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<概要>
 試験研究用原子炉(以下「研究炉」という)は、発電用原子炉の熱利用とは異なり、核分裂連鎖反応で発生した多量の中性子を利用する原子炉である。中性子の利用は、多方面にわたっており、その利用の目的に対応した原子炉の構造、性能が求められ原子炉の型式も様々なものになる。最近の世界の研究炉の情勢をみると、旧型の原子炉は初期の目的を達成して閉鎖され、新しい研究目的に対応した高性能の原子炉が新たに建設されているものの研究炉全体の基数は減少傾向を示している。
<更新年月>
2006年12月   

<本文>
1.はじめに
 試験研究用原子炉(以下「研究炉」という)は、核分裂連鎖反応により発生した熱エネルギーを利用する発電用原子炉と異なり、核分裂連鎖反応で発生した中性子を基礎研究から工学的応用研究までの広い分野にわたって実験・研究等に利用する原子炉である。このため研究炉は、使用の目的に応じた様々の型式があり、その性能も様々である。例えば、原子炉構造材料の照射損傷などを研究することを目的とした材料試験炉の場合は、特に高い中性子束が得られるよう工夫した炉が作られ、出力も大きくなる。ビーム実験に用いる事を目的とするビーム炉の場合は、中性子束が高いことはもちろん、中性子線へのγ線の混入率やスペクトル等その線質が重要視される。また、照射研究やビーム実験、RI製造等多目的に使われる研究炉の場合は、炉心部分へのアクセスを重視した型式の炉が多く見られる。このように研究炉は、様々な目的に応じた様々な型式がある。
 世界中の研究炉の数は、IAEAの統計資料(2001年5月)等によると、58か国で284基が稼働しており、このうちわが国の研究炉(臨界実験装置は除く)は、現在10基稼働し、5基が解体中である。研究炉は1960年代に世界各国で盛んに建設されたが、1970年代以降急速に建設数が落ち込み、1980年代では39基、1990年代にはわずか23基しか建設されていない。逆に永久停止の措置を施す、あるいは解体に向かう原子炉は1970年代には約100基、1980年代には93基あり、建設数を上まわっている。このため研究炉の総数は減少の傾向にある(図1 参照)。今後は、高い中性子束を持つ炉や医療照射や冷中性子源設備を有する炉等、高性能で高度な利用設備を有する特徴ある研究炉がニーズに応えていくものと思われる。
2.現在稼動中の主な研究炉
 世界の研究炉のうち、米国およびカナダの北米地域には、稼働中の研究炉が61基あり、世界の研究炉の約22%を占めている。また、東西ヨーロッパには稼働中の研究炉が125基あり、世界の稼働中の研究炉の45%以上を占めており、欧米諸国で世界の研究炉の70%弱を占めていることになる。これらの研究炉の中で、代表的な高中性子束炉としては米国のオークリッジ国立研究所にあるHFIR(High Flux Isotope Reactor)がある(図2参照)。インボリュート型と呼ばれる断面が渦巻の形状をした板状燃料を使用するコンパクトな炉心により最大熱中性子束2.1E15n/cm2・s、最大高速中性子束1E15n/cm2・sを得ることができ、RIの製造、超ウラン元素の製造、ビーム実験等に利用され、多くの成果をあげてきた世界で最高性能の中性子照射炉である。1960年代に建設された古い原子炉であり、現在は最高出力を100MWから85MWに下げて運転しているものの、最近では冷中性子源装置の取りつけが計画されるなど、この原子炉に寄せる期待は依然として大きい。
 HFIRと同様のインボリュート型燃料を使用するHFR(High Flux Reactor)は仏国のグルノーブルにあり、炉心部は重水減速重水冷却のタンク型でこの炉心部をプール中に設置するいわゆるタンク・プール型炉である。出力は58.3MWではあるが、最大熱中性子束は1.3E15n/cm2・sで、こちらは後述のORPHEEと同様の、世界で最高性能の中性子ビーム実験主体の研究炉である。この他ヨーロッパではオランダにあるHFR−PETTENが、ヨーロッパ諸国の共同研究の照射炉として活躍をしている(図3参照)。この炉は、MTR型の板状燃料を33体使用して炉心を構成し、軽水減速冷却型のタンク型炉であり、熱出力45MW、最大熱中性子束2.7E14n/cm2・sの性能を誇っている。多目的な材料照射に対応できる材料試験用原子炉(表1−1および表1−2参照)として、軽水炉を支える基盤施設として位置づけられる。最近ヨーロッパ地区の医療照射炉としても利用されており、照射設備の設置を終了し、すでに脳腫瘍の照射を開始している。医療照射を行っている研究炉では既存の医療照射設備を改良し、新たに医療照射に取り組んでいる米国のMITR−2がある(図4参照)。熱出力は、現在4.9MWのタンク型原子炉で最大熱中性子束は、7E13n/cm2・sで、ボストン市内の大学(MIT)構内にある利便性とも相まって多くの研究者に利用されている。
 最近は建設される研究炉の数が少ないが、1980年代に建設された仏国のORPHEEは軽水減速、冷却のプール型炉で炉心の周囲に重水反射体を置き、炉心部周辺で高い熱中性子束が得られる構造となっている(図5参照)。この型式は、その後作られたわが国のJRR−3改造炉、インドネシアのRSG−GAS(MPR−30)や韓国のHANARO(KMPR)の設計にも取り入れられ、ビーム実験を主体とした多目的炉の標準的な形式ともいえる。ORPHEEは熱出力14MW、最大熱中性子束3E14n/cm2・sの性能を誇り、9本の中性子導管を設置するほか、冷中性子源、高温中性子源の設備を持つ最新鋭のビーム炉として活躍している。
 日本を除くアジア諸国の研究炉は約42基あり、このうちトリガ型の炉は6か国に7基存在する。この小出力炉は米国から導入され、原子力の基礎研究に使用されている。この型式の炉は、多目的に利用が可能なプール型であり、安全性も極めて高く、ウラン・ジルコニウムハイドライド燃料を使う等、取り扱いの容易さもあって世界中で広く使われている。近年は、出力の大きい多目的研究炉を建設する動きがあり、台湾では、廃止措置に入ったTPRを大幅に改造して使用する計画が進められている。インドネシアでは、熱出力30MWの多目的研究炉RSG−GAS(GA SIWABESSY MPR) が1987年初臨界、RIの製造、中性子散乱等に利用されている。韓国では、NRU(カナダ)と同様の低濃縮棒状燃料を使用した高出力の研究炉HANARO(熱出力30MW、最大熱中性子束2〜3E14n/cm2・s)が1995年初臨界、中性子散乱、RIの製造等に利用されている(図6参照)。
 これら稼動中の主な原子炉の性能等を表2に示す。
3.停止した研究炉
 前項にも述べたように世界の中では旧型の研究炉は次々と停止している。これらの中には世界の研究炉をリードしてきた大型の研究炉もある。また、新炉の計画が途中で中断された例もある。特に、米国では新たな研究炉の建設の計画は見当らず、近年HFIRに代わる高性能炉の建設が期待されたAdvanced Neutron Source(ANS)計画が中止となり、新たに加速器の建設計画が立ち上がるなどで研究炉の新設は当分の間なさそうである。英国では材料研究の照射炉として活躍した重水減速冷却タンク型のDIDOおよびPLUTOが1990年に停止し、仏国のSILOEも1997年に運転を終了した。アメリカのCP−5型原子炉は、JRR−2と同型の原子炉であり、小型で高性能の原子炉として日本にもなじみの深い原子炉であったが、JRR−2より一足早く1979年に停止し解体が始まっている。これら、運転が停止された研究炉の主な仕様を表3に示す。
4.新設される研究炉
 新たな研究炉の建設計画は世界各地にある。カナダではMAPLE型のMAPLE−1を建設中であり、2000年2月に臨界になっている。ロシアではPIKという熱出力100MW級の多目的研究炉を建設中であったが、工事は大分遅れており、完成迄には未だ時間はかかりそうである。独国では熱出力20MWのFRM−2は、2004年3月初臨界で、現在、運転中である。仏国では材料試験用原子炉であるOSIRISの後継炉として2014年の初臨界を目指して100MW級のジュールホロビッツ炉(JHR)の建設を計画している。タイ国OAEP(Office of Atomic Energy for Peace)では新しいサイトに熱出力5MWの多目的プール型の研究炉TRR−2を建設中である。これら計画中の研究炉の主な仕様を表4に示す。
5.おわりに
 以上のように研究炉全体の数は減っていくものの、世界的には、より高性能な研究炉に向けて新設計画あるいは改造が行われている。
 今後、既設の研究炉の改造、あるいは高性能研究炉の新設等が進められ、研究炉から取り出される中性子ビームは、より質の高いものが供給されるようになる。これによって、例えば、医療照射の拡充、超冷中性子源による新たな分子構造の解明の進展等、これ迄の利用範囲を超えた分野や、より高度な実験研究への応用が期待されている。
(前回更新:2002年9月)
<図/表>
表1−1 材料試験用原子炉の利用目的
表1−1  材料試験用原子炉の利用目的
表1−2 材料試験用原子炉の状況
表1−2  材料試験用原子炉の状況
表2 運転中の主な研究炉の主要目
表2  運転中の主な研究炉の主要目
表3 運転停止した主な研究炉の主要目
表3  運転停止した主な研究炉の主要目
表4 新設・計画中の研究炉の主要目
表4  新設・計画中の研究炉の主要目
図1 建設および停止した研究炉の推移
図1  建設および停止した研究炉の推移
図2 HFIR概要図
図2  HFIR概要図
図3 HFR本体および炉心配置概要図
図3  HFR本体および炉心配置概要図
図4 MITR−2本体概要図
図4  MITR−2本体概要図
図5 ORPHEE炉体水平断面概要図
図5  ORPHEE炉体水平断面概要図
図6 KMRR(HANARO)炉体および水平断面概要図
図6  KMRR(HANARO)炉体および水平断面概要図

<関連タイトル>
わが国の試験研究用および開発中の原子炉一覧(2003年12月) (03-04-01-02)
ロシアの研究炉 (03-04-09-02)
研究炉 (08-01-03-05)

<参考文献>
(1)IAEA(ed.):Directory of Nuclear Reactors,Vol.2(1959),Vol.3(1960),Vol.5(1964),IAEA
(2)IAEA(ed.):Directory of Nuclear Research Reactors,(1995)および(1998)
(3)IAEA(ed.):Nuclear Research Reactors in the World,Reference Data Series
No.3,IAEA(1994)
(4)前田豊ほか:特集、研究用原子炉の現状と将来、日本原子力学会誌 38(11)、(1996)
(5)Argonne National Laboratory:20th Anniversary International Meeting on Reduced Enrichment for Research and Test Reactors,Oct.5−10,1997 Jackson Hole,Wyoming USA
(6)高柳政二:日本原子力研究所原子炉研修部門講義テキスト研究用原子炉(1997)
(7)Oak Ridge National Laboratory:ANSパンフレット(1992)
(8)Kim H et al.:Design Characteristics and Startup Tests of HANARO−The Newly In−service Korean Research Reactor,J.Nucl.Sci.Technol.,33(7),527−538(1996)
(9)O.K.Harling.et.al:The New Fission Converter Based Epithermal Neutron Irradiation Facility At Mit, 8th Meeting of the International Group on Research Reactors, IGORR8, April 17−20, 2001, Germany(2001)
(10)REDUCED ENRICHMENT FOR RESEARCH AND TEST REACTORS:2000 International RERTR Meeting,2000
(11)原子力安全委員会:原子力安全白書 平成13年度版、

(12)文部科学省ホームページ:原子力分野の研究開発に関する委員会(第16回)配布資料3−1 (平成18年5月25日) 我が国における材料試験用原子炉の役割とJMTRのあり方等に関する検討報告書(平成18年3月)JMTR利用検討委員会、http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/shiryo/012/06061222/001.htm
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