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<概要>
 放射性同位元素(以下「RI」)の利用方法には、密封RI利用と、非密封RI利用とがある。放射線障害防止法に基づくRI使用事業所数は年々増加していたが、この10年間は減少傾向にある。利用形態では、密封RI利用が総利用数の60%以上を占めており、近年、密封RI線源の利用は増加傾向を示している。60Co密封線源の利用は、医学利用と工業利用とに区分することができる。医学利用で、近年、急激に増加しているものにガンマナイフがある。工業利用では、医療用具の滅菌を中心とした放射線滅菌用線源が増加傾向を示している。国内では、60Co大量線源は放射線滅菌を中心として12施設で使用されている。注射針、注射筒等の医療用具の滅菌照射だけではなく、食品照射、害虫の不妊化処理など、北海道から沖縄まで幅広く利用されている。近年、真空採血管の滅菌処理の必要性が求められる等、放射線滅菌施設を中心として、60Co大量線源の需要が増加している。また、滅菌用放射線源等は、テロの対象にされることが考えられるため、適切な線源管理体制を整えることが求められている。
<更新年月>
2006年08月   

<本文>
1.放射性同位元素(RI)使用事業所数
 RIは、私たちの豊かな生活を支える身近な生活用品の製造現場、私たちの命を守る医療現場、また、高度な研究開発を支える教育・研究分野等において、広範囲に利用されている。RIの利用方法には、RIをステンレスカプセル等に封入し、RIから放出されカプセルを透過してくる放射線を利用する密封RI利用と、カプセル等に封入されていない固体、液体、気体状のRIから放出される放射線を利用する非密封RI利用とがある。非密封RIは、RIから放出される放射線を高感度で検出できるので主に研究、教育、医療分野で用いられており、密封RIは、放射線が物質と様々な相互作用をするという性質を利用して主に医療、工業分野で用いられている。しかし、大量の放射線は人体に悪影響を与えることが知られており、RIの取り扱いは「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(以下「放射線障害防止法」)の規制の下で行われている。同法が施行されて以来、使用許可を取得し、または届出によりRIを使用している事業所数(放射線発生装置の使用を含む)の推移を図1に示す。放射線障害防止法に基づく利用を開始して以来、使用事業所数は年々増加を示していたが、この10年間は減少傾向にある。医療機関及び教育機関における利用はほぼ現状維持の状態である。しかし、研究現場でRIに変わる測定技術が向上し、規制の厳しいRI利用が敬遠されるようになったため、研究機関における利用が減少傾向を示している。
 2005年度(平成17年度)末における使用事業所の機関別の利用形態である非密封RI利用、密封RI利用及び放射線発生装置の利用の割合を図2に示す。利用形態では、密封RI利用が総利用数の60%以上を占めている。特に、民間企業では密封RI利用が90%以上を占めている。
2.密封線源の利用状況
 近年、密封RI線源の利用は増加傾向を示している。2003年(平成15年)から医療機器として販売を開始した前立腺がんの治療に使用される125Iを用いた永久挿入用シード線源が急激に増加している。各種のがんの治療に使用される近接照射治療192Ir Remote After Loading System (192Ir RALS)用線源は一定の割合で増加している。また、工業用非破壊検査に利用される192Ir線源は安定的に利用されており、2005年(平成17年)6月に施行された「改正放射線障害防止法」により、移動使用することのできる数量が増加したため、さらに利用範囲の拡大が期待されている。また、非破壊検査用には、169Yb線源も利用されている。一時期、急激に増加した137Cs血液照射装置は、必要とされる施設への納入がほぼ終了し、使用される線源の半減期が長く線源交換の必要がないため、近年の線源の納入実績は無い。
3.60Co密封線源の利用状況
 60Co密封線源の利用は、医学利用と工業利用とに区分することができる。医学利用では、テレコバルトと呼ばれる遠隔がん治療装置が長年利用されてきたが、近年、直線加速器等の増加により減少してきており、主に、減衰した線源の交換のみが行われている。同様に、60Co RALSは利用の容易さから192Ir RALSへ移行しており、60Co RALS用線源が減少してきている。近年、急激に増加しているものにガンマナイフがある。これは、201個の60Co線源をガントリーに半球状に配置し、患者さんの頭を覆うコリメーター用ヘルメットにより、放射線を患部に集中させて治療する装置で、頭部がん、頭部血管奇形等の治療に有効である。現在、国内において約50病院で使用されており、今後もその利用の拡大が期待されている。工業利用では、医療用具の滅菌を中心とした放射線滅菌用線源が増加傾向を示している。図3に10年間の主な密封RI線源の販売数量(放射能量)の推移を示す。また、図4に10年間の60Co線源の販売個数を示す。ガンマナイフ用線源及び放射線滅菌用線源の個数が増加し、テレコバルト用線源が減少している。なお、ガンマナイフは201個の線源を一セットとして使用するため、それを1個として数えている。60Coガンマナイフ用線源とブッシングを図5に示す。棒状線源をブッシングと呼ばれる保護容器に入れガンマユニットに装着することによって使用する。なお、滅菌用線源は輸送容器の個数を示している。また、後述するように、滅菌用線源は1本あたりの数量(放射能量)が大きいため、他の利用線源と桁違いに大きな数量を示している。
4.60Co大量線源の利用状況
 国内では、60Co大量線源は放射線滅菌を中心として12施設で使用されている。照射用60Co線源使用施設(大量線源)の分布を図6に示す。注射針、注射筒等の医療用具の滅菌照射だけではなく、食品照射、害虫駆除の不妊化処理など、北海道から沖縄まで幅広く利用されている。現在、すべての60Co大量線源はカナダとイギリスから輸入されている。60Co大量線源は、長期間水中に保管されるため、長期間にわたって線源の健全性が求められる。輸入された線源は、日本アイソトープ協会のホットラボにおいて、外観、表面汚染、放射能量等の受け入れ検査を行い、健全性を確認した後、使用者に納入されている。60Co大量線源はB型輸送物として輸送されるため、輸送申請等により、輸入されてから納入まで約1ヶ月間を要する。また、線源によっては除染等を必要とするものがあり、その場合は納入までさらに時間を要することとなる。図760Co大量線源の発注から納入までのフローを示す。使用済みの線源は、この逆ルートで海外製造所に返却される。近年、真空採血管の滅菌処理の必要性が求められる等、放射線滅菌施設を中心として、60Co大量線源の需要が増加してきている。減衰した線源の補充だけではなく、線源の増量の要求も増えている。また、国際的には、中国をはじめとして、長寿社会を支えるための医療用具の滅菌、食の安全を確保するための食品照射等の放射線照射への要求が高まり、60Co線源の供給量が年5%強の増加を示している。国内供給が需要に十分対応できない状況も生じてきていたが、現在は複数の製造国から輸入できようになり、さらに、利用状況を計画的にとりまとめ、製造者へデータを提示し、供給不足の状況に陥らないような対策も立てられている。図8に6年間の60Co大量線源の納入数量を示す。
5.線源のセキュリティ対策
 放射線源の安全確保とセキュリティ対策についてIAEAを中心として国際的な検討が進められている。一部の国において、身元不明線源による一般公衆の死亡事故を含む深刻な被ばく事故の発生や悪意を持った線源の取得事件の発生を受け、国際的な線源管理体制の強化に関する国際会議が開催され、放射線源の安全に関する行動計画や行動規範の策定が提唱された。また、放射線源を用いたテロの危険性が高まってきたことから、セキュリティについての項目も盛り込まれた。日本において、RI・放射線の取扱は「放射線障害防止法」等により、安全な管理の下で実施されているが、今後は、現在利用されている放射線の使用を阻害することがなく、放射線源の安全とセキュリティを維持していくことが必要となってきている。特に、滅菌用放射線源等は、テロの対象にされることが考えられるため、適切な線源管理体制を整えることが求められている。
<図/表>
図1 使用許可・届出事業所数の年度推移
図1  使用許可・届出事業所数の年度推移
図2 使用許可・届出事業所の利用形態
図2  使用許可・届出事業所の利用形態
図3 10年間の主な密封RI線源の販売数量
図3  10年間の主な密封RI線源の販売数量
図4 10年間の
図4  10年間の
図5
図5
図6 照射用
図6  照射用
図7
図7
図8 6年間の
図8  6年間の

<関連タイトル>
放射性同位元素 (08-01-03-03)
非破壊検査用の線源 (08-01-03-11)
放射線利用と照射施設 (08-01-03-14)
RI利用の概論 (08-01-04-03)
アイソトープ等流通統計2005 (08-01-04-07)
夜光時計、蛍光灯点灯管、煙感知器など日用品への放射性同位元素の利用 (08-04-02-07)

<参考文献>
(1)日本アイソトープ協会パンフレット:「Japan Radioisotope Association」
(2)文部科学省科学技術・学術政策局:「放射線利用統計」(2005)
(3)日本アイソトープ協会:「放射線流通統計」(2006)
(4)日本アイソトープ協会:
(5)日本ガンマナイフサポート協会:
(6)IAEA:CODE OF CONDUCT ON THE SAFETY AND SECURITY OF RADIOACTIVE SOURCES
(7)二ツ川章二:最近の60Co線源の利用状況、放射線と産業No.109、4-8(2006)
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