<本文>
1.運転管理
原子力発電所等原子力施設の運転管理にあっては、1)安全性の確保に万全を期すること並びに安定した運転を行うこと2)地域住民・社会の信頼を得ること3)プラントの効率化を推進することを基本的な考え方として、運転管理体制の整備・充実を図るとともに、これらをより効果的に実施するため、以下のような点について、電気事業者、国及び自治体等において諸施策を実施している。また、1999年のウラン加工工場
臨界事故から、より一層の安全性の向上を図るため、
原子炉等規制法の一部を改正し、運転管理体制の見直し等を行い、以下の(4)原子力保安検査制度の導入、(5)
保安規定の見直しが追加され実施されている。
(1)安全性・信頼性向上対策
1)トラブル予防対策
(i)経年変化予防対策。
(ii)国内外トラブルの教訓に基づく設備改善。
(iii)国内外トラブル情報の調査、検討。
2)運転員・保修員の計画的養成
(i)長期養成計画に基づく人材の確保及び育成。
(ii)訓練施設の拡充強化及び訓練内容の充実。
3)保安管理体制の整備
4)品質マネジメントシステム
(i)社長がトップマネジメントとして品質方針を設定し、発電所長、本店部長等が品質目標として展開。これを達成するため原子力部門が
品質保証活動を実施する。
(ii)原子力部門から独立した原子力品質監査部により、監査とフォローアップを実施する。
(iii)社長が原子力部門の品質保証活動状況や原子力品質監査部による監査報告などに基づきマネジメントレビューを実施し、品質方針の見直しや継続的改善を行う。
5)定期点検の改善
(i)CRDM(制御棒駆動装置)自動交換機の改良(BWR)等の設備、冶工具の改善。
(ii)モックアップ訓練の実施による改造工事等の円滑化。
6)保修作業管理の改善
(i)
原子炉建屋の除染等作業環境の改善。
(ii)保修技能訓練センターの活用。
7)緊急時対応
(i)国、地元自治体、発電所等の連絡網の整備。
(ii)事故時モニタリング施設の充実。
(2)被ばく低減化対策
1)請負業者センターの設置
2)放射線管理教育
(i)放射線下作業の模擬訓練の実施。
(ii)教育用器材、教材の整備、社外研修機関の利用。
3)検査機器の自動化
4)環境放射能低減対策
(3)効率化
1)
高燃焼度燃料の採用
2)制御棒パターン変更回数の低減
3)運転中保修方法の検討
(4)原子炉保安検査制度の導入
原子炉設置者が運転管理における遵守事項規定した保安規定について、遵守状況の検査を定期的に行うこととした。
(5)保安規定の見直し
保安規定において保安教育についての規定を盛り込むことが明記され、その遵守状況を確認するための運転管理専門官制度に替って原子力保安検査制度が導入された。
2.原子力保安検査官制度
2.1 発足の背景
1979年(昭和54年)3月米国で発生したスリーマイルアイランド原子力発電所事故を契機として、原子力発電所等の運転管理専門官制度が発足したが、1999年9月に発生した(株)ジェー・シー・オーの
ウラン加工施設における日本初の臨界事故を教訓として、原子力発電所についても安全確保に万全を期すため、1999年12月に原子炉等規制法が改正されるとともに、2000年4月、運転管理専門官制度に変わって原子力保安検査官制度が発足した。また、日本における原子力
防災対策の抜本的な強化を図るため、同時に、
原子力災害対策特別措置法が新たに制定され、同法律に基づき原子力防災専門官制度が発足した。これらを受け、全国原子力施設所在地に設置した20か所の原子力保安検査官事務所には、原子力保安検査官102名及び原子力防災専門官39名を駐在させ、原子力施設の安全管理や防災対策に万全を期している(
表1および
図1−1、
図1−2参照)。
2.2 原子力保安検査官の業務
(1)保安規定の遵守状況検査及び調査
・原子炉等規制法に基づく保安検査の実施(年4回)
・毎日の運転管理状況についての聴取及び記録の確認
・原子炉施設等の巡視
・原子炉施設の定期自主検査等の視察
(2)トラブル発生時の対応
・トラブル等の発生についての通報を受けた時は、本庁に直ちに連絡するとともに、本庁と連携し、現場確認、原因調査及び再発防止対策の確認等を実施(
図2参照)。
2.3 原子力防災専門官の業務
(1)平常時業務
・原子力事業者へ原子力防災業務計画等に関する指導及び助言や、原子力防災資機材の設置、維持、点検等の確認
・地方公共団体へ原子力防災計画策定等に対する指導助言等
・
オフサイトセンター内の施設及び原子力防災設備等の管理
・防災訓練の企画調整及び実施
・原子力防災対策についての地元への理解促進活動
(2)緊急事態発生時の業務
・プラント状況の把握
・オフサイトセンターの立ち上げ
・事業者や関係機関の対応状況等に関する情報の集約
・地元自治体等への説明・助言
3.運転員の教育・訓練
日本においては、原子炉等運転員の能力の維持向上のための教育・訓練を各電気事業者が訓練施設への派遣、自社内教育等により行っている。
原子力発電所の訓練施設として原子力発電訓練センター(NTC、福井県敦賀市)及びBWR運転訓練センター(BTC、福島県大熊町)が設けられ、運転員の能力段階に応じ、初期訓練コース、再訓練コース、直員連携コース等が設けられており、各種の訓練を行っている。
また、原子力基礎知識の修得のためには、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の研修コース等も利用されている。
更に各電気事業者とも自社内において、事故模擬操作訓練、国内外トラブル例検討等のOJT(On−the−Job−Training:仕事中の訓練)を計画的に実施し、運転員の能力の維持向上に努めている。
各社によって若干異なるが、原子炉運転員は、まず、電気事業者の社内研修で原子力の導入教育を受けるとともに、現場へ研修生として派遣され、経験者の指導監督の下に現場の点検等を通じ現場知識を修得する。その後現場に配属され、電気、タービン及び原子炉施設について指導監督を受けつつ基礎的知識・技術を修得する。またこの期間に訓練機関の初期訓練コース等に派遣され、原子炉運転に必要な基本的原理及び技術について講義及び原子炉シミュレータによる訓練を受けるのが通例である。その後、補助運転員として実務経験を積んだ後、電気、タービン及び原子炉の運転員として配属されている。運転員として配置された後、各々の運転員はシミュレータ訓練を主体とした訓練機関の再訓練コースに派遣されている。また、運転責任者及び運転員は、各直編成単位に訓練機関へ派遣され直員連携コースでシミュレータ訓練を受け、直編成としてのチーム・ワークの確認と技術の向上が図られている。
また、各社によって相違はあるが、運転員等運転直を構成する者は現場においても技術、安全及び管理等の教育を受けるほか、事故模擬操作訓練を受けている。電気事業者は、運転責任者として、通常上記の教育・訓練及び業務経験を経た者であって、ユニットの運転に関し広範囲にわたる専門的知識を有し、かつ、豊富な経験を通じ、高度な業務管理能力及び人事・労務管理能力が培われている者を選任している。
4.原子力発電運転訓練センター
運転訓練センターは、原子力発電所の運転員の養成を目的としたものであり、日本国内には、(株)BWR運転訓練センター並びに(株)原子力発電訓練センターが各々1974年(昭和49年)から運転員の養成訓練を実施している。また、1993年6月には(株)BWR運転訓練センター新潟センター(新潟県刈羽市)が開設し、同年10月から運転員の養成訓練を開始している。
運転訓練センターの特徴は、原子力発電所の中央制御盤を模擬した運転訓練用シミュレーターを有していることである。このシミュレータは模擬中央制御盤と大型計算機から成る。電子計算機は発電所の停止状態から全出力までの作動を実時間で計算し、模擬制御盤上に表示する。運転員が制御盤上で行った操作は計算機に読みこまれ、これに対応した機器の動作が制御盤上に表示されるため、運転員は実機の運転操作と全く同じ感覚で運転の訓練ができる。また、プラントの起動、停止といった通常の運転操作のほか、各種のトラブル時の対応操作を繰り返し訓練することができる。
<図/表>
<関連タイトル>
原子力発電所の保守体制と作業管理 (02-02-03-09)
<参考文献>
(1)(独)原子力安全基盤機構 安全情報部(編):平成16年版(平成15年度実績)原子力施設運転管理年報(2004年9月)
(2)火力原子力発電技術協会(編):火力・原子力発電所における関連諸法規とその適用、(1993年5月)
(3)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし、(1992年10月)