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<概要>
 日本では、原子力、水力、火力発電所のいずれも耐用年数を規定するものはない。原子力発電所を構成する機械装置類の適切な補修、交換等と法律により義務付けられている定期検査等に合格することにより、半永久的に運転を継続することが可能である。すなわち、原子力発電所の実際の耐用年数は、社会的寿命、経済的寿命、陳腐化寿命等によって決定される場合が多く、一義的なものではない。
 同様に諸外国においても、ほとんどが法的な寿命制限はなく、各国の事情にあわせた規則類を整備して、発電所の寿命管理を行っている。2003年10月に健全性評価制度(維持基準)が施行され、これまでの事業者による自主点検に代わり、定期事業者検査が義務付けられ、原子力設備が技術基準に適合しているかどうか定期的に検査し、その結果を記録・保存することが必要となった(電気事業法第55条)。
<更新年月>
2006年03月   

<本文>
1.日本(PWR,BWR)
 日本における発電設備の耐用年数の概念は、省令に基づく「法人税法における減価償却の計算における固定資産耐用年数」があるが、あくまで税法上の機械装置類の耐用年数であり、発電所の耐用年数を規定する法的な寿命制限はない。日本では、表1に示すように原子力、水力、火力発電所ともに電気事業法に基づく定期検査や定期安全検査等に合格し、それを繰返すことにより、半永久的に運転を継続することができる。
 原子力発電所では電気事業法施工規則第91条で最長13ケ月に1回の定期検査が義務付けれらており、これに合格することにより次回の定期検査までの運転が認可されることになる。
 なお、高経年化した原子力発電所の健全性評価と高経年化対策については、通産省(現、経済産業省)が1996年に報告書をとりまとめており、技術評価の結果では定期安全レビュー等の充実化によって(図1参照)、安全に運転を継続できることを確認している。さらに、2003年10月の制度改正に伴い、運転開始後30年を経過する原子力発電所は運転年数が長期間経過していることから、設備の経年劣化に関する技術的な評価、保全計画等を策定して、10年を超えない期間ごとに再評価を行うことが法令上義務付けられている。
 2003年10月から施行された健全性評価制度(維持基準)は、原子力発電設備にき裂(ひび割れ)が生じた場合、設備の健全性を評価するための手法をルールとして明確化した(図2)。
2.ベルギー(PWR)
 法的な寿命制限はない。10年毎の定期安全レビュー(PSR)では、プラントが運転認可発給時と同じく安全で有り続けることを保証し、その後10年間の安全性を保証するために、プラント設備の将来の潜在的劣化(経年劣化、摩耗、割れなど)を考慮すること等を目的として行われている。最近、プラント寿命管理のあらゆる安全および経済的側面に焦点を当てたプロジェクトを開始している。
3.カナダ(CANDU)
 法的な寿命制限はない。CANDU(カナダ型重水炉)の運転認可は通常1年の期限付きである。運転認可の更新が規制機関により認められる前に、規制スタッフによる施設の性能に関する包括的な評価と認可更新を肯定する勧告が必要とされる。また、原子力エネルギー管理法および規制には、認可更新や更新期間に関する具体的な規定はないが、ライフサイクル管理戦略の立案を支援するための「発電所寿命計画」を1995年に策定している。
4.チェコ(VVER)
 運転中のVVER(ロシア型PWR)の設計寿命は、30年であるが、40年まで寿命延長する選択肢を維持している。しかし、VVERに対するプラント寿命管理に対する方針は、規制機関および電力会社のいずれにおいてもまだ、完全に確立されていない。ただ、電力会社は原子力発電所が30年の設計寿命を達成することを保証し、さらに寿命を10年間延長できるかを判断するため、設備の現状およびVVER設計を評価する技術監査を実施している。監査の結果と勧告に基づき改修計画が1998年から2005年の間に立案される予定である。
5.ドイツ(PWR,BWR)
 法的な寿命制限はないが、2000年6月、政府と電力会社は、原子力発電所を柔軟性のある長期スケジュールで段階的に閉鎖することで合意している。経年劣化のための特別なプログラムは存在せず、経年劣化管理は、保全、バックフイットおよび品質保証に関係している個々の電力会社の行っている活動の一部である。なお、最新の安全水準に照らして実施されるバックフィットは、定期安全レビュー(PSR)の一環としても行われている。
6.フィンランド(VVER改良型、BWR)
 運転認可は、期限付き(10〜20年)で発給される。運転認可の更新には、経年劣化の評価を含む徹底的な安全性レビューが必要である。また、規制機関は10年毎に定期安全レビュー(PSR)を実施している。規制機関の年間検査プログラムは、ユーティリティの安全上重要な活動に焦点を当てた検査を含み、機器の経年劣化および寿命管理は、この検査の重要な課題の一つである。なお、認可の更新に伴う、設備改修が環境に重大な影響を与える可能性がある場合は、環境影響評価が要求される。
7.ハンガリー(VVER)
 運転中の原子炉はVVER(ロシア型PWR)であるが、法的な寿命制限はなく、運転認可は12年毎に更新できる。設計寿命は30年とされているが、30年以上の運転を目標としている。運転認可の更新の際には、包括的安全レビューが要求される。また、最も重要かつ時間依存の安全因子として、系統および機器の寿命の決定を含んでいる。運転認可更新には、材料データベース構築や経年変化監視のためのエキスパートシステムなどプラント設備に関する多くのステップがある。
8.フランス(PWR)
 法的な寿命制限はない。ただ、1987年からライフタイムプロジェクトを実施しており、これに基づき寿命に影響を及ぼす重要機器の寿命評価を実施するとともに、寿命管理方策を策定済みまたは策定中である。また、10年検査時に、通常保全プログラムでカバーされていない箇所の詳細な検査を実施し、劣化状態を把握するとともに、時間のかかる保全措置を実施して、これらにより、電力会社は少なくとも40年寿命を確保する方針である。
9.韓国(PWR,CANDU)
 運転認可更新および定期安全レビューに関する明示的な規制はなく、現在策定中である。そのため、プラント寿命管理(PLM)研究を実施中であり、フェーズ1では古里1号機の30年設計の根拠の調査により、主要機器の設計寿命は40年であることを確認し、寿命延長が技術的および経済的に可能であると判断した。フェーズ2(1998−2001)ではプラント寿命評価手法の開発と経年劣化管理プログラムの策定を行っている。
10.オランダ(PWR,BWR)
 法的な寿命制限はない。規制機関は10年毎に原子力安全および放射線防護の観点からプラント運転の評価を行い、2年毎に10年毎の評価で言及される領域の安全レベルを確認することで運転認可される。ただ、既設2基の発電所のうちドーデバルト発電所(BWR)は、経済的な理由により1997年に閉鎖され、現在運転中の残りのボルセラ発電所(PWR)も2003年閉鎖の政治的決定がなされている。
11.ロシア(VVER,LWGR)
 運転中の原子炉の設計寿命は30年とされている。第1世代の初期のプラントは1年間の認可であり、規制要求による年度報告書の提出により毎年更新される。ただし、安全性向上策を施し、安全評価を行うことにより、3〜10年に運転期間更新も可能である。また、第2世代の発電所は3〜10年毎に運転認可更新される。なお、30年以上の運転についての規制要求はないが、1971年から1975年の間に建設された第1世代の初期のノボボロネジ3、4号機、コラI−1、I−2号機については、少なくとも40年以上の運転を計画している。
12.スペイン(PWR,BWR)
 法的な寿命制限はない。期限付の運転認可(通常は10年)を更新する方式で運転を継続している。すなわち、10年毎の定期安全レビュー(PSR)において安全評価を行い、それが適切であると規制機関が判断すればプラントの運転認可を更新し、40年まで運転することが可能である。電力会社は40年運転を確保しつつ、50年運転を戦略的目標として設定している。経年劣化・寿命管理をするための指針および方法を電力会社がスペイン電事連を通して共同開発している。
13.スウェーデン(PWR,BWR)
 1980年の議会決議により、2010年までに全原子力発電所を段階的に廃炉することが決定している。このため、バーセベック−1号機は1999年11月末に閉鎖された。また、オスカーシャム1号機などの古いプラントでは近代化プロジェクトとして大規模な設備改造が行なわれている。なお、プラント寿命管理を専ら対象とした国の計画はなく、寿命管理戦略は電力会社個別に策定されている模様である。
14.スイス(PWR,BWR)
 法的な寿命制限はない。運転認可は通常、期限なしで発給される。なお、1991年末に規制機関は原子力発電所の安全に関わるすべての機器および構造物の経年劣化影響に関する体系的レビューの実施を電力会社に要求している。電力会社は共同で規制当局の要求(安全関連機器に対し、適用可能な経年劣化メカニズムが保守および品質保証で考慮されており、何らかの見落としが露見した場合に対応措置が実施されるという保証をえること)を満たすための体系的評価を実施中である。
15.英国(GCR,AGR,PWR)
 法的な寿命制限はない。運転継続は、10年毎の定期安全レビュー(PSR)を行うことにより、認可される。PSRでは、経年劣化に関する作業として、寿命を制限する可能性のある経年劣化事情の確認、次回PSRまでの10年間に対する安全解析再検証などが行われる。なお、BNFLは保有するGCRの運転終了時期を2000年5月に表明した。運転終了時期は、プラントによって異なり、35年〜50年の間となっている。
16.米国(PWR,BWR)
 原子力法により最初の運転認可を40年に制限していたが、その更新を容認する規則を整備した。そのため、多くのプラントが60年運転の更新認可申請の計画を公式に表明している。この運転認可更新のためには、10CFR54(米国連邦規則基準の一つ)に基づき総合プラント評価(IPA)および期間限定経年劣化解析(TLAA)の評価を行うことが必要とされている。また、運転認可更新の基本は、延長された運転期間においても、経年劣化影響の管理により、現行認可ベース(CLB)が維持され、設備が意図した機能が確保されること、となっている。
<図/表>
表1 原子力、水力、火力発電所の定期検査等に関わる電気事業法体系
表1  原子力、水力、火力発電所の定期検査等に関わる電気事業法体系
図1 総合的な設備管理方策
図1  総合的な設備管理方策
図2 設備の健全性評価の方法
図2  設備の健全性評価の方法

<関連タイトル>
原子力発電所の定期検査 (02-02-03-07)
原子力発電施設の高経年化対策と関連研究 (06-01-01-12)
原子力発電所の高経年化に関する考え方と国の対応 (10-03-02-02)
ブラッドウェル2号機原子力発電所の寿命延長の検討 (14-05-01-10)
フランスにおける原子力発電所の寿命延長 (14-05-02-13)
ドイツの1998年総選挙後の脱原子力政策 (14-05-03-13)
バーセベック原子力発電所廃止をめぐる動き (14-05-04-08)

<参考文献>
(1)通産省・資源エネルギー庁資料:データファイル「電気事業者の原子力発電所高経年化対策の評価及び今後の高経年化に関する具体的な取組みについて」、原産マンスリー、No.40、p.15−35(1999年3/4月)
(2)各国におけるプラント寿命管理の現状、日本エヌ・ユー・エス(株)、NUSEC−2000 Report (欧州原子力安全情報) 第2回四半期報告書、(2000年9月)p.99−103
(3)OECD/NEA, ”Status Report on Nuclear Power Plant Life Management,” NEA/SEN/NDC(2000)6
(4)International Conference and Exhibition on ” Nuclear Plant Life Management and Extension” , Nuclear Engineering International and American Nuclear Society, Nice France (November 27−30,1995)
(5)経済産業省:「実用発電用原子炉施設における高経年化対策実施ガイドラインについて」経済産業省原子力安全・保安院、平成17.12.20原院、第8号(平成17年12月26日)
(6)電気事業法第55条(第1項、第3項)原子力規制関係法令集、(株)大成出版社(2005年11月)
(7)電気事業連合会:「原子力・エネルギー」図面集2005−2006(2006年1月)
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