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<概要>
 アジア・太平洋地域は、北半球・南半球にわたる広範囲な地域であると同時に、気候面でも熱帯から寒帯、さらに高山地域から珊瑚礁の島々に至るまで多様な自然環境のもとにある。これらの地域は、最近急速な変化が人口面や経済活動面で認められる。人口増加、その都市への集中化、さらに経済成長の進展が自然環境、生活環境に問題を引き起している。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 アジア・太平洋地域は、ESCAP(Economic and Social Commission for Asia and Pacific:アジア・太平洋経済社会委員会)の定義によると、地域としては北はモンゴル、南はニュージーランド、東はクック諸島、西はアルメニア共和国まで広大な範囲を指す。気候では熱帯から寒帯、地形的にはヒマラヤから珊瑚礁の島々に至るまで極めて様々な気候、風土を持った地域である。アジア・太平洋地域は、過去20年間を通じて他の地域の追随を許さないスピードで経済成長を続けている。
 その他の特徴は、世界最大の人口を有し、世界で最も高い経済成長性を誇っていて、経済、社会および自然環境の多様性並びに熱帯林や海洋資源等の豊富な天然資源にあると言われる。他方、急激な経済成長や人口の増大と都市への人口集中に伴って都市の公害問題、森林減少等当地域の環境は悪化しつつある。
 これらの問題点の特殊性について紹介する。
1.人口の増大と都市集中
 世界の人口は国連の統計資料によると、1997年で約58億5千万人であり、このうちアジア・太平洋地域の人口は約35億4千万人と世界全体の半分以上を占めている(図1)。アジア・太平洋地域(以下「当地域」という)の主な都市では、図2に示すように都市への人口集中が進んでいる。こうした都市への人口集中は、経済規模の拡大と活性化をもたらす一方で、当地域の多くの都市において深刻な環境問題を引き起している。具体的な環境問題は、生活排水等による水質汚濁、自動車の都市集中等による大気汚染、廃棄物の処理問題、都市の拡大による周辺部の肥沃な農地および森林の減少、土壌劣化、住居および上下水道を含む都市基盤施設の不足による生活環境の悪化等さまざまである。
2.経済規模の拡大
 1996年現在、世界のGNPは約27兆ドルとなっており、図3に示すようにその38.3%に当たる6.96兆ドルを当地域が占め、南北アメリカ、西欧に次ぐ経済規模を有している。1990年のIPCCの予測では2025年には世界全体のGNPは約55兆ドルに拡大し、その中でもアジア・太平洋地域については1990年代に4.2%、2000年以降2025年までについても平均3.8%という他の地域に比較して高い経済成長率が予測されている。したがって、2025年に同地域が占めるGNPの割合も3割に増加し、2025年には南北アメリカと肩を並べる経済圏に成長すると推定できる。
3.エネルギー消費の増大:石炭消費の増大
 経済成長と人口増加はエネルギー消費の大幅な増加をもたらす。
 将来のエネルギー消費に関しては、例えば気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の標準推計によれば(図4)、当地域の2025年の一次エネルギー消費量は255.5EJ(EXa Joules=1018J)/年になり、これは1990年の消費量の約3.2倍に相当する。世界全体のエネルギー消費に当地域が占める割合も23%(1990年)から36%(2025年)に拡大し、当地域のエネルギー消費量の増加が非常に大きなものであることがわかる。さらにエネルギー消費量を燃料別で見た場合、依然として天然ガス、石油、石炭の化石燃料の占める割合が圧倒的に多く、特に石炭は絶対的な消費量で58.5EJ/年と最も増加すると見込まれる。化石燃料の消費は、二酸化炭素や硫黄酸化物等の排出に最も直接的に関わるものである。石炭の単位発熱量当たりの炭素含有率は平均して石油よりも3割も高いことから二酸化炭素排出量を増大させる要因となる。図5に2002年における地域別一次エネルギーの消費量を示す。
 図6に二酸化炭素排出量を地域別に見た結果を示すが、当地域は、1990年と同様2010年以降も最大の排出地域と考えられる。特に中国は1990年までに世界最大の石炭消費国となり、図7に示すように二酸化炭素の排出量を近年著しく増大させている。今後の経済発展の中で、排出量がますます増加するものと予想されている。
4.地球規模あるいは地域にまたがるような新たな環境問題
 アジア・太平洋地域では今後ともエネルギー消費の増大が見込まれ、したがって化石燃料の消費が増大し、大気汚染物質による環境悪化や酸性雨の影響、温室効果ガスの排出量増大による地球温暖化の主因になることが懸念されている。特に地球温暖化に伴う海面上昇の影響を受けやすい沿岸地域(例えばバングラディシュ、モルジブ共和国、太平洋の島嶼部等)があり、また多様な生態系が存在するが、これらが人間の活動が及ぼす森林の減少や土壌劣化などの影響を受けることが懸念されている。表1にアジア太平洋地域における資源と環境問題の相対的重要性を示す。
5.森林減少
 国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization)の資料によると、国土内の森林面積に対して減少の割合が際だって高いのは、バングラデシュ、パキスタン、フィリピン、タイなどであるが、インド、インドネシア、マレーシア、ミャンマーにおいても多くの森林が失われている(表2参照)。熱帯地域での森林減少の原因については、農地等への転用、焼畑耕作、過度の薪炭材採取、不適切な商業伐採および過放牧等があげられている。その背景には人口増加、貧困および土地制度等の社会経済的な問題などが指摘されている。特に農業拡大による森林への負荷は、インド、バングラデシュ、ネパール、ミャンマー、スリランカで著しく、これらの国々では急激な人口増加による食料需要の増大という緊迫した問題がある。
6.土壌劣化・砂漠化
 土壌は再生能力を持つとはいえ、その再生には極めて長い時間を必要とする。現状では人間活動に伴う影響や負荷が土壌の再生能力を超えており、土壌の劣化が進んでいる(表3参照)。
 中国では、1989〜1993年の5年間にわたって行われた第4回全国森林資源調査によれば、全国の草原で砂漠化、表土流失、土地荒廃、塩類集積、アルカリ化が進んでいるとされ、土地の荒廃が深刻な状態となっている。これは利用可能な草原面積の3分の1以上を占めている。
 こうした環境汚染による年間食糧減産量は1200万トンと見積もられている。砂漠化による影響は約3億3270万ha、全国土面積の約34%におよび、およそ4億人の人々がその影響を受けていると指摘されている。
 また、土壌資源の質的劣化も進行している。土壌劣化の種類には、水や風による浸食と、化学的、物質的劣化がある(図8参照)。水や風による浸食は土壌劣化の中で特に大きな割合を占める。これらは直接的には水流や風等の自然の力によるが、侵食自体は裸地が風水にさらされるために生じるのであり、裸地は過度の伐採や放牧などの人間の活動が原因でできることが多い。
<図/表>
表1 アジア太平洋地域における資源と環境問題の相対的重要性
表1  アジア太平洋地域における資源と環境問題の相対的重要性
表2 年間森林減少面積と人工林の割合(1981年−1990年)
表2  年間森林減少面積と人工林の割合(1981年−1990年)
表3 土壌劣化度合いの概要
表3  土壌劣化度合いの概要
図1 世界の人口増加と予測(地域別)
図1  世界の人口増加と予測(地域別)
図2 アジア地域の主要都市と人口
図2  アジア地域の主要都市と人口
図3 地域別GNPの現況/予測(1990/2025年)
図3  地域別GNPの現況/予測(1990/2025年)
図4 アジア・太平洋地域の一次エネルギー消費量(1990/2025年)
図4  アジア・太平洋地域の一次エネルギー消費量(1990/2025年)
図5 地域別一次エネルギー消費量(2002年)
図5  地域別一次エネルギー消費量(2002年)
図6 地域別二酸化炭素排出量
図6  地域別二酸化炭素排出量
図7 世界のCO
図7  世界のCO
図8 アジア太平洋地域の土壌劣化タイプ
図8  アジア太平洋地域の土壌劣化タイプ

<関連タイトル>
アジア地域におけるエネルギー消費の予測(1993年科学技術政策研究所) (01-07-02-02)
アジア地域におけるCO2排出量の予測(科学技術政策研究所) (01-08-01-10)
アジア地域におけるNOx排出量の予測(科学技術政策研究所) (01-08-01-11)
アジア地域におけるSOx排出量の予測(科学技術政策研究所) (01-08-01-12)

<参考文献>
(1)環境庁(編):環境白書 平成7年版 総説、大蔵省印刷局(1995年6月)
(2)環境庁(編):環境白書 平成11年版 総説、大蔵省印刷局(1999年6月)
(3)日本原子力文化振興財団:「原子力」図面集 1996年改訂 第3章(1996年11月)
(4)外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/
(5)BP統計:
(6)電気事業連合会:
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