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<概要>
 科学技術政策研究所は、アジア各国の2000、2010年のエネルギー消費に伴う地球環境影響物質(SOx、NOx、CO2)排出量を推計することで、地球環境への負荷の見通しを把握し、地球・環境への負荷を軽減する要因について検討する基礎資料とするため、将来のSOxの排出量を推計した。その結果、省エネルギー等の進展を見込み、日本並みの環境対策等を行えば、同じエネルギー条件で環境対策を見込まない場合と比較して、概ね70%程度、省エネルギーと環境対策を見込まない場合と比較して概ね80%もの削減率になることが明らかになった。中国とインドの最近の汚染状況について述べる。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 化石燃料の燃焼等に伴い、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)等が大気中に放出され、雲や雨滴に溶解して雨が酸性化し、地表面に降下する事により、森林の破壊、魚介類の死滅、文化財・建造物への被害が生じる酸性雨問題が深刻となってきている。そこで、科学技術政策研究所は、地球環境影響物質の排出量推計を行った。
1.地球環境影響物質の排出量推計の設定条件
 アジア各国の2000、2010年のエネルギー消費に伴う地球環境影響物質(SOx、NOx、CO2)排出量を推計することにより、地球環境への負荷の見通しを把握し、地球・環境への負荷を軽減する要因について検討する基礎資料とするため、環境対策について次の3ケースを想定し、アジア地域におけるエネルギー消費の予測における2ケースに対し表1に示す組み合わせで将来の排出量を推計した。
・ケースA:現状固定ケース
 現状のままで推移し、今後新たな環境対策が実施されないことを想定したケース
・ケースB:対策普及ケース
 各国の国情に見合った環境対策が普及・実施されたことを想定したケース
・ケースC:日本並ケース
 2000年、2010年において、現在の日本で行われている環境対策がアジアの全ての国で実施されたことを想定したケース
 ケースAでは、エネルギー需要の増大に伴い、地球環境への負荷は更に増大していくことが見込まれる。これは、現在の技術水準で実施可能な範囲で環境対策が普及(ケースB)し、または日本と同等の環境対策が行われた場合(ケースC)に、環境負荷にどう影響するのかを把握するための比較資料とする。
2.SOx排出量の推計方法
 国別SOx排出量の推計は、エネルギーの利用形態によって排出量も異なってくることから、27燃料種類、17消費部門(表2参照)別に推計することとした。各ケース毎に燃料単位消費量当たりの排出量(排出係数)を設定し、燃料消費量との積により排出量を推計した。なお、各エネルギー消費量は予測値(4燃料分類、12消費部門)をトレンドによる比率で、さらに細分して用いている。
(1)ケースAにおける排出係数の設定
 本ケースは、環境対策等において改善がなされないケースであり、1987年時点における排出係数をそのまま使用する。ただし、日本については、現状においてかなりの環境対策等が実施されていることから、将来においても同程度の環境対策等が行われているものと考え、独自の排出係数を使用する。ここで設定したSOx排出係数を、表3に示す。
(2)ケースBにおける排出係数の設定
 本ケースは、各国の実情に応じた環境対策が行われることを想定したケースである。排出基準又は環境対策の普及率等の国別、エネルギー消費部門別の想定を基に排出係数を設定した。日本については、現状においてかなりの環境対策等が実施されていることから、将来においても同程度の環境対策等が行われているものと考え、他のアジア各国とは異なる排出係数を使用した。
(3)ケースCにおける排出係数の設定
 本ケースは、各国とも日本の現状並みに環境対策が進行すると想定するケースであり、日本の現状(1987年)の排出係数を適用する。ここで想定したSOxの排出係数を表4に示す。
3.SOx排出量の推計結果
 アジア地域の2000年、2010年におけるSOx排出量について、表2の組み合わせに基づく推計結果を以下に述べる。なお、各々のケースは以下のとおり記述する。
1-A:特段の省エネルギーは見込まない、新たな環境対策は行わない。
1-B:特段の省エネルギーは見込まない、新たな環境対策を行う。
2-A:省エネルギー等の進展を見込む、新たな環境対策は行わない。
2-B:省エネルギー等の進展を見込む、新たな環境対策を行う。
2-C:省エネルギー等の進展を見込む、日本並の環境対策を行う。
(1)SOx排出量の地域別将来動向
 表5表6表7に各ケース毎にアジア各国及び中国、インド国内の地域別のSOx排出量の推計結果を示した。1987年におけるSOx総排出量は29.1百万tと推計されているが、その後の推移(2000年、2010年)について、各々のケースの推計結果をみる。
a.ケース1-A:このケースでは、SOx排出量が2000年43.7百万t、2010年62.0百万tと、対1987年比で倍率1.5、2.1と、また年平均伸び率で3.2%、3.6%と飛躍的な伸びを示している。2000年を各国別にみると、シェアの大きい順に中国、インド、韓国、台湾、日本の順となり、これら5か国でアジア全体排出量の88.5%を占めており、2010年には、日本とタイが第5位で入れ替わるが、上位5か国の占める割合としては、ほぼ同様のシェアを占める。なお、年平均伸び率の著しい国は、モルジブ、台湾、シンガポール、韓国、インドネシア、香港等であり、概ね5%以上のきわめて高い伸び率を示している。
b.ケース1-B:このケースでは、SOx排出量が2000年40.7百万t、2010年55.6百万tとケース1-Aと比較して、排出量は7〜10%削減される推計となっている。なお、対1987年比で1.4、1.9倍であり、年平均伸び率2.6%、3.2%で増加している。ここではケース1-Aに対し中国、インドの削減率が他の国に比して小さいことから中国で概ね6%、インドで概ね1%、各々シェアが増加している。
c.ケース2-A:このケースでは、SOx排出量が2000年35.3百万t、2010年41.5百万tと、省エネルギーの進展による効果が大きく出ており、ケース1-Aと比較して排出量は概ね20〜30%程度低減される結果となっている。なお、対1987年比で1.2、1.4倍となり、年平均伸び率は1.5%、1.6%と半減することとなる。国別の削減率では、1987年時点ですでに省エネルギーがかなり進んでいる日本や植物性燃料への依存度の高い開発途上国では削減率は小さく、工業化が進んでいるNIES、ASEAN諸国等では高めの削減率となっている。なお、ここでのSOx削減率は省エネルギー率を5%程度上回っているが、これは環境負荷の小さい1次電力のシェアが増加していることに起因している。
d.ケース2-B:このケースでは、SOx排出量が2000年32.9百万t、2010年37.5百万tと推計され、対1987年比1.1、1.3倍に、年平均伸び率は1.0%、1.3%となっている。排出量の削減率では、同じエネルギー条件であるケース2-Aとの比較で7〜10%、同じ環境対策条件であるケース1-Bとの比較で20〜30%となっている。また、省工ネルギー、環境対策を見込まないケース1-Aに対しては25%〜40%の削減率となっている。
e.ケース2-C:このケースでは、SOx排出量が2000年9.8百万t、2010年11.3百万tと推計され、対1987年比は0.3、0.4倍と現況よりも少なく、年平均伸び率では−8.0%、1.4%となっている。同じエネルギー条件で環境対策を伴わないケース2-Aと比較して概ね70%程度、省エネルギー、環境対策を見込まないケース1-Aとの比較では概ね80%の削減率となっている。
(2)エネルギー源別に見たSOx排出量の将来動向
 図1にエネルギー源別にアジア全体のSOx排出量を示す。
 1987年のSOx排出量のシェアは、石炭74%、石油21%、ガス0%、植物性燃料1%、硫酸製造4%であった。ケース2-Cを除いて実数ではいずれの燃料からの排出量も増加しているが、シェアでみると石炭が低下し、石油が増加している。石炭の消費量のシェアが増加しているにもかかわらず、石炭からのSOx排出量のシェアが減少しているのは、石炭の中で硫黄分の少ない褐炭等からより硫黄分の少ない石炭やコークス炉ガス等ヘシフトしていくと想定したことによる。
 また、環境対策を想定していないケース1-A、2-A(以下、「A群」という。)に比して新たな環境対策を想定したケース1-B、2-B(以下「B群」という。)の方が石油のシェアが低下しているのは、比較的石油の消費シェアが高くかつ厳しめの環境対策を想定した韓国、台湾、タイ等での削減量が大きかったことに起因している。これは、発電や産業用に大量に消費されている重油からの脱硫の効果が大きく現れた結果である。硫酸製造は、銅精錬等、産業活動の副次生産物が大きく、これらのシェアが増加したことにつれて増加している。
(3)部門別にみたSOx排出量の将来動向
 図2にエネルギー消費の部門別にみた、アジア地域全体のSOx排出量を示した。
 1987年のSOx排出量は29.1百トンで、部門別には、エネルギー転換部門35.7%、産業部門40.9%、輸送部門5.8%、その他部門17.6%となっている。ケース2-Cを除いて、ケース間で各部門のシェアが大きく変化することはないが、発電が大半を占めるエネルギー転換部門では、発電効率の違いから1-Aと2-A、1-Bと2-Bで1%程度、2群の方が小さくなっている。また、発電部門では環境対策が比較的進め易いこともあり、1-Aと1-B、2-Aと2-Bの比較において、B群のケースの方が1〜2%程度シェアが小さくなっている。
 反面、民生等の対策の講じにくい「その他部門」では、他部門の対策進展によりシェアが押し上げられる結果、B群の方が1%程度増加している。環境対策の難易度は、ケース2-Cにより明確に示されており、エネルギー転換部門や産業部門のシェアが大幅に低下し、その他部門が最大のシェアを占めている。
4.大気汚染
(1)中国
 中国は世界のエネルギー消費総量の11.1%を消費する世界第2位のエネルギー消費大国である。また、エネルギー消費のうち、78.2%を石炭が占める一方、天然ガスの使用割合は1.7%と少ない。このエネルギーの消費構成が大気汚染の原因であると考えられる。
 例えば重慶市は市内で天然ガスが豊富に生産されるという好条件もあり、他の直轄市に先駆けて天然ガスへの転換が行われたが、未だエネルギー消費量のうち71%が石炭であり、天然ガスは10.2%にとどまっている(1998年)。1t/hの石炭焚きボイラーを天然ガス焚きに改造することにより、二酸化硫黄(SO2)の排出量を32t/年、煤塵の排出量を2.43t/年減少させることができるとされており、ボイラー転換による環境改善効果は顕著である。
 世界銀行によるレポートによれば、世界で20の最も汚染された都市のうちの16は、中国にある。石炭燃焼に起因する二酸化硫黄と煤は、2つの主な大気汚染物質で、酸性雨を齎し、それは、現在、およそ中国全土の30%の上に落下する。二酸化硫黄排出の90%は石炭火力ボイラーに帰せられ、政府は発電と大企業の設備からの二酸化硫黄排出に規制を集中させている。1982年に、中国政府は二酸化硫黄汚染税を導入し、国の二酸化硫黄規制の基礎にしたが、税制は放出を規制するのに中途半端だということがわかって、改善されている。規制区域は中国の領土の11.4%、年間の排出量2000万のトンの66%をカバーしているという。
(2)インド
 インドの大気汚染の原因は、様々な経済活動、特に工業や自動のエネルギー(燃料)消費の増加が直接の原因である。
 ガソリンとディーゼルで動く自動車の排出限度が、1991と1992年に、それぞれ、定められている。デリー等4つのメトロ地域で売られる自動車燃料の硫黄含有量は、2001年以後500ppmに制限されている。1998年に、インド最高裁判所は、全ての都市のバスに2001年3月31日までに加圧天然ガスで走るよう命令した。対応は、既存のディーゼルエンジンを変えることによってまたはバスを取り替えることによって達成されることになっていた。
 12000台の内、200台の圧縮天然ガス・バスだけは最終期限までに利用できたが、全ての他のバスは使用できなくなり、抗議が起こった。バス所有者と通勤者のために、現旧式バスの段階的な消滅を許している。
<図/表>
表1 検討ケース一覧表
表1  検討ケース一覧表
表2 対象エネルギー消費部門と燃料分類
表2  対象エネルギー消費部門と燃料分類
表3 SO
表3  SO
表4 SO
表4  SO
表5 アジア地域のSO
表5  アジア地域のSO
表6 アジア地域のSO
表6  アジア地域のSO
表7 アジア地域のSO
表7  アジア地域のSO
図1 エネルギー源別SO
図1  エネルギー源別SO
図2 部門別SO
図2  部門別SO

<関連タイトル>
アジア地域におけるエネルギー消費の予測(1993年科学技術政策研究所) (01-07-02-02)
アジア地域におけるCO2排出量の予測(科学技術政策研究所) (01-08-01-10)
アジア地域におけるNOx排出量の予測(科学技術政策研究所) (01-08-01-11)
アジア・太平洋地域における環境問題の特殊性 (01-08-04-02)

<参考文献>
(1)科学技術政策研究所:アジア地域のエネルギー利用と環境予測、大蔵省印刷局(1993年6月18日)
(2)通商産業省:エネルギー‘97、電力新報社(1997年10月10日)
(3)国際協力事業団:国別環境情報整備調査報告書,
(4)国際協力事業団:国別環境情報整備調査報告書(中国),
(5)国際協力事業団:国別環境情報整備調査報告書(インド国),
(6)EIA:International Energy Outlook 2003 Environmental Issues and World Energy Use,
(7)EIA:International Energy Outlook 2003>Coal,
(8)国際協力銀行:中国重慶市における温暖化防止・大気汚染防止のための天然ガス転換・普及に係る調査 平成13年度,
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