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放射線は工業、農業、医療、環境保全、工業計測など、幅広い分野において研究開発が行われるとともに、すでに多くの放射線利用が実用化され、産業界において重要な役割を担っている。また、近年その利用形態はますます高度化、多様化している。国内における使用許可・届出事業所数は、2004年3月現在で4625事業所となっている。放射線の発生源には、ラジオアイソトープと
放射線発生装置がある。ここでは、特に、アイソトープ(放射性同位体)を発生源とする放射線利用について概要を述べる。
(1)原理によるRI利用の分類
RIの利用は医学、理工学、農学などの広い分野にわたっており利用方法も多彩であるが、原理的には放射線のエネルギーによる化学反応、殺菌・滅菌作用、
核反応や、RIを化学的トレーサに用いた分析の追跡指標としてRIを利用した放射性トレーサによるプラントにおける原材料の流速、流量の測定および拡散などの追跡、電離作用を利用した放射線測定器への利用、写真作用を利用したラジオグラフィやオートラジオグラフィ、
放射能の
壊変を利用した考古学的試料の年代推定、放射線のエネルギーを熱に変換して起電力に変えるアイソトープ電池などに分類できる。
これらの利用のうち試料や製品に放射線を照射して、そのエネルギーで化学反応を起し殺菌、滅菌などを行うような利用を照射利用と呼び、また、トレーサ利用では物質の移動のような物理的現象を捉えるために物質をRIで標識して追跡することを物理的トレーサ、トレーサで化学反応を追跡するものを化学的トレーサと呼ぶ。
(2)分野によるRI利用の分類
工業利用では放射線の吸収・散乱を厚さ計、密度計などにRIを利用するゲージング、RIトレーサによる流体の流れや漂砂の追跡、
非破壊検査におけるラジオグラフィ、放射線化学の利用として電線被覆の耐熱化、塗料の硬化、排煙浄化処理や汚泥中の有機物の分解処理などがある。医学利用では
X線による診断のほかRI標識化合物を用いた
核医学診断、
γ線、
中性子線、重粒子線によるがん(癌)治療、医療用具の滅菌などがある。農水産業利用では、
食品照射、品種改良、害虫の不妊化などが実用化されて産業上不可欠のものになっている。このほかにアイソトープ電池などの熱源利用もある。
(3)RI線源による分類
照射利用やゲージング利用、ラジオグラフィ、熱源利用などでは、RIによる汚染を防ぐ目的でRIを密封して用いるが、このような利用方法を
密封線源の利用と呼び、医学利用における
放射性医薬品による診断や治療、あるいはトレーサ利用のほとんどの場合のように密封しないRIを用いる場合を
非密封線源の利用と呼ぶ。
また、放射性でない(非放射性)アイソトープを追跡子(トレーサ)として用い、その後、放射化分析の手法により追跡子である放射性アイソトープ(RI)の分布を調べるアクチバブルトレーサ法(後放射化法)という利用法がある。
(4)分野別のアイソトープ利用例
医学、農水産業、工業利用などの分野別にアイソトープを利用した例を
表1に示す。
表中に太字で書かれている利用は、ラジオアイソトープからの放射線を用いた利用例を示し、その他のものは、X線、電子線や中性子線の放射線発生装置などからの放射線を用いた例を示している。
<図/表>
<関連タイトル>
放射性同位元素 (08-01-03-03)
放射線利用の概要 (08-01-04-01)
生物学における放射線利用 (08-01-04-04)
理工学における放射線利用−計測応用− (08-01-04-05)
X線診断 (08-02-01-01)
放射性医薬品(放射性薬剤)の利用状況 (08-02-04-01)
放射線照射による農作物の品種改良(放射線育種) (08-03-01-01)
わが国における放射線不妊虫放飼法(SIT)の普及 (08-03-01-02)
<参考文献>
(1)日本アイソトープ協会(編): 改定版 やさしい放射線とアイソトープ、社団法人日本アイソトープ協会、1990年3月
(2)日刊工業出版プロダクション(編):特集ここまで来た放射線利用、原子力eye、日刊工業出版プロダクション、Vol.45,No.12,p25?76(1999.12)
(3)石榑顕吉他(編):放射線応用技術ハンドブック、朝倉書店、(1990.11)
(4)日本原子力文化振興財団(編):アイソトープ・放射線の利用、原子力の基礎講座7、財団法人日本原子力文化振興財団、(1996.3)