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<概要>
 環境調和型の需給構造への転換を図るため、最大限の省エネルギーと環境負荷の少ないエネルギー源である非化石エネルギーの導入が必要となる。わが国は、1980年代半ばまで、様々な省エネルギーの試みが行われ、経済成長と二酸化炭素の排出抑制に成功している。これは自動車の低公害化の取組により達成している。1970年代以降、日米英仏独のいずれの国でも、最終エネルギー消費構成で運輸部門の占める割合が増加している。日本では、特に1990年以降は旅客部門の増加が著しい。今後、2010年度において1690万klの省エネを目標として、温室効果ガス削減対策の対策を強化する方向で、実走行燃費の改善、低公害車の一層の普及、大都市圏での自動車走行環境の改善、公共交通機関への利用転換、貨物のトラック輸送から鉄道または船舶輸送への転換(モーダルシフト)、ロードプライシング、貨物の輸送効率の改善等の施策を進めることとしている。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.省エネルギー対策の基本的考え方
 環境調和型の需給構造への転換を図るには、抜本的なエネルギー需要対策が必要である。省エネルギーは、地球温暖化防止、エネルギー・セキュリティ向上に資するばかりでなく、省エネルギー投資等が需要の拡大につながる面がある。また、長期的には経済の供給力拡大がもたらされるという観点から、わが国経済社会の発展に資することも期待されるが、経済合理性を逸脱するような強制措置をとるとかえって経済に悪影響を及ぼしかねない。その際、省エネルギー対策には何らかの追加的支出を伴うため、公平性に配慮しつつ負担を最小にできるように効率性が確保されることも重要である。このため、国民各層の努カを経済合理性の範囲で最大限引き出す競争的枠組みを構築し、必要に応じ各種の取組を支援する措置や実施状況のフォローアップ等を通じ実効性を確保していくことが重要である。
 このような変革を進め、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムから脱却しようとした場合、経済成長が減速し、不況が恒常的に続くことを懸念する向きがある。例えば、地球温暖化防止京都会議(COP3:the Third Conference of Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change/気候変動国連枠組条約第3回締約国会議)では、途上国に温室効果ガスの排出抑制の取組を求めた際、途上国側は「温室効果ガスの排出量を抑制すれば経済成長に悪影響を及ぼす」として反対し、結局、途上国の温室効果ガス排出抑制については何ら規定できなかったという経緯があった。しかし、このような変革を進めつつ、経済成長を果たすことは十分可能なことである。例えば、わが国においては、これまでの経済成長の過程、特に1973年の第1次石油ショック以降、1980年代半ばまでの期間は、技術開発をはじめ様々な省エネのための試みが行われたことにより、経済が成長する一方で二酸化炭素の排出抑制に成功している(図1)。また、1970年代後半に自動車の排出ガス規制の大幅な強化が実施された際、わが国では官民挙げて低公害化の取組を行ったことにより規制をクリアしたが、これによってわが国自動車産業は公害防止のためばかりではなく、燃焼制御技術の進展や品質管理法の改善といった副次的、波及的な技術開発をももたらし、圧倒的な競争力を得ることにつながった。
 最終エネルギー消費の部門別統計では、民生部門(民生用)、運輸部門(運輸用)および産業部門(産業用)の三つに大別している。
 図2に最終エネルギー構成の国際比較を示す。いずれの国でも輸送部門(運輸部門)の占める割合が増加している。また、世界的に見て道路輸送が増加したために、輸送部門に占める石油のシェアが1973年から1995年の間に増加傾向にある。輸送部門においては、他の部門に比べて、ほかの燃料への転換が困難なため、石油は圧倒的に輸送部門で使われるようになっている(図3)。わが国の運輸部門における1999年の最終エネルギー消費に占める石油の割合は、エネルギーバランス簡約表から計算すると、98.0%になる。図4に運輸部門等のCO2発生量の推移を示す。2000年度、全排出量は1331.6百万トンCO2換算であるから、運輸部門でのCO2発生量の割合は19.2%で、運輸部門からの二酸化炭素発生量はかなり大きい。運輸部門での省エネルギーが進展すれば確実にCO2発生量の削減に役立つことになる。
 2001年6月に総合エネルギー調査会(現総合資源エネルギー調査会)省エネルギー部会がとりまとめた報告書「今後の省エネルギー対策のあり方について」に、省エネルギーの具体的対策のあり方として、産業、民生、運輸の各部門での今後の省エネルギー量を示している(表1)。これによれば、2010年度までに合計約5600万キロリットル(原油換算)の省エネ量のうち運輸部門は1690万キロリットル(約30%)を見込んでいる。
2.運輸部門のエネルギー消費動向
 近年のエネルギー消費の動向を部門別に概観すると、石油危機以降、産業部門が概ね横這いで推移する一方で民生部門と運輸部門は大幅に増加しており、最終エネルギー消費全体が対前年度比がマイナスに転じた1998年度においても、民生・運輸の両部門は増加している(図5図6)。運輸部門としては、トップランナー規制による機器効率の改善、クリーンエネルギー自動車の普及促進、交通システムにかかる省エネ対策を既に実施している。
 1998年度における運輸部門のエネルギー消費原単位(エネルギー消費量/輸送量(輸送人・キロまたはトン・キロ)について輸送機関別に比較すると、図7のとおりである。旅客部門では、自動車計の原単位を100とすると、鉄道は9、バスは29で、鉄道がバスの約10分の1、バスが約4分の1と小さく、鉄道やバスといった輸送機関の効率が良いことがわかる。したがって、鉄道やバスの大型輸送機関を使用すれば、旅客部門平均の使用原単位は小さくなる。また、貨物部門では、貨物自動車の原単位を100とすると航空は611で、貨物自動車の約6倍と非常に大きい。一方、海運は23.5、鉄道は7と、貨物自動車のそれぞれ1/4、1/10と効率が良い。したがって、輸送手段が、鉄道や船から、効率の悪い航空機や貨物自動車へシフトすれば、エネルギー消費は増加することになる。このように、効率を考えて輸送方式を切り換えること(モーダルシフト)が、運輸部門のCO2排出削減対策のポイントである。
3.温室効果ガス削減対策
 環境省地球環境局では、2001年3月に「平成12年度温室効果ガス削減技術シナリオ策定調査検討会報告書」を作成した。本報告書では、運輸部門における温室効果ガス削減対策メニューと、その導入に向けた課題と削減見込み量などについて言及している。
3.1 対策強化メニューの選定
 運輸部門での排出量の9割弱が自動車からの排出である。このため運輸部門では、自動車からの排出削減対策が重要となる。自動車分野の内訳をみると乗用車および軽乗用車からの排出増加が著しく、乗用車分野からの排出削減対策が重要となる。
・対策強化メニュー
 将来に向けて乗用車分野を中心に自動車からの排出量を有意に減少させるためには、燃費の改善などにより排出原単位(自動車一台当たり及び単位走行距離当たりの排出量)を更に低減させるとともに、わが国全体の走行量をダイナミックに捉え直し、増加要因についても押さえた上で、走行量の削減対策を具体化する必要がある。本資料では、技術の成熟度や費用に関する検討を踏まえて、削減対策メニュー(図8)の中から以下について、導入に向けた課題と削減見込み量について検討する。
・実走行燃費の改善、・低公害車の一層の普及、・大都市圏での自動車走行環境の改善、・公共交通機関への利用転換、・貨物のトラック輸送から鉄道または船舶輸送への転換(モーダルシフト)、・ロードプライシング、・貨物の輸送効率の改善
(1)実走行燃費の改善
 自動車走行全体でみた実質的な燃費の改善方策には、個々の車両の単体燃費の改善、購入する車両の小型車化を通した燃費の改善、渋滞緩和等による平均車速の向上、アイドリング・ストップなどがある。自動車全体での平均燃費の改善には、個々の車両の燃費改善だけでなく、購入車両の小型化も必要不可欠である点に注意する必要がある。現在、NOx等の大気汚染物質の排出削減に向けた新たな規制が実施される方向にある。NOx等の排出削減技術と燃費改善技術とは正の関係にあると考えられ、NOx等の排出削減に向けた規制強化は、燃費の改善に寄与することが期待されている
(2)低公害車の一層の普及
 ハイブリッド車、天然ガス車、電気自動車等の温室効果ガス排出量の少ない自動車も実用化されており、これら低公害車のより一層の普及が必要とされる。また、メタノール等の生物由来の燃料を用いる場合には、自動車からの二酸化炭素排出量はゼロと見なされるため、アルコール燃料の利用について十分に検討する価値がある。環境負荷低減に向けた技術が次々と開発されつつあることから、公共的な支援を必要とする燃料供給体制等インフラ整備の問題も含め、どのような自動車の普及の可能性が高くかつ望ましいか検討を行う必要がある。
(3)大都市圏での自動車走行環境の改善
 自動車分野でのエネルギー消費の3割強が、東京・大阪の大都市圏で消費されている。まずは、ITS(高度道路交通システム)等を用いた走行環境の改善は大都市圏内での導入が必要とされる。
(4)公共交通機関への利用転換
・都市部での公共交通機関の活用
 都市部におけるバス、路面電車、地下鉄、新交通システム等の公共交通機関の一層の活用は、温室効果ガスの削減だけでなく、大気汚染、騒音等に妨害されない快適な都市空間を創造するためにも、今後、各自治体における積極的な取組が求められる分野である。近年では、低公害車のレンタルサービスや低公害車の共同利用の動きも起きつつある。しかしながら、バスの総走行量は微減状況にあるとともに輸送人員は減少している
・観光地などでの公共交通機関の活用
 地方においても観光地では交通集中による渋滞が発生するなど公共交通機関の充実が期待される地域もある。今後は、低公害車の共有化、観光地等への乗用車の乗り入れ規制の実施、パークアンドライドシステムを利用したバスや鉄道の利便一性の向上等を組み合わせた排出削減対策が必要とされる。
(5)貨物の輸送効率の改善
 温室効果ガスの排出削減(燃料消費の抑制)には、輸送回数の削減による積載率の向上が必要とされる。しかしながら、自動車での貨物輸送にあたっての積載率は、自家用・営業用を問わず低下傾向にある。
(6)ロードプライシング
ロードプライシングとは、特定の地域に進入または通行する車から料金を徴収することにより、道路混雑の激しい地域やその周辺の自動車交通量を抑制し、交通渋滞や大気環境の改善を図る仕組みである。海外ではシンガポール、オスロ(ノルウェー)、ソウル(韓国)で実施されており、国内では東京都、阪神高速道路で導入が計画されている
(7)貨物のトラック輸送から鉄道または船舶輸送への転換(モーダルシフト:modal shift)
 モーダルシフトとは、広義には輸送方式を変更することを指すが、貨物輸送の場合には、トラックによる輸送から大量輸送機関である鉄道または海運による輸送へと転換し、トラックとの複合一貫輸送を推進することである。温室効果ガスの排出削減に向けては、貨物輸送におけるトラックヘの依存度を軽減しながら、今後も増加すると予想されている輸送量に対応することが必要とされる。トンキロ当たりの排出原単位を比較すると、鉄道は貨物自動車の8分の1、船舶は5分の1強の排出原単位となる。大気保全対策だけでなく、温室効果ガス対策としてモーダルシフトが効果的である所以である。輸送距離500km以上の雑貨輸送量に占める海運・鉄道輸送量の割合を示すモーダルシフト化率の推移をみると、1991年度から1995年度まで40%弱の水準で横ばいで推移した後、1996年度に43.4%、1998年度は42.9%である。このようにモーダルシフトが進みつつある要因としては、内航海運分野での船舶の高速化等に伴う航海時間の短縮などサービス水準が向上したことや、モーダルシフトの対象となる雑貨の割合が増加してきたことなどがある。
<図/表>
表1 現行省エネルギー対策及び今後の省エネルギー対策の概要
表1  現行省エネルギー対策及び今後の省エネルギー対策の概要
図1 わが国のCO
図1  わが国のCO
図2 最終エネルギー消費構成の国際比較
図2  最終エネルギー消費構成の国際比較
図3 IEA主要国の各部門における石油消費割合の推移(1973〜1998)
図3  IEA主要国の各部門における石油消費割合の推移(1973〜1998)
図4 わが国の部門別CO
図4  わが国の部門別CO
図5 最終エネルギー消費及び部門別エネルギー消費の推移(実数)
図5  最終エネルギー消費及び部門別エネルギー消費の推移(実数)
図6 部門別最終エネルギー消費の推移
図6  部門別最終エネルギー消費の推移
図7 旅客部門および貨物部門のエネルギー消費原単位(1998年度)
図7  旅客部門および貨物部門のエネルギー消費原単位(1998年度)
図8 削減対策メニュー
図8  削減対策メニュー

<関連タイトル>
省エネルギー政策の基本理念 (01-09-08-01)
日本の省エネルギー政策 (01-09-08-02)
地球温暖化防止京都会議(1997年のCOP3) (01-08-05-15)
地球の温暖化問題 (01-08-05-01)
長期エネルギー需給見通し(1998年6月・総合エネルギー調査会需給部会) (01-09-09-05)

<参考文献>
(1)資源エネルギー庁(編):エネルギー2001、電力新報社(200年2月)p.90-96
(2)資源エネルギー庁省エネルギー対策課(監修):省エネルギー便覧、(財)省エネルギーセンター(2000年12月)p.93-103
(3)経済産業省のホームページ第1回省エネルギー部会(平成12年7月31日)配付資料エネルギー需要動向と省エネルギー対策の現状について
(4)(財)日本エネルギー経済研究所計量分析部(編):EDMC/エネルギー経済統計要覧(2001年版)、(財)省エネルギーセンター(2001年1月)、p.38-39、p.215,p.218-219,p.230
(5)IEA: Energy Policies of IEA Countries 1997 Review、OECD Publications、p.15-29、p.258(1997)
(6)(財)日本エネルギー経済研究所計量分析部(編):図解エネルギー・経済データの読み方入門、(財)省エネルギーセンター(2001年1月)、p.57,p.95,p.167
(7)通商産業省資源エネルギー庁(編):21世紀、地球環境時代のエネルギー戦略?成長と環境の対峙を超える「価値ある選択」?総合エネルギー調査会需給部会中間報告、通商産業調査会出版部、p.3-34、p.98-105、p.118-125(1998年7月)
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