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1979年3月28日に米国ペンシルバニア州TMI-2発電所で起きた事故(以下、「TMI事故」という)は、原子力発電所史上重大な事故となった。ここでは、1980年時点でロゴビン報告等米国で評価されたTMI事故の要因の概要を示す。
1.TMI事故以前の類似事象および警告的なリポート
TMI事故発生以前に、TMI事故を予測させるような類似トラブルが幾つか発生していた。また解析検討による、小
LOCA 予測リポートも幾つか出されていた。しかしながら、これらを教訓として、TMI事故の発生を防ぐような対策がとられなかった。
(1)類似事象
A. 1974年8月、スイスBeznau-1発電所(W社製)において、出力100%運転中、タービントリップの後
加圧器逃し弁開固着となり、
ECCS(非常用炉心冷却設備;高圧注水系)が自動作動した。約3分後に運転員がこの加圧器逃し弁開固着に気づき、加圧器逃し弁を閉じた。
B. 1975年6月、米国Oconee-3発電所(B&W社製)において、出力を100%から15%に下降中、加圧器逃し弁開固着となったが、制御室には表示されなかった。ECCS(高圧注水系)が自動作動した。運転員が早めにこの加圧器逃し弁開固着に気づき、加圧器逃し弁を閉止した。
C. 1977年9月、米国Davis-Besse-1発電所(B&W社製)において、出力9%で運転中、主給水停止に続き補助給水も不能となり、加圧器逃し弁開固着となった。運転員が加圧器水位上昇に気が付き手動スクラムさせた。約20分後に加圧器逃し弁開固着に気づき、加圧器逃し弁を閉止した。
D. TMI-2発電所(B&W社製)において、1977年3月(試運転中)から1979年1月(商業運転中)までの間に、給水系トラブル9件、主蒸気安全弁開固着が1件、ECCSが作動したのが4件(うち1件は手動)などの事故・故障があった。とくに、1978年3月には、低出力運転中、電源(非常用母線)喪失により加圧器逃し弁が誤開放し、ECCS(高圧注水系)が作動した。電源喪失のため原子炉圧力および加圧器水位の指示ができなくなった。その後電源の復旧により事態は収束はしたが、制御室には加圧器逃し弁本体の開閉指示計がなかったので、運転員は即応的な対応がとれなかった。
E. B&W社、CE社、W社等の
PWRの加圧器逃し弁再閉失敗確率は次の表のとおりである。
原子炉メーカーなど | 加圧器逃し弁再閉失敗確率 | 備 考 |
B&W社 | 0.1〜0.3/炉・年 | 出力運転時のみ
停止時も含む |
CE社 | 0.03/炉・年 | Palisades炉でのみ |
W社 | 0.007/炉・年 | Beznau炉で出力運転時1回のみ |
WASH-1400 | 0.001/炉・年 | 加圧器逃し弁
サイズの配管故障確率 |
B&W社:バブコック&ウィルコックス社
CE社:コンバスチョンエンジニヤリング社
W社:ウェスチングハウス社 |
なお、B&W社製の再閉失敗確率が大きいのは、B&W社製においては、種々の過渡変化時には、二次系からはスクラム信号を出さないで、加圧器逃し弁を作動させて過渡事象を緩和する設計となっているからである。
(2)警告的なリポート
A. 1971年W社からの
AEC(米国原子力委員会)への安全解析報告では、小LOCAの際ECCS(高圧注水系)が発信しない可能性を指摘していた。
B. 1974年4月ドプチェ(ベルギー)からのレターでは、W社PWRで加圧器気相部の小LOCAの際、炉心が沸騰した際加圧器水位が上昇し、その結果高圧注水系が発信しない可能性がある。また原子炉
格納容器内圧力高でも高圧注水系を発信させるべきことを提言していた。
C. 1975年10月
ラスムッセン報告(WASH-1400)では、極小LOCAの際でも、重大な結果をもたらすことがあることを指摘していた。
D. 1977年9月マイケルソン(TVA)の報告では、B&W社PWRで加圧器気相部小LOCAの際、加圧器水位は必ずしも炉心水位を示さないこと、および加圧器からの漏洩になると運転員が高圧注水系を停止する怖れがあることを指摘していた。
2.TMI事故の要因評価
米国での検討によれば、ほぼ100%出力運転中、主給水ポンプが停止するトラブルが発生したが、運転員が補助給水ポンプ出口弁閉に気が付かず補助給水注水が遅れた。また加圧器逃し弁が開固着しているのに気が付かなかったので、長時間一次冷却水の喪失が続いた。次いで、誤判断して
非常用炉心冷却装置(ECCS)を中断してしまった。さらに一次冷却水ポンプも止めてしまった。この結果、炉心損傷が起こり、また格納容器が隔離されなかったので、
放射性物質を含んだ一次冷却水が格納容器の外に洩れ出て、そこから環境に洩れ出た(その後の確認では、
希ガスの漏洩は一次冷却水を処理するため、充填・抽出系を働かしたときに起こったとされている)。
このように、この事故は機器の故障、運転員の判断ミス、設計上および非常用手順書の不備などが重なって起きたものである。
(1)事故の要因
a.保守点検の不備および運転員のミス
イ.加圧器逃し弁に従来から漏洩があったのをそのままにしておいた。
ロ.運転する前に補助給水ポンプ出口弁開の確認を怠った。
ハ.運転中補助給水ポンプ出口弁が閉じていたことに運転員が(8分間)気が付かなかった。(
蒸気発生器による炉心の除熱能力低下)
ニ.加圧器逃し弁開固着に長時間(2時間以上)気が付かなかった。(小LOCA発生)
ホ.一次冷却水圧力低下に気が付かず、また炉心水位があると誤判断し、ECCS
(高圧注水系)を停止したり流量を絞ったりしてしまった。(非常用手順書では、ECCS手動停止は加圧器水位と原子炉圧力の確認を要す)
ヘ.
自然循環を確認せず、一次冷却水ポンプを停止した。(冷却能力喪失により炉心の大規模な損傷が起こった)
ト.給水喪失や一次冷却水圧力低下等に関する非常用手順書を参照しなかった。
b.設計上の不備
イ.高圧注水系絞り弁の開閉表示は制御パネル全面にあるが、その流量表示は制御パネル裏面にあるというように、非常用系統の制御装置表示と状態表示が秩序立って配列されていなかった。
ロ.加圧器逃し弁開閉の直接的表示が制御パネルになかった。
ハ.タービントリップ、主給水喪失、蒸気発生器水位低下などの二次系異常事象に対するスクラム信号がなかった。
ニ.事故時原子炉格納容器隔離が格納容器内圧高信号によってのみであり、ECCS起動信号でも隔離なされるようになっていなかった。
ホ.原子炉容器、蒸気発生器、一次冷却水ポンプ、配管などが自然循環がしにくい配置になっていた。
c.操作手順書および運転管理上の不備
イ.加圧器逃し弁の適切な作動確認を指示していなかった。
ロ.加圧器の満水を避ける手順では、炉心内気泡発生による加圧器水位上昇を予想していなかった。小LOCAでは、加圧器水位が低下することになっていた。
ハ.急激な水素発生に対する対応手順が明示されていなかった。
ニ.炉心冠水のような基本的安全性確保よりは機器の損傷防止に重点がおかれていた。
ホ.事故時の運転員操作猶予時間を10分以上とっていなかった。
へ.手順書は原子炉の起動・停止のように通常時対応が中心的に書かれていて、事故時対応が少なかった。
ト.緊急時の技術支援体制が不十分であった。
3.その後の計画
事故直後としての検討評価は1980年でほぼ終了した。得られた教訓は、我が国でも、指針等を通じて原子力発電所の安全性向上に反映されている。
米国では、1981年からは、
DOE(エネルギー省)を中心とした4機関による、「TMI-2号機をめぐるR&D計画」が発足し、炉容器内観察および燃料取り出し、事故シナリオの検討などを含む調査共同研究が始まった。我が国もこの共同研究に参加 している。
<関連タイトル>
我が国の安全確保対策に反映させるべき事項について (11-03-01-18)
軽水炉におけるシビアアクシデントマネージメントについて(1992年) (11-03-01-24)
TMI事故の経過 (02-07-04-02)
TMI事故時の避難措置 (02-07-04-03)
TMI事故の我が国における対応 (02-07-04-06)
TMI事故直後の米国における対応 (02-07-04-07)
TMI事故直後の諸外国等における対応 (02-07-04-08)
<参考文献>
(1) 原子力安全委員会:昭和56年版原子力白書
(2) 都甲泰正(編著):TMI原発事故−その実態と分析−、電力新報社、昭和54年
(3) J.G.Kemeny et al.: Report of President's Commission on the Accident at TMI, Oct.1979
(4) M.Rogovin et al.(NRC Special Inquiry Group): Three Mile Island − A Report to the Commissioners and to the Public,NUREG/CR-1250,Jan.1980
(5) 原子力安全委員会:第3次米国原子力発電所事故調査報告書、昭和56年4月