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<概要>
 わが国では1970年頃から高速炉燃料再処理の研究を開始した。サイクル機構(旧動燃事業団(現日本原子力研究開発機構))を中心に、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)、国内関連メーカー及び諸大学の協力のもと、基礎研究ならびに工学研究が現在まで展開されている。当初は、軽水炉燃料再処理においてノウハウのある「ピューレックス法」をベースに、高速炉燃料に特有の課題の解決と技術自体の高度化、経済性の向上を図ることを基本方針として開発が進められたが、一層の経済性向上、環境負荷低減、核拡散抵抗性の強化を念頭に置いたシステムの構築が求められ、先進湿式再処理技術の開発や、従来技術を抜本的に見直した新しい再処理技術の開発に向けた取り組みの重要性が認識され、1999年7月から、サイクル機構は電気事業者等との協力による「FBRサイクルの実用化戦略調査研究」を開始した。
<更新年月>
2004年10月   

<本文>
 わが国の高速炉燃料再処理の技術開発は、旧動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)が中心となり日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)、国内関連メーカー及び諸大学の協力のもと1970年頃から開始された。旧動燃東海事業所には基礎プロセス化学・抽出フローシート研究のためのホットセル、高レベル放射性物質研究施設CPF(Chemical Processing Facility)(1979年〜)、また工学機器開発のためのコールド試験施設EDF(Engineering Demonstration Facility)(1982年〜)がある。CPFでは1982〜1995年にかけて高速実験炉「常陽」や海外炉照射燃料約1トン(燃焼度4,400〜100,000MWd/t)を受け入れ、PUREX試験に供している。
 CPFでは、実際の使用済燃料ピンを用いた実験室規模での溶解、抽出プロセス基礎試験を実施し、EDFではレーザー解体機、連続溶解槽、遠心清澄機、遠心抽出器等の工程開発を実施してきた。また、これらの技術開発を統合し、機器・プロセスのホット工学実証を行うために、リサイクル機器試験施設(Recycle Equipment Test Facility:RETF)の建設を計画し(1995年1月に建設着工)、準国産技術として、工学規模の施設・設備・機器を設計し、許認可対応も可能とし、物作りができるまでの技術を蓄積した。なお、CPFは1996〜2002年にかけて改造工事が行われ、新たな研究開発を行うことが可能となった。
1.ラッパ管の解体
 燃料ピンの剪断に先立ち、ラッパ管の解体が必要である。開発の初期では、機械式回転刃により切断する方式が検討されたが、切断刃の損傷が大きく、補修頻度が多くなるため、レーザービーム切断方式に変更した。炭酸ガスレーザー発振器(最大出力10kW)を用いる解体装置の開発を進め、基本的な切断性能を把握した。しかし、炭酸ガスレーザーの場合、金属鏡によりレーザーを伝送する必要があることから、遠隔によるレーザー光軸調整及びレーザー光路系の大型化といった課題も見出された。
 また、近年、光ファイバーによる伝送が可能なYAGレーザー技術の発展により高出力化が可能になってきたことから、装置のコンパクト化が図れるYAGレーザーを用いた解体技術の開発を進めている。このシステムを用いて後述する剪断機との一体化を図った装置検討も進めている(図1)。
2.脱被覆工程
 剪断法は軽水炉燃料と基本的には同じであるが、燃料ピンが細く、ピン束は軽水炉燃料のようにグリットで固定されていないので、剪断刃やギャグの形状とピン束の保持の方法を改良するとともに、ラッパ管解体装置からの高速炉燃料ピン束の受け渡し方法を検討・開発した。
3.溶解工程
 CPFでは、1982年のホット試験開始以来、1996年の改造工事着手前までに溶解試験を計21回実施してきた。溶解試験には、高速実験炉「常陽」のMk-Iドライバー燃料、Mk-IIのドライバー燃料及びC型特殊燃料、仏国フェニックス燃料及び英国DFR燃料を供し、燃焼度、組成等の燃料条件の違いによる高速炉燃料の溶解率や溶解速度を明らかにした。
 また、溶解槽については、保守、耐震性に優れ、また処理量に対する運転裕度が大きく、プロセスの連続化も可能な、「ロータリーキルン式連続溶解槽」について技術開発を進めてきた(図2)。
 材料開発としてはチタン5%タンタル合金、ジルコニウム等の新材料について耐食性、施工性に関した検討を進めてきた。
4.清澄工程
 燃料の種類及び照射条件で、不溶解残査の量、組成、粒度は大きく異なる。CPFでの実照射済燃料による溶解試験では、不溶解残査の50〜80%が原子番号42〜46の第2遷移元素(モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム及びパラジウム)で占められ、燃焼度が増すに従い粒径も荒くなる。例えば燃焼度94,000MWd/tの燃料から生ずる不溶解残査は90%以上が2.0μ以下の微粒子で構成されていることを明らかにした。
 不溶解残査は配管、槽類の閉塞をもたらし、抽出器内で界面クラッド生成の原因となるので効率良く除去しなければならない。高速炉使用済燃料の再処理装置としては、分離性及び遠隔保守性に優れた遠心清澄機(図3)を選定している。この装置では3000rpmの回転による遠心力で平均粒径0.85μmの粒子の90%の捕集が可能である。
5.抽出分離工程
 中性有機リン化合物のTBP(Tributyl Phosphate :(C4H9O)3PO)を抽出剤に用い、液液抽出法により、溶解液からウランプルトニウムを選択的に抽出分離する。CPFでは高速炉燃料再処理のための抽出フローシートの研究を実施しており、1996年の改造着手前までには、小型のミキサセトラを用いたダブルスクラブ法に基づく「高除染フローシート」及びHAN(Hydroxyl Ammonium Nitrate : NH2OH・HNO3)による分配フローシートを開発した。またプロセスの高度化に向け、低温度下でのプルトニウム非還元分配(分配工程)あるいは電気化学反応によるプルトニウムの再酸化(プルトニウム精製工程)、及び窒素化合物と電気化学反応組み併せる溶媒再生法等、種々の「ソルト・フリープロセス」を開発した。これにより放射性プロセス廃液が大幅に低減化できる。また、ネプツニウムをプルトニウムとともに回収する「共抽出フローシート」の開発にも着手したが、当初の試験では、ネプツニウムとプルトニウムの高い抽出率が得られたものの、逆抽出工程では廃溶媒側へのウランのリークが見られた。
 改造工事終了後は、FS計画に基づき、一層の合理化、核拡散抵抗性向上を目指し、ウラン、プルトニウム、ネプツニウムを共抽出すると共に一括して逆抽出し、分配工程及び精製工程を削除した低除染製品を許容した簡素化溶媒抽出プロセスの開発を実施している(図4)。現在、小型の遠心抽出器システムにより試験を実施しており、過去に実施した試験に対し、逆抽出液の増加や加温等といった対策を施し、廃溶媒側へのウランリークは認められないことを確認している。
 溶媒抽出の代表的な装置としては、ミキサセトラ、パルスカラムおよび遠心抽出器がある。高炉燃料の溶解液は比放射能が格段に高いため、溶解液と溶媒の接触時間を短くし溶媒の放射線損傷を防ぐことが肝要で、そのためにはパルスカラムあるいは遠心抽出器の採用が望ましい。パルスカラムの開発では、ウラン及びプルトニウムを用いた抽出・分配試験が終了し、抽出シミュレーションコード「PULCO」の検証に反映された。遠心抽出器は、混合部でエンペラーを3500rpmで回転させて水相と有機相を微細なエマルジョンにして物質移動を促し、円筒部でエマルジョンを遠心力(300−500G)で強制的に分離する、先進的な抽出装置で
 (a)物質移動係数が高い(90−95%)
 (b)ホールドアップは小さく、スループットは大きい
 (c)溶媒と溶解液の接触時間が数秒に短縮され、溶媒の放射線損傷が抑えられる
 (d)起動、停止期間が短縮されるので廃液発生量を抑えられる
等の特色がある。サイクル機構(現日本原子力研究開発機構)では米国ORNLとの研究協力を通じ、単段型(図5)の遠心抽出器の開発を進めている。1992−1994年には模擬ラックに遠心抽出器を多段搭載した抽出システムにおいてラン試験を実施し、ウランの抽出平衡・過渡変化、工程異常時の挙動及び制御システム等について総合的な知見を取得している。
 また、遠心抽出器は、複数段のシステムとして性能の工学的実証が重要であることから、遠心抽出器システム試験装置(ACT:Advanced Centrifugal Contactor Test System、処理能力10KgHM/h)を製作し、抽出試験や1段停止時を想定したマルオペレーション試験を実施してきている(図6)。これまでに、各段の液位は安定していること、エントレインメント(異相混入)の発生は認められないこと、ウラン濃度プロファイルは約10分程度で平衡状態に達すること等を把握してきている。更に、駆動部の耐久性向上を目指し、従来のグリース封入型転がり軸受から磁気軸受に変更した高度化遠心抽出器の開発も進めている。
6.プラント設計及び遠隔保守技術
 サイクル機構では、高速炉燃料の実処理条件下において機器・プロセス単位で、或いはシステムとして試験するRETFの建設を1995年1月より進めてきた。この施設の思想は、稼働率向上、作業員の被ばく低減を目的とし、故障頻度の高いプロセス機器を系統的にラックに収納し、機器の集中的な監視や異常時の対応を速やかに行うと共に、複数のラックを大型の単一セル内に合理的に配置することにより機器の遠隔補修や交換を容易化したものである。このため、主要機器・プロセス以外に、自動サンプリング装置、高性能両腕型マニプレータ(BSM)等の遠隔保守設備を配置する計画であった(図7図8)。
 しかし、「もんじゅ」事故などによりサイクル機構として安全対策に重点を置いた事業展開を進めるとともに、FBR再処理技術の進展を適切に反映するため、2000年6月末時点で工事を中断した(第一期工事を完了)。この工事では、リサイクル機器試験棟の建物工事(電気、換気設備を含む)はほぼ完成し、内装設備工事については建物完成後搬入できない地下階設置の設備などについて据付が終了した。その他の試験セル内に設置予定であった試験機器などの枢要機器については、ほとんど製作未着手の状態である。
 また、FS計画では高速炉燃料再処理技術開発についても計画を見直し、先進再処理技術の開発を目指している。その中で、成立性見通しをつけた先進再処理技術のホット工学規模での開発試験フィールドとしてRETFを利用すべく、計画を見直している段階である。
<図/表>
図1 一体型解体・剪断機概念図
図1  一体型解体・剪断機概念図
図2 連続溶解槽概要
図2  連続溶解槽概要
図3 遠心清澄機概略
図3  遠心清澄機概略
図4 ウラン・プルトニウム・ネプツニウムの共回収フローシートと逆抽出段におけるウラン濃度分布
図4  ウラン・プルトニウム・ネプツニウムの共回収フローシートと逆抽出段におけるウラン濃度分布
図5 遠心抽出器概略
図5  遠心抽出器概略
図6 遠心抽出器システム試験装置(ACT)
図6  遠心抽出器システム試験装置(ACT)
図7 RETF完成予想図
図7  RETF完成予想図
図8 RETF試験セル内配置図(従来計画)
図8  RETF試験セル内配置図(従来計画)

<関連タイトル>
再処理の前処理工程 (04-07-02-02)
溶媒抽出工程 (04-07-02-03)
高速炉使用済燃料の特徴 (04-08-01-01)
高速炉使用済燃料の再処理 (04-08-01-02)

<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技術協会(昭和61年)
(2)清瀬量平: 原子力化学工学 (第4分冊) 燃料再処理と放射性廃棄物の化核工学、日刊工業新聞社(1983)
(3)笹尾信之ほか:高速炉燃料再処理技術開発の現状、原子力工業、VoL.33,No.6, 7-31(1987)
(4)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑 平成6年版(平成6年11月)
(5)権田浩三、松田照夫:パルスカラム抽出計算コード「パルコ」PNCT-841-82-19(1982)
(6)根本慎一ほか:高速炉照射済み燃料の溶解に関する研究、動燃技報、No.95 PNC TNI340-003,pp43-51(1995)
(7)M.OZAWA, et al.:Salt-Free Purex Process Development,Proc. Vol.2 of RECOD’91, pp729-734 (1991)
(8)Y.UEDA,et al.: Development of a Reflux-type Centrifugal Contactor,Proc. of ISEC’93 Vol. 3,pp97-102 (1993)
(9)中村博文:リサイクル機器試験施設(RETF)計画について、動燃技法、No.100,199-206(1996.12)
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