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<概要>
 近年、経済発展のめざましい中国では、急速に伸びる電力需要に対応するために、電力設備の増強の一環として、原子力発電所の建設計画が相次いで浮上している。一方、既に世界第6位の電力設備容量を持つ韓国では、今後十数年の電力需要の伸び率は大幅に鈍ると予想しているが、それでも電源開発投資の約半分が原子力発電所の建設に充てられると予測されており、原子力発電推進の方針は継続される見通しである。
 ここでは、このように原子力開発を活発に進めている中国、韓国での放射性廃棄物処分に関する考え方、現在の状況、今後の方針などについて述べる。
<更新年月>
2006年09月   

<本文>
1.中国
1.1 中国における原子力発電の現状
 2005年現在、中国では9基の原子炉が運転され、合計出力は約700万kWとなっており、中国経済の規模拡大に伴い、中国国内のエネルギー需要は大幅に増加している。2006年3月の全国人民代表会議にて承認された第11次5か年計画においても、環境と調和しつつ、エネルギー需要を満たす上で、原子力発電所の建設はエネルギー戦略上重要であるとされ、今後、中国政府は2010年、2020年までに原子力発電容量をそれぞれ1,200万kW、4,000万kWに増やすとしている。
 原子力発電所の増設に伴い、発生する放射性廃棄物の量も増加し、中国における軽水炉から取り出される使用済燃料の累積発生量は、2010年に1,000MTU、2015年に2,000MTUに達し、2020年以降は毎年1,000MTUずつ増加すると予想されている。
1.2 中国での放射性廃棄物処分の考え方
 中国では使用済燃料は再処理することを基本方針とし、再処理から発生した高レベル放射性廃液はガラス固化された後、高レベル放射性廃棄物として処分される。
 中国における放射性廃棄物の取扱いは「中華人民共和国放射能汚染防止法」(2003年10月施行)に規定されており、固体廃棄物のうち、低中レベル放射性廃棄物は国の規定を満たす地域において地表処分を行い、高レベル放射性廃棄物は集中的に深地層処分される。
 高レベル放射性廃棄物処分の実施主体は中国核工業集団公司(CNNC)であり、政策立案、研究開発資金の確保などの実務管理を行う国の機関としては国家原子能機構(CAEA)、規制機関としては国家環境保護総局(SEPA)の2つがある。
1.3 放射性廃棄物処分の現状と今後
 1985年9月、旧核工業部科技核電局(現中国核工業集団公司、CNNC)は「高レベル放射
性廃棄物地層処分研究発展計画(DGD計画)」を策定し、1986年2月から研究開発およびサイト調査を開始した。このDGD計画に基づき、サイトの一次選定が行われ、候補地として西南地域、広東北部地域、内モンゴル地域、華東地域および西北地域の5地域が選出された。その後、各地域を比較した結果、現在、サイト選定作業はほぼ西北地域に集中し、極めて有望なサイトとして考えられている甘粛省北山およびその周辺区域においてボーリング調査を含むサイト調査が行われている。(図1図2
 2006年2月20日、国防科学技術工業委員会、科学技術部および国家環境保護総局が共同で作成した「高レベル放射性廃棄物地層処分に関する研究開発計画ガイド」が正式に公表され、これには研究開発の全体構想や発展目標、計画綱要、第11次5か年計画中の研究開発課題および内容などが記載されており、今後はこのガイドに沿って研究が進められる。
 中国における地層処分研究の目標は、今世紀半ばに高レベル放射性廃棄物の地層処分場を建設することとなっており、研究開発と処分場建設は以下の3段階に分けて進められる。
(1)2006年〜2020年:実験室レベルでの研究開発と処分場のサイト選定、地下研究所の設計および処分場の概念設計、安全評価
(2)2021年〜2040年:地下研究所の建設、地下研究所での各種試験、プロトタイプ処分場のフィージビリティ評価、建設申請および安全評価
(3)2041年〜今世紀半ば:プロトタイプ処分場の建設と検証、処分場のフィージビリティ評価、建設申請および安全評価、処分場の操業申請および安全評価
2.韓国
2.1 韓国における原子力発電の現状
 韓国では2005年末現在、古里(コリ)、月城(ウォルサン)、霊光(ヨングワン)、蔚珍(ウルチン)の4サイトで計20基の原子炉(PWR:16基、CANDU炉:4基)が運転中である。原子力発電設備容量は合計1,771万6,000kWで世界第6位である。
 韓国では原子力発電が総発電電力量の4割近くを担っており、最大の電力供給源となっている。政府は2001年に、今後の電力需要の増加に備えて、2015年までに更に8基を増設する予定である。
2.2 韓国の放射性廃棄物処分政策
 韓国では原子力発電によって生じる使用済燃料については、将来、政府が再処理あるいは直接処分の実施について決定を行うまで、中間貯蔵施設にて管理する方針をとっている。現在、原子力発電所から発生する使用済燃料は、各発電所サイト内に貯蔵されている。また、原子力発電所の運転から発生する中低レベル放射性廃棄物に関しても、原子力発電所サイト内に貯蔵されているが、いくつかの原子力発電所では貯蔵容量が2008年までに限界に達すると予想されている。
 1998年には、原子力委員会において、中低レベル放射性廃棄物処分場を、2008年までにドラム缶10万本分(最終的には80万本)規模で建設し、使用済燃料の中間貯蔵施設については、2016年までに初期容量2,000MTU(最終的には20,000MTU)規模で建設することが決められた。
 韓国における中低レベル放射性廃棄物処分の実施主体は、韓国水力原子力株式会社(KHNP)であり、放射性廃棄物の管理、処分等に関する計画および監督指導は韓国産業資源部(MOCIE)、放射性廃棄物処分施設の許可発給などの原子力安全規制は韓国科学技術部(MOST)が実施している。また原子力委員会が原子力全般を含む放射性廃棄物管理政策を策定している。
2.3 中低レベル放射性廃棄物処分場サイト選定経緯
 1988年に原子力委員会は、中低レベル放射性廃棄物処分施設を1995年末までに、使用済燃料中間貯蔵施設を1997年末までに建設する計画を策定した。中低レベル放射性廃棄物処分施設および使用済燃料中間貯蔵施設を同一サイトに建設することを前提に、1988〜1995年にわたり、サイト選定が試みられてきたが、候補サイトでの住民の反対運動や地質条件の問題などによって断念されてきた。
 過去のサイト選定活動の行き詰まりを打開するため、2000年にMOCIEおよびKHNPは原子力委員会の決定に従い、自治体の自発的な誘致申請と、候補サイトをあらかじめ選定してから当該自治体との交渉を行う2つのサイト選定方式を並行して実施することにした。誘致地域には約3,000億ウォンの特別支援金などの経済支援が約束されたが、結果的に誘致を申請する自治体は現れなかった。
 MOCIEおよびKHNPは、2003年2月には、国内の4地域を社会および自然環境、放射性廃棄物の輸送などの条件を基に、候補サイトとして発表し、2003年4月には、放射性廃棄物処分場および陽子加速器事業の2つを誘致する新しい公募手続きが発表された。その結果、黄海沿岸に位置する全羅北道の扶安郡(プアン郡)が蝟島(ウィド)(図3)を候補地として誘致申請を行い、一度は候補地に選定された。しかし、地元住民の反対運動による混乱を受けて手続きは中断となった。その後、MOCIEは、2004年2月には、新たに住民投票手続きを盛り込んだ公募を実施したが、申請を行う自治体は現れなかった。
 こうした事態を受けて、2004年12月、原子力委員会は、緊急性の高い中低レベル放射性廃棄物処分施設の立地を使用済燃料中間貯蔵施設と分離して優先的に実施することとし、2005年3月には3,000億ウォンの特別支援金、廃棄物手数料の導入や住民投票等の手続きの透明性確保を規定した中低レベル放射性廃棄物処分施設誘致地域支援特別法(誘致地域支援特別法)が議会で可決された(表1)。
 2005年6月から、この誘致地域特別支援法に基づく新たなサイトの公募が開始され、慶州市(キョンジュ市)を含む4つの自治体が誘致申請を行った(図3)。地質学的特性および事業推進環境などのサイト適合性が確認された後、2005年11月には、これらの4自治体において同時に住民投票が実施された。住民投票の結果、4自治体とも有権者総数の1/3以上の投票を得て、有効投票数の過半数の賛成により可決したため、当初の取り決めに従い最も高い賛成率(89.5%)を獲得した慶州市の陽北面奉吉里(ヤンブク面ポンギル里)が候補サイトに決定した(表2)。
2.4 慶州市における処分場サイト決定後の動き
 中低レベル放射性廃棄物の処分方式については、処分場サイトの特性に合わせて、浅地処分もしくは岩盤空洞方式が選定されることとなっていた。処分方式選定のために設置された処分方式選定委員会では、安全性、住民の受容性、環境親和性、経済性等を検討した結果、第1段階のドラム缶10万本分の処分については「岩盤空洞処分方式」を採用することを決定した。また、誘致地域特別支援法に規定されている特別支援金(約3,000億ウォン)については、2006年5月にKHNPが慶州市に全額を支給したことが発表されている。
2.5 韓国における今後の放射性廃棄物処分の動き
 2006年1月の電源開発事業予定区域の指定を受け、中低レベル放射性廃棄物処分施設建設事業が本格的に開始された。建設事業については、以下の4段階で進められることになっている。
(1)第1段階:事業者の調査・設計および許可申請
(2)第2段階:MOCIEの実施計画承認
(3)第3段階:MOSTの建設・操業許可
(4)第4段階:建設工事の着手および操業開始
MOSTへの建設・操業許可申請は2007年に行われ、2008年末から処分場の部分操業開始、2009年末に初期段階としてドラム缶10万本を処分できる規模で完成する予定となっている。
 一方、今回の誘致地域特別支援法によってサイト選定対象から除外された使用済燃料中間貯蔵施設については、今後時間的な余裕を持って十分な話し合いを行い、国民からのコンセンサスを得た上で最適な解決策を模索する方針がMOCIEより示されている。
<図/表>
表1 中低レベル放射性廃棄物処分施設誘致地域支援特別法の主な内容
表1  中低レベル放射性廃棄物処分施設誘致地域支援特別法の主な内容
表2 2005年11月2日の4自治体での住民投票結果
表2  2005年11月2日の4自治体での住民投票結果
図1 中国における調査対象地域
図1  中国における調査対象地域
図2 南方から見た北山サイト
図2  南方から見た北山サイト
図3 2005年の誘致申請自治体の位置
図3  2005年の誘致申請自治体の位置

<関連タイトル>
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(5)−アジア・オセアニア編− (05-01-03-18)
韓国の原子力開発体制と安全規制体制 (14-02-01-03)
韓国の核燃料サイクル (14-02-01-05)
韓国における原子力戦略 (14-02-01-09)
中国の原子力発電開発 (14-02-03-03)
中国の核燃料サイクル (14-02-03-04)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向 2004年次報告(2005年5月)
(2)中華人民共和国 国家発展改革委員会 発展計画司ホームページ:第11次5ヵ年計画新制定
(3)王駒:中国における高レベル放射性廃棄物深部地層処分戦略計画の検討(2004年7月)
(4)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:原環センタートピックス、No.77(2006年3月)
(5)中華人民共和国 国防科学技術工業委員会ほか:高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究開発計画ガイド
(6)韓国科学技術部(MOST):
(7)Ministry of Science and Technology:Korean second national report under the Joint Convention on the safety of spent fuel management and on the safety of radioactive waste management(Octber,2005)
(8)Myung−Jae Song:Radioactive Waste Management and Site Selection Activities for LILW Disposal in Korea,October 7−8,2002,The 24th JAIF−KAIF Seminar on Nuclear Industry
(9)Jang−Soo NAM:Korean Radioactive Waste Repository Project and Public Acceptance,September 24,2001,The 23rd KAIF−JAIF Seminar
(10)韓国産業資源部(MOCIE):
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