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1951年に外国から放射性同位体(
ラジオアイソトープ)を輸入・頒布、1960年には放射性医薬品の頒布とアイソトープ廃棄物の集荷が始まった。その後長年に亘って、RI使用施設、多くの
核種のRI使用量の状況調査を一貫して(社)日本アイソトープ協会が行い、毎年報告している。
わが国では、全国約5,000にも及ぶ病院、大学を含む研究機関、製薬会社などの民間企業において放射性同位体(ラジオアイソトープ、単にアイソトープともいう)や
放射線発生装置が使われている。それぞれの事業所におけるアイソトープなどによる
放射線の利用が、医療分野では放射線を利用した病気の診断、治療及び医薬品の開発に、工業分野では、多くの一次製品を生産する工程における品質管理、物質や材料の改質に、農業分野では、品種の改良などに広く使われている。ここでは、国内で流通・利用されているアイソトープの状況について、日本アイソトープ協会から毎年公表されている統計データを基に概説する。
1.ラジオアイソトープ
ラジオアイソトープは、非密封ラジオアイソトープと密封ラジオアイソトープとに分けられる。
表1に、おもな非密封アイソトープの供給量の推移(核種別、年度別)(2000〜2004年度)を示す。
非密封ラジオアイソトープの供給量のうち
3H,
14C,
14C,
33P,
35Sなどの
標識化合物は、ここ数年多少の増減があるものの全体的に減少傾向にある。特に、
32Pのアイソトープ標識化合物はアイソトープを利用しない研究あるいは新しい技術への移行が進み減少傾向が続いている。標識化合物以外の非密封ラジオアイソトープの供給量は、
3H核種以外は横ばい状態である。また、供給先としては、大学などの教育機関が多く、医療機関、研究機関、民間企業、その他と続いている。
表2に、おもな非密封アイソトープの供給量(核種別、機関別)(2004年度)を示す。
密封ラジオアイソトープ全体の供給量は、滅菌のための
照射などに用いられる大量
線源(
60Co,
137Csなど)の更新時期などの理由で年度により多少の変動があるものの、ここ数年の傾向としては微増状態が続いている。
表3に、おもな密封アイソトープの供給量の推移(核種別、年度別)(2000〜2004年度)を示す。代表的な核種について見ると、
60Co線源は、医療機器などの放射線滅菌線源の増量周期による増加のほか、ガンマナイフ用の線源も増加している。前立腺がんの治療に使われる
125Iも急増している。密度計やレベル計などの装備機器に用いられる
137Cs線源、非破壊検査用の
169Yb,
192Ir線源は減少傾向にある。しかし、工業用の
192Ir線源は減少しているが、小線源によるがん治療に有用な
RALS線源である医療用は増加傾向にある。
表4に、おもな密封アイソトープの供給量(核種別、機関別)2004年度を示す。また、がん細胞の診断に使われている
PET(陽電子放射断層撮像法)の校正用線源である
68Geは、僅かであるが増加傾向にある。
密封ラジオアイソトープのうち、医療用具である治療用密封線源の供給量は年々増加している。
表5に、密封アイソトープのうち、おもな医療用具の供給量(核種別)(2004年度)を示す。ガンマナイフ線源(
60Co)は、交換時期が重なったことと新設の病院が増えたことで2004年度は増加したが、その後は横這い状態である。前立腺がん治療に使われている
125I永久挿入線源は、急激に増加しており、今後も増加が見込まれる。
現在の法律(
放射線障害防止法)では、3.7MBq以下の密封ラジオアイソトープは規制されていない。このため、放射線の利点を活かして、日常生活などでさまざまな製品や器具などに少量のラジオアイソトープが使われている。
表6に、放射線障害防止法定義量以下のおもな密封アイソトープの供給量(核種別、年度別)を示す。多くのラジオアイソトープは、研究所などの限られた場所の施設で研究・開発のための実験に使われている。しかし、多くの人々が出入りする公共的な施設や日常生活で使用する場所においても健康に影響のない法規制以下のラジオアイソトープが使われている。具体的には、時計(外国製)の夜光性文字盤、蛍光灯の放電管、煙検知器、陶磁器製品などに含まれている。
表7に、煙探知器用線源の推移(2001〜2004年度)を示す。
2.放射性医薬品
ラジオアイソトープを用いた放射性医薬品の2004年度における供給金額は、546.2億円(前年度比6.7%減)で、その内訳は、in vivo 444.8億円(81.4%)、in vitro 101.4億円(18.6%)であった。
表8に、放射性医薬品であるin vivo の供給量の推移(核種別、年度別)(2000〜2004年度)を示す。、
表9に、放射性医薬品であるin vitro の供給量の推移(核種別、年度別)(2000〜2004年度)を示す。
in vivo 供給量では、がんの診断に使われる核種である
99mTcと
99Mo−
99mTcジェネレーターで放射性医薬品全体の86%を占めていたが、
99mTcはここ数年で初めて前年度比3%減少した。前年度よりも増加したのは、
131I、
111Inおよび
51Crで、それ以外の核種はすべて減少している。さらに、
133Xeは前年度比14.3%減、
81Rb−
81mKrジェネレーターは12.2%減、
67Gaは9.7%減、
99Mo−
99mTcジェネレーターは2.7%減、
123Iは3%減、
201Tlは3.6%減であった。ここ数年増加していた骨、心・肺および脳の検査対象領域の
99mTc注射剤が初めて減少した。
表10に、
99mTc注射剤の供給量の推移(領域別、年度別)を示す。
in vitro 供給量では、全供給量(テストチューブ数)が2,873万本(前年度比15.7%減)であった。腎・血圧調節機能検査および
サイトカインなどは増加したが、それ以外の検査項目(腫瘍マーカー、肝炎ウィルス特異抗原・抗体、甲状腺機能、膵・消化管機能など)はすべて減少している。
放射性医薬品の使用施設数は、1,266施設で、その内訳は、in vivo による使用が1,239施設、in vitro による使用が90施設であった。
3.アイソトープ廃棄物
2004年度の集荷本数は、14,313本(200リットルドラム缶換算)で、表からも明らかなように漸次減少の傾向にある。
表11に、廃棄物集荷数量および事業所数(種類別、機関別)(2004年度)を示すとともに、
表12には、廃棄物処理数量の推移(種類別、年度別)(200L容器換算本数)を示す。可燃物とは、紙類、木片類、布類、敷きわら、おがくず類など、難燃物とは、プラスチック製品、ゴム・ポリ製品、不燃物とは、注射針、金属・塩ビ製品、ガラス製品・アルミホイル、および乾燥動物などで固体廃棄物として分類される。実験廃液は液体廃棄物として、非圧縮性不燃物とは、土砂・建築廃材・多量の活性炭、陶器・機械機器・多量のガラス板などが含まれる。
<図/表>
<関連タイトル>
放射線利用に関する統計 (08-01-04-02)
アイソトープ等流通統計2012 (08-01-04-08)
医療分野での放射線利用 (08-02-01-03)
<参考文献>
(1) 社団法人 日本アイソトープ協会:
http://www.jrias.or.jp/
(2) (社)日本アイソトープ協会(編):アイソトープ等流通統計 2005
(3) (社)日本アイソトープ協会(編):放射線利用統計 2004