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<概要>
 米国では、大統領任命のTMI事故 調査特別委員会を発足させ、調査検討の結果(ケメニー報告書、1979年10月3日)を報告させた。
 一方、原子力規制委員会が事故直後から内部で種々の調査、検討を行うと共に、特別の調査グル−プに調査・検討を委託し報告書(ロゴビン報告書、1980年1月24日)にまとめさせた。
 これらの結果を基に、米国側として各種の改善措置がなされた。
 原子力産業界においても、独自に調査・検討を行い、国の勧告も受けて、必要な改善措置を講じると共に、原子力安全解析センタ−(NSAC),原子力発電運転協会(INPO)、原子力発電相互保険会社(NEIL)を設置し、安全対策活動を開始した。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
  米国では、事故直後からNRC、大統領府、議会といった国ベ−スでの事故調査活動やこれに伴う改善勧告がなされる一方、電気事業者や原子力機器メ−カ−などの民間ベ−スでも独自に調査、検討を行うと共に国の勧告を受けて必要な改善措置が講じられてきた。これらの国や民間ベ−スの調査、検討は1980年迄にほぼ終了した。
1.原子力規制委員会(NRC)
 NRCは事故直後から多くの職員を現地に派遣し事故の復旧にあたらせていたが、同時に事故原因の調査や改善策を検討すべく内部に様々なタスクフォ−ス等を設置した。
(1) 通達
  TMI事故直後、これと類似の事故を防止するため、NRCは通達で、全ての稼働中の原子力発電所の設置者に対してTMI事故の経過及び主要な事故拡大要因について周知すると共に、TMI事故に関連する事項を見直して必要な措置を早急に採るよう指示した。特に、TMI炉と同じ型のバブコック・アンド・ウィルコックス(B&W)社のプラントに対しては、1979年4月2日迄に常駐検査官を派遣するなど、通達の円滑な実施と事故の防止に万全を図った。
(2) バブコック・アンド・ウィルコックス(B&W)炉に対する措置
 NRCの原子炉規制局からB&W炉の給水過渡現象に関するステ−タス・レポ−トが発表された。これと前述の通達に対するB&W炉設置者からの回答、並びに同者とB&W社とNRCスタッフとの討議の結果を踏まえ、B&W炉はNRCの命令で運転面と設計面において次の措置を早急に実施することになった。
 1) ただちに実施すべき措置(緊急措置)
(i) 補助給水系の性能と信頼性について適切な向上を図る。
(ii) 総合制御系とは独立に補助給水系を起動・制御するための運転手順をつくる。
(iii)主給水喪失又はタ−ビン・トリップ時に原子炉がトリップするようにする。
(iv) 小破断事象について十分な解析を行うとともに、小破断事象時に運転員がとるべき措置を定めた運転手順書をつくる。
(v) B&W社のシミュレ−タで事故訓練を受けた運転員を1名は制御室におく。
 2) 長期的に実施すべき措置(長期措置)
(i) 補助給水系の性能について継続して検討し、その向上を図る。
(ii) 総合制御系の故障モ−ド及び影響解析結果をNRCに提出する。
(iii) 主給水喪失又はタ−ビントリップに続く原子炉トリップの特性を改善する。
(iv) 小破断事象に対する過渡解析及び管理手順については継続して配慮する。
(3) 通達及び委員会命令に対する評価及び改善勧告
 NRCはこれらの通達や命令に対する原子力発電所設置者の対応を検討するための「通達及び命令タスク・フォ−ス」、TMI事故を一般的なものとしてとらえ安全規制に反映させるための「教訓タスク・フォ−ス」等多くのタスク・フォ−スを設置した。
 NRCはこれらタスク・フォ−スの報告書を基に25項目の改善勧告を決め各原子力発電所に改善を要求した。
(4) ロゴビン報告書
 NRCは内部での種々の検討とは独自に事故調査及び改善勧告を行うため、ワシントンの法律家ロゴビン氏を長とする特別調査グル−プに調査を委託し、1980年1月24日報告を受けた。同報告書は、後述のケメニ−報告書とほぼ同様であるが、TMI事故は管理上の欠陥によるとし産業界、NRCの抜本的改革が強調されている。
(5) NRC実施計画書及び許認可
 NRCは前述の各タスク・フォ−ス報告書、ロゴビン報告書、ケメニ−報告書等内外の勧告を踏まえ、1980年 2月28日TMI事故に関する最終的な態度を表明した「NRC実施計画書」を発表した。NRCは、TMI事故後、新規の建設及び運転の許認可を凍結状態にしていたが、必要な改善はほぼ終わったとして1980年 2月末凍結を解除した。

2.大統領府
(1) ケメニ−報告書
 カ−タ−大統領は事故直後の1979年4月1日にTMI-2号炉を視察し、4月11日には大統領任命の「TMI事故に関する大統領委員会」といわれる事故調査特別委員会を設置し事故原因の徹底調査を行わせた。同委員会は、ダ−トマス大学総長のケメニ−博士を委員長とし、学界、労働界、地方自治体の代表者及び住民代表から選出された12名の委員で構成され通称「ケメニ−委員会」と呼ばれている。
 ケメニ−委員会は、12回の公聴会、 150回以上の証人喚問、種々の検討結果等を基にして報告書を作成し、1979年10月30日大統領に報告を行った。報告書では、事故の主要原因は運転員の不適切な操作にあるが、設備の欠陥や管理体制の不備など多くの要因も重なったとし、このような事故の再発防止には、NRCの全体的な改組と産業界における運転員の訓練強化や安全性に対する姿勢の根本的な変更の必要性を強調している。
(2) 大統領声明
 カ−タ−大統領はケメニー報告を受けて1979年12月7日声明を発表し、同報告で指摘された改善措置の実施を強く要請した。この中で、政府機関に対しては、NRCの改組、NRC委員長の更迭と監査委員会の設置、運転中の原子力発電所のある州での緊急避難計画の再検討、原子力発電サイトへの常駐検査官の配置、ケメニ−委員会の勧告の実施、の5項目を、また産業界に対しては、独自の安全基準の開発、運転員及び監督者の訓練プログラム等の開発・維持、緊急時に対応しうるような制御室の近代化・標準化・単純化の3項目を提示している。また凍結状態にあった原子力発電所の許認可については、原子力の利用を放棄できぬとし、NRCに対して遅れている許認可の再開を求めた。

3.米国議会
 議会も上下両院でそれぞれ独自の事故調査を行った。また、原子力開発体制を総点検するまで、モラトリアムを実施する法案も提出されたが、圧倒的多数で否決された。
(1) 上院
 上院の原子力規制小委員会報告はケメニ−報告と同様であるが、避難活動については緊急時対応計画の不備、情報伝達の悪さ、防護活動の認識不足の3点を指摘している。
(2) 下院
 下院のエネルギ−研究・生産小委員会報告もほぼ同様であるが、事故時の被曝の影響は小さく大惨事が差し迫ったものでなかった;原子力発電所の基本概念の多重防護の考え方が有効であった;本事故の検討と措置が今後の安全確保に役立つであろう、と評価している。

4.産業界
 電力業界は原子力発電所の安全に対しては自らが責任を負うとの認識から、事故直後にTMI原子力監督特別委員会を発足させ、設置者の対応を調整・監督させた。また、米国原子力産業会議(AIF) は、NRCに対する公式の窓口として、TMI事故後対策委員会を設置した。原子力発電所の設置者はNRC等からの勧告を受けて、これら委員会の調整の下に、種々の改善を図ってきたが、一方委員会の提言を受けいれ次の機関を設立した。
(1) 原子力安全解析センタ−(NSAC)
 NSACは、事故から得られた教訓を一般化して将来の事故の可能性を少なくする方策を開発し、総括的に原子力の安全問題を追求することを目的に、1979年 5月カリフォルニア州パロアルトの電力研究所(EPRI)内に設立された。組織的にはEPRIの他の部門とは独立いるが、報告書はEPRIの会長に提出されEPRIの指導を受けることになっている。
(2) 原子力発電運転協会(INPO)
 TMI事故が種々の管理上の問題によって生じたことに鑑み、運転基準及び訓練要件に関する指標の確立とこれらが達成されているか独自に評価することにより、NRCが認め得る自己規制のシステムをつくることを目的に設立され、1980年から活動を開始した。
(3) 原子力発電相互保険会社(NEIL)
 NEILは、TMI原子力発電所の所有者であるGPU社が事故に伴う振替電力購入費として毎月2,4000万ドルもの出費を余儀無くされている事実に鑑み、今後の対策としてこのような経費増をカバ−するため創設され1980年9月に業務を開始した。
<関連タイトル>
TMI事故の経過 (02-07-04-02)
TMI事故時の避難措置 (02-07-04-03)
TMI事故直後の評価 (02-07-04-05)
TMI事故の我が国における対応 (02-07-04-06)
TMI事故直後の諸外国等における対応 (02-07-04-08)

<参考文献>
(1) 原子力安全委員会:昭和56年版 原子力安全白書
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