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高速炉酸化物燃料の再処理法の候補としては「
ピューレックス法 」(
図1 参照)に代表される湿式法のほか、
フッ化物揮発法、高温化学法等の乾式処理法があった。1960年代の米国を中心にして、種々の乾式法の開発が進められた。乾式法にはいくつかの優れた長所もあるが、高温の操作条件あるいは腐食性・反応性の高い化学試薬を用いるために腐食環境が厳しく、装置材料の選定等に課題が認識されている。
ピューレックス法は1945年に米国で開発され、ほぼ全ての軽水炉燃料の再処理法として定着されている。しかしながら高速炉酸化物燃料の再処理にピューレックス法を適用するにはいくつかの課題がある。高速炉燃料サイクルの開発をそれぞれ独自に進めてきた欧米および日本は、工学およびプロセス化学研究のための専用の試験施設を設けて、高速炉燃料に特有の課題の解決やプロセス自体の高度化のための技術開発を行っている。以下、具体的に述べる。
1.ラッパ管の解体、剪断工程
燃料集合体(ピン)は、「ラッパ管」と呼ばれる六角形の断面を有する肉厚のステンレス鋼製の缶に収納されている。従って
燃料ピンの剪断の前にラッパ管を解体除去する必要がある。このためレーザビームを利用する解体技術が開発されている。
燃料ピンの剪断には、軽水炉燃料の剪断と同じ方法が適用できる。
2.ナトリウムの不活性化
ナトリウム冷却材が燃料ピンに付着、またはピン内部に浸透していると、水との間で激しい酸化反応が生ずる。従ってプール内に移動する前に不活性化し、除去する必要がある。そのためにアルゴンのような不活性気体中で水蒸気と反応させ、水酸化ナトリウムに転換する方法がある。
3.溶解工程
高速炉燃料の特徴である高燃焼度および高
プルトニウム冨化度を考慮した溶解条件の最適化ならびに溶解槽の構造設計の最適化が必要である。プロセス化学的には難熔性の二酸化プルトニウムの溶解性と、
PuO2 + 4HNO3 −−> Pu(NO3)4 + 2H2O
(PuO2溶解反応)
UO2 + 3HNO3 −−> UO2(NO3)2 + 1/2NO2 + 1/2NO + 3/2H2O (3M<HNO3<8M)
(UO2溶解反応)
機器設計では高濃度プルトニウムによる臨界防止のための制限に留意しなければならない。また溶解条件は再処理工程中でも最も厳しい腐食環境の一つであるので、溶解条件の緩和や高耐蝕性の材料開発も必要とされる。
4.溶解液の清澄工程
高速炉燃料は、高燃焼度のため核分裂生成物(FPs)の含有量が多い。FPsの内、白金族元素やテクネチウム、モリブデン等の元素は熱硝酸にも難熔性であり、これらの酸化物を主成分とする「不溶性残渣」は微細粒子で槽類や配管を閉塞させたり、有機エマルジョン を安定化させるために
抽出工程で「界面クラッド」生成の原因となる。界面クラッドは
物質移動を妨げたり溶媒を劣化させる。また機器の閉塞をもたらす。したがって不溶性残渣を高度に除去するための清澄が重要である。
清澄機としては従来の「パルスフィルタ」の他、操作性、分離性共に優れた遠心清澄機がある。
5.抽出分離、溶媒再生工程
ピューレックス法(PUREX : Plutonium Uranium Reduction EXtraction)では溶解液から
ウランおよびプルトニウムを選択的に分離するために「液液抽出法」を用いる。抽出剤としては、中性の有機リン化合物TBP(Tributyl Phosphate:(C4H9O)3PO)を炭化水素希釈剤ドデカン(n − C12H26)に20〜30%溶解したものを用いる。
Pu4+(aq) + 4NO3−(aq) + 2TBP(org) <−−> Pu(NO3)4・2TBP(org)
(プルトニウム抽出平衡式)
UO22+(aq) + 2NO3−(aq) + 2TBP(org) <−−> UO2(NO3)2・2TBP(org)
(ウラン抽出平衡式)
ウランとプルトニウムの分離はプルトニウムを還元しておこなう。両核物質の回収率は一般的には≧99.5%、 FPsの
除染係数は10E+7〜10E+8とされているが、高速炉燃料再処理の場合は低除染化が検討されている。
研究動向としては、抽出サイクルの短縮化を目的とする「高除染フローシート」、ネプツニウム、テクネチウム等のマイナー核種の挙動制御強化および抽出数学モデル・シミュレーションコードの開発が、それぞれ抽出フローシート高度化研究の一環として進められている。分配・精製および溶媒再生技術では、二次的廃棄物の低減化を目的としてソルト・フリー試薬および電気化学プロセスを用いたプロセス制御法、いわゆる「ソルト・フリー法」が開発されている。
液液抽出装置としては分離能および処理能力が高く(即ち小型化が可能)、またスケールアップ性にも優れた「遠心抽出器」がふさわしいと考えられている。
6.その他の工程
ウランおよびプルトニウムの精製、濃縮、脱硝工程および廃棄物処理工程等は軽水炉燃料再処理で開発された技術を適用することができる。なお、動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)は、
高速増殖炉の使用済燃料の再処理のプロセス・エンジニアリングの確立を図るための施設である工学規模の
リサイクル機器試験施設(RETF:Recycling Equipment Test Facility)の建設に1995年1月に着手し、2000年過ぎの運転開始を目標に建設を進めている。
7.先進的再処理技術の開発
再処理技術には、動燃(現日本原子力研究開発機構)や英BNFLが検討しているMOX燃料のPUREX法湿式再処理をベースに、分離回収工程の高度化、回収物の精製工程の削除等を取り込んだ新湿式再処理法、電中研が検討している米アルゴンヌ研究所(ANL)の金属燃料乾式再処理法、東電が検討しているロシアデミトログラードRIARの酸化物燃料乾式再処理法、さらには原研(現日本原子力研究開発機構)が検討している窒化物乾式再処理が代表的である。いずれも従来の再処理工程に比べ、半分以下の大幅工程削減が実現でき、先進的核燃料リサイクルの要件を満足できる有望なオプションである。
<図/表>
<関連タイトル>
再処理の前処理工程 (04-07-02-02)
溶媒抽出工程 (04-07-02-03)
高速炉使用済燃料の特徴 (04-08-01-01)
<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技術協(昭和61年)
(2)清瀬量平(訳): 原子力化学工学( 第4分冊) 燃料再処理と放射性廃棄物の化学工学、日刊工業新聞社(1983)
(3)笹尾信之他: 高速炉燃料再処理技術開発の現状、原子力工業Vol.33、No.6、7?31(1987)
(4)原子力委員会:原子力白書 平成8年版(平成8年12月)、p154
(5)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑平成9年版、日本原子力産業会議(1997年10月)、p158