<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 研究炉等
<小項目> 海外の研究炉の事故・故障・トラブル概要
<タイトル>
海外における研究炉の主な事故 (03-04-10-01)

<概要>
 研究炉の事故例(臨界集合体を含む)として報告されている最も古いものは、1945年8月に発生したアメリカ・ロスアラモスの臨界集合体の臨界事故である。
 研究炉で発生した事故について、「異常な反応度を伴う事故」「冷却材流量の喪失による事故」「冷却材が喪失した事故」「機器または部品の故障や誤操作による事故」の4種類に発生原因を分類し、これらの中から、代表的な事故例を紹介する。
<更新年月>
2002年09月   

<本文>
1.はじめに
 世界最初の研究炉が稼動した1942年以来、これまでに651基の研究炉が稼動してきた。現在でもほぼ284基が稼動している。
 研究炉は、発電用原子炉と異って様々な型式の炉がある。このため、事故トラブルも炉の型式特有な事故例もあるが、事故例を検討する過程で得られる教訓は、安全に対する教訓として他の原子炉にも有効な場合が多い。研究炉で発生した事故例をまとめたIAEAの資料(参考文献1)をもとに、反応度の異常な上昇を伴う事故、原子炉冷却材の流路閉塞などに起因する流量喪失による事故、原子炉冷却材が喪失した事故、機器故障や運転操作ミス等によって生じた事故の4種類に分類して事故例を紹介する。
 研究炉で発生した事故例の主なものを原因別に分けて 表1−1表1−2表2表3表4−1 および 表4−2 に示す。
2.反応度の異常な上昇を伴う事故
2.1 アメリカ・ロスアラモスの臨界集合体で発生した事故例
 研究炉の事故例(臨界集合体を含む)として報告されている最も古いものは、1945年8月に発生したアメリカ・ロスアラモスの臨界集合体の臨界事故である。この事故は、臨界質量に関する研究と測定のために、2つの半球から構成されている炉心の周囲に反射体となるタングステンカーバイドのブロックを手で積んでいるときに発生した。1人でこのブロック積み作業を行っており、臨界超過になる前の最後のブロックを積む際に誤って炉心部中央にブロックを落下させ、即発臨界超過の状態になり出力暴走を起こし事故となった。事故発生時の実験作業者は、炉心周囲に積みあげたブロックを崩して、未臨界に戻したが、多量の被ばくによって28日後に死亡した(5.1Sv(510rem)と推定されている)。
 事故の後に設けられた特別委員会は、事故について検討した結果、今日では当然と考えて措置されるようになったいくつかの規則を定めている。
 a) 作業を行う者と、その作業を監督・指導する者との組み合せによる最低2人以上の組み合せで作業を行う。
 b) 実験・作業開始前に作業方法と事故時の対応行動を含む訓練を行う。
 c) 中性子の強さに対して可聴音を発する監視装置を少くとも2つは稼動させておかなければならない。
 d) 同一室内に臨界になる集合体を同時に2つ以上置いてはいけない。
等である。事故の発生は、不幸な出来事ではあるが多くの安全のための教訓を示唆している。その後、研究炉で発生した多くの事故例は、現在はIAEAが開発しているIRSRR(Incident Reporting System for Research Reactors)に収録されデータベース化が進められている。
2.2 ミシガン大学のFNR(Ford Research Nuclear Reactor)で発生した事故例
 FNRは、熱出力2MWのプール型の原子炉で、20%濃縮ウランを使用した板状燃料29体で炉心を構成している。事故は1992年6月に燃料の移動による炉心の反応度変化を測定している時に発生した。原子炉は低出力(8kW)の臨界に保たれた状態で、燃料を次々に移動し、4番目の燃料を移動することを命ぜられた運転員が、燃料の移動を開始した直後に発生した。この時、原子炉は自動制御されていた制御棒の自動制御が解除され、直ちに未臨界になった。この事故の発生原因となったのは、運転員と試験を実施するマネージャーの間で、十分なコミュニケーションがとれていなかったこと、制御室で原子炉の状態を監視するべき運転員の対応が不十分であったことによるものであった。
 原子炉には、完全に制御棒が挿入され、原子炉が停止したことから、大事に至る事故にはならなかったが、原子炉を臨界状態に保持して行う状態での実験においては、基本的な操作を確実に行うことが求められる事例である。
3.流路閉塞などに起因して原子炉冷却材の流量喪失が起こったことによる事故
3.1 アイダホ国立工学研究所のMTR(Material Testing Reactor)で発生した事故例
 MTRは、高濃縮ウランを使用したタンク型の原子炉で熱出力は40MWである。1962年11月13日、定格出力で運転中、燃料集合体の差圧モニタが鳴り、その後原子炉はスクラムした。スクラム後1分して1次冷却水の放射能モニタの指示値が上昇した。その後エリアモニタの警報も鳴り、作業員は、原子炉棟の建家から退避した。その後の調査で1体の燃料から燃料板1枚の小部分が溶融し、約0.7gの235Uが流出していることが確認された。破損の原因は、燃料板上部において水補給タンクのガスケットが燃料体上部の約40%を覆った事によるものと推定された。その後同様なトラブルにより11月25日、12月24日にもスクラムが発生している。この時は、前回の教訓により早目にスクラムする措置が講じられており、炉室内のモニターが上昇したものの大きな被ばくはなかった。
 このトラブルから次のような教訓が得られた。
・1次冷却水は粗調整棒を引き抜く前に1時間、正常な運転条件で循環させること。
燃料要素の冷却水流量喪失を防ぐためには、冷却水を濾過する装置を可動部分を有する装置やガスケットのある区域と炉心入口部分との間に設置すること。
・濾過する部分のメッシュは、燃料板の間隔より小さくすること
 等が定められた。
3.2 オークリッジ国立研究所のORR(Oak Ridge Research Reactor)で発生した事故例
 ORRは、高濃縮ウラン・板状燃料を使用した軽水減速・冷却、タンク型で熱出力30MWの原子炉である。1963年7月1日、決められた手順に従って、6MWの出力レベルで冷却水流路を妨害していないか肉眼で検査を行った(チェレンコフ光による光を利用すると異物を見つけ易い)が、異常はないと判断した。その後、24MWまで上昇する過程でノイズ(原子炉出力のふらつき)の振幅の増加と、放射線モニターが警報を発したため、21MW、12MW、300kWと下げていったが状況は変わらず、通常の値の約100倍の放射線レベルに達しており、オペレータは手動で原子炉を停止した。事故はネオプレン・ガスケットが燃料要素の1体の上端を閉塞していたことより発生したものであり、燃料板1枚の約30〜50%が溶融した。その後の放射線モニター類の調査から、放射能の放出は短時間であることが判った。この事故による教訓として、つぎのことが挙げられる。
・原子炉タンク内に不注意で他の物質が入る事を排除するための手順が決められた。
・炉心内を肉眼で検査する点検孔をより大きな窓にする。
・原子炉出力のふらつきを確実にモニタすることは、炉内で沸騰が起こっているかどうかを知るのに有効である。
3.3 グルノーブル研究所のSILOE原子炉で発生した事故例
 SILOEは、熱出力30MWのプール型の原子炉である。当初15MWで設計され運転されていたが、1967年に改造し30MWに出力を上昇した。1967年11月7日、43MWの過出力での試験を行っている時に、冷却水の流量配分の不適切あるいは流量を阻止する外的要因によって燃料板6枚が溶融し、36.8gのウランと55,000Ci(2.0E15Bq)のFPがプール水中に放出され、2,000Ci(7.4E13)の希ガスが事故後スタックから2日間にわたって放出された。しかし、人間の被ばくはなく、環境への影響は無視出来る程小さいものであった。この事故によって、プールの構造材も含め、炉心に落下して流量を阻止するものは、すべて取り除かれねばならないことを運転手順書に明記する事など、プール型炉の場合最も恐れられる燃料体の冷却材流路閉塞に対する対策が明確な形で進められた。また、燃焼度の低い燃料板の溶融は、破損の割合が事前に考えられたよりも低いことなど事故時のFPの放出についての貴重な知見が得られた。
4.原子炉冷却材が喪失した事故
 ノースカロライナ州立大学のプール型の原子炉PULSTARにおいて、1988年2月1次冷却系から冷却水が漏洩した。漏洩量は、378リットル/dayと見積もられた。幸い漏洩した冷却水は外部に流出し地下にしみ込んだ。
5.機器または構成部品の故障や誤操作等による事故
 ベルギーのBR-2炉は熱出力100MWのタンク型の原子炉である。1973年の5月一次冷却水の放射能の値が異常に高くなった。これは燃料板の被覆の破損が原因であった。運転サイクルの期間、放射能はゆっくりと増加し、一次系の汚染は熱交換器やその他の施設に接近できないほどに増加した。被覆管の損傷原因は、アルミニウム原材料の不純物または製造工程で入った不純物粒子によるものであった。FPの漏洩が発生した燃料の同定は、冷却材中の133Xeと131Iを原子炉停止後48時間以内にシッピング法(*1)で検出することにより行った。
 
[用語解説]
(*1)シッピング法:燃料集合体から1次冷却系に抽出された希ガスFPにアルゴンガスを吹き込んで、中に含まれる放射性のキセノン133Xeを検出することにより、その集合体が破損しているか否かを判定する方法
<図/表>
表1−1 海外の研究炉で発生した反応度の異常な上昇を伴う事故(1/2)
表1−2 海外の研究炉で発生した反応度の異常な上昇を伴う事故(2/2)
表2 海外の研究炉で発生した流路閉塞などに起因する原子炉冷却材の流量喪失による事故
表3 海外の研究炉で発生した原子炉冷却材が喪失した事故
表4−1 海外の研究炉で発生した機器または部品の故障や誤操作による事故(1/2)
表4−2 海外の研究炉で発生した機器または部品の故障や誤操作による事故(2/2)

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
日本の研究炉の事故・故障の推移(1982年度〜2003年度) (03-04-08-01)
海外の主な研究炉 (03-04-09-01)

<参考文献>
(1) EXPERIENCE WITH RESEARCH REACTOR INCIDENTS (TECDOC)IAEA,SEPTEMBER(1994)
(2) T.J.Thompson and J.G.Beckerley,The Technology of Nuclear Reactor Safety,Vol.1 MIT Press(1964)
(3) IAEA(編): Nuclear Research Reactors in the World, REFERENCE DATA SERIES NO.3(2000)
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