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<概要>
 原子炉再循環ポンプ損傷事象の発生に伴う機器・燃料等の健全性及び今後のプラント運転における機器・燃料等の健全性について2つに区分して評価した。(1) 健全性評価(その1):原子炉再循環ポンプ(B)の損傷事象に関連して、振動等により影響を受けた可能性のある周辺機器等及び流出部品、金属粉等の発生に伴ってそれらが流入した可能性のある範囲内の機器・燃料について、点検・検査等により健全性の評価をし、所要の補修を施したことも含めて問題はないとした。(2) 健全性評価(その2):原子炉圧力容器等に流入した金属粉の洗浄、回収作業の実施結果を踏まえて、残存する金属粉等が機器・燃料等に及ぼす影響を評価し、今後のプラント運転に関して問題はないとした。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子炉再循環ポンプ損傷事象の発生に伴う機器・燃料等の健全性及び今後のプラント運転における機器・燃料等の健全性について、以下に示すように2つに区分して評価した。1.健全性評価(その1)(原子炉再循環ポンプ(B)の損傷の影響)( 図1 参照)
 原子炉再循環ポンプ(B)の損傷事故に関連して、振動等により影響を受けた可能性のある周辺機器等及び流出部品、金属粉等( 表1図5図6 参照)の発生に伴って流入した可能性のある範囲内の機器・燃料等について、点検・検査、解析等により健全性を評価した( 図2 参照)。
1.1 原子炉再循環ポンプ(B)の振動等により影響を受けた可能性のある周辺機器等
 (1) 原子炉再循環ポンプ(B)本体に関する部分
  a.ケーシング:目視検査の結果、ボリュート側壁等に浅い接触跡(衝突痕、接触痕)及び肌あれが認められた。応力評価の結果、これらの接触跡等はケーシングの強度に影響を及ぼさないことを確認した。一方、寸法検査の結果、ケーシング各部いずれも設計寸法を満足しており、変形のないことを確認した。なお、接触跡及び肌あれが認められた箇所については、点検・検査等後、滑らかに成形・加工した。b.ケーシングカバー:目視検査の結果、水中軸受フランジ部との接合面に肌あれが認められ、8箇所のボルト穴のうち5箇所及び4箇所のキー溝すべてに変形が認められた。また、ケーシングカバー内面に主軸との接触跡が認められ、寸法検査の結果、設計寸法を超えている部分のあることが確認された。このため、ケーシングカバーについては、取替えを実施している。c.ウェアリング:目視検査の結果、接触跡が認められ、寸法検査の結果、設計寸法を超えている部分のあることが確認された。このため、ウェアリングについては、取替えを実施している。d.軸封部:目視検査の結果、異常は認められなかった。e.カップリングコンポーネント:目視検査、浸透探傷検査及び寸法検査の結果、異常は認められなかった。
 (2) 原子炉再循環系(B)並びにそれに接続した残留熱除去系及び原子炉冷却材浄化系の主配管、小口径配管及びサポート
  主配管及び小口径配管の代表箇所について、目視検査及び浸透探傷検査の結果、異常は認められなかった。また、サポートの代表箇所について、目視検査の結果、異常は認められなかった。なお、原子炉再循環ポンプ(B)の振動に伴い主配管及び小口径配管に発生する応力を評価した結果、疲労破損に至らないことを確認した。
 (3) 原子炉再循環ポンプ(B)モータ
  分解点検検査、浸透探傷検査、寸法検査、固定子巻線抵抗検査及び絶縁検査の結果、異常は認められなかった。
1.2 流出部品、金属粉等の発生に伴ってそれらが流入した可能性のある範囲内の機器・燃料等
 (1) 流出部品の衝突等により影響を受けた可能性のある配管等
  a.原子炉再循環系(B)吐出配管及びジェットポンプライザ管(B):目視検査の結果、異常は認められなかった。なお、念のため、流出部品の衝突模擬試験を実施した結果、配管内における移動速度は比較的小さく、配管内面等に衝突しても、浅い接触跡が生じる程度であることを確認した。b.原子炉再循環系(B)吐出弁:分解点検検査及び作動試験を実施した結果、異常は認められなかった。c.ジェットポンプインレットミキサ(B):目視検査の結果、水中軸受取付ボルトが回収されたジェットポンプインレットミキサに浅い接触跡が認められた。応力評価の結果、これらの接触跡はノズル部の強度に影響を及ぼさないことを確認した。
 (2) 金属粉が流入した可能性のある範囲内の機器・燃料等
  a.機器等:金属粉等による衝突、かみ込み、閉塞等の可能性のある原子炉圧力容器、炉内構造物、各種機器等について目視検査等の結果、異常は認められなかった。なお、制御棒駆動機構、原子炉格納容器隔離弁等については、全数の分解点検検査を実施した。b.燃料:金属粉等の洗浄、回収作業の実施後、燃料集合体全数について自動燃料検査装置を用いて目視検査の結果、異常は認められなかった。
2.健全性評価(その2)(残存金属粉等の影響)( 図3 参照)
原子炉圧力容器等に流入した金属粉等の洗浄、回収作業の実施結果(表1参照)を踏まえて、残存する金属粉等(図5図6参照)の機器・燃料等への衝突、かみ込み、閉塞、フレッティング、付着の影響により、今後のプラント運転に関して問題がないか否かを評価した( 図4 参照)。
2.1 機器等
(1) 衝突
  衝突模擬試験等の結果、機器等に残存金属片が衝突した場合、残存金属片がそれぞの部位の最大流速等で衝突したとしても機器等の強度又は機能に影響を及ぼさないと評価される。
 (2) かみ込み
  a.制御棒駆動機構:大量の金属粉を混入し、設計上の回数より多く動作させた模擬試験の結果、制御棒駆動機構内でのかみ込みは生じず、動作機能への影響も認められなかった。b.弁:模擬試験の結果、残存金属粉等のかみ込みによってシート漏洩の発生する可能性は極めて小さく、弁の信頼性に影響を及ぼさないと評価される。c.ポンプ:ポンプ内の水の流動状態から、回転部と静止部の隙間に残存金属粉が流入する可能性は小さい。仮に、主要なポンプの隙間に残存金属粉等が流入し、かみ込みが生じても、一時的な振動増大が考えられるが、ポンプの回転力は大きく、ポンプの回転に支障を及ぼさないと評価される。また、かみ込みにより、摩耗による各部の漏れ流れ量の増加又は軸封部の機能の低下は、あったとしてもわずかであり、ポンプの性能に影響を及ぼさないと評価される。
 (3) 閉塞
  a.原子炉圧力容器:残存金属粉等によって閉塞が生じうる部位は、原子炉冷却材浄化系につながる底部ドレンノズルである。仮に、閉塞があっても原子炉冷却材浄化系の流量のほとんどは原子炉再循環から取水していることから原子炉冷却材浄化機能に及ぼさないと評価される。b.炉内構造物:残存金属粉による閉塞の生じうる部位は、燃料支持金具オリフィス、中性子束モニタ案内管冷却孔等である。閉塞の可能性は小さく、仮に、閉塞があっても機能に影響を及ぼことはないと評価される。c.計装配管:残存金属粉等の流入の可能性は小さいが、仮に流入したとしても、機能に影響はないものと評価された。d.熱交換器:仮に残存金属粉等によって閉塞が生じたとしても、部分的な閉塞であり、伝熱面積は十分余裕を有しているので、熱伝達機能に影響を及ぼさないと評価される。
 (4) フレッティング
  残存金属粉等によるフレッティングによる影響があるのは、熱交換器の伝熱管とその支持部の隙間に流入した場合であるが、水の流動状態から可能性は小さい。仮に流入したとしても熱交換器内の流速は遅く、フレッティングによる摩耗量はわずかであり、伝熱管の強度等に影響を及ぼさないと評価される。
 (5) 付着
  付着により影響が生じるのは熱交換器の伝熱管であるが、付着する厚さ又は面積は、無視しうる程度であり、熱伝達機能に影響を及ぼさないと評価される。
2.2 燃料
 (1) 衝突
  衝突模擬試験等に基づき、燃料被覆管に残存金属片が衝突した場合、衝突痕の深さはわずかであり、被覆管の強度に影響を及ぼさないと評価される。
 (2) 閉塞
  a.下部タイプレート冷却水路の閉塞:下部タイプレートの流路が残存金属粉等によって閉塞された場合について解析評価を実施した結果、冷却水流量の減少はわずかであり、最小限界出力比MCPR)に影響を及ぼさないと評価される。b.下部タイプレートバイパス孔の閉塞:下部タイプレートバイパス孔が残存金属粉等によって閉塞された場合について解析評価を実施した結果、バイパス領域の流量の減少はわずかであり、炉心の核特性に影響を及ぼさないと評価される。
3.まとめ
 以上の評価の結果、福島第二原子力発電所3号機の原子炉再循環ポンプ損傷事象に関しては、今後のプラント運転に当たって、安全上問題となる事項は認められなかった。
<図/表>
表1 金属片の回収結果
表1  金属片の回収結果
図1 健全性評価(その1)の評価の流れ
図1  健全性評価(その1)の評価の流れ
図2 健全性評価(その1)の評価対象範囲
図2  健全性評価(その1)の評価対象範囲
図3 健全性評価(その2)の評価の流れ
図3  健全性評価(その2)の評価の流れ
図4 健全性評価(その2)の評価対象範囲
図4  健全性評価(その2)の評価対象範囲
図5 洗浄後の分布状況調査における金属粉等の粒径分布評価結果
図5  洗浄後の分布状況調査における金属粉等の粒径分布評価結果
図6 金属片の大きさ(長さ、幅、厚さ、重量)の分布
図6  金属片の大きさ(長さ、幅、厚さ、重量)の分布

<関連タイトル>
福島第二原子力発電所3号炉の原子炉再循環ポンプ損傷事象について (02-07-02-08)
福島第二3号炉の原子炉再循環ポンプ損傷事象に対する原子力安全委員会等の対応 (02-07-02-07)
福島第二原子力発電所3号炉の原子炉再循環ポンプ損傷事象の原因に関する調査結果 (02-07-02-06)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編):「平成2年 原子力安全白書」 (1990)
(2)科学技術庁原子力安全局(編):「原子力安全委員会月報 通巻第131 号」 (1990)
(3)科学技術庁原子力安全局(編):「原子力安全委員会月報 通巻第137 号」 (1990)
(4)科学技術庁原子力安全局(編):「原子力安全委員会月報 通巻第139 号」 (1990)
(5)科学技術庁原子力安全局(編):「原子力安全委員会月報 通巻第142 号」 (1991)
(6)科学技術庁原子力安全局(編):「原子力安全委員会月報 通巻第145 号」 (1991)
(7)通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電安全課(編):「原子力発電所運転管理年報平成2年版」火力原子力発電技術協会、平成2年8月
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