<本文>
1.世界の二酸化炭素排出量
世界全体の化石燃料起源の二酸化炭素排出量は、2007年に公表されたIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:
気候変動に関する政府間パネル)第4次評価報告書によると、2000年〜2005年の期間の年平均で、72億トン(炭素換算、以下同じ)と推計されている。多くの先進国は二酸化炭素排出量の低減に取り組んでいるが、世界全体の排出量は1980年代の54億トン、1990年代の64億トンに比べて、明確に増加してきている(
表1)。
2000年〜2005年の年平均排出量72億トンのうち、22億トンが海洋に吸収され、9億トンが陸地に固定され、残りの41億トンが大気中に滞留して二酸化炭素濃度の上昇につながっていると推定されている。陸地による固定量の大きさを含め、この二酸化炭素の地球規模での収支に関してはまだ不確かさがきわめて大きいが、2000年〜2005年の年平均排出量は1990年代と比べてかなり増加しているにもかかわらず、海洋と陸地による正味の吸収量は増えていない。したがって、2000年以降の排出量の増加分がほぼそのまま大気中に滞留し、大気中の二酸化炭素濃度の上昇が加速していると考えられている。
世界の主要国および主要地域における二酸化炭素排出量の推計値を
図1に示した。国別には米国の排出量が最も多く、中国、ロシア、日本がこれに続いているが、インドの排出量も近年急速に増加しつつある。総じて、欧州地域の排出増加が抑制されているのに対して、アジアを中心とした発展途上諸国の排出量の増加が著しい。
他方、一人当たり排出量を比べると(
図2)、発展途上諸国の排出量が増えつつはあるものの、先進諸国に比べてまだかなり小さく、所得格差と同様に大きな南北ギャップがあることが分かる。今後は、発展途上諸国の経済開発が進んでエネルギー消費量が増大し、一人当たり排出量の南北格差も縮小に向かうことが予想される。発展途上諸国の人口は先進諸国に比べてきわめて大きいことから、将来的に一人当たり排出量が先進諸国の水準に近づいていくと、世界全体の二酸化炭素の排出量は現在よりも大幅に増加する可能性があり、気候変動問題の深刻化が危惧される。したがって、省エネルギーの促進や非化石エネルギーの大規模な導入など、南北間の経済格差を縮小させつつ、世界全体の二酸化炭素排出量の増加を抑制していく方策を図ることが必要と考えられている。
2.日本の二酸化炭素排出量
日本の二酸化炭素排出量の総量、および一人当たり排出量の推移を
図3に、また、部門別排出量の推移を
図4に示した。総排出量は年度ごとに増減を繰り返しながらも徐々に増加してきており、2006年度には1990年度比で約11%の増加となっている。一人当たり排出量はここ数年の間は年間10トン程度のレベルで推移しており、2006年度の排出量は1990年度比で約8%の増加となっている。
エネルギー起源の排出量をエネルギー消費部門別にみると、産業部門では2006年度まで1990年度を下回る水準を維持しているが、他の部門では増大している。特に、業務部門と家庭部門での増加は著しく、1990年度比で30%を超える増加を示している。また、運輸部門のほか発電を中心としたエネルギー転換部門でも排出量はかなり増加している。下記に示す京都議定書の目標の達成のためには、業務部門、家庭部門、およびエネルギー転換部門での削減が重要になっている。
3.排出量の削減に向けた国際的な取り組み
気候変動による影響緩和に向けて各国が協力することを目的として、1992年に「
気候変動に関する国際連合枠組条約(気候変動国連枠組条約)」が採択され、1994年に発効した。この条約では、各国共通の責務の一つとして、温室効果ガスの排出と吸収の目録作り、および実施状況の報告が義務付けられている。また、先進諸国における当面(2008年〜2012年の5年間を対象)の温室効果ガス排出削減の数値目標を定めた京都議定書が1997年の第3回締約国会議で採択され、2005年に発効した。この京都議定書に対して、米国、オーストラリア、トルコ等は批准せず、またカナダは2007年に目標達成を断念したことを発表したが、EU(旧15カ国、以下同じ)は基準年(1990年)比で8%、日本は同6%の削減を約束しており、その実現に向けて努力を続けている。
上記条約の事務局がとりまとめた主要な国別(先進国等の付属書I国)の二酸化排出量を
表2に示した。ドイツ、英国等の努力によってEUでは排出量の増加が抑制されているが、先進国の中でもオーストラリア、カナダ、米国では1990年以降、排出量が大幅に増えていることが示されている。旧ソ連と東欧諸国は社会主義政権崩壊後の経済混乱によって1990年代には排出量が大幅に減少したが、最近では増加傾向に転じつつある。日本の排出量は上記のとおり、業務部門、家庭部門等での増加が著しく、総量でみて排出量が減少するには至っていない。
なお、温室効果ガス全体(ただし土地利用の変化等を除く)でみた場合の2006年排出量は、EUは1990年比でマイナス2.2%、日本はプラス5.5%である。EUでは排出量の削減が順調に進んでいるようにみえるが、2000年以降は削減がほとんど進んでいない。日本も目標達成が難しい状況にあり、森林吸収源の活用、
共同実施、
排出量取引などの
京都メカニズムの利用も含めた総合的な取り組みが計画されているが、二酸化炭素の排出を削減するための一層強力な取り組みが必要とされている。
(前回更新:2004年1月)
<図/表>
<関連タイトル>
地球の温暖化問題 (01-08-05-01)
温室効果ガス (01-08-05-02)
地球温暖化問題への対応策 (01-08-05-36)
二酸化炭素の放出抑制対策 (01-08-05-37)
<参考文献>
(1)S. Solomon et. al. (Editors): Climate Change 2007 − The Pysical Science Basis, Contribution of WG1 to the FAR of the IPCC, Cambridge University Press (2007)
(2)UNFCC/SBI:National Greenhouse Gas Inventory Data for the Period 1990−2006 (November 2008)
(3)日本エネルギー経済研究所:EDMC/エネルギー経済統計要覧(2008年版)、省エネルギーセンタ−発行
(4)環境省報道発表:2006年度(平成18年度)の温室効果ガス排出量(確定値)について
(5)平成20年版 環境・循環型社会白書:第2部第1章第1節、
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h20/pdf/2-1.pdf