<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 気候変動枠組条約発効10周年である2004年に南米アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにおいて、国連気候変動枠組条約第10回締約国会議(UNFCCC/COP10)および第21回補助機関会合(SB21)が開催された。ロシア連邦の京都議定書批准により京都議定書が正式に発効することになり、気候変動に対する具体的な取り組みを始める新しい時代への最初の会議となった。また、地球温暖化の影響と思われる数々の状況が世界各地から報告されている。
<更新年月>
2005年11月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 オゾン層保護のためのウィーン条約(1985年採択)、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(1987年採択)と地球温暖化問題が地球規模で取り組むべき重要な課題として認識され始めたのは、1980年代の後半であり、1992年に気候変動枠組条約(Framework Convention on Climate Change/FCCC)が採択された(図1)。1995年4月にベルリンで気候変動枠組条約第1回締約国会議(COP1)が開かれ、その後、ジュネーブ、京都、ブエノスアイレス、ボン、ハーグ、マラケシュ、ニューデリー、ミラノ、そしてブエノスアイレスにおける第10回締約国会議(COP10)である(図2-1図2-2)。
 気候変動枠組条約発効10周年という節目の年に南米アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにおいて、国連気候変動枠組条約第10回締約国会議(UNFCCC/COP10)および第21回補助機関会合(SB21)が開催された。参加者は169ヶ国からの6151名と活気のある会議となった。ロシア連邦の京都議定書批准により同議定書(図3)は2005年2月16日には正式に発効(図4)することになり、COP10は同議定書が法的拘束力を有する前の最後の締約国会議であるとともに、気候変動に対する具体的な取り組みを始める新しい時代への最初の会議でもある。
 会議の開催の直前に「ブッシュ大統領は、京都議定書を拒絶した考えを変更する計画はない。京都議定書は実行出来そうにない。」と米国の代表が発言し、前向きな姿勢を示すことへの期待は失われた一方で、EUの代表は「欧州委員会はCOP10において、2013年以降の温室効果ガス削減目標を追求するとともに、今後の気候変動政策における発展途上国の重要性を強調する。気候変動の影響を最も深刻に受ける恐れがあるのは途上国である。我々は、途上国に対する我々の責任を十分認識している。」と発言するなど、大きな課題を抱えた形で会議は始まった。
1.会議における検討事項
 2001年第7回締約国会議(COP7)でまとめられたマラケシュ合意(図5)を受けて出来た京都メカニズムや先進国から途上国への資金の供与メカニズムなどを実際に動かすために必要なルールについて決めなければならない。(1)先進国から途上国への資金供与メカニズムとしてCOP7で新しく設置することが合意された「特別気候変動基金」を運営するための手引き、(2)地球温暖化の影響に対する適応措置について、(3)2013年以降の対策について、(4)途上国が条約事務局に提出した第1回国別報告書の統合報告書、である。
2.検討事項に対する成果
(1)実際に資金を動かす機関である地球環境基金(The Global Environmental Facility,GEF)より、主にヨーロッパ諸国から適応措置に関する活動に対して、現在約1億ドル資金を出すという申し出があることが報告されたが先進国による資金の拠出は自主的なものであり、途上国からは必要な活動を実施するためには少なすぎるという意見が続出。(2)島嶼(とうしょ)国のような気候変動の悪影響に脆弱な国への支援措置と、条約や議定書の約束を達成するために先進国が実施する対策によって経済的な影響を受ける国(産油国)への補償をどのように扱うかという点など議論は進まず。(3)京都議定書第1約束期間後である2013年以降の制度的枠組みについて40を超える案が提出されている。政府専門家セミナーなどにより、効果的で適切な対策を展開していくための行動について情報交換が行われることが決定した。(4)条約の着実な実施状況(途上国支援、国別報告・目録、研究・観測等)が確認され、更なる協力推進について議論を深めた。
3.京都議定書の批准状況
 2005年9月16日現在での京都議定書の批准をすませた国は155ヵ国と欧州共同体で、また、1990年の二酸化炭素排出量は付属書I締約国全体の61.6%で、京都議定書の発効要件である55%以上の数値を超えている。2004年11月18日にはロシア連邦が京都議定書批准書を国連に寄託したことにより同議定書は、2005年2月16日に正式発効。図6に気候変動枠組条約・京都議定書批准国図を示す。
4.地球温暖化の影響報告
 昨年のCOP9の時よりも千人多い参加者となり、京都議定書が発効すること、世界各地で起こっている異常気象の影響などにより世界の人々の気候変動問題への関心が高まっていることを表している。実際、閣僚級会合などにおいても多くの被害報告があった。
「海面上昇によってキリバスは消滅するかもしれない。」(キリバス)、「国土の50%以上が海抜0m以下なので、500億ユーロ以上の予算で防波堤を高くした。」(オランダ)、「6ヶ月前、台風による洪水のため1千人以上が死亡、百万人以上が家を失った。」(バングラディッシュ)、「ハンガリーは内陸なので海面上昇を見ることはないが、ある地域では渇水と砂漠化が進行し、他の地域では降水量が増えている。」(ハンガリー)、「洪水が発生し、バッタが異常発生した。気候変動の影響と考える。」(セネガル)、「日本では、最近10個の台風が来て、200人が死亡した。」(日本)、「国民の79%は異常気象から影響を受けている。ほぼ全員が農民。」(ブータン)、「2003年にヨーロッパを熱波が襲い、ポルトガルでは山火事が多数発生した。」(ポルトガル)、「ケニアの山の氷河もヒマラヤ氷河と同じように失われている。」(ケニア)、さらに、北極における地球温暖化影響の数々の報告が北極協議会(ACIA)と国際北極科学委員会から報告された。
5.会議における主な成果
 COP10は、気候変動枠組条約の発効10周年という節目に当たるとともに、2005年2月の京都議定書発効を目前に控えた重要な会議となった。締約国は、条約発効後10年の地球温暖化に関する国際的な取り組みに実質的な進展が見られていることを高く評価しつつ、地球温暖化対策の緊急性につき認識を共有した。そして、将来の行動に向けて、情報交換を通じた取り組みの開始を決定し、今後とも条約および京都議定書の下でより実効的な取り組み実現に向け、全ての国が協力しながら更なる前進を図っていくことが極めて重要であるとの認識を改めて確認した。世界全体の二酸化炭素排出量と国別一人当たり二酸化炭素排出量を図7図8に示す。
 今後の課題は、炭素隔離・水素・第4世代原子力などの技術開発を推し進めているものの京都議定書に参加していない米国を取り入れ、中国・インドなどの温室効果ガス排出量が多い発展途上国も含めた世界的な協調により、温室効果ガス排出量削減のために世界が一丸となり次なるステップに向けて前進するだろう。
 次回の気候変動枠組条約第11回締約国会議(COP11)および京都議定書第1回締約国会合(COP/MOP1)は、2005年11月28日からカナダのモントリオールで開催の予定である。事前に行われた準備会合では、モントリオールで調整すべき主要な論点は、一つは京都議定書の実施に必要な事項の決定と現行の各種制度の改善に関すること、もう一つは2013年以降の将来の枠組みのあり方についての議論が中心となる、と大方の見解が一致した。
[用語解説]
COP(コップ): 締約国会議(Conference of the Parties)の略で、環境問題に限らず、多くの国際条約の中で、その条約の加盟国が物事を決定するための最高決定機関として設置されている。最も多く目にするCOPは、気候変動枠組条約(Framework Convention on Climate Change/FCCC)の締約国会議であるが、これ以外にも砂漠化対処条約(United Nations Convention to Combat Desertification in Those Countries Experiencing Serious Drought and/or Desertification, Particularly in Africa(UNCCD)や残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants/POPs,別名POPs条約)等においても、それぞれCOPが設置されている。
<図/表>
図1 気候変動枠組条約の概要
図1  気候変動枠組条約の概要
図2-1 地球温暖化に係る国際交渉の経緯(1/2)
図2-1  地球温暖化に係る国際交渉の経緯(1/2)
図2-2 地球温暖化に係る国際交渉の経緯(2/2)
図2-2  地球温暖化に係る国際交渉の経緯(2/2)
図3 京都議定書の要点
図3  京都議定書の要点
図4 京都議定書の発効要件
図4  京都議定書の発効要件
図5 マラケシュ合意の概要
図5  マラケシュ合意の概要
図6 気候変動枠組条約・京都議定書批准国図
図6  気候変動枠組条約・京都議定書批准国図
図7 世界全体のCO
図7  世界全体のCO
図8 国別一人当たりCO
図8  国別一人当たりCO

<関連タイトル>
環境問題に関する国際会議(国際的取組み) (01-08-04-07)
地球温暖化防止京都会議(1997年のCOP3) (01-08-05-15)
ブエノスアイレス行動計画(1998年のCOP4決定) (01-08-05-19)
国連気候変動枠組条約第5回、第6回および第7回締約国会議(COP5・COP6・COP7) (01-08-05-20)
京都議定書(1997年) (01-08-05-16)
オゾン層保護に関する条約 (01-08-04-17)
気候変動に関する国際連合枠組条約 (13-04-01-11)

<参考文献>
(1)環境省:国連気候変動枠組条約第10回締約国会合(COP10)の報告
(2)地球産業文化研究所(GISPRI):ニュースレター、国連気候変動枠組条約第10回締約国会合(COP10)の報告
(3)全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA):国際交渉情報、第10回締約国会議(COP10)関連の動き
(4)外務省:気候変動枠組条約第11回締約国会議及び京都議定書第1回締約国会合閣僚準備会合(概要と評価)
(5)外務省:気候変動枠組条約締約国会議第11回会合(COP10)概要
(6)国立環境研究所:地球環境研究センターニュースVol.15 No.11(2005.2)気候変動枠組条約第10回締約国会合(COP10)の報告
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ