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<概要>
 使用済燃料再処理の過程で発生する高レベル放射性廃液は、原子炉での核分裂により生成した90Srや137Csといった核分裂生成物等を含有し、非常に高い放射能を有している。日本では高レベル放射性廃液は、物理的にも化学的にも安定なガラス固化体に処理され30〜50年間程度、冷却のために貯蔵された後、人間の生活環境から十分離れた地下の深い地層中に処分されることになっている。
 ガラス固化技術開発施設TVF: Tokai Vitrification Facility)は、東海再処理工場の再処理の過程で発生する高レベル放射性廃液を処理するガラス固化技術等のプラント規模での実証を行うことを目的とした施設である。TVFは1975年以来進められてきたガラス固化技術に関する成果を結集し、1992年に建設され、コールド試運転、ホット試運転を経て、1995年12月には試験施設としての開発運転に移行した。2000年8月現在までに72本のガラス固化体を製造・保管している。
<更新年月>
2000年08月   

<本文>
1.建家の位置・構造
 本施設は、 図1 に示すようにガラス固化技術開発棟、ガラス固化技術管理棟および付属排気筒の3施設から構成され、再処理施設高放射性廃液貯蔵場に隣接して建設された。技術開発棟は、鉄骨鉄筋コンクリート造り、地下2階地上3階、建築面積約2,600平方メートルで、地下部分に固化処理および放射性物質を扱う工程の大部分を設置し、地上部分には分析、ユーティリティ、放射線管理、工程制御設備等の各種運転支援設備を設置している。技術管理棟は、鉄筋コンクリート造り、地上4階、建築面積700平方メートルで、1階に非常用発電設備、蒸気等のユーティリティ設備を設置し、2階から4階は居室としている。付属排気筒は、地上高さ約90メートルの鉄鋼製で、本施設のプロセス工程排気およびセル換気系を含む建家の排気を行っている。
2.TVFの特徴
 TVFには、液体供給式直接通電型セラミックメルター(LFCM:Liquid-Fed Joule-heated Ceramic Melter)方式、全遠隔保守方式(大型セル方式、両腕型マニプレータ(BSM)、ラック、着脱型遠隔配管継手)、そして低風量換気システム等の特徴ある技術が採用されている。
 LFCM方式は、 図2 に示すように、溶融ガラスに電極を介して直接、交流電流を通電し、溶融ガラス自体を抵抗として発生するジュール熱によってガラスを加熱溶融するものであり、廃液を直接溶融炉に供給できるため、マルクールガラス固化プラント(フランス)方式と比較すると工程が簡素化されている。セラミック材と耐熱金属材の利用したことにより、溶融炉寿命を長くできる等の特徴を有している。
 一方、TVFでは 図3 に示すように、放射性物質を扱うほとんどの主要なプロセス機器は、地下階に配置された固化セルと呼ばれる大型のセル(幅約12m、長さ約27m、高さ約13m)に収納されている。この大型セル方式の採用に伴い、セル内機器保守時の従事者の被ばく量の低減化、施設運転の稼働率の向上、および将来のプロセスの変更に対する融通性を確保するために、全遠隔保守方式を採用している。
 全遠隔保守方式では、遠隔保守機器としてセル内に両腕型マニプレータ( 図4 )およびインセルクレーンを配置するとともに、ラックと呼ばれる架構(3m幅×3m長さ×6.5m高さ)にプロセスユニット毎の機器をモジュール化して収納している。また、機器等の交換を可能とするために遠隔交換可能な機械式配管継手(遠隔継手)を採用している。
 同様に大型セルの採用に伴い、換気設備のコンパクト化、および固化セル内汚染時の放射性物質の放出量の低減を目的として、 図5 に示す低風量換気システムを採用している。低風量換気システムは、従来の換気システムが1時間あたりセルの容量の10倍程度を換気するのに対し、セル内の空気を1日でその容積分(約4200m3)だけ換気するものである。また、固化セルの廃気は、専用の換気系で処理されるのではなく、ガラス溶融炉等からのプロセス廃気を処理する槽類換気系にて一緒に処理される。
 一方、低風量換気システムの採用により、固化セル内のガラス溶融炉および蒸発缶等から発生する熱が除去できず、固化セルの負圧制御に影響を与えるため、セル内にインセルクーラーを設置して固化セルの温度制御を行っている。
3.TVFの主要仕様および工程概要
 TVFでガラス固化処理する廃液は、設計上燃焼度28,000MWD/MTU、比出力35MW/MTUの使用済燃料を炉取り出し後、0.5年間で再処理し、その後5年間冷却したものを設定している。TVFで製造するガラス固化体の標準組成は、 図6 に示すように全廃棄物酸化物含有率は目標25wt%、ナトリウム酸化物含有率は目標10wt%のホウケイ酸ガラスとしている。また、1本あたりの放射能量(βおよびγ)は約1.5×1016Bq/MTU、発熱量は約1.4kW/MTUである。1日あたりの廃液処理能力は、0.35m3
(溶融炉の処理量換算)で年間200日運転を想定している(文献2)。
 TVFは、 図7 に示すように高放射性廃液を受け入れて組成調整や濃縮を行った後、ガラス溶融炉へ供給する受入・前処理工程、供給された廃液およびガラス原料を溶融するガラス溶融工程、溶融ガラスを固化体容器に注入しガラス固化体として保管するガラス固化体取扱工程、ガラス溶融炉等から発生するオフガスを処理するオフガス処理工程(槽類換気系)、そして高放射性廃液の処理に伴い発生する二次廃液を処理する二次廃液処理工程からなっている。
 TVFでは、東海再処理工場の高放射性廃液貯蔵場から高放射性廃液を受け入れ、必要に応じて組成調整を行ない、約2倍に濃縮する。濃縮した廃液は、ガラス原料とともに溶融炉へ連続的に供給され、約1200℃で溶融される。溶融ガラスは、約300kg製造される毎に、溶融炉下部に設置された流下ノズルより固化体容器(キャニスター)に抜き出される。
ガラス固化体容器は外形430mmφ、全高1040mmHの円筒タテ型である。 図8 にガラス溶融炉を示す。
 溶融ガラスが注入されたキャニスターは、溶接機にて蓋が溶接された後、冷却される。その後、固化体容器表面を高圧水スプレーとワイヤブラシにより除染し、表面汚染密度の検査、閉じ込め確認検査等を行ない、管理基準を満足すれば保管セルの保管ピット内に収納し、強制空気冷却により除熱を行い保管する( 図9 参照)。
 一方、溶融炉および濃縮器、貯槽等からの廃気中に含まれる放射性物質を除去するためのオフガス処理工程(槽類換気系)が設置されており、特に溶融炉からの廃気を処理する工程は、洗浄水による洗浄・吸収を行う湿式処理機器、ルテニウム等の揮発性元素を除去する吸着塔、それに続くフィルタ等の乾式処理機器より構成されている。
 また、主に槽類換気系の湿式処理機器から発生する洗浄廃液等の二次廃液は、二次廃液処理系により三段の蒸発処理が行われ、濃縮液は再び、廃液の受入に合わせて受入槽へ戻されガラス固化処理され、凝縮液は東海再処理工場の廃棄物処理場へ払い出される。
4.TVFの建設・運転・試験
 TVFは、1975年以来進められてきたガラス固化技術に関する広範囲な研究開発の成果を結集し、1988年6月に建設が着手され、約4年の工期を経て1992年4月に完成した(文献1)。
 1992年5月から、実廃液を用いたホット運転に先立ち、コールド試運転を開始し、1994年4月に終了した。本試験においては、実廃液中の廃棄物成分を非放射性の同一成分で置き換え、所定量含有させて化学的挙動を模擬した廃液(模擬廃液)を使用して、基本的な固化プロセス各設備の性能、安全性等の確認を行うとともに、固化セル内の遠隔保守対象機器の遠隔脱着性等に関する遠隔保守性の確認を行った。これらの試験を通じて摘出された課題については、運転操作性や保守性を向上させるべく、各種の改善を施したうえで、1994年9月に施設の管理区域を設定し、ホット試運転に移行した(文献3)。
 実際の高放射性廃液(HAW)を用いたホット試運転は、施設からの放出放射能量、施設の遮へい性能等に係る安全性、および固化プロセス設備の性能、運転特性の確認を行うとともに、使用前検査を受検し、合格証を取得することを目的に実施した。
 高放射性廃液貯蔵場の高放射性廃液貯槽に貯蔵されている高放射性廃液を用いたホット試験HT-95-1(ガラス固化体9本を製造する計画)を1995年1月から開始し、希釈廃液を用いて段階的に施設の安全性を確認する試験を実施したが、第3本目の溶融ガラスを流下中に溶融ガラスの流下停止というトラブルが発生したため、ガラス固化体2本を製造して終了した。
 このトラブルは、溶融ガラスの流下開始時の温度が低かったため、溶融炉とキャニスター間の結合装置内に溶融ガラスが堆積したもので、 図10 に示すような再発防止対策(ガラス流下に係る炉底部温度管理の改善、ガラスサンプリング容器のキャニスター口径外への配置、並びに覗き窓の大型化による監視能力の向上等の改良)を実施した。
 復旧作業終了後、1995年9月からホット試験HT-95-2を開始し、施設の安全性および固化プロセス性能等の確認を行うとともに、線量当量率等の性能に係る使用前検査を受検し、合格した。TVFは1995年12月1日に施設の使用前検査合格証を取得し、試運転の段階から開発運転に移行した。
 1996年度の開発運転は、各20本のガラス固化体を製造する2回の運転(96-1試験および96-2試験)を計画どおり行い、ガラス固化体40本を製造し、TVFとしては初の定期検査を7月から10月に受検して合格した。
 1997年度以降は、3月に発生した東海再処理工場アスファルト固化処理施設の火災・爆発事故の影響を受けて処理運転を停止中であったが、2000年6月から7月にかけて定期検査のための運転を行い、ガラス固化体10本の製造を行っている。2000年8月末現在の累積の高放射性廃液処理量は約59m3であり、72本のガラス固化体を製造している。コールド試運転以降のTVF運転・実績を 図11 に示す。
 一方、固化処理技術は高度化に向けて1988年頃から技術開発に着手している。また、TVFの運転再開後、高放射性廃液の固化処理運転を継続することにより、より安定な形態であるガラス固化体への処理を進め、施設の長期安定運転に向けたガラス固化処理技術の改善・改良、運転・保守技術の蓄積等を図る必要がある。TVFはガラス固化プロセスの簡略化、処理能力の向上、溶融炉の寿命の向上を図った固化法を採用した国産自主開発技術のである。この技術は日本原燃(株)の六ヶ所再処理施設でも採用されている。
<図/表>
図1 ガラス固化技術開発施設の全景
図1  ガラス固化技術開発施設の全景
図2 TVFのガラス溶融炉鳥瞰図
図2  TVFのガラス溶融炉鳥瞰図
図3 TVF主要設備の鳥瞰図
図3  TVF主要設備の鳥瞰図
図4 両腕型バイラテラルサーボマニプレータ
図4  両腕型バイラテラルサーボマニプレータ
図5 低風量換気システム概念図
図5  低風量換気システム概念図
図6 TVFガラス固化体の組成管理
図6  TVFガラス固化体の組成管理
図7 TVFの主要工程
図7  TVFの主要工程
図8 ガラス溶融炉
図8  ガラス溶融炉
図9 ガラス固化体保管セル
図9  ガラス固化体保管セル
図10 結合装置等改良後の機器概念図
図10  結合装置等改良後の機器概念図
図11 TVFコールド、ホット試運転および開発運転実績
図11  TVFコールド、ホット試運転および開発運転実績

<関連タイトル>
高レベル廃液の処理 (04-07-02-07)
高レベル廃液ガラス固化処理の研究開発 (05-01-02-04)
高レベル放射性廃棄物の処理対策の概要 (11-02-04-03)

<参考文献>
(1) 本橋ほか:「ガラス固化技術開発施設の建設」、動燃技報、No.84、p.35-40 (1992)
(2) Yoshioka,M.,et al.:”Glass Melter and Process Development for PNC Tokai Vitrification Facility”, WASTE MANAGEMENT,Vol.12,p.7-16,(1992)
(3) 吉岡ほか:「ガラス固化技術開発施設コールド試運転結果」、動燃技報、No.91、p.111-122(1994)
(4) 動力炉・核燃料開発事業団:動燃三十年史、1998年7月
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