を発展させることを目的としている。食品規格の範囲は、消費者に提供販売される加工、半加工または生鮮の主要な食品すべてに対する規格を含み、また食品衛生、食品添加物、残留農薬、食品表示、分析及びサンプリング法に関する項も含む。委員会では、今後も、規格の制定・充実等に継続して取り組む。
5.FAOとIAEAの食糧・農業プログラム
食糧生産の向上、食糧損耗の防止、環境の保護といった農業の研究開発に原子力技術を利用することについては、FAOは、国際原子力機関(IAEA)と共同のプログラムを持ち、共同で活動している。このFAOとIAEAの共同プログラム(The Programme of the Joint FAO/IAEA、略してJoint FAO/IAEA)では、原子力技術と生物科学的手法による農産物の生産性改善と食糧保存、環境問題に焦点が置かれているが、その主な内容は以下のとおりである。
(1)土壌の肥沃化、灌漑および作物生産
・生物学的な窒素固定の最適化(細菌等の微生物による空気中の窒素の有機および無機窒素化合物への効率的な転換へのアイソトープ利用)、作物への水供給条件の検討および灌漑等でのアイソトープ利用
(2)放射線による植物の育種と遺伝学的改良
・発展途上国における主要作物の品種改良(耐病性、耐高温性、高地適応性、早生種、等)
・穀類等の放射線による
突然変異と遺伝子操作技術による新品種作成
(3)家畜の増殖
・アイソトープによる標識免疫検定法(RIA)の家畜生殖管理への応用
(4)放射線による害虫の不妊化
・ラセンウジバエ、ツエツエバエ、ミバエ等の不妊化による撲滅および畜産物・青果物の増収および病害防止
(5)アイソトープ利用による農薬と残留殺虫剤のモニタリングと処理
(6)食品照射
FAOの試算によれば、世界的にみて全食糧生産の約25%が収穫後に害虫、バクテリア、ねずみによって損耗している。食品照射に対して各国が関心を示すのは、害虫汚染、微生物汚染、腐敗により常に高い割合で食品が損耗していること、食品に由来する疾病に対して大きな不安を抱いていること、食品の貿易は拡大しているがこれらは品質と検疫に関わる厳しい輸入基準に適合しなければならないこと、などである。 これらの問題の解決には食品照射が有効である。IAEAの資料(
表2)によれば、2003年4月現在、食品照射の実用国数は31カ国で、開発途上国(ここでは、0ECD非加盟国であって旧ソ連・一部の東欧等の国を除く国とする)でも食品照射の実用化が進んでいる。
FAOとIAEAの共同プログラム(Joint FAO/IAEA)では、各国政府の協力を得て、継続して以下のプログラムを進めている。
・食品照射の工程管理と検知技術の開発
・発展途上国における食品照射技術の実証試験
・寄生虫および病原菌による被害の低減と衛生化対策
・国際間貿易での照射食品の流通および検疫処理への放射線処理の応用促進
6.スマトラ沖大地震による
津波
2004年12月26日に発生したスマトラ沖大地震による津波に関して、FAOはその任務に鑑(かんが)み、ホームページに「tsunami」(津波)サイトを立ちあげ、ここで、概算200万人が食糧援助を必要としていると推測し、援助は、農業と漁業をこの大災害から回復させる可能性を持っている、と訴えている。また、食物供給状況はさらに悪化するとの懸念も示している。
<図/表>
<関連タイトル>
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
世界保健機関(WHO) (13-01-01-21)
<参考文献>
(1) 国連食料農業機関(FAO)
http://www.fao.org/
(2)FAO(国連食糧農業機関)日本事務所
(3)外務省総合外交政策局国威社会協力部(編集):国際機関総覧2002年版、(財)日本国際問題研究所(発行)、p.300-317,320-323
(4)The Joint FAO/IAEA,
(5)The Department of Nuclear Sciences and Applications,
(6)FAO membership (188) as at 3 December 2003,
(7)FAO Member Nations by region for Council election purposes,
(8)食品照射の実用国及び実用照射品目(2003年5月末現在)
http://www.jaif.or.jp/ja/permission0305.pdf
(9)日本原子力研究所高崎研究所食品照射データベース
(10)国連食糧農業機関(FAO)、
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fao/index.html
(11)FAO津波、
http://www.fao.org/tsunami/