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<概要>
 環境保全上の支障を未然に防止するため、環境基本法第19条には、国は環境に影響を及ぼすと認められる施策の策定・実施に当たっては、環境保全を十分に配慮しなければならないとしている。環境影響評価法(環境アセスメント法)は、大規模な事業について環境アセスメントの手続を定め、環境アセスメントの結果を事業内容に関する決定(事業の許認可など)に反映させることにより、事業が環境保全に有効であるように、平成9年6月(1997年)法律によって制度化され、平成11年6月から全面施行されたものである。
<更新年月>
2006年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 環境影響評価、いわゆる環境アセスメントは、環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業の実施に際し、その環境影響について事前に十分に調査、予測および評価するとともに、その結果を公表して地域住民等の意見を聴き、十分な環境保全対策を講じようとするものであり、環境汚染を未然に防止するための有力な手段の一つである。
 世界最初の環境アセスメント法は、1969年(昭和44年)米国で制定された米国国家環境政策法(NEPA:National Environment Policy Act)の中の環境影響評価(EIA:Environmental Impact Assessment)であり、その後、世界各国で環境影響評価の制度化が進展した。現在ではOECD加盟国全てが環境影響評価の手続を規定する法制度をもっている。
 日本における本格的な環境影響評価に関する取組みは、1972年(昭和47年)6月に「各種公共事業に係る環境保全対策について」の閣議了解を行い、国の行政機関はその所掌する公共事業について、事業実施主体に対して「あらかじめ、必要に応じ、その環境に及ぼす影響の内容および程度、環境破壊の防止策、代替案の比較検討等を含む調査検討」を行わせ、その結果に基づいて指導する仕組みを整えたことに始まる。
 その後、港湾法(1950年(昭和25)5月31日法律218号)や公有水面埋立法の改正(1921年(大正10)4月9日法律第57号、1973年(昭和48)改正)等により、港湾計画の策定や公有水面埋立の免許等に際し、環境に与える影響について事前に評価することとなった。また、瀬戸内海環境保全臨時措置法(1973年(昭和48)制定、1978年(昭和53)に瀬戸内海環境保全特別措置法と改正)にも環境影響評価に関する規定が設けられた。さらに、自然環境保全法に基づき自然環境保全基本方針(1973年(昭和48))が定められ、ここでも環境影響評価に関する方針が示された。また、発電所立地(1977年(昭和52)、通商産業省(現経済産業省)省議決定)、整備五新幹線(1979年(昭和54)、運輸省(現国土交通省)通達)等、行政指導等の形でも環境影響評価が行われることとなった。
 一方、地方公共団体においても、条例については川崎市(1976年(昭和51))、要綱については福岡県(1973年(昭和48))を始めとして環境影響評価の制度化が進められた。
 日本における環境の保全に対する考え方が定着する一方、1992年リオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議」を受け、1993年には環境基本法が制定された(1993年11月19日法律第91号)。環境影響評価はこの中で初めて国全体の施策として法律上位置づけられ、1997年 環境影響評価法が制定された(1997年6月13日法律第81号)。
 表1-1表1-2に主な環境関連法制定等のこれまでの経緯を示す。また、個別の事業実施に先立つ「戦略的な意思決定段階」、すなわち、政策(Policy)、計画(Plan)、プログラム(Program)の「3つのP」を対象とし、早い段階から広範な環境配慮を行うことが出来る仕組みとして、戦略的環境アセスメント(SEA:Strategic Environmental Assessment)の導入が議論され、実施され始めている。
2.環境影響評価法の概要と実施
2.1 環境影響評価法の構成と概要
(1) 法律の構成
 環境影響評価法は8つの章および施行期日・経過措置等を定めた附則から成り、第一章が総則、第二章が準備書の作成前の手続、第三章が準備書、第四章が評価書、第五章が対象事業の内容の修正等、第六章が評価書の公告及び縦覧後の手続、第七章が環境影響評価その他の手続の特例等、第八章が雑則となっている。図1に環境影響評価法の手続の流れを示す。
(2) 対象となる事業
 環境影響評価法の対象となる事業は、道路、ダム、鉄道、空港、発電所など13種類の事業で、事業規模が大きく、より環境に大きな影響を及ぼす恐れがある「第一種事業」は全て対象となる。また「第一種事業」に準ずる規模の事業は「第二種事業」と分類され、手続の有無は個別に判断される(スクリーニング)。
(3) 対象となる環境要素
 アセスメントの対象となる環境要素の範囲は、1)環境の自然的構成要素の良好な状態の保持((ア)大気環境・・・大気質、騒音、振動、悪臭、その他、(イ)水環境・・・水質、底質、地下水、その他、(ウ)土壌環境・その他の環境・・・地形・地質、地盤、土壌、その他)、2)生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全((ア)植物、(イ)動物、(ウ)生態系)、3)人と自然の豊かなふれ合い((ア)景観、(イ)ふれ合い活動の場)、4)環境への負荷((ア)廃棄物等、(イ)温室効果ガス等)となっている。
(4)評価の手続き
 環境影響評価法は事業内容を柔軟に変更できるよう事業計画の早い段階からの環境への配慮と、事業特性、地域特性に応じた効率的な環境影響評価の項目・手法の選定を可能とする仕組み(スコーピング)を導入している。事業者はアセスメントの方法を記載した「環境影響評価方法書」を作成して、都道府県知事、市長村長に送付し、あわせて、1ヶ月の間一般に公開する(縦覧)。スコーピングには事業者が住民、地方公共団体などの意見を聴く手続が設けられており、事業者はその手続、方法に従ってアセスメントを行う。
 調査・予測・評価が終わると、意見を聴く手続として、事業者はアセスメント結果を記載した「環境影響評価準備書」を作成し、都道府県知事、市長村長に送付すると同時に、準備書は公告され、1ヶ月の間縦覧される。
 準備書の手続が終了すると事業者は再度検討を重ね「環境影響評価書」を作成する。作成された評価書は事業の許認可を行う主務大臣と環境大臣に送付され、環境保全の観点から審査が行われる。その後、環境大臣と事業の許認可を行う主務大臣の意見を踏まえて事業者により最終評価書が作成される(評価書の補正)。評価書は都道府県知事、市長村長、事業の許認可を行う者に送付される。評価書の作成は公告され、1ヶ月の間縦覧される。事業者は評価書を作成したことを公告したことで、初めて事業の実施が可能となる。
 なお、環境影響評価法では環境の保全に配慮していない場合は、許認可や補助金の交付を行わない規定(横断条項)が設けられている。
(5)実施の状況
 環境影響評価法は、1999年6月から全面施行されており、新たに導入された環境影響評価方法書の手続(国民や地方公共団体の意見を聴きながら、事業者が環境影響評価の項目及び手法について、事業や地域の特性に応じた最もふさわしいものを選定する手続)は1998年6月から行われ、2005年3月末までに1027件の手続が進められ、そのうち2004年度は、10件が手続きを完了している(表2-1参照)。個別法に基づく環境影響評価について2004年度に実施されたものの概要を表2-2に示す。
2.2 地方公共団体における取組み
 都道府県・政令指定都市の多くは、条例や要綱による独自の環境影響評価手続を設けていたが、環境影響評価法の制定等を背景に、制度の見直しが行われ、全ての都道府県および政令指定都市において環境影響評価条例が公布・施行されている(表3参照)。また、個別の事業の計画・実施に枠組みを与えることになる計画(上位計画)や政策における環境配慮について、東京都では計画段階に環境アセスメントを義務付けるための条例改正(2002年7月)が行われ、埼玉県では戦略的環境影響評価実施要綱(2002年3月)、広島市では多元的環境アセスメント実施要綱(2004年3月)、京都市では計画段階環境影響評価要綱(2004年10月)が策定された。
 地方公共団体の制度は、環境影響評価法と比べ、対象事業の種類を多くする、小規模の事業を対象にする、公聴会を開催して住民の意見を聴く、第三者機関による審査の手続を設ける、手続に入る前の環境配慮を義務付ける、手続を行った後の事後モニタリングを義務付けるなど、地域の実情に即したものとなっている。
3.発電所に関わる環境影響評価制度について
 発電所の立地における環境保全の重要性は年々高まっており、環境保全について地元の合意を得るために要する期間もますます長期化する傾向にある。日本の電力エネルギー安定供給確保のためには、環境保全になお一層十分な措置を講じ、地元の理解と協力を得つつ発電所の立地を進めていくことが重要である。
 発電所の立地の一般ルールについては環境影響評価法、発電所固有の手続きについては「電気事業法(1964年(昭和39)7月11日法律第170号)」の規定に基づく環境影響評価が実施されているほか、総合資源エネルギー調査会電源開発分科会における調査審議の際には、経済産業省の行った環境審査結果などをもとに環境保全についても検討が行われる。2001年以降においては、電源開発分科会が4回開催され、上関原子力発電所1、2号機等の計画について所要の協議を行われた。表4に原子力発電所環境影響審査一覧を示す。因みに原子力発電所は第一種事業として全て環境影響評価実施の対象となる。
 環境影響調査は、対象発電所の立地に伴い、環境に及ぼす著しい影響について事前に十分に把握することにより、対象発電所の設置の場所および工事の場所、並びにそれらの周辺における環境の保全を図ることを目的とする。
 また、電気事業者等は、対象発電所の設置に先立ち、(1)大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭等公害の防止に係る項目、自然環境の保全に係る項目及びその他の項目につき、対象発電所の設置の場所及び工事の場所並びにそれらの周辺における環境の現況の調査を行い、(2)対象発電所の設置及びその工事に関し、環境保全のために講じようとする対策を踏まえた影響の予測及び評価を行い、その結果を環境影響調査書としてとりまとめることとされている。
 環境影響調査の実施方法、環境影響調査書の記載事項その他環境影響調査に関し必要な事項は、環境影響調査要綱によって定められている。図2に手続の流れを、表5-1表5-2に原子力発電所における環境影響評価手続実施の例を示す。
<図/表>
表1-1 主な環境関連法制定等のこれまでの経緯(1/2)
表1-1  主な環境関連法制定等のこれまでの経緯(1/2)
表1-2 主な環境関連法制定等のこれまでの経緯(2/2)
表1-2  主な環境関連法制定等のこれまでの経緯(2/2)
表2-1 環境影響評価法に基づき実施された環境影響評価の施行状況
表2-1  環境影響評価法に基づき実施された環境影響評価の施行状況
表2-2 個別法等による環境影響評価
表2-2  個別法等による環境影響評価
表3 地方公共団体における環境影響評価条例の制定状況
表3  地方公共団体における環境影響評価条例の制定状況
表4 原子力発電所環境影響審査一覧
表4  原子力発電所環境影響審査一覧
表5-1 原子力発電所における環境影響評価手続実施の例(1/2)
表5-1  原子力発電所における環境影響評価手続実施の例(1/2)
表5-2 原子力発電所における環境影響評価手続実施の例(2/2)
表5-2  原子力発電所における環境影響評価手続実施の例(2/2)
図1 環境影響評価法の手続の流れ
図1  環境影響評価法の手続の流れ
図2 環境影響評価法及び電気事業法による環境アセス手続
図2  環境影響評価法及び電気事業法による環境アセス手続

<関連タイトル>
環境基本法 (01-08-01-02)

<参考文献>
(1)環境影響評価情報支援:
(2)総務省 行政管理局法令データ提供システム:環境影響評価法
(3)環境省:平成17年版 環境白書
(4)(財)電気安全環境研究所:発電所の環境影響アセスメント情報サービス、http://www.jetpdb.jp/
(5)(財)九州環境管理協会:
(6)国立環境研究所:
(7)福井県環境影響評価制度支援情報システム:m
(8)原子力安全・保安院ホームページ:原動力別環境影響評価事例、手続き概要
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