<本文>
放射性同位元素および放射線発生装置を使用、販売、賃貸、または廃棄する事業者は、放射線障害防止法に基づき、事業の開始に際して文部科学大臣の許可または同大臣への届出が必要とされている。このとき、一定数量以上のRI貯蔵施設を有する事業所、放射線発生装置の使用事業所、廃棄事業所については、それぞれ施設検査が必要になる。これらの事業者は、放射性同位元素および放射線発生装置の取扱いに先立って、放射線障害予防規定を作成し、放射線障害の防止について監督を行う
放射線取扱主任者の選任を行い、これらを文部科学大臣へ届出る必要がある。また、放射性同位元素等の使用施設、貯蔵施設、廃棄施設等の放射線施設については、施設基準として一定の許可基準が設けられており、許可後においては、この基準に適合するように維持管理を行うことが義務づけられ、さらに、上記施設検査の対象事業者については
定期検査を必要とする。放射線障害防止法に基づく規制の概要を
図1に示した。
使用事業所の種類は、研究機関、教育機関、医療機関、民間企業など多岐にわたり、その数は
図2に示すように1998年頃までは年々増加の傾向であったが、その後減少傾向にある。すなわち、ピーク時の1997年度末には使用事業所数は5,058であったが、2004年度末には4,583に減少した。2004年度の事業所数の内訳は許可事業所が2,468、届出事業所が2,115となっている。この他、販売、賃貸、廃棄する事業者がそれぞれ123、2、10あり、2004年度末の取扱事業者の総数は4,718である。
これらの事業所に対しては、文部科学省の放射線検査官による施設の立入検査が毎年度行われている。2004年度には281か所の事業所への立ち入り検査が実施され、このうち44事業所(検査実施事業所の約16%)で何らかの不備が認められ、記帳関係(17件)、施設関係(12件)、手続き関係(12件)に係る不備が目立っている。具体的な不備の事例として、記帳関係では使用、廃棄(譲渡)、運搬の帳簿において従事した者の氏名の項目および運搬時の荷送り人または荷受け人の項目等の記入不備、帳簿が年度閉鎖されていないこと等、施設関係では使用施設の暗室の出入り口に所定の標識がないこと等があった。また、手続き関係では、変更申請をせずにECD(β線源を使用する電子捕獲型検出器)をガスクロマトグラフィより勝手に取り外し保管していたこと等の事例があった。
上記のように、多くの施設の立入検査(抜き打ちを含む)が毎年実施され、施設が適正に維持管理されているか確認が行われているなかで、少数ではあるが事故・トラブルの発生がほぼ毎年報告されている。1958年度(昭和33年度)から2001年度(平成13年度)にかけて文部科学省に報告された類型別の事故・トラブルの推移を、2002年7月に
原子力安全委員会が報告書に纏めた(
表1-1参照)(注:原子力安全委員会は
原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力
安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として
原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)。また、文部科学省は1996年度から2005年度(11月1日まで)の期間に報告された類型別の事故・トラブルの推移を、同省ホームページの「放射線障害防止法による安全規制/規制の現状/5.事故の状況」の中でまとめている(
表1-2参照)。なお、2000年度(平成12年度)と2001年度(平成13年度)の事故・トラブルの件数および1958年度からの合計件数は、その後の見直しにより変更されている。また、
表1-2では
表1-1の「未届線源」と「その他」の合計を「その他」の類型に含めている。
表1-2によると、放射線障害防止法の施行以後に文部科学省(旧科学技術庁)に報告のあった事故・トラブルの合計は143件であり、その4割以上の61件が放射性同位元素の紛失(計測用および医療用密封線源並びに治療に使用されたものなど)、28件が
被ばく、14件が汚染事故である。一方、最近では未届線源(
表1-2では「その他」に分類)が増えている。これは、帳簿上に存在せずに貯蔵庫に保管されていたRIの発見などであるが、その多くは放射線障害防止法施行以前から使用されていた古い医療用RIである。近年にその事例が増えているのは、規制当局の調査の指示によって回収が進んだ結果である。また、これまでの事故・トラブルを主な事業所別にみると、医療機関52件、民間企業35件、研究機関27件、教育機関15件となっている。医療機関での発生が多く、民間企業では取扱事業所数が多い割には発生数が少ない。
なお、参考文献(5)によれば、世界の放射性同位元素および放射線発生装置の使用施設において1945年から2001年までの期間に140件の被ばく事故が発生し、81名の死亡者を出している。(チェルノブイリ事故等の原子炉事故は含まない。)わが国の放射性同位元素および放射線発生装置を取扱う施設では、これまでのところ外国におけるような痛ましい事故例はない。
<図/表>
<関連タイトル>
放射性同位元素等取扱事業所における事故等の年度推移(1998年度まで) (03-05-04-01)
放射線障害防止法 (10-07-01-06)
放射線障害防止に関する関連法規 (10-07-01-07)
<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 昭和58?63年版、平成元-10年版、大蔵省印刷局
(2)中島敏行:原子力白書などにみる放射線事故、Isotope News(1999年11月)、p.22
(3)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成12年-13年版、財務省印刷局
(4)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成14年版、国立印刷局
(5)原子力安全委員会 放射線障害防止基本専門部会:資料第13-2-3号 放射性物質及び放射線の関係する事故・トラブルについて(案)(平成14年7月)
(6)文部科学省、原子力・放射線の安全確保ホームページ:放射線障害防止法による安全規制