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<概要>
 天然ウランを燃料とする黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉(GCR:Gas Cooled Reactor)は、実用規模の発電用として世界で最も早い時期にイギリスで実用化された。その初号機(コールダーホール1号機、60MWe)は1956年に営業運転を開始した。このコールダーホール型炉は出力の割には大型となり経済性が低いという難点があったが、天然ウランを使用し、安全性が高く、すでに建設・運転経験があるなど、日本としては導入しやすい炉型であった。東海発電所は、日本向きに改良したコールダーホール改良型炉で、1966年に営業運転を開始して以来30年以上運転を続けてきたが、主として経済性の観点から1998年3月末日をもって運転を終了した。なお、コールダーホール型炉は燃料被ふく材にマグノックス(マグネシウムを母材とした合金)で被覆していることからマグノックス(Magnox)炉と呼ばれることが多い。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
 天然ウランを燃料とする黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉(GCR:Gas Cooled Reactor、単にガス冷却炉ということもある)は、イギリス(英国)で発電用として開発され発展した(1960年代)。初号機のサイト名に因んでコールダーホール(Calder Hall)型炉と呼ばれていたが、現在では天然ウラン金属棒をマグノックス(マグネシウムを母材とした合金)で被覆していることからマグノックス(Magnox)型炉と呼ばれることが多い。
 次のような理由によって、コールダーホール型炉は世界で実用規模としては最初に建設された発電炉である(60MWe,1956年営業運転開始;なお、世界で最初の原子力発電所はソ連のオブニンスク発電所、5MWe,1954年運転開始)。
・天然ウラン利用なので、ウラン濃縮プラントを必要としない。
・多量必要な減速材としての黒鉛は工業的に容易に供給できる。重水のような重水製造プラント(重水濃縮施設)を必要としない。
・原子炉冷却材の炭酸ガスは工業的に容易に供給できる。
・マグノックス被覆材、ステンレス鋼などの原子炉材料は工業的に容易に供給できる。
・炉心の余剰反応度が小さい、炉心出力密度が小さい、黒鉛の熱容量が大きいなど安全性が高い。
 日本が最初に建設し、商業発電した東海発電所(所有者:日本原子力発電(株))で採用された原子炉は日本向きに改良したコールダーホール改良型炉である。英国から導入され、熱出力585MW、電気出力は166MWである。1966年に営業発電を開始し30年以上運転を続けてきたが、主として経済性の観点から1998年3月末日をもって運転を終了した。
1.GCRの構造
 GCRの例として東海発電所を掲げる。表1に東海発電所の設計要目、図1に建家断面図、図2に原子炉構造図を示す。基本構成はコールダーホール型(CHと同じであるが、発注当時の日本における原子力安全の考え方から、東海発電所ではいくつかの改良点があり、改良コールダーホール型炉と呼ばれている。とくに、六角形黒鉛ブロック積層キー構造(耐震設計上頑丈、CHでは正方形黒鉛ブロック)、中空円筒形燃料(核熱特性上有利、CHでは中実燃料)、後備原子炉停止装置(ボロン鋼球の落下による)、緊急時炭酸ガス注入装置(非常用炭酸ガス系とも呼ぶ、原子炉冷却系主配管破損事故対策)などを採用している。
 燃料チャンネルを有する正六角形断面の黒鉛ブロックが約2,000個円形状に並べられ、この黒鉛ブロックが10層(この内2層は反射体)に積み重ねられ、炉心を構成している。8体の燃料要素が黒鉛ブロックにスタック状に詰められ燃料チャンネルを構成している。燃料チャンネルの間隙に中性子吸収材(ボロン鋼管)をもつ制御棒チャンネルがある。
 図3に冷却系統説明図を示す。原子炉容器の両側には4基の蒸気発生器熱交換器)が設置されている。原子炉冷却材としての炭酸ガスは燃料要素(中空燃料)を冷却しながら燃料チャンネル中を上昇し、高温ガスダクト(ホットダクト)を経て、頂部から蒸気発生器に導かれ二次系(水)に熱を伝え、底部から蒸気発生器を出て、ガス循環機を介して低温ガスダクト(コールドダクト)を経て、原子炉容器へ戻される。
2.原子炉の出力制御
 原子炉の出力(反応度)は制御棒(中性子吸収材)によって制御される。制御棒を引き抜いて正の反応度を与えると原子炉の出力は上昇する。この結果、燃料棒と減速材(黒鉛)の温度が上昇する。燃料棒の温度が上昇すると、ドプラー効果により負の大きな反応度が急速に加えられ出力上昇が押えられる。黒鉛は熱容量が大きいため温度はゆっくりと上昇しこの間正の反応度を加えられ原子炉出力はゆっくりと上昇する。この間制御棒を徐々に挿入することにより出力の上昇を容易に制御できる。
 原子炉出力と発電機の出力のマッチングは、原子炉出口ガス温度を一定に保つためガス循環機の回転数を調整して原子炉冷却材ガスの流量を増減して行う。タービンが非常停止する場合には、蒸気の流れが遮断され蒸気発生器の低圧蒸気の圧力が上昇するので、ガス循環機駆動用のタービンの背圧が上昇しタービン回転数が急速に低下する。これにより原子炉冷却材ガスの流量が減少し原子炉出口ガス温度が上昇すると、原子炉出口ガス温度制御系により制御棒が挿入され、この結果原子炉出力が低下する。
3.燃料要素と制御棒
 図4に東海発電所の原子燃料要素構造図を示す。燃料要素は燃料カートリッジと黒鉛スリーブより構成されている。燃料カートリッジは天然ウラン金属中空棒をマグノックス合金で被覆したものである。燃料カートリッジの全長は71.4cm,内径は2.37cm、外径は4.08cmである。燃料カートリッジの表面は、冷却のためスパイラル状のフィンが付いている。
 図5に東海発電所の制御棒駆動装置図を示す。制御棒の形状は単純な中空円筒で、中性子吸収材はボロン鋼である。制御棒駆動モータおよびケーブル巻取り装置は原子炉容器(圧力容器)の制御棒用スタンドパイプに取り付けられている。後備停止系として、緊急停止装置(ESD)があり、直径8mmのボロン鋼球が炉心に落下し原子炉は停止する。
4.工学的安全系
(1)ポニーモータ
 ガスダクト(原子炉冷却系配管)の破断等により原子炉冷却材(炭酸ガス)が漏洩し原子炉内圧力が大気圧になった場合、原子炉内を冷却するため、各ガス循環機にディーゼル駆動のポニーモータが設けられている(図3参照)。
(2)緊急時炭酸ガス注入装置
 ガスダクト破断事故が発生した場合には、液体で貯蔵されている炭酸ガスタンク(液体で貯蔵)からの炭酸ガスを原子炉容器内に注入し、炉内に侵入した大気を追い出して黒鉛の酸化を防止するとともに、冷却による燃料の破損を防止する。
(3)ガス放出装置
 ガスダクト破断事故が発生した場合には、原子炉一次遮へいと二次遮へいの内部の初期圧力上昇を抑制し、また原子炉建家内に放射性ガスを閉じこめ、その後フィルタを介して大気へ放出する。
5.燃料の取替
 燃料の取替は原子炉運転中に行なわれる。新燃料は燃料倉庫から燃料装填準備室に運ばれ8体づつマガジンチューブに装填される。燃料取替機(C/M)はマガジンチューブを取り込んだ後、目標の燃料取扱用スタンドパイプ位置まで移動し、原子炉容器に接続される。燃料取替機内は原子炉と均圧にした後、使用済燃料を炉心から取り出し新燃料を挿入する。この際、新燃料は挿入前に予熱され、使用済燃料は取り出し後冷却される。
6.イギリスのGCR
 イギリスでは、商業発電用GCRは、1956年運転開始のコールダーホール1号機から1972年運転開始のウィルファ2号機まで、計26基が建設・運転された。このうち22基が既に閉鎖されており、2008年末現在で運転中のものはオールドベリ−1、−2、ウィルファ−1、−2の4基である。このうち最後に運転を開始し、出力ももっとも大きい(電気出力565MWe)ウィルファ2号機の設計要目を表2に示す。なお、フランスで8基、イタリア・スペインで各1基建設・運転され、いずれも閉鎖されている。
(前回更新:2002年1月)
<図/表>
表1 東海発電所の設計要目
表1  東海発電所の設計要目
表2 ウィルファ2号機(GCR)の設計要目
表2  ウィルファ2号機(GCR)の設計要目
図1 東海発電所の建家断面図
図1  東海発電所の建家断面図
図2 東海発電所の原子炉構造図
図2  東海発電所の原子炉構造図
図3 東海発電所の冷却系統説明図
図3  東海発電所の冷却系統説明図
図4 東海発電所の原子燃料要素構造図
図4  東海発電所の原子燃料要素構造図
図5 東海発電所の制御棒駆動装置図
図5  東海発電所の制御棒駆動装置図

<関連タイトル>
ガス冷却型原子炉の技術的進展 (03-03-01-01)
原子炉型別ウラン燃料 (04-06-01-03)
イギリスの原子力発電開発 (14-05-01-02)
フェルミのグループによる世界最初の原子炉CP-1 (16-03-03-12)

<参考文献>
(1)日本原子力発電(株):東海発電所設備の解説(原電社内資料)
(2)原子力開発30年史編集委員会(編):日本原子力発電30年史、日本原子力文化振興財団(1989年3月刊)
(3)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向 2000年次報告、2001年6月
(4)藤井晴雄、森島淳好:詳細 原子力発電所プラントデータブック 1994年版、日本原子力情報センター、(1994年8月)
(5)IAEA:Directory of Nuclear Reactors Vol.I−Power Reactors,IAEA(1959年)
(6)IAEA:Directory of Nuclear Reactors Vol.IV−Power Reactors,IAEA(1962年)
(7)日本原子力発電(株):東海発電所の建設、日本原子力発電(1971年)
(8)W・マーシャル(編)/住田健二(監訳):原子炉技術の発展[上]、筑摩書房(1987年)、p175−195
(9)W・マーシャル(編)/内藤圭爾(監訳):燃料サイクル[上]、筑摩書房(1986年)、p232ー235
(10)World Nuclear Association: Nuclear Power in the United Kingdom(December 2008)  http://www.world-nuclear.org/info/inf84.html
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