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<概要>
 放射性医薬品には、診断用と治療用がある。診断用には脳・心臓・腎臓・肝臓・肺・骨などほぼ全身の臓器ごとに特異的に集積する薬剤があり、対象とする疾患は、がん、脳・心臓の局所循環器系の障害、炎症、臓器の機能不全など様々である。治療用にはがん、腫瘍への抗原・抗体反応を利用したモノクローナル抗体標識化合物によるβ線、α線を利用する医薬品やがん疼痛軽減用医薬品が開発されている。体内に投与して使用するインビボ診断薬の使用量は近年増加しているが、体外検査で使用するインビトロ診断薬の使用量は減少している。
<更新年月>
2013年02月   

<本文>
1.放射性医薬品の定義と分類
 放射性同位元素(ラジオアイソトープ(RI))及びその標識化合物のなかで、診療に利用される元素単体や化合物を一般に放射性薬剤と称している。その中で、日本薬局方、放射性医薬品基準及び放射性医薬品製造規則に収載されたものを放射性医薬品と呼ぶ。
 わが国において、こうした放射性医薬品の使用施設数は、2011年度において1,273施設あり、うち、インビトロ診断薬の使用は26施設、インビボ診断薬の使用は1,259施設である。
 放射性医薬品は、大別して低・中エネルギーのγ線を放出するRIで標識した化合物を有効成分として診断を目的とするものと、一般にβ線を放出するRIを有効成分として治療を目的とするものに分類される。診断用医薬品には、更に体外診断用として利用されるインビトロ診断薬と患者に投与して核医学画像診断に利用されるインビボ診断薬がある。
(放射性医薬品の供給量の詳細はATOMICA「アイソトープ等流通統計2012 <08-01-04-08>」を参照。)。
2.診断用医薬品
2.1 インビトロ診断薬
 インビトロ診断薬は、放射線(γ線)検出の感度が高いという特性を生かし、一般的な化学的方法では検出が不可能な血液や尿などに含まれる微量成分を、放射線の測定により体外で定量して病気の診断を行うものである。具体的には、ホルモンその他の生理活性物質、腫瘍関連抗原、ウィルスやそれに対する抗体薬物などの検出に使用されている。ここで用いられているRIは59Feもあるが、ほとんど125Iである。近年インビトロ診断薬の多くは、蛍光発光などの放射線以外の検出法を利用したものに代わりつつある。したがってインビトロ診断薬としての放射性医薬品の供給量(単位:MBq、以下同じ。)は、ここ数年減少を続けており、2011年度は前年度比5.7%減少した。なお、59Feの供給量は安定しており前年度とほぼ変わらなかった。また、テストチューブ(試料管)の全供給数は1,138万本で前年度比3.9%減少している。前年度に比べてテストチューブの供給数が増加した主な検査項目は、血液・造血機能(3.3%増)及び性腺・胎盤機能(0.7%増)であった。
2.2 インビボ診断薬
 インビボ診断薬は、RI標識化合物を直接人体に投与し、放射能の組織内分布やその経時的変化を測定することにより、各臓器の機能診断を行うために使用される。インビボ診断薬に用いられる放射性同位元素は、人体に対する放射線の被ばく量をできるだけ低減するために、半減期が数時間から4日程度で、放出γ線のエネルギーが80〜510keVにある99mTc、99Mo-99mTc(G:ジェネレータ)、123I、201Tl等がここ数年多く使用されている。中でも99mTcは、物理的特性に優れていること及び化合物を変えることによって脳、甲状腺、骨、心臓、肝臓、腎臓など多くの臓器の機能診断ができることから最も広範囲に、かつ桁違いに大量に使われている。2011年度の99mTc及び99Mo-99mTc(G) の供給量は、インビボ診断薬全供給量の81%を占めている。なお、2010年度に比べ99mTcの供給量は12.4%減少、99Mo-99mTc(G) の供給量は45.7%増加している。
 18F( 18F-FDG(*1))は2011年度も順調に伸びを示し、前年度比10.6%増加した。また、123I及び131Iは前年度比それぞれ3.5%、6.6%増加した。89Srは前年度比10.7%増加したものの、90Yは前年度比31.3%減少した。
 99mTcは、既に標識された99mTc溶液製剤を医薬品メーカーから入手して使用する場合が多い。また、親核種モリブデン99(99Mo)が壊変してできる99 Mo-99mTc(G) を使用する場合、病院などにおいて必要なときに容易に調製できるという利点がある。患者に投与されたRI標識化合物は、疾患に対応して特有の分布を示すので、これをシンチレーションカメラやシングルフォトンCT(SPECT)装置で画像化して診断に使用する(図1図2参照)。
2.3 陽電子放出診断薬
 炭素、窒素、酸素、フッ素は生体構成元素であり、これらの放射性同位元素である11C、13N、15O、18Fなどの陽電子(ポジトロン)放出核種は、サイクロトロンで生産でき、種々の生体活性物質やその誘導体、薬物薬剤などを直接標識することができる。18F(18F-FDG)の供給量は2011年度も順調な伸びを示し、前年度比10.6%増加した。また、123I及び131Iの供給量は前年度比それぞれ3.5%、6.6%増加している。
 陽電子放出核種(positron emitter nuclide)は、物質中の電子と対消滅するとき511keVの2本のγ線を180度反対方向に放出する。この2本のγ線の双方に対応して配置した検出器の計数から病変部の大きさ、形状などの情報を得ることができるポジトロンCT装置(陽電子コンピューテッド・トモグラフィPET装置とも言われている)が開発され、人体のいろいろな生化学的な情報や脳機能の動態挙動の診断に利用されている(図3参照)。これらの陽電子放出核種は、いずれもその物理的半減期が非常に短い(例えば125Iは2分〜110分)ことから、必要に応じ病院などの施設に置かれたサイクロトロンで生産され、標識化合物の合成、製剤化及び品質管理が行われている。
 これらのインビボ放射性医薬品を用いて行われる核医学診断は、X線CTやMRI等の他の画像診断法での形態学的情報に対し、機能情報が得られることが最大の特徴であり、測定感度も優れていることから診断精度の向上に大きく寄与している。このような利点があるため、インビボ診断薬の使用量は年々増加を続けている。
3.治療用放射性医薬品
 治療用放射性医薬品の使用の歴史は古いが、現在、日本で広く使用されている治療は、131Iが放出するβ線を利用した転移性甲状腺がんや甲状腺機能亢進症の治療のみである。しかし、近年、β線やα線を放出するRI(211Atなど)で標識したモノクローナル抗体によるがん治療、悪性活性腫などに特異的に集まるRI標識医薬品(131I-MIBGなど)、転移がんの疼痛軽減に有効なRI治療製剤(89Srなど)などの研究開発が進展している。89Srの供給量は2011年度において前年度比10.7%増加したものの、90Yの供給量は前年度比31.3%減少している。
4.使用施設と廃棄物
 2011年度における放射性医薬品の使用施設数は1,273施設であり、前年度より8施設減少した。また、2011年度のアイソトープ廃棄物の集荷本数は8,954本(200Lドラム缶換算)であった。アイソトープ廃棄物の年間集荷数量は減少傾向が続いており、集荷数量減少の主な理由は、研究分野において非密封アイソトープの利用が減少していることである。
[用語解説]
(*1)18F-FDG(フルデオキシグルコース)とは、グルコースの2位の水酸基を陽電子(Positron)放出核種であるフッ素18で標識した放射性医薬品のことをいう。
(前回更新:2005年2月)
<図/表>
図1 骨シンチグラム
図1  骨シンチグラム
図2 心筋梗塞SPECT像
図2  心筋梗塞SPECT像
図3 脳腫瘍のPET診断画像
図3  脳腫瘍のPET診断画像

<関連タイトル>
放射線利用に関する統計 (08-01-04-02)
医療分野での放射線利用 (08-02-01-03)
RIミサイル療法 (08-02-02-11)

<参考文献>
(1)(社)日本アイソトープ協会:アイソトープ等流通統計2004 集計期間 平成15年4月1日〜平成16年3月31日
(2)日本原子力研究所 高崎研究所・東海研究所(編):放射線利用研究の現状、付録,p.14(1997)
(3)遠藤 啓吾:18F - FDGと89Srによる骨転移の核医学診断と治療、骨転移 病態・診断・治療、13(1),1-7,(1997)
(4)WWW Text Book of Nuclear Medicine,群馬大学核医学画像医学科(1998.4)
(5)公益社団法人本アイソトープ協会:アイソトープ等流通統計2012
(6)中村吉秀:医療用モリブデン—利用側から見た現状と供給見通し、エネルギーレビュー、2012.5
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